IS~ほんとはただ寝たいだけ~ 外伝・超外伝 作:真暇 日間
外伝、予知夢? セシリア編
先に言っておくが、これは少し未来の俺が思い出している話だ。だから金髪の事を金髪と呼んでいない。
しかし本編ではまだしばらく金髪呼びをするから、それが嫌なら読み飛ばしてくれ。
このくらい開けとけば良いか。
金髪……わかりづらいしそろそろ名前で呼んでやるかな。シアとセリとせっしーとどれがいいと思う? オル子も候補には入ってるんだが。
渾名とかだったらなんでか覚えられるから三文字以上でも構わないんだが……セシリーで良いか。
セシリーを優しくたしなめた次の日の夜。俺はまた薄ぼんやりとした夢を見た。原作の一夏とセシリーが、ISを使って訓練をしている。
俺は邪魔をしないように観客席でそれを見ていたら、一夏が俺に気が付いたらしくこっちの方を見つめていた。それにつられて、セシリーも。
俺はひょいと立ち上がってステージに入る。バリアは張られていなかった。
てこてこと歩いて一夏とセシリーに近付いていくと、一夏はセシリーに一言二言言ってからISを解除して俺の頭を撫でてきた。
………いい撫でテクを持ってるじゃないか。
しばらく一夏の撫でテクを堪能してから、前回と同じように獣耳を取り出す。前回の尖った犬耳とは少し趣向を変えて、今回は垂れ犬耳。ただしどこかメカニカルな気配がする。
一夏は俺が持ったそれを見ると、苦笑しながら頭を下げてきてくれた。うん、つけやすくていいね。
つけてみると、今回は凛々しいと言うよりはどこか愛らしさが増したような気がする。
……うん。いいんじゃないか?
そう思いつつ振り返ってみると、セシリーが俺と一夏をガン見していた。その目には驚愕一色。あまりにもそっくりな俺と一夏に驚いているんだろうか。何でもいいけどね。
こっちのセシリーは俺のところのセシリーと違って変態ではないことを祈りつつ近付いていくと、なぜか撫でられた。このぎこちなさは寝ている俺を撫で始めたばかりのちー姉さんにも匹敵するな。
まあ、一夏が俺の事を撫でてたから撫でたんだろうが……もう少し撫でようがあると思うんだよな。いいけど。
しばらく撫でさせてると一夏がまた苦笑して、セシリーに撫で方を教えていた。手取り足取り……いや足はとってないけど、それだけでも格段に撫でテクが良くなった。やっぱり他人に物を教えるときは実際にやってからやらせるのが一番だよな。
………ん、及第点かな?
と言うことでセシリーにも一夏と同じ垂れ犬耳をつける。こっちはなぜかちょくちょく動いている。
そして俺も同じように垂れ犬耳をつけて、にこにこしながら二人の手を取る。これは夢なんだし、遊んで笑って仲良くして、それからみんなで寝ようじゃないか。
side 一夏Another
小さい俺によく似た子供が眠った後、俺とセシリアは手を繋いで横になっていた。
その間にはもちろんその子供が居て、まるで本当の子犬のように俺に擦り寄ってきていた。
……前に見たときは相手は箒だったんだが………あの時は一緒に寝た夢(しかも俺似の子供も一緒で仲のいい家族みたいな状態で)を見たせいで、しばらく顔を合わせる度反らしてたんだよなぁ………。
……不思議なことに、箒も俺と同じ夢を見ていたらしく、その事を伝えたらものすごく驚いていた。
「……くぅ……」
きゅ、と俺の服(いつの間にかISスーツじゃなくなって制服になっていた)を両手でつかんで、顔を俺の胸に擦り付けている。
「……わたくしは。なんであまり好かれていないのでしょうか?」
それを見たセシリアは少し不機嫌そうに、かつ悲しそうに言うんだが、俺に言われても知らない。箒の時は普通に箒にも甘えてたんだがなぁ……。
そう思いながら子供の頭を撫でる。……そう言えば箒とこの子供はなんなのかという話をして、未来の俺の子供じゃないかって言う話になったんだっけ。
………そう言や相手は誰なんだろうな? 箒かも、って言ったら箒は顔を真っ赤にして怒ってきたから違うとして…………セシリア?
……まさかな。
そんなことを考えているうちに夢の中の俺は眠っていて、ふっと起きると寮の俺の部屋だった。
あの夢は確かに夢のはずなのに、なぜか本当にあったような気がしてならない。
その上忘れる気配もなく、いつまでも鮮明に覚えている。
……ふと、頭に手をやってみると、なにかに触れた。
……夢のなかであの子供につけられた、垂れ犬耳だった。
…………気付いてよかったぜ。このまま教室に行ってたら大恥かくところだった。
…………いやいやいや、そうじゃない。それは重要じゃない。なんでこれがここにあるんだ!?
