IS~ほんとはただ寝たいだけ~ 外伝・超外伝 作:真暇 日間
side 織斑シャーリー
簪の部屋で暫く談笑を楽しんでいたら、いつの間にか時間が大分過ぎていたのでそろそろお暇することにした。結構な時間足止めできたと判断したらしい簪の機嫌もいいし、僕も美味しいお茶が飲めて満足。誰も損をしない展開だね。
まあ、こっちの世界の僕の応援は大してできなくなってしまったけれど、それはそれ。仕方のないことだと思って諦めてもらおう。どうせ本人も知らないことだったんだし、これからも知らないでいれば残念だったとは思わないでしょ。
さてと。次は……ああ、もうすぐご飯の時間だね。それじゃあその時に全員に自己紹介をすれば一回で済んで楽になるかも。
それじゃ、食堂に行こうかな。百秋は……ダディにつれていってもらってるみたいだから別にいいや。食堂で会えるでしょ。多分。
会えなかったら会いに行くだけだしね。僕もそろそろ百秋分の補給がほしいし。
優しく抱き締めて、できるだけ肌と肌(実際には服なんだけど気にしない方向で)の接触面積を広く取る。その状態で暫くいれば、新鮮な百秋成分の補給ができると言うわけだ。
抱きつくだけじゃなくてちょっとくらい舐めたりした方が早いんだけど、流石に自重。最大でもほっぺにキスくらいで我慢しておかないと、まず間違いなく疑われてしまう。
……疑われても開き直ればいいね!既に存在自体が色々ヤバい百秋がいるんだし、同じ父親の遺伝子を持っていることになってる朝日が普通に百秋にキスしてたわけだし、大丈夫に違いないね!
「……そういう理由で飯を食ってた俺を抱き上げて膝に乗せて抱き付いてるわけか?」
「そうだよ? それ以外に理由ある?」
「堂々と言うようなことじゃないよねそれ!? なんで平然とそう言う選択肢が出てくるのか小一時間問い詰めたいんだけど!?」
「教育の問題じゃないかと思う。惚れた相手が鈍くても気付いてもらえるようにって肉食に育てられてるからね」
「そうなの!?」
マミーは大分驚愕しているようで、僕の口調が大分崩れている事にも気付いていないらしい。まあ、僕が同じ立場だったとしても驚愕するだろうとは思うけど、なんとなくそう言う風に育てるだろうなと思うからどちらかと言えば納得する気持ちの方が強そうだ。
「百秋にはライバルが多いからね。こういう機会があったらできるだけアタックするようにしてるんだ」
「……そ、そうなんだ……あははは……」
マミーはひきつったような笑顔を浮かべる。まあ、未来の自分の娘が自分の夫と自分の夫の実の姉の間に産まれた男の子に本気で恋をしている……なんて言われたら、そりゃあひきつった笑顔の一つや二つ浮かべたくなる気持ちはわかる。
だけど、百秋はそんなことがどうでもよくなるくらい魅力的なんだからしょうがない。
確かに百秋には異常と言うか、人間以上だったり常識外れだったりするところがある。常識人である僕ではついていくのがやっとだったり、時にはついていけないと思う事だって普通にあった。
でも、もう大丈夫!人間を含めた動物って言うのは───慣れることができるものだからね(死んだ目)。慣れれば大したことはないよ。慣れればね。
……さてと、世の中の理不尽に嘆くのは終わりにして、できるだけ楽しめるところを楽しんでいこう。今回は自重はあんまりしないって決めてるし、嘆いてばっかりじゃ楽しめない。楽しめるならできるだけ楽しまないと。こんな機会はなかなか無いからね。
「……まあ、別にいいけどな」
「ありがとー♪」
「……ねえ一夏、未来の僕の娘がなんか凄い顔を緩ませながら百秋を抱き抱えてるんだけど」
「いいんじゃないか? 仲が悪いよりずっといいさ」
「いや、うん、そうなんだけど……そうなんだけどさ……」
マミーは「何かが違う……」とか言いながら頭を抱えてしまった。いったい何があったのかは僕の知るところではないけれど、ため息ばかりついていると幸せが逃げていくよ?
正確には、悩んでばかりだと日々起こっている小さな幸せに気付きにくくなるから幸せが逃げていくように感じるだけなんだけど……本人からしてみれば自分が感じていなければ幸せじゃないから逃げていくって言う表現はあながち誤りじゃないんだろうけど。
幸せも不幸も個人の主観による相対的な物だし、本人が幸せだと思えれば周りから見て地獄だろうがその人にとっては幸せで、その人が不幸だと思ってしまえば例えあらゆる法悦を集らせた快楽園ですらも陳腐なものになり下がる。
人間の感情は本当に面倒で、壊す以外の形で自分の思い通りにするのはとても難しい。壊してしまえば元に戻すのは当然としても、ある程度機能する形に作り直すことも至難の技。流石にこればかりは神様でもない僕なんかには荷が勝ちすぎるね。
だから僕は、今感じることができる幸せを満喫しようと思うんだ。
「……食事中なんだが」
「大丈夫!食事の邪魔はしないよ!」
ちょっと服の隙間から手を入れて体温を楽しんだりするだけだから!
「いやいやダメだよそれ!?」
「ダディがマミーにしてた時はあんなに喜んでたじゃない!」
「ゴブフッ!?」
「しかも裸エプロンで!」
「えぇっ!?」
「忘れ物して帰ったときにそれを見ちゃって凄く気まずかったんだからね!インパクトが凄すぎて結局忘れ物も取り忘れちゃったし!」
「やめて!もうヤメテ!僕の未来の恥ずかしい情報をこんな場所でぶちまけるのはヤメテ!?」
「ダディに『シャルはこんなに綺麗なんだから、隠すことなんてないさ』って言われて『もっと見てぇ!』って大声で」
「あー!あーあー聞こえなーい!全然聞こえなーい!」
「その後はIS学園の男物の制服で」
「うわぁぁぁぁぁぁぁん!もうほんとやめてよぉぉぉぉぉぉ!!」
「心の準備も無しにそれを見ちゃった楯無さんなんて、その場で顔を真っ赤にして気絶しちゃって後片付けが大変だったんだから!」
「なんで突然私にまで被害が来るのよ!? そこはシャルロットちゃんをもっと弄るところでしょ!?」
なんかヘタレ声が聞こえたような気がしなくもないけど気のせいと言うことにする。
でも、なんと言うか……凄く場が混沌としてきている。顔を真っ赤にしつつ僕の話を聞こうと耳を澄ませている人が大半だし、そうでない人は全力で耳を塞いだり顔を真っ赤にしながらうつむいているばかり。
「……ごっそさん」
「あっ!待ってよ百秋!」
「いいから飯食えよ……食ってないだろ」
僕の膝から軽く飛び降りた百秋は、すぐに立ち上がろうとした僕にお盆に乗った料理を押し付けた。……確かに食べてないけど、僕としては食事より百秋の方が大事なんだけどなぁ……。
まあ、せっかく百秋が用意してくれたんだし、食べるけどね。
いただきまーす。