IS~ほんとはただ寝たいだけ~ 外伝・超外伝   作:真暇 日間

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遅くなってしまいましたが、投稿です。暫くは慣れないため、投稿が遅れるかもです。


他の子・アーデルハイト編01~09

 

 

 

 

「十と三年の時を越え!IS学園よ!私は帰ってきたぁ!」

「なあアーデル、五月蝿いからちょっと静かにしてくれないか?」

「ぬ、すまん」

 

 突然そんなことを大声で怒鳴りだしたラルちゃん……こちらの世界では『織斑アーデルハイト』だったが、言えばすぐに改めてくれるし同じような失敗はほとんどしなくなるから扱いやすいと言えば扱いやすい。

 ついでに、俺より少し年下としてこっちの世界に来ているアーデルは精神年齢と身体の年齢が漸くしっかりと噛み合ったような感じがあって、なんと言うか生き生きとして見える。

 

「……さて、百秋よ。父と母はどこだ?」

「多分……この時間なら授業中だろ。曜日は目覚ましでわかるし時間割もわかるから……教室だな」

「よし、それでは私はすぐに教室に向かう!百秋はどうする?」

「寝てる」

「わかった。よい夢を見るといい」

 

 アーデルはそう言ってさっさと原作一夏の部屋から出ていってしまった。……アーデルは天然だから少し心配なんだが……最低限の事は黙っていられるだろうし、軍人らしく守秘義務を守ることには非常に厳しいから大きな問題は起こさないだろう。多分。

 なお、確約はしない方向で。ラルちゃんは時に俺の想像を遥かに越えてくることがあるから、確約しようにもできそうにない。

 それに、最低限以外は矛盾を起こさないようにすれば基本的に自由ってことになってるし、別にいいんじゃね?

 

 ……眠い。半分寝てたところで世界間移動なんて物をさせられて、少しばかり寝起きが悪い。ここはやっぱりもう一度寝直sZzz……

 

 

 

 

 

 side 織斑アーデルハイト

 

 私はこちらに来るのは初めてだが、とりあえずやっておくべき事があるのは知っている。

 なにしろ私達は一夏を通して全員の記憶を共有できる。全員が一夏の心を読み取ることができ、かつ一夏が全員の心を読み取ることができるからこその荒業でもあるが、できるのだから仕方ない。やはり面倒な説明の手間や何やらを省けるってのはかなり楽なのだ。

 やらなければいけないことの具体的な内容は秘めさせてもらうが、とりあえずヒントだけは出しておこうと思う。

 

『ヘタレ』

 

 ヒントは終わりだ。誰にどのようなことが起きるのかはわかったかな?

 わからないならわからないで構わない。その方がある意味では楽しむことができるだろうからな。内容は私の気分次第で相当の変化があるだろうが、気分だからな。仕方ない。

 

 そういうわけで私は父と母を探してIS学園の廊下を歩く。時間割さえわかってしまえば後の場所は私の世界とほぼ同じなので地図無しでも十分行動が可能だ。

 最悪の場合でも、ISを使って通信するなり反応を探すなりすれば問題ない。ちゃんと偽装をかけて『シュヴァルツェア・リヒト』……『漆黒の閃光』と言う名になっているので、逆に調べられても『そう言うものなんだ』と納得してもらえるだろう。

 機体性能については……まあ、未来の物にしては現代の物とスペックデータがあまり変わらないだろうが、私自身が使えばそれなりに動けるものになるので……『最低限の護身用』と『機体との相性でスペックがかなり変わる』とでも言っておけば問題はない筈だ。

 

 ……ここだな。

 

 私はとりあえず教室の扉を音を立てずにすり抜ける。壁抜けと空間転移は恋する乙女のたしなみとして会得している。IS使用時でもできるが、一夏と違って実弾銃の弾丸や物理系の剣をすり抜けるのは不可能だがな。

 そして壁の向こう側に出ると、こちらの世界の教官が私を見て呆然とした表情を向けてきた。……やはり、こちらの世界と私達の居る世界は全くの別物なのだと今更ながらに理解した。悲しいな。

 教官の視線に気付いた数人がその視線の向く先……つまり私に目を向け、そしてまた固まってしまう。既に壁は抜け終えているのだから固まる理由は無いと思うのだが……不思議なこともあるものだ。

 

 キョロキョロと視線を動かして目的の相手を探す。どうやら私の世界の席順とほとんど同じであるようで、すぐにその相手は見つかった。

 その場に向けて歩き出し、席と席の間を抜けていく。物理的にすり抜けることはしていないが、必要もないのにわざわざやる理由がないだけだ。

 ちなみに、扉は開かなかったのですり抜けた。どうやらあまり背が小さすぎると反応してくれないらしいな。一夏にはなぜか反応するのだが。

 