俺は軽くパニックになった。
外伝、予知夢? 鈴編
原作では鈴と仲直りをした日のこと。つまりクラス対抗戦の日のことだ。
その日の夜、三度俺は薄ぼんやりした夢を見た。
俺の視線の先には原作一夏と鈴の姿。保険室で鈴が一夏の手当てをしているように見える。
俺は座っていたベッドから降り、半分だけ閉まっていた白いカーテンを開ける。すると薄ぼんやりとしていた一夏と鈴の象が急にはっきりとして、その二人が俺の方に顔を向ける。
鈴はやはり驚いているようで、俺のことを穴が開くほど見つめている。しかし一夏の方はもう慣れたらしく、俺の姿を確認した途端に苦笑して、そして手招きして呼び寄せた。
当然俺はその誘いに乗ってほいほいと近寄っていく。一夏って、なんか安心する匂いがするんだよな。俺からはそれと同じ匂いがしてるのかどうかわからないけど。
きゅっと抱き着いて、それからまた撫でてもらう。身長はさらに縮めて百二十ほど。座っている一夏の頭よりちょっと高い程度だ。
「……やっぱり撫で心地良いよな」
「……はふぅ………♪」
こうして俺と一夏がのんびりしていると、鈴がようやく再起動したらしく、急に一夏に近付いて一夏の襟首を掴んで揺さぶった。
「一夏ぁ!この子誰よ!どこの誰の子よ誰との子よ!?」
「知らねえよ!何で俺にそっくりなのかもわかんねえよ!ついでに俺にそういう相手はいないから!」
……とりあえず、止めるか。
一夏の腰に抱き付いて、少し涙目になる。そして一言。
「……喧嘩はダメ」
俺達のところの鈴だったらこれで止まったんだけど……こっちの鈴にも効くかどうか………と思っていたら抱き締められた。どうやら効果はあったらしい。
「そんなに気になるんだったらその子に直接聞いてみろよ」
一夏はけほけほと咳き込みながらそう言うが、俺はその事について話すことはしない。絶対。
だってそれじゃあつまらないからな。
「……秘密」
聞かれる前ににっこり笑って言う。
「何でよ?」
「教えちゃダメって言われたから」
俺が、俺に。まあ、何にしろ言わないけどな。
「だってさ。とりあえず撫でとこうぜ。この子撫で心地良いんだ」
「…………あ、ほんとね。なんか撫でてて落ち着くわ」
一夏と鈴はそう言いながら俺を撫でる。セシリーはあんまり上手じゃなかったけど、鈴は上手いな。
「……そう言えば、この子、名前は?」
「……そう言えば聞いてないな」
うん、言ってないからな。聞かれてもないから教えるタイミングが無かったとも言うけれど。
「……えっと……名前を教えてくれないか?」
「大天災さんが『秘密にしといた方が面白いから教えちゃダメだよー』って言ってたから、ダメ」
……っていう言い訳を考えた。鈴の方は納得してなかったみたいだけど、一夏の方はすぐに誰だかわかったみたいで頭を抱えている。
まあ、気持ちはわかるけどね。
「…………ああ、うん、わかった、教えなくっていい」
「ありがとパパ」
「「…………は?」」
……おっと、つい面白くなりそうだから言っちゃった。
そこで話をそらすついでにいつも通り獣耳を取り出して一夏につけた。今回は灰色の猫。やっぱりどこかメカニカル。
「な、なあパパってどういう」
「ふぁ……眠くなってきた………寝よ?」
俺ははぐらかすを使った。一夏はおとなしくなった。
おとなしくなった一夏を保健室のベッドに連れ込む。そして、じーーっと鈴を見つめると一夏が鈴を呼んでくれた。
「鈴。どうせ夢なんだし、一緒に寝ようぜ」
「なっ!ばっ……!……そ、そうね。夢だもんね。夢のなかだったら………うん」
そう言って鈴は、一夏と自分で俺を挟むようにベッドに入ってきた。
…………おやすみ。
side 一夏Another
…………今回で三回目の夢の中の子供との出会い。今までに一緒に出会った箒とセシリアとの話し合いのときに出てきたこの子供の正体について。
…………三回目にして、俺の子供の確率が高くなった。それもめちゃくちゃ。
普通だったらあり得ない。そう、あり得ないが………俺と鈴の間ですやすやと眠るこの子供が言うには、この事には束さんが関わっているそうだ。
大天才(少し違う気もするが、あってるだろ)と言えば束さん。束さんだったらなにをやってもおかしくない。
例えば、未来から俺の夢の中に未来の俺の子供の意識を放り込むとかは朝飯前だろう。
…………やばい。なにがやばいって、束さんだったら本当にあり得るからやばい。
そう考えた途端に眠くなった。そしてあっという間に意識が落ちる。まるで誰かが頭の中を弄ったみたいに―――
起きると朝だった。夢のことは、あの子供が眠ったところを最後に途切れている。
前回は頭に耳が残っていたので手をやってみると、今回も頭に猫耳がついていた。多分鈴のところにもいってるだろう。
そう思って枕元に目をやると…………箒の時につけた尖った犬耳が置いてあった。
…………まあ、束さんが関わってるんだったら何でもありだな。
外伝、予知夢? 千冬編
束姉さんの操るISを相手にした日の夜。俺はまたもや薄ぼんやりとした夢を見た。
怪我をしているらしい原作一夏と、枕元で周りから見ても明らかにわかるほど心配そうにしているちー姉さんがいる。
……多分、原作で無人ISを一夏が墜として、一夏がボロボロになった時かな。この夢は。
それにしても、原作だとここまで心配そうにしてるのは珍しいよな、と思いつつ俺はちー姉さん達と俺を分けているぼんやりとした霧を抜けた。
するとちー姉さんは俺に気付いたらしく、俺の方に振り向いて……固まった。
それから一夏を見て、また俺を見て、鋭く睨み付けてきた。
……怖いなぁ。ちー姉さんのこんな顔はあんまり見ないから………。
ちょうどそこで一夏が目を覚まし、ゆっくりと体を起こした。
そして俺のことを確認すると、また夢だと理解したらしく俺を手招きして呼び寄せた。
「……一夏?」
「大丈夫だよ千冬姉。この子は……………束さんが未来から送ってきた俺の子供らしいから」
「………………あの……馬鹿者が…………」
ちー姉さんは頭を抱えてしまった。まあまあ、と落ち着かせるつもりで頭を撫でてみると、意外にも普通に受け入れられた。
「……それで、名前は?」
「大天災さんは、教えると俺が消えるかもって言ってたから、内緒♪」
「前は言わない方が楽しそうだからって言ってなかったか?」
「前は前、今は今だよ。パパ」
俺の一夏へのパパ発言を聞いたちー姉さんは、しばらくきょとんとしてから、それはもう盛大に噴き出した。
「……ぷっ!はははははは!パパ? 一夏がパパ!? くっ、はははははは!はーっはっはっはっはっはっは!!」
「………笑いすぎだよ千冬姉」
一夏はちー姉さんの事をじとっとした目で見ているが、ちー姉さんはそんなことを気にしないで大笑いしている。
