IS~ほんとはただ寝たいだけ~ 外伝・超外伝   作:真暇 日間

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他の子・十柄編02

 

 

 

 side 篠ノ之 十柄(箒)

 

 こちらの世界の私が使っているらしい部屋に入り込み、シャワーを浴びる。タオルなどは……まあ、そんなものはなくとも愛情を全身から放出すれば皮膚表面の水は弾け飛ぶため必要ない。愛さえあればなんでもできると言うが、本当だな。

 なお、入る時には全身を一時的に愛情と言う意思そのものに変換して扉を抜けて元の身体に再構築するか、気合いで壁を普通にすり抜けるかすれば鍵がなくとも入れたりする。

 サラシと袴は……実のところどこから出したのかはわからないので適当にしまおうとしたらしまわれていた。どこにかは聞くな。私にもわからん。

 そして今の私サイズに縮んでいる制服を着て、後は百秋の気配を追って移動する。人目につかないところでは少し工夫して『空間を抜ける歩法』を使って時間を短縮。便利な技だ。

 

 ……さて、この世界での私のキャラだが……元の世界では『侍』だと言われていたし、ここでは『忍者』をイメージしてみることにしよう。

 つまりだ。

 

「父上、おはようございます」

「おぅわぁぁぁぁっ!? なっ、だっ……誰だ!?」

「お初にお目にかかります。姓は篠ノ之、名は十柄。父上と母上の娘にございます」

「……あー……うん、なんとなくわかった。箒の子だな?」

「ご明察」

 

 私はこちらの世界の一夏に頭を下げる。突然現れて背後から声をかけてきた相手をこうも簡単に受け入れるとは……百秋に毒され切っていると言わざるをえない。

 まあそれはそれとして、こちらの世界の私達からの視線がまた鬱陶しい。確かに突然現れた制服姿の小さい私は目立つだろうが、そこまで気付かなかったことが不思議だろうか?

 

「……ところで、なんでそんな言葉遣いなんだ?」

「ラウラ殿に『日本人であるならば男は侍か忍者、女は芸者かくノ一になるしかない』と言われ、束様に作っていただいた修行メニューをこなしていましたゆえに……」

「ラウラ!人の娘に一体何を教え込んでいる!?」

「何!? 違うのか!?」

「本気でそう思ってたの!?」

 

 私の台詞に周囲が一度に騒がしくなる。だが、ラウラはこちらの世界でも本気でそう思っていたのか……驚きだ。

 ちなみに私達の世界では、日本男児であれば基本忍者か侍、女児ならば芸者かくノ一になるしかない。そして千冬さんがあんなに強いのはくノ一ななるための修行の賜物と、それに合わせて忍術を使っているからに違いない!教えて貰えないのは私|(ラウラの事だ)が日本人ではないからで、そう言うものは一子相伝で自分の子供以外に伝える事は無いからだ!

 ……と、私達の前で堂々と胸を張ってそんなことを言っていた。

 勿論その後に千冬さんにアイアンクローをかけられていたが、かなり優し目だったのはそう言っていたのがラウラだったからだろう。他の誰かが言っていたら、もっと凄まじい目にあっていたに違いない。

 ラウラの純粋さは時に自らを危地に追いやるが、大概の場合にはその純粋さゆえに致命的な傷を負うことなく終わる。その点だけ考えてみると、純粋さとは【悪運】に似ているな。違いは必ず悪いものを引き寄せるか否か。必ず引き寄せるのが【悪運】で、時には発動しないこともあるのがラウラの純粋さだな。

 

「……あー、びっくりした。……あれ、今回は百秋は来てないのか?」

「食券を変えに先に来ておりますよ。あそこです」

 

 私が指した方には、カツ丼と天丼と親子丼を乗せたお盆を両手と頭を使って運んでいる百秋の姿があった。バランス感覚が優れていればこのくらいの事は普通にできると……そう言うことだな。

 

「好きなものを選ぶといい」

「それでは背中にこっそり隠し持っている海鮮親子丼をもらうでござる」

「くっそ忍者め。汚いさすが忍者汚い」

「背中に丼を隠し持っていた百秋が言える台詞ではないがな」

「俺はいいんだ。金出してるからな」

 

 反論できない。金のことを言われてしまっては反論できない。

 だが、百秋はそんな風に言いつつも私に鮭といくらをふんだんに使っている海鮮親子丼を差し出してくれた。季節的に大分遅いような気もするが、味は十分。瞬間冷凍で細胞が壊れないように保存されていたのだろう。

 

「で、残りの三つは俺が食べる……と」

「太るぞ」

「俺の運動量舐めんな。身体の中でむちゃくちゃ非効率な動かし方をしていればこのくらい簡単に消費できるっての」

「世界中のダイエットに苦しむ人達に謝るがよかろう」

「ダイエットに苦しむような生活をしているのが悪い。俺は悪くないし、体質的に脂肪は胸からついて腹回りから落ちる十柄に言われたくないと思うがね」

「胸などある程度以上は邪魔になるばかりだ。ある程度があればそれ以上はいらん。腹回りに脂肪がつかないのはありがたいがな」

 

 もきゅもきゅ、ぱくぱく、ざららららららと丼の中身を口の中に流し込みながらの会話に、いくつか周囲から憎々しげな感情の乗った視線が向けられた。恐らく胸の話題が出たせいだろう。私は悪くないし、悪い者などいないのだが……やはり少々居心地が悪い。

 

「……篠ノ之の血筋には胸を大きくする優性遺伝子でもあるのかね?」

「私に聞かれても知らん」

 

『知らん』とは言ったが、その可能性は非常に高い。母さんも姉さんも私も胸が大きいと言うことは、まず間違いなく母方の遺伝子にそう言ったものが混じっているのだろう。

 どんな遺伝子配列ならそういった結果になるのかはわからないが、現実として私達は胸が大きく、脂肪が胸から貯まって腹回りから落ちていく。それは間違いない。

 分けてやれるなら分けてやりたいと言う思いもあるが、残念なことに実際に胸を分けてやる方法は確立されていない。居合の度に揺れて痛かったりするのだが……仕方無いか。乳腺があるせいで脂肪を吸い出すなどといったこともできないし、逆に脂肪を与えることもできない。小さい胸にいきなり脂肪を押し付けると、乳腺が潰されて授乳などに影響があると言うことを姉さんから聞いている。

 自分の身体や未来の子供などのことを考えれば、身体を自分勝手に弄り回すことはやめておいた方がいい。好きな相手の子供を自分の手で育てられなくなると言うのは悲しいことだろうからな。

 

 ……と言っても、私にはまだわからないことなのだがな。学生だし、まだ子供を作るわけにもいかん。

 一番始めにできそうなのは……姉さんか千冬さんだろうな。社会身分的に。

 

「……馳走になった。百秋も早めに食べ終わるでござるよ」

「俺はゆっくり食べるのも好きなんだがな……って、もういない」

 

 ひゅぱっと空になった丼を片付け、壁を蹴って天井に張り付く。気合いと愛情があればこのくらいは簡単だ。

 

 ……さて、修行といこうか。小さい身体では無理はできないが、限界を見極めるのは面白そうだ。

 

 

 

 

 


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