IS~ほんとはただ寝たいだけ~ 外伝・超外伝   作:真暇 日間

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他の子・シャーリー編00

 

 

 

 

 side 織斑シャーリー

 

 最近、僕の周りでは色々と非常識なことが続いている。

 一夏が異世界に行っていたり、その異世界がこの世界とよく似た世界だったり、お土産に木刀や写真を持ってきたり……そろそろ僕の常識力も限界が近くなってきている。

 それなのに、今回のことだ。まさか、まさかまさか僕が一夏と一緒に異世界に行くことになっちゃうなんて、誰が予想するだろう?

 ……あ、一夏と鈴と織斑先生は別ね。あの三人の直感は未来予知にも到達するからね。五反田さんもかなりの物だけど、時々外れる上にわざわざそんな想像をしたりしないだろうからなかったことにしておこう。

 

 まあとにかくそう言うわけで、IIIの中でもトップクラスの常識人である僕は、常識から外れすぎている状況にストレスを非常に溜め込んでいた。

 ツッコミは僕しかいないし、それなのに皆は天然なのかわざとやっているのかボケがひたすらに加速させていく。

 終わりなきツッコミ。加速するボケ。溜まりゆくストレス。

 

 ───それが、異世界移動なんて言うとびっきりの非常識に晒されるのをきっかけとして、一気に噴き出しちゃったりしても……まあ、変なことではないよね? 変だって言われてもやめないけどさ。

 

 さあさあ記念に楽しもう。箍を緩めて鎖を外して、僕自身のやりたいようにやって行こう!

 

「……ふっ切れたか?」

「うん!もう暫く自重しないよ!」

「そうか。まあ、楽しんでくるといい。俺も行くけど」

「一緒に楽しもうね!」

 

 ああもうとっても楽しみだなぁ!こっちの世界の僕は僕を見ていったいどんな顔をするんだろう?

 そうだ、ちゃんと僕の名前を覚えておかないとね。だって、僕はシャルロットじゃなくてシャーリーなんだからさ。呼ばれ慣れない名前だけど、呼ばれたらすぐに返事できるようにしなくっちゃ!勿論逆にシャルロットって呼ばれても返事をしちゃダメだから、そこら辺もね。

 まだまだバレるわけにはいかない。僕の後にも何人か行くつもりらしいし、そのために虎視眈々と一夏の……おっと。百秋の隣を狙っている人だっているんだから。バレたら色々面倒だもんね!

 

 あっははははははははははあっはっははははっはははは!

 

「……シャーリーが壊れた。廃テンションってのはこう言う状態なんだろうな」

 

 百秋が何か言っているような気がしたけれど、今の僕にはその内容はよくわからない。とりあえず今は感情にまかせて笑っちゃえ!

 

 

 

 

 

 side 織斑百秋

 

 ……シャーリーが壊れた。重要なことだからもう一度言う。シャーリーがぶっ壊れた。

 突然吹っ切れたと思ったら、今度は意味もなく笑い出して止まらない。何が起きているのかよくわからないし、シャーリーが何を考えてそうなったのかもいまいちわからん。吹っ切れるところまでは割とよくあることなので気にしなくてもいいんだが、残念なことにその後の発狂状態はいただけない。

 あれは間違いなくかなりまずい状態だ。演技はできるだろうが完全に理性の箍が外れてしまっているので、演技の内容がかなりぶっ飛んだ物になりかねない。こっちの世界のシャルの精神が心配になるレベルだ。

 

 仕方がないので、少しだけ落ち着かせてやることにした。まずは一時的に俺の身体を本来のサイズにまで戻し、テンションが非常に高いシャーリーを抱えて膝の上に乗せてやる。そのまま軽く抱き締めて頭を撫でてやると、シャーリーは目を細めて俺の手を受け入れた。

 暫くそうしてやっていると、次元の彼方まで吹き飛んでいたシャーリーの箍が若干とはいえその形を取り戻し始める。流石はシャーリー、割と苦労しているだけあって、精神の再構築の速度がかなり早い。普通ならそこまでの早さで自分の理性や意識を再構築するなど不可能に近いんだが、その辺りはやっぱりシャーリー自身も非常識人の一画と言うことだろうな。

 

「……落ち着いたか?」

「…………あー、えっと……うん、ありがとう。もう大丈夫」

 

 シャーリーは大笑いするのをやめて、少しだけ恥ずかしそうに笑みを浮かべた。

 ……これは、まだ完全には直ってないな。完全に直っていれば、既に頭を抱えてごろごろと転げ回っているはずだ。シャーリーにとっては十分すぎる黒歴史となるだろうに、時々あった暴走状態が常態になってしまっている。

 まあ、さっきのあれに比べれば遥かにましなんだがな。あれは完全に箍が外れて纏めていたものがバラバラになってしまっていたが、今のは箍が弛んだだけであってバラバラになるまでは行っていない。理性もある程度は働くし、演技や何かもできる。そして色々な非常識を新しく受け入れることもできる。

 ……受け入れた非常識は箍を完全に締め直すと排出されるけどな。箍が弛んでできた隙間に一時的にそう言ったものが入っているようなものだ。人間の精神構造と言うものはなかなかどうして複雑怪奇だ。理解しようとして簡単に理解できるようなものではない。

 

「あ、ねえねえ一夏!いつもと身長が入れ替わってる状態なんだし、暫く抱き締めて撫でてみてくれないかな? いつも一夏がどんな感覚でいるのかを知りたいんだ!」

「……わかった、暫くこうしててやる」

「やったね!」

 

 どうやらシャーリーはこちらの世界では俺が大きい時には一夏、小さい時には百秋と呼ぶことにしたらしい。別にそれはそれで構わないが、呼び間違いには気を付けて欲しいところだ。

 

「名前の呼び間違いについて一夏に何かを言われるとは思わなかったよ」

「偽名なら間違えたことはないぞ、俺は」

「楯無さんは?」

「出会いと第一印象と態度が最悪だったからわざとやっていた。ちょろータムだって、偽名の『巻紙礼子』を間違えたことはなかったぞ? 即座に渾名として『エムさん』って呼んでやったが」

「……確か、あの頃の秋さんってマドカちゃんのこと大嫌いじゃなかったっけ?」

「知ってて呼んだ。後悔はしていないし反省もしない」

「一夏は嫌いな相手には惚れ惚れするくらい容赦ないよね」

「手加減だったらともかく、滅ぼすべき敵に容赦とか意味わからないんだけど」

「ああうん一夏だったら間違いなくそう言うよね。わかってたよ」

 

 シャーリーは笑いながらそう呟いた。間違ってはいないから否定はできないんだが、肯定したくはない事なのでとりあえずそのまま頭を撫でくり回しておいた。

 

 ……ああ、いつもと完全に逆だなこりゃ。今回は俺が最終防衛線(ストッパー)になるとしよう。この状況でさらにシャーリーの箍が外れたら、本格的にマズい状況になってくるからな。幸運が暴走して周囲の存在から幸運を奪い取って自分の幸運に変えちゃったりするし。

 流石にそれをやると世界の均衡が崩れてシャーリーが世界から弾き出されてしまうかもしれんしな。ちゃんと止めておいてやらねば。

 

 

 

 

 

 


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