………いや、俺のことじゃないけど笑いすぎだと思う。確かに笑ってると元気になるし老けないって聞くけどさ。
………………ここでちー姉さんをママって呼んだらどんな反応が返ってくるのかね? やらないけど。
とりあえず、座ったまま俺の頭を撫でている一夏に狼耳を装着。似合ってるよーかっこいいよー。
……でも、ちー姉さんにどうやってやれば装着できるか……うーん…………。
「……それが千冬姉の分か?」
俺が一夏とお揃いのどこかメカニカルな気配のする狼耳を持ったまま唸っていると、何をしたいのかわかったのか、話を進めてくれた。
ちー姉さんはなんの話をしているのかわからなかったようできょとんとしているが、俺と一夏の頭についた狼耳と俺が手に持っている狼耳を見比べて………苦笑してそれを自分の頭につけた。
「……どうだ。似合うか?」
ちー姉さんは冗談めかして言っているが、すっごい似合ってる。束姉さんがこの姿を見たら、それこそ鼻血を噴き出しながら恍惚とした顔で七転八倒してしまうだろうと簡単に予想がつくくらいだ。
…………さてと。一夏達に狼耳も装着したし………………寝るか。
一夏寝ていたベッドに潜り込む。少し狭かったので千の顔を持つ英雄で新しくベッドを隣に出して並べた。意外に使えて驚きだ。今さらだけど。
一夏にくっつきながらちー姉さんの事を上目遣いでじーーっと見つめていたら、仕方なさそうに添い寝をしてくれた。
一夏の隣に一緒に寝れるせいか尻尾が激しく振られてて隠せてなかったけどね。丸分かりだったけどね。
………やっぱり原作でもちー姉さんはブラコンだった。証明終わり。
…………すか~……。
side 一夏Another
すか~、と眠る俺そっくりの小さな子供。最近よく夢の中に出てきては、こうしてのんびりと誰かと眠ることになる。
……そう言えば、千冬姉と一緒の布団で寝るなんて、何年ぶりだろうか。昔は結構な頻度で一緒に寝てたと思うが、今じゃあそんなことはまずないからな。
「……一夏」
「……なに、千冬姉」
急に話しかけられて驚いたが、なんとか平静を装って返事をする。
「―――好きな女はできたか?」
「ぶほっ!?」
しかしその平静は、千冬姉のお陰であっという間に壊された。
「な……な、なんの話をしてるんだよ千冬姉!」
「なに、と言われてもな? 姉としてお前の結婚相手には興味がある」
丁度ここにこいつがいるわけだしな、と千冬姉は言う。
……確かに俺も誰と結婚してるかは少し気になるけど、だからって今気になってる相手は―――
―――尖った犬耳をつけて、恥ずかしそうにしながらも俺の手を握ったまま寝ようとしている箒の顔が浮かぶ―――
―――灰色の猫耳をつけながら、小さな俺似の子供を撫でている鈴の顔が思い浮かぶ―――
―――垂れた犬耳をピコピコと動かしながら、拗ねたような顔をしているセシリアの姿が思い浮かぶ―――
………あー、なんとなく決まってるような気がするのは何でだ?
そう考えていると、千冬姉から笑みの気配が強まった。……バレたか?
「バレバレだ。少しは隠す努力をしたらどうだ?」
まず読まないでくれよ、という俺の心の突っ込みは完全にスルーしたらしく、千冬姉はにやにやとした笑いを返してくる。
「……それで、どうなんだ?」
千冬姉の問いから逃げるように、俺は小さい俺似の子供を撫でながら目を閉じた。
朝起きて、まずは頭に手をやる。すると予想通り俺の頭の上には狼耳がついていて、なかなか恥ずかしい格好になっている。
…………多分千冬姉もこうなってるはずだし、俺は気付かなかったということにして千冬姉の狼耳を見てにやにやしよう。周りから意外とお茶目な先生だったと認識されてしまうがいいわ!
…………まあ、あれでもかっこいいと言うのが千冬姉のすごいところなんだが。普通はかっこ悪くなるか可愛らしくなるよな?
※にやにやはしたけど途中で気付かれてフルボッコにされた。出席簿の五十連撃は痛すぎる……っ!
外伝、予知夢? 弾編
IS学園に入ってから、久し振りに弾と遊んだ日に、薄ぼんやりとした夢を見た。どうやらこのぼんやりとした夢は異世界(原作)との会合地点らしい。毎回毎回原作の誰かが出てくればいい加減わかる。
……まあ、面白いし害はないし睡眠時間も減らないし、悪いことではないから良いんだが。
今回は原作一夏が弾の部屋でゲームをして遊んでいる。俺の場合ゲームではなく昼寝になるから、こうしたゲームってのはあんまり経験がないんだよな。
そう思いながら近付くと、勝負の決着がついて一旦暗くなったテレビ画面に俺の姿が映り、そのお陰で俺に気付いた一夏がくるりと振り向いた。
「……あー、またか。おいで」
「ん? って一夏ぁ!? でも小さい!?」
「うるせえ奴だな。ちょっと知り合いの大天才の手で未来からやって来たらしい俺の子供だとさ」
「なにぃぃぃっ!? ってかなんでお前はそんなおちついてんだよ!? もっと驚けよ!?」
「驚いたぞ? 最初は。でも慣れてきてなぁ………俺の子かわいくね?」
「ダメだこいつ、早くなんとかしねえと……」
弾はぶつぶつと呟いていたが、ふとあることに気付いて顔を上げた。
「……この子の母親って………誰だ?」
「さあ? 聞いても教えてくれないから知らない」
一夏は俺を抱えて頭を撫でながらそんなことを言う。弾は爆発しそうだったが、なんとか押さえ込んでいるようだ。
「……てめえ蘭に手を出したらぶっ殺すぞ……?」
「なんでそんな話になるんだよ? 俺が好かれてもいない相手に無理矢理迫るような奴に見えるのか?」
出さないだろうな。むしろ焦れた相手の方から襲われそうだ。原作の鈴とかだったら襲ってもおかしくないだろうし。
……まあ、原作一夏が誰と付き合って誰と結婚して誰と子供作っても別にいいけど。
「おかーさんは、『パパはヘタレで中々手を出してくれなかったからこっちから襲った』って言ってたよ?」
「俺襲われんの!? 誰に!?」
「おかーさんとママ逹」
「てめえ一夏重婚とはいい度胸じゃねえか死ねぇぇ!」
にっこり笑って言ってみたら、弾が一夏にマジギレして襲いかかっていった。
「……って言うと面白いから言えって大天災さんが言ってた」
「束さんはなに考えてんだよ!?」
「おかーさんは、あれが考えていることがわかるようになったら人間おしまいだって」
……俺中々酷いこと言ってるな。間違いだとは思わないけど。
とりあえず騒ぎ疲れたらしい二人に獣耳を装着。草食な気がしたので羊耳をつけてみることに。驚いたことに意外と似合う。
……さてと。そろそろ寝ようかね。
side 一夏Another
「…………なあ一夏」
「? なんだよ」
弾がやや疲れたような顔で話しかけてきた。一体なんだろうな?
