IS~ほんとはただ寝たいだけ~ 外伝・超外伝 作:真暇 日間
side 織斑シャーリー
「初めまして……って言うのもなんだか妙な気分ではあるけれど、貴女にとってはきっと初めての事だから言わせてもらうね? 初めまして、シャーリーです。多分1日持たないくらいの付き合いになるでしょうが、よろしくお願いしますね?」
「なんだろう、僕の娘が予想以上どころか想定すらしていないレベルの領域で子供らしくなくって笑いが出てこないくらい笑えるんだけど。だれかいま僕がどんな顔をすればいいのか教えてくれない?」
「無理矢理にでも笑えばいいんじゃないかな。きっと今なら無理矢理笑おうとして結局あまり上手く笑えなかった苦笑いのようなそうでないような表情を浮かべるのが一番だろうと思うし」
「あー……そうかも。それじゃあ早速やってみることにするよ」
そう言って、この時代では初対面と言うことになっているこちらの世界の僕は百秋の言う通りにひきつりすぎてもはや笑顔と言うには大分解釈の仕方を変える必要があるが、その表情をなんとか言葉として表現しようとすると言語を巡りに巡った挙げ句に割と最初の方で保留にしていた『苦笑い』と言う単語になんとか当て嵌めることができそうな奇っ怪な表情を浮かべて僕の顔を見てきた。
……まあ、別にいいよ? 確かに僕はこの世界から見れば異端だしね。人体で言えばウイルスみたいな扱いになるかもしれない。
いつの間にか外から入ってきて、体内で毒を作って勝手に出ていく。……あれ? ウイルスと言うより細菌だねこれ。ウイルスは身体の細胞の中で再生能力の高い奴に潜り込んでその再生能力を利用して自身を増やしていって、最後に使った細胞を内側から破裂させるように壊して出ていくってのを繰り返しているから色々マズいわけで……大半の物は中に毒をばら撒いて行くわけではない。
……うん、それじゃあ言葉を改めようか。
『世界にとっての僕や百秋達は、人体に当てはめてみれば細菌のようなものなのかもしれない』
……と。これでいいかな。
……あれ? 何の話だったっけ? 確か最初はこっちの世界の私がなんか物凄い表情を浮かべて私の事を見つめている……って感じだった気がするけど……いつの間にかよくわからないうちに話がどんどんと明後日の方に逸れていってしまったよ? こいつは困ったね。
それじゃあ目標に向かうように修正して……とは言っても元々目標なんて在って無いようなものだから大雑把でいいや。正直面倒だし。
「さて、マミーに挨拶も終わったし、次はダディだね。ダディはどこ?」
「マミー!? 僕はマミーって呼ばれてるの!? そして一夏はダディなの!?」
「マミーはマミー、ダディはダディ。何もおかしくない。子が親の事を『
「会長、恨みますよ……」
どうやらマミーは私のこの呼び方が気に入らないらしく、原因と言うことになってしまったこちらの世界の会長さんに恨み言を吐いている。あれこそ初歩の呪詛な訳だけど、多分本人は知らないんだろうね。
形だけの呪詛でも呪詛は呪詛。塵も積もれば山となるって言葉があるように、形だけの呪詛でも何度も重ねていればいずれはっきりした効果が顕れてきたりする。もしかしたら、会長が結婚できないのもそのせいなのかもしれないね。僕の知ったことじゃないけど。
ちなみにこれは百秋の受け売り。百秋はどうやら陰陽道とか神道とか仙術とかにある程度通じているらしく、以前にいくつか見せてもらったことがある。
ただ、師匠が居なかったと言うこともあってどれもこれも我流であり、あまり上手とは言えない出来らしい。元々の身体スペックでごり押ししているから使えるようなものであり、本当だったら自分の力は殆ど使わずに周囲に在る力の流れを使って使うものだそうだ。
……なんて語ってはみたけれど、正直なところ実演までしてもらったのに全然わからないんだよね。少なくとも僕は常識人を自称しているわけだし、ある意味ではそれでいいような気もするけれど……好きな人の言ってることを理解しようともしないまま『無駄なこと』だと流すのは精神的によろしくない。だから少し僕も頑張ってみようとはしてるんだよね。全然できないしわからないけど。
百秋曰く、この世界には魔法や魔力、幽霊や霊気、そう言った超常現象的なものが丸ごと失われてしまっていて、逆にそう言った『超常現象的なもの』を否定する概念に満ちているらしい。
もしかしたら科学がさほど発達していなかった頃には妖怪とか神様とかが実在していたかもしれないけど、今ではその殆どが肉体を失って滅び、あるいは滅んでなくともなにもできなくなってしまっているほどに弱っているかのどちらかだそうだ。
……そう言えば、暇ができたらなんとかとか言う神社を探してみようと言っていた。その場所に何があるのかは知らないけれど、かなりの非常識の塊らしいから知らないままにしておきたい。知らない方が幸せなことも世の中にはあるものだと、僕はここしばらくのできごとで身に染みてわかってるからね。
「あ、ダディの気配を見つけた。それじゃあ僕は挨拶してくるね。マミーとダディの子供だってことも話してくるから多分マミーがダディのことを大好きだってバレるけど別にいいよね? 今のところダディの子供だってダディが知ってるのはアーデルだけだからラウラさんが一歩リードしたままだし、この辺りでなんとか逆転しないと」
「ねえ本当にきみ子供!? 説明がえげつなさすぎて肯定も否定もできなくてすごく困るんだけど!?」
「行動にはいい点と悪い点があるのは当たり前。どちらかだけを言うのは詐欺師か宗教家、あるいは極端な悲観主義者か楽観主義者。僕はどちらにもなりたくないからこうやって『自分の行動によって周りにどんな影響があるか』を考えてるんだよね。今回の場合のメリットと言えば『マミーの恋心がはっきり伝わること』と『ラウラさんのリードを解除できる』こと。それから『他の人達に対してリードをとれる』こと。デメリットは『マミーが恥ずかしい』くらいじゃないかな? ……ちょっと恥ずかしい思いをするだけで通常ではなかなか通じないダディへの想いが高確率で届くんだから、僕だったらやるよ?」
……まあ、本当だったら普通に真っ正面から『好きです』とでも言ってやればいいと思うんだけどね。水着やコスプレで迫るのは平気なのに、どうして一番大切な言葉を言うことを躊躇うのか……理解できないね。
まったく、君達の考えることは僕には理解できないよ。