IS~ほんとはただ寝たいだけ~ 外伝・超外伝   作:真暇 日間

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他の子・十柄編01

 

 

 

 side 篠ノ之 十柄(箒)

 

 目が覚めると、身体が小さくなっていた。重心が高くなり、バランスがとりづらくはあるが……それも数秒のこと。重心を正中線に重ねることで、普段と変わらずに動くことができるようになった。

 

 ……さて、状況を整理しよう。

 昨日、私は一夏を抱き締めながら眠った。順番で一夏の近くの場所を巡っているから珍しいことではない。

 そして目が覚めたら、私の身体が小さい頃の物になっていて、小さい一夏と一夏に外見だけはよく似た大きな一夏らしき人物が目の前で眠っていた。

 ……もしかすると、これは以前から聞いてはいた『世界間移動』と言うものなのだろうか? となるとこの世界には私が居ると言うことになるが……朝練は恐らくしているだろうからその時に挨拶をしておくとしよう。

 そんなわけでその場で着替える。誰にも見られないように瞬きの間に、かつ無音で着替えるのは淑女のたしなみのようなものだ。

 朝練用の袴に着替え、大きくなろうが小さくなろうがサイズが合う不思議な不思議な金属仕込みの木刀を持ってIS学園の周囲を走る。

 走っている間にこの身体の扱いに慣れるようにしておかないと、何かあった時に慌てるようでは遅いのだから。

 走り込みが終われば刀を振る。この身体は軽く、刀に振り回されてしまう。

 まあ、あえて体重より遥かに重い刀にしているのだからやりようはいくらでもある。

 振り回されそうになるのなら、無理に止めようとしなければいい。身体を回転させ、勢いを殺さぬように木刀を振り回す。

 横方向の斬撃を身体を捻って縦方向に。斬撃の方向はそのまま身体を地面に垂直に戻して縦回転。木刀が背中に回った瞬間に木刀の軌道をねじ曲げて袈裟懸けに。

 身体の周囲を回し、あるいは身体ごと木刀を振り回して行く。篠ノ之流にはこんな動きは無いが、別に構うまい。この異様に重い木刀を使わなければ、綺麗な素振りをすることもできるのだから。

 上から1000度、袈裟と逆袈裟に1000度。左右から水平に1000度素振りを繰り返し、最後に勢いを全て乗せた片手突きで一度終わらせる。

 ……うむ、やはりと言うかなんと言うか、私には今やったようなトリッキーな機動は合わないな。どこまでも基本に忠実な『実』の剣が私の本領だし、感覚的に合わなくても仕方がない。

 全身機動が終わったところで、今度は身長に見合った軽い木刀で素振りを繰り返す。これなら今の私でも篠ノ之流の太刀筋を再現できる。緋宵でもソードサムライXでもないのは不満ではあるが、それも仕方のないことだ。重量と大きさの問題で、あれは今の私の手に余る。物理的にな。

 ……まあ、剣も無しに意思のみで他者を傷つけることもできる者が居る。意思の強さのみで他者に『斬られた』事を理解させ、傷を作り出させてしまう者が。

 他人にできると言うことは、私にもできる可能性があると言うことだ。できる可能性があるのならば、できるようになるまでやってみる以外に道などあるものだろうか。いや無い。

 その前段階として、刀を私の一部にする。緋宵とソードサムライXの二振りの刀を、私の一部とする。

 居合いにおいて最大の性能を発揮する緋宵と、抜いてからの剣撃において性能を発揮するソードサムライX。その二振りの刀のうち、ソードサムライXを木刀と重ね持つイメージ。

 

 ───私の中で木刀の姿が薄れ、機械染みた形状の刀が現れる。

 現れた刀を握り直し、ゆるりと構える。

 意識は一つ。ただ、斬る。

 刀と繋がった私は、目の前に居る幻像の私と向き合い……全く同時に剣を振った。

 

 互いの刀は中空で火花を散らす。全く同じ速度と全く同じ力を持つ私達が鏡写しのように動けば、こうなることは自明の理ではある。

 刀同士で打ち合えば、普通ならばまず間違いなく刀がへし折れるか砕けるか、物によってはどちらかの刀を一刀両断してしまうことになるのだが……流石は一夏の用意したソードサムライXだ、なんともない。

 私同士が互いに鏡写しのように刀を振るう。私以外には見えないだろう刀が、同じく私以外には見えないだろう私自身の振るう刀とぶつかり合って衝撃を撒き散らす。

 ……気のせいか、本当に衝撃があるような気もするが……気のせいでもなんでも構わない。私は目の前の相手を斬り捨てるのみ。

 

 晴眼から構えを変え、蜻蛉の型に。完全に攻撃重視の型だが、元が二の太刀要らずの示現流の物なのだから仕方がない。篠ノ之流の攻防一体や防御重視のそれと違い、とにかく的に一撃当ててしまえと言う型なのだ。

 ……父さんには怒られるかもしれないが、私の自由と言うことで押し通させてもらおう。これを篠ノ之流と言うつもりはないので、多目に見てほしい。

 

 さあ、続きだ。昨日の私よ。今日の私の糧となるために───

 

 首、置いてけ。

 

「残念、そこまでだ」

 

 ……む?

 

 突然かけられた声に意識を刀から浮かせてみると、目の前には私と同じように刀を構えた一夏が居た。……いや、こちらの世界では『百秋』だったか。

 

「いつから居たのだ?」

「十柄が刀に為った辺りから」

「……と言うことは、さっきまでの試合の相手は……」

「俺が真似た。そっちの想像と寸分違わぬ動きだったと思うが、違ったか?」

「いや……だが……そうか…………」

 

 どうやら私はまだまだらしい。刀に為っていたからとはいえ周囲の気配に気付かないようではまだまだだ。

 それに、あそこまで見事に真似られてしまうと言うことは、私の動きが先読みされやすいと言うことを示している。動きが読まれやすいと言うのはよろしくない。だからと言って基本から外れたところで私は強くはなれないだろうから……そもそもの性能を引き上げるしかないだろう。

 例え先読みされても反応できないほどに早く。反応できたとしても防御を両断できるほど鋭く。防御されてもその防御ごと吹き飛ばせるほどに強く。

 

「……とりあえず、気か何かで刃を伸ばせるようにしてみようと思う。一夏はできるんだよな?」

「気だけで剣を作ったり、あるいは意思そのものを固めて相手の意思だけを斬り捨てる刀とかを作ったりもできるよ」

「……殺気だけを固めて作ったらどうなる?」

「斬られたら本当に斬られたような気がするだろうね。多分、勇気とかそう言うのを全部纏めて両断して、勇猛な将でも闇に恐怖する赤子のようになるんじゃないかな」

「恐ろしい刀もあったものだな」

「相手を傷つけずに意思のみを切り捨てて戦を止めることができる刀だよ? 便利じゃね?」

「ふむ……ところでその刀は見えるのか?」

「波長が合えば。さっき十柄の使ってたのとおんなじような感じだよ。ついでに斬られても意思を曲げないならかなり想いが強いのがわかるし、持ち主自身の意思によって切れる度合いが変わるだろうね。何しろ元は『意思』だし」

「ふむ……『幻刀【(たたら)】』とでも名付けたくなるな」

「名前も無かったし、それでいいんじゃね? ……あーそうそう、そろそろご飯の時間だよ」

「わかった、シャワーを浴びたらすぐに行こう」

 

 実のところあまり空腹ではないが……まだ頭が戦闘状態なのだろうな。落ち着いたら空腹を感じるようになるだろう。

 

 

 

 

 

 


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