「……なんで俺達は一緒の布団で寝てんだ?」
「この子に連れ込まれたからだろ。涙目上目使いは反則だよな」
「…………そうだな」
弾はそう呟くと、ふかーく溜め息をついた。
「……嫌じゃねえの? 男と同じ布団って」
「別に? 貞操狙ってくるんだったら今からでも蹴り落とすけど?」
「狙わねえよ……一夏は俺をなんだと思ってんだよ………」
「親友だと思ってるぞ」
「……ありがとよ」
……弾はなぜか疲れたように俺に礼を言ってきた。俺と弾が親友だってのは、少なくとも俺には当然の事なんだが。
「……とりあえず、撫でてみな。落ち着くから」
そう言って俺は、俺にくっついて眠っていた俺似の子供を弾に抱かせた。
弾は疲れたような表情を変えることはなかったが、とりあえず腕は俺似の子供を離さないとばかりに抱き締めながら撫でていた。
「…………ああ、確かにこいつは落ち着くわ」
「だろ?」
弾が子供を撫でているのを見てから目を閉じると、急速に眠気が襲ってきた。
……あー、眠い…………。
目が覚めると、IS学園の寮の部屋だった。どうやらぐっすりと眠っていたらしく、いつ布団に入ったかも覚えていない。
だけど、いつもの通りその夢の事はしっかりと覚えているし、頭には弾の頭にもくっついていた羊耳が。
……多分弾にもくっついてんだろうな。電話しといてやるか。蘭にバレたら可哀想だし。
外伝、予知夢? 蘭編
原作弾と原作一夏と一緒に寝た次の日。まさかの連続での薄ぼんやりとした夢に少し驚いた。今回は誰だ?
周りを見渡してみると、そこは誰もいない五反田食堂だった。
そこに一夏が入ってくると、どこからか蘭ちゃんが現れて一夏にスマイルを向ける。
「いらっしゃい、一夏さん」
「おう、久し振り」
笑顔を向けられた一夏は、俺もよく見た優しい笑顔を浮かべる。俺がこういう笑顔を浮かべようとすると、優しい笑顔ではなくヤサシイエガオ(別名・怒れるちー姉さん笑い)になってしまうから注意が必要なんだが………良いよなぁ……ああいうきれいな笑顔を浮かべられるってさ……。
……まあ、鈴や弾にはいつもの俺のままが良いって言われてるから気にはしてないけど。
一夏と蘭ちゃん以外は誰もいない五反田食堂のカウンター席に座って一夏と蘭ちゃんを見ながら足をぷらぷらとさせていると、少しずつ霧が晴れていくように薄ぼんやりとしていた二人がしっかりと見えるようになっていった。
そこで一夏は俺に気付き、ここが夢の中だと理解したらしい。
「またか。二日連続は初めてじゃないか?」
「こっちもちょっと驚いてるよ、パパ」
「ぱ、ぱ……パパぁ!?」
俺がそう呼ぶと、蘭ちゃんは凄く驚いたらしく大声で叫んだ。結構ビックリ。
「い……一夏さん……? この子って…………」
「俺の未来の子供だってさ。誰との子供かは教えてくれないけど」
「言ったらもしかしたら俺が消えちゃうかもしれないからって大天災さんは言ってたけど、言っても平気なようにしてみせるって張り切ってたよ?」
「……なんか嫌な予感がするなぁ…………」
ああ、多分正解。こう言うことには勘がいいのに、どうして女心やら好意やらにはここまで鈍いかな。そんなんだから襲われるって言われた時に親友に納得されるんだよ。
まあ、一夏だし仕方無いか。
「もしかしたら、次は意外な人の夢に出てくるかもしれないよ? 確実じゃないけど」
次は原作的に考えて……シ……シャ…………シャンタクだっけ?
……いや、それは確かどっかの神話のかなり高位の邪神の眷属の名前だったような気がするな。ねるねるねるねだったかねるとんパーティだったかナイアなんとかだったか……最後が一番近い気がするな。とにかくそいつの。
まあ、何でもいいか。確か愛称はシャルだったはず。だから勝手にシャルと呼ぼう。
シャルが相手のはずだ。確か。
まあ、何でもいいけど。
ちなみにこの夢は狙って見ているわけではないので、相手も時間も場所もわからない。だが、もしかしたら一夏のISであるびゃっくん(これでいいよな。わかるし)の中の騎士っぽい女の人が出てくる可能性も無きにしもあらず。ないと思うけど。
……あー、ここで蘭ちゃんをママ呼びしたらすっごい面白いことになるんだろうなぁ…………ちー姉さんとどっちの方がカオスになるかね?
……流石に悪趣味すぎるか。自重しよう。
でもこれだけは自重する気は全く無い。
そう思いながら一夏の膝の上に乗って背中を預ける。俺の頭を撫でる手が気持ちいい。蘭ちゃんが羨ましそうな目をしているが、今は無視しよう。
「撫でられるの好きだよなぁ」
「……ん……」
気持ちがいいからね。気持ちいいことは好きだよ? 寝ること含めて。
上を向くと、俺を見下ろしている一夏と目が合う。その優しい瞳で、いったい何人の女を墜としてきたのやら。
そう思いつつも何も言わずに、俺は一夏に獣耳をつける。今回は蘭ちゃんに合わせて尖った銀色犬耳(子犬)だ。好きな相手には子犬のように甘える的な意味で。
勿論俺もつける。尻尾つき。耳をつけると勝手に尻尾も装着されるため、便利だ。
「………………」
もう一つ同じどこかメカニカルな気配のする銀色の犬耳を持って、蘭ちゃんをじーーーっと見つめてみる。今なら蘭ちゃんの大好きな(原作ではそうだったはず)一夏とお揃いだよーとアイコンタクトをしてみる。通じるかな?
そう思っていたら蘭ちゃんの顔が赤くなったので、多分通じた。一夏と蘭ちゃん自身がお揃いの耳をつけて子供(俺だな)と一緒にいるところでも想像したんだろう。真っ赤になっている。
「ほら、蘭も来いよ。どうせ夢なんだし、寝ないと出れないみたいだしさ」
一夏が言うと、周囲の風景が五反田食堂から織斑家の一夏の部屋に変わる。そこには当然ベッドがあり、俺はすでに潜り込んでいる。
「はいこれお土産。大事にするといいことあるかもよ?」
そう言って蘭ちゃんに犬耳をくっつける。似合ってる似合ってる。
……さてと。寝ようか。
一夏と蘭ちゃんに挟まれて眠りにつく。いい夢が見れそうだ。
……おっと、ここもう夢だったわ。
side 五反田 蘭
夢だと言われて一夏さんと一緒の布団で寝て、しかもそれは一夏さんの未来の子供とも一緒で、こうしているとまるで結婚してしばらくしてもまだ仲良しな夫婦みたいな気分になって、頭がくらくらするほど一夏さんの匂いに包まれて、そこで私の意識はぷっつりと切れた。
そして気が付くと、私はいつもの自分の部屋で寝ていた。
……なんだ、やっぱりただの夢かぁ…………。
ちょっとがっくり来たけれど、夢なら夢でしかたない。いつかこの夢とおんなじように一夏さんと同じ布団で寝れるようにしたい。
ファイト、私っ!
ぐっと力をいれたところで、何となくいつもと違うような気がして頭に手を当てると、そこには夢の中であの子につけてもらった銀色の犬耳が。
…………何でここにこれが? あれは夢じゃなかったの?
寝る前に聞いたあの子の言葉を思い出す。
『お土産』。そして、『大切にするといいことあるかも』
……あれは、もしかして本当のことだったのかな?
…………ってことは……私は一夏さんと同じ布団で一緒に寝ちゃったって事で……ッ!
顔が熱い。きっと真っ赤になっているだろう。
私は、あの子にもらった一夏さんとお揃いの犬耳を大切に抱え込んだ。
「………一夏さん……」
「おーい蘭ー!飯できてるぞー!」
……お兄の………馬鹿………………っ!!
外伝、予知夢? シャルロット編
俺がシャルルと同居を始めて数日後。またもや薄ぼんやりした夢を見た。
タイミングを考えると‘シャルル’なんだが、もしかしたらのほほんちゃんという可能性も……
……と、思っていたけれどやっぱり‘シャルル’だった。
………ただし、なぜか‘シャルル’はコルセットをしていない上に、一夏はベッドに横になっている‘シャルル’に覆い被さるようにしていたが。
「……パパ? 無理矢理するのは犯罪だよ?」
「しねえよ!?」
俺の声を聞いて、一夏は凄まじい勢いで体を跳ね起こした。
その勢いのまま俺の事を見て……肩の力を抜いた。
「……ふぅ……驚かせないでくれよ」
「ごめんね、パパ」
ここで固まっていた‘シャルル’が再起動。
「い、一夏っ!? ぱ、ぱ……パパってどういうこと!?」
「ん? ああ、そう言えばシャルルは会うのは初めてだったな。名前を言うと消える可能性があるから言えないらしいけど、未来から送られてきた俺の子供だってさ」
そこで俺はペコリと頭を下げておく。礼儀正しくするのもたまには良いだろう。
「……え? 時間移動って…………そんなのできるわけないよね!?」
「できそうな人が知り合いにいるんだよ…………」
確かに束姉さんならほんとにできそうだよな。そういうの。今回違うけど。
「そうそう。気にしたって仕方がないんだからさ」
「だよな。束さんの行動を読み取ろうって言うのがまず無理だし、行動から考えていることを理解するのもまず無理だよな」
うんうんと俺と一夏が頷き合う。束姉さんを理解できたら、それは確実に人間としてどこかおかしいよな。
……まあ、多少の付き合いがないとわからないことだけど。
「……一夏は、それを信じられるの?」
「………確かに非常識だけど、束さんは時間移動くらいなら平然とやりそうだし、面白そうだからっていう理由で本当にやっちゃうからなぁ……」
「いつか平行世界に行けるようになったら、まだ小さい頃のパパを拐って逆光源氏計画実行するとかなんとか言ってたよ」
「突っ込みどころが多すぎる!? 俺はどこから突っ込みをいれればいいんだ!?」
「一夏の頭の上の虎耳からじゃないかな?」
‘シャルル’はなんだか色々と疲れたような顔をしている。まあ、気にするだけ無駄さ。
「……へぇ? 今回は虎耳かぁ……シャルルにもあると思うぞ。お揃いのやつ」
「期待に沿いまして……じゃーん」
取り出してみた虎耳、ただしどこかメカニカル。
……束姉さんの獣耳を真似ようとしてるんだけど、どうしてもなんとなく機械的になっちゃうんだよなぁ………。
「よしよし、偉いぞー」
一夏に頭を撫でられる。撫でスキル高いよなぁ……はふぅ……♪
「っ!」
きゅぴんっ!と‘シャルル’の目が光ったと思ったら、いつの間にか俺は‘シャルル’の膝の上に座っていた。
「ん~♪ かわいいねこの子」
「可愛いだろ俺の子。前に弾にも言ったんだけど、その時には苦笑いされちまってなぁ……」
ぎゅう~っ、と抱き締められているが、苦しくなく、それでいて逃げられないように上手く押さえ込まれている。
普通だったら抜け出せないんだろうけど、俺ならいける。
……やらないけどな。面倒だし。
「はい、大事にしてね」
‘シャルル’の頭にメカニカルな虎耳を装着したあと、自分にもつける。つけた瞬間‘シャルル’の抱きつきが強くなった気もするけど、まあいいや。
「……ふぁ…………」
「ん? 眠くなったのか?」
その問いに頷くと、一夏は俺を‘シャルル’と一緒にベッドに引き込んだ。
「ぇ? え、ちょっ!? 一夏ぁ!?」
「気にすんなよ。なにもしないさ」
「そういう問題じゃなくって……あぁもう!」
‘シャルル’は一夏の顔がすぐ近くにあることに驚くが、一夏はもう慣れてきたのかたいした反応を見せない。もしかしたら原作以上に鈍くなってしまったかも知れない。
もしそうなってたら、ごめんねののちゃん。ごめんね鈴。あとセシリーとシャルルも。
…………まあ、俺はそういうことを気にせず寝るんだけど。
……すか~…………。
side 一夏Another
目を覚ますと、俺の腕の中に夢で見た俺似の子供がいた………なんて事は無く、いつも通り一人だった。
……なんだか寂しいのは気のせいだと思いたい。一人寝ができなくなるのは困るし。
いつものように頭についていた虎耳を取って、獣耳置き場に。箒の尖った犬耳。セシリアの垂れた犬耳。鈴の灰色の猫耳。千冬姉の狼耳。弾の羊耳(角付き)。蘭の銀の子犬耳。そしてシャルルの虎耳。
……いったいどこまで増えるんだろうな?
後ろでもぞもぞと動いている気配を感じて振り向くと、シャルルがぼんやりとした目で俺の事を見ていた。
「おはよう、シャルル」
「……いちか?」
ぽけー、としていたシャルルはその雰囲気のままに答えてくるが、だんだんと頭がはっきりとしてきたのか目の焦点が合ってきて………
「……一夏?」
「おう」
顔を真っ赤にしたかと思うと、がばっと布団に潜り込んだ。
「おーい、シャルルー? どうしたんだ?」
「見ないでっ!こんな僕を見ないでぇぇっ!!」
…………いったいなんなんだろうな?
あと、頭は隠れてるけど尻尾が出てるぞ。
外伝、予知夢? ラウラ編
ラルちゃんに熱烈な告白を受けてからおよそ一週間が過ぎた日の夜。俺はつい最近も見た薄ぼんやりした夢の中に居た。
……まあ、今までの事を考えると、十中八九ラルちゃんなんだが、もしかしたらかんちゃんということや束姉さんと言うことも有り得る。誰が来ても驚かないように、覚悟だけはしておこう。
そう思いながらぼんやりした霧のカーテンをぬけると、一夏とラルちゃんが一つのベッドの上で仲良く眠っていた。
……確か、ラルちゃんは寝るときには服を着ないんだったっけ。布団を捲る前に一応パジャマ(昔、ちー姉さんが使っていた物と同型)を用意しておこうか。ついでに一夏が寝巻きに使っているのとおんなじシャツも。千の顔を持つ英雄で。
……便利だなぁ………。
寝ているうちにとりあえず黒い兎耳を二人に装着。残念ながらこれは起きないと外れないぜ?
大丈夫、俺もつけるから恥ずかしくない。赤信号をみんなで渡ればなんとやらってやつ。俺の場合は積載量オーバーした十トントラックが時速百二十キロでぶつかってきても大丈夫だけど。
何て考えているうちに、一夏がもぞもぞと動いてラルちゃんの事を抱き締めたじゃないか。これは多分もうすぐ起きるな。
ぱちっ、と目を開いた所で、一夏の事を上から覗き込んでいた俺と一夏の目が合う。
「おはよう、パパ。布団を捲るんだったら上の方から少しずつ捲っていった方がいいよ」
「…………夢?」
「そ。いつものね。もう一人は誰だかわかる?」
一夏はここで少し考え込んで―――ここで考え込めるあたり一夏は本当に鈍いよな―――、答えた。
「……ラウラ……か?」
…………ラウラ……?
…………ああ、そうそう、そういう名前だったな。そう言えば。
「そうだよ? パパがいま抱き締めてるのがそう」
「どれど……れっ!?」
一夏は俺の忠告を忘れたらしく、なんでもないかのようにさっさと掛け布団をめくりあげてしまった。俺はすぐさま目を閉じたけど。
「……パパのえっち」
「ち、違うぞ!これはラウラがどんな状況かわからなかったからであってだな!」
「……抱き締めてるときに色んなところを触ったのに?」
かぁぁっ……と赤くなっていく一夏。ラルちゃんはまだ眠っているようだが、布団は剥がれているし一夏の声は大きいしで、恐らくすぐ起きるだろう。
「………えっち」
「ぐはっ!?」
止めとして言ってみたのだが、想像以上にダメージは大きかったらしい。
「……む……何事だ……?」
ちょうどここでラルちゃんが起きた。寝てるときにも眼帯は外さない主義らしいラルちゃんは、露になっている右目だけを眠たげに擦っているのだろう。ただし全裸で。
微睡みタイムを放棄するように何度か目を擦ったラルちゃんは、俺の事を見つけて急激に気配を刺々しい物に変えた。
「あー待て待てラウラ!こいつは未来から大天才の束さんの手で送り込まれてきた俺の子供なんだ!そんな睨み付けるんじゃない!!」
一夏が言うと、まるで銃口を向けられているかのような刺々しい気配が少し和らいだ。怖い怖い。
「……今の言葉は本当か?」
「あ……ああ、本当のはずだ」
「誰との子供かは教えられないけどね」
教えたら本気でこっちの未来が激変しかねないし。
だが、ラルちゃんはえっへんと胸を張って言い切った。
「問題ない。私の嫁の子供なら私の子だろう」
…………自信満々だなぁ……ある意味では憧れるよ。少しだけ。
……でもさ。
「だとしたら、子供の前で全裸ってのはまずいんじゃない?」
教育に悪いだろうし。目はずっと瞑ったままだから俺には関係ないけど。
「……ここにちょうど寝巻きに使えそうなパパのシャツがあります」
「私に渡せ」
「ちょ、おいぃぃっ!? 何やってんだよ!?」
……何って、見ればわかると思うけどね。
「寝る準備だよ? パパ達は二度寝になっちゃうけど」
まあ、二度寝はいいものだ。個人的には特に微睡みからの二度寝は最高だと思う。
ラルちゃんの準備(一夏のシャツを着る)も終わったし、さっさと寝ようぜ?
side 一夏Another
……俺似の子供にせがまれて二度寝をすることになったんだが、どうやらここはまだ夢だったらしい。時計が動いてなかったし。
だから寝ることについての不満は無いんだが……。
……どうしてこうなった…………。
右を見るとラウラの顔。かなり近くで、いつもの凛々しい顔とは全然違う表情をしている。
それはいい。ちょっと前までは騒いでただろうけど、いい。
問題はラウラが俺のシャツしか着てないのにぴったりとくっついてくることだ。ラウラの兎耳が俺の兎耳にちょっかいをかけてくるとかそんなことよりも。さすがにこれはまずい。
いつもだったら間に入ってくれる息子(もう断言してしまおう)は、今回に限って俺の左腕を全身で抱き締めて眠っている。
可愛いんだが、そして嬉しいんだが嬉しくない。
ラウラの顔がすぐ近くにあると言う状況は、どうしてもあのキス事件を思い出してしまうから。
…………あーやばい、落ち着け俺。確か、こういう時には素数を数えるんだ。
……羊が2匹、羊が3匹、羊が5匹、羊が7匹、羊が11匹、羊が13匹、羊が17匹、羊が23匹、羊が29匹、羊が31匹、羊が37匹、羊が41匹、羊が43匹、羊が47匹、羊が53匹、羊が…………
……か~…………。
外伝、予知夢? 楯無編
またぼんやりとした夢を見ている。なんと言うか、かなり久し振りと言う感覚だが、実際は精々数ヶ月。大したことはない。
ただ、最近の生活の密度は高い。俺にとっては寝ている時間が一番密度が高いんだが、面倒事が大量にやって来るおかげでそれに肩を並べそうだ。
まあ、正直なんでもいいけどな、と思いつつ辺りを見回してみると、猫座の生徒会長と原作一夏がISの戦闘訓練をしていた。
原作一夏はフルボッコにされてるだけだったけど。
「痛そうだね、パパ」
「ぅおっ!?」
後ろからこっそり話しかけたせいか、原作一夏はぴくんっ!と肩を跳ねさせ、集中が切れたらしくあらぬ方向に吹き飛んでいった。
「……大丈夫?」
「……百秋。これが大丈夫に見えるのか?」
原作一夏を見てみる。腕はある。足もある。妙な斑点も浮き出てないし、顔色が異常に悪いってこともない。ちょっと壁にめり込んでいるだけのようだ。
「大丈夫に見える。パパはおかーさんに壁の真っ赤な染みになるほど折檻されても大丈夫だったから」
「俺ぇぇええぇぇっ!!? いったいなにやってそんなことになってんだよ!?」
「大天災さんに子供ができたからだって。俺の腹違いの妹だってさ。もう何年も前の話だったけど」
そう言うと、原作一夏はorzになってぶつぶつとなにかを呟き始めた。呪いの言葉か?
「え……えっと………百秋くん……よね?」
「ん? そうだけど……なんだたっちゃんか」
「私を知ってるの?」
「その事については未来のパパに聞いて」
「ちょ……ちょっとそれはできないかな~なんて……」
「じゃあ諦めて」
「…………もしかして百秋くん……私のこと嫌い?」
そんなことを冷や汗を流しながら聞いてくるたっちゃんに、笑顔で一言。
「憎い」
「そこまで!?」
「俺が気持ちよく寝ようとしてたところで叩き起こして、その上俺じゃなくてもできるどころか適任がいるのにわざわざ俺に仕事を押し付けて来るって言うのを何度も繰り返してくるような人が好かれるって、本気で言ってる?」
「……あの……ごめんなさい。ほんとにごめんなさい」
しゅんとしてしまったたっちゃんに、青っぽい猫耳をつける。やっぱりどうしてもメカニカル。
きょとんとしているたっちゃんを置いて、今度は一夏に青っぽい猫耳を装着。かんちゃんのときには水色の犬耳にしよう。そうしよう。
まあ、機会があったらの話だけど。
それからなぜか一夏の寮の部屋に変わった夢の世界の中でベッドを指差し、俺は言う。
「一緒に寝てくれたら考える」
side 織斑一夏
久し振りに会った未来の俺の子供は、なにも変わらず俺の腕の中で眠っている。
……ただし、楯無さんに背中を向けたまま。
撫でられてもなんの反応も返さず、脇に手を近づけられたらその手をぺしりとはたき落とす。なんで楯無さんはこんなに嫌われてるんだ? これじゃあ前のセシリアの時以上じゃないか。
「……楯無さん。なにやったんですか?」
「あ……あはははは……お姉さんってばなーんかやっちゃったみたいだね?」
楯無さんは苦笑いを浮かべるが、どうも身に覚えが無いらしい。
まあ、今はまだ産まれていない百秋に嫌われる理由に覚えがあったらある意味怖いけど。
きゅ……と身を寄せてくる百秋の頭を撫でてやると、百秋の頬が少しだけ緩む。
………可愛い奴め。
「……なんだか、すっごくお父さんの顔になってるわよ?」
「ん~……まあ、未来の話とはいえ、俺の子供であることには変わり無いので……」
……誰との子供かは知らねえんだけど。
「……もしかしたら……私の子供だったりして」
「無いですね」
だって前に「たっちゃんじゃない」って言ってたし、楯無さんのことをたっちゃんって呼んでたし。
「……むぅそんな即答で否定しなくてもいいじゃない」
「本人の口から違うっていう言質は取ってますから」
「そ、そうなの?」
「はい」
なんでかほっとしているように見える楯無さんのことはよくわからないので、とりあえずまた百秋の頭を撫でておく。
楯無さんも撫でようとしていたけど、その度に百秋の青っぽい猫尻尾に払い落とされている。
……ほんと、この人は未来で何をしたんだろうな?
百秋の尻尾にぺしぺしと手を払われている楯無さんの姿は、頭の上の耳のこともあって親猫の尻尾にじゃれつこうとしている子猫のように見えてきた。
……楯無さんなのに、なんか可愛く見えてきた。こんなことを考えてるって知られたら、またからかわれるんだろうなぁ……。
百秋の頭を撫でながら、百秋の尻尾に集中している楯無さんの頭に手を置く。
置かれてようやくその事に気付いたらしい楯無さんの頭を、ゆっくりと撫でてみた。
……百秋の髪より少しだけ柔らかいけど、百秋の髪の方が若干指の通りがいい。
それでもかなりいい感触だったので、気の向くままに優しく撫でる。
「こーらっ。お姉さんの頭を撫でるなんて、生意気だぞっ?」
「はい、ごめんなさい楯無さん」
そう言いつつも撫でるのは辞めない。最近は百秋のお陰で撫でテクが上がってる。ラウラやシャルみたいにいつもよく撫でさせてくれる奴だけじゃなくて、最近は箒や鈴やセシリアも普通に撫でさせてくれるしな。
それどころか、撫でる時間が増えていくと目を閉じて優しげな顔になるんだ。
……箒はいつもあの表情の方が可愛いと思うんだけどな。鈴やセシリアも同じく。
…………ふぁ……なんだか眠くなってきた。
百秋と楯無さんを一緒に抱き寄せて、目を閉じる。なんか楯無さんの顔が一瞬赤くなったような気がしたけど、多分気のせいだろ。楯無さんがこの程度で顔を赤くするほど恥ずかしがるとも思えないし、楯無さんは俺を玩具とかからかって遊ぶと楽しい奴とか、そのくらいにしか思ってないだろうし。
……ああ、ISの出来の悪い生徒とも思われてるかもな。事実だし仕方ないけど。
「あ、あの一夏くん? なんだか顔がすごく近いんだけど……」
「気にしない気にしない。俺も気にしませんから」
逃がさないようにさらに抱き寄せて、百秋を挟むようにしてしまう。苦しそうには………してないな。
そこで俺の意識がゆっくりと沈み始める。最後に薄目を開けてみると、目の前五センチも無いところに楯無さんの顔があった、
……確かに近かったな。
………そうだ。起きたら耳を片付けないと……また楯無さんにからかわれる………。
外伝 予知夢? 簪編
時間的にはそんなに離れていないはずなのに、どうしてか妙に久し振りな気がするこの薄ぼんやりとした夢。今回出てくるのは、時期的にかんちゃんだろう。
向こうの世界のかんちゃんは、確か一夏に憧れのヒーローっぽい所を見出だして、それからすぐに告白に踏み切ったかなりアクティブな性格の内気さんだったような…………なんだこの矛盾。
……まあ、いいか。そんな内気キャラが居てもいいだろ。にんげんだもの。
そう思いながら、どうやら学園の屋上で昼寝中という状態らしい一夏と、その隣にちょこんと座っているこっちのかんちゃんをかんちゃんの後ろから眺めてみる。後ろ姿しか見えないのに、百面相をしているのが手に取るようにわかってしまう。
……こっちの世界でも、やっぱりかんちゃんはかんちゃんだなぁ……可愛い可愛い。
………お? なんかかんちゃんの顔がどんどん一夏に近付いて……。
「……簪? なにやってんだ?」
「ふぇえっ!?」
……接触寸前で一夏が起きてしまった。……まったく。本当に空気の読めない男だな一夏は。
そうじゃなかったら三巻の時点ですでに誰かとくっついてそうだけど。
「え……えと……そのっ……」
顔を真っ赤にしてわたわたと慌てているかんちゃんを、一夏は不思議そうな顔で見つめる。鈍いなぁ………。
「……パパは本当に鈍いなぁ」
「ぅぉうびっくりした!百秋……ってことは……」
「またお邪魔してみた~。はいおみやげ」
そう言いながらいつものように青い犬耳(垂れてるタイプ)を一夏に装着させる。尻尾も自動展開され、夢の中限定だがぱたぱた動いたりしゅんと垂れたりもする。
「かんちゃんも。パパとお揃いだよ?」
「え……え? ………えぇ?」
なんだかよくわかっていない風のかんちゃんに、一夏とお揃いの青い犬耳を装着させる。……うん。似合ってる似合ってる。
「お~……やっぱり可愛いな」
「かわっ!?」
一夏のその言葉を聞いたかんちゃんは、顔を真っ赤にして俯いてしまった。……世界が変わっても、やっぱりかんちゃんは可愛いねぇ……。
「え……えっと……か……可愛いって………」
「簪は可愛いよ。その耳も似合ってるし」
「!?」
ぽふ、と頭に手を置かれ、そして優しくゆっくりと撫でられて、かんちゃんはまた顔を真っ赤にして俯いてしまう。
しかし、かんちゃんの腰のあたりに自動で展開されている青い毛の尻尾は千切れそうなほど激しく振られ、その内心がとても嬉しいのだとすぐにわかる。
一夏もそれに気付いているらしく、さらに優しく微笑んでかんちゃんを撫でている。
………なんとなく仲間外れにされている気がしたので、一夏の制服の袖口を引っ張ってみる。
「ああ、悪いな百秋」
一夏はそう言って俺の頭を撫でる。なんだかこの天然ジゴロは、どんどん人の頭を撫でるのが上手くなっていくな。
自分の尻尾がぱたぱたと振られているのを自覚しながら、俺はそんなことを考えた。
きっと一夏は、起きたらもういつも通りの生活に戻るんだろう。
初めの頃みたいに慌てることもなく、俺が向こうに行った時みたいに騒ぐこともなく……。
……………なんとなくだが、ちょっと悔しいような気がするのは………なんでかねぇ…………?
side 一夏Another
頭を撫でているうちに寝てしまった百秋の体を引き寄せ、そして簪の事も同時に抱き寄せる。
「ふぇえっ!? あ、ち、近い……っ!」
「まあまあ気にすんなって。一緒に寝るの初めてじゃないんだしさ」
一昨日の夜は簪と一緒に整備室に泊まり込んで一夜を明かしたし、昨日は徹夜しようとして二人揃って失敗しちまったしな。
起きた時に俺の部屋じゃなくって驚いたぜ。
「そ……そう……だけど………っ」
「まあ、何て言っても一緒に寝るんだけどな」
「!?」
腕の中でぱたぱた暴れる簪と、おとなしく胸のあたりに顔を埋めたまま眠っている百秋を抱え、ここは俺の部屋だとイメージする。
すると、流石夢の中。移動した感覚もなにもなかったのに、俺の家の俺の部屋に居た。
簪は急に変わった周りの風景に驚いていたが、俺はそれには構わず布団に簪と百秋を寝かせる。
二人に背中を向けて着替え始めると、小さく驚いたような簪の声が聞こえたが、気にしないでさっさと着替えを終わらせる。
寝間着には千冬姉と同じようにジャージを使っていて、これがまた寝心地がいい。千冬姉がよくこれで寝ていたわけもわかる。
俺が着替えを終わらせて振り向くと、簪もどうやったのかパジャマに着替え終わっていて、俺のベッドに頭まで潜り込んでいた。
それでも指先は出ているし、頭のてっぺんは隠れていないからそこにいることはよくわかるんだが。
「それじゃあ、寝るか」
布団に潜り込んだ簪の隣に入り、百秋と簪を同時に抱き締める。
簪はずっと顔を真っ赤にしていたけど……大丈夫なのか?
……そう言えば、楯無さんもこの時には顔を赤くしてたような気がするな? 似た物姉妹ってことか。