 と、目的地であるこちらの世界の一夏の前についたので、呆然と私を見つめている父の膝に座って持ってきた本を読み始める。……うむ、大分感覚は違うが、世界は違えど一夏は一夏。なかなかの座り心地だ。

 

「……は? え? ……え?」

「……む? なにか?」

「いや『何か』ってか……誰?」

「アーデルハイトだ」

「あ、俺は織斑一夏……ってそうじゃなくてだな」

「織斑アーデルハイトだ。少しの間厄介になるぞ、父よ」

「あ、はい」

 

 ごり押したが許可も出たので暫く膝の上に厄介になることにした。まあ、勉強くらい割とどうにかなるだろうし、私を膝の上に乗せていても問題は無い。

 

「……お前は……ラウラの娘か?」

「はい、その通りです教官」

 

 ようやく復活した教官の問いにそう答える。何度も私達のような『未来の子供』に会ってきたせいだろう、恐らくかなり慣れてしまっている。

 慣れることは良いことだが、慣れに完全に身を任せてしまうのは良いとは言えない。なにしろそのせいで色々と失敗を繰り返してしまったり、あるいは『こうするべきだ』となれたこと繰り返してしまって失敗してしまうこともある。慣れていても確認することは大切だ。

 その点、確りと確認をする教官はやはり尊敬できる。そういった細かい点こそ評価されるべきだが、多くの者は輝かしく派手な功績にばかり目を向けてしまい、地味な点に目を向けられることが殆ど無い。実に悲しいことだ。あまりにも勿体無いことだ。

 

「……教官はやめろ。と言うか、なぜ私を教官と呼ぶ?」

「母曰く、『教官は教官ゆえに教官であり、教官は教官だから教官を教官と呼ぶのは正しく、また教官を教官と呼ばぬ理由がないため教官を教官と呼称する』……だそうです」

「『私が教官と呼ばれたくない』。だから教官と呼ぶのをやめろ、アーデルハイト」

「了解しました、伯母上」

 

 

 

 

 

 ~暫くお待ちください~

 

 

 

 

 

 何故か『伯母上』は禁止されてしまった。こちらの世界では『父親の姉』なのだから伯母で合っているだろうに……何が悪かったのだろうか?

 

 

 

 

 

 

 

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 side 織斑アーデルハイト

 

 授業が終わり、私は父と母に手を繋がれながら食堂に向かう。今回は百秋は来ていないのか、と聞かれたので正直に『父の布団で寝ている』と言っておいた。結果として、父の背中には百秋がくてりと乗っているわけだが。

 

「ところで父よ。前に『父は昔ホモだった』と聞いたことがあるのだが事実だろうか」

「「「「ブッフゥ!?」」」」

「事実無根だよ!誰だよそんなこと言ったやつ!?」

「む? ではシャル母が持っていたあの本は……?」

「フィクションだよ間違いなく!と言うかシャル!」

「未来のことだから!今の僕はそんなの知らないから!」

「まあ、母は『それでも愛してみせるぞ!』と胸を張って宣言していたがな。私もそうして堂々と人を愛せる人間になりたいものだ。逆に更識楯無にはなりたくないものだな」

「なんで私!? なんで私に飛び火!?」

「……? 『更識楯無』は慣用句で、『ヘタレて婚期を逃し、自分の愛情を間違った方向にしか示すことのできない可哀想な相手』という意味だが……それがどうかしたのか?」

「本当に慣用句として広まってるの!?」

「うむ。未だに結婚できていないし子供もいない。ただ、最近ようやく父をその気にさせた上で自分にも縄脱けできない方法で縛って逃げられないようにした上で抱いてもらったと言っていたが……もうすぐ子供ができるかも、と喜んでいたな。首筋に虫刺されができていたが、子供は虫刺されからできるのか?」

「この子大人なのか子供なのかわからない!純粋だけど純粋じゃないし!」

「だっこしてもらう程度の事にそれだけの労力と事前準備をしなければならない更識楯無にはなりたくないものだな。だっこしてもらうくらい、私や母のように普通にすればいいものを」

「子供だった!?」

 

 まあ、このように子供らしいことを台詞に混ぜ込んでしまえば子供に見られることが多くなるし、からかいの内容を『未来で誰かから聞いたこと』と言うことにすれば子供である私が怒られることにはならない。子供の身体というものは実に便利なものだ。時に不便にもなりえるわけだが、現状では良いことばかり。文句などあろうはずがない。

 

「なあ、更識楯無よ。お願いだから子供を相手に夜の生活について色々ぼやくのは辞めてもらえないだろうか。生々しくて聞いていられないというのが私達の基本意見なのだが」

「私ってどんなこと言ってるのよ!?」

「こんなところでとしはもいかぬこどもにしゅうちぷれいをごしょもうとは、ずいぶんのとあたまのなかがぴんくいろにそまりきっていらっしゃるのですね……と。……ところで『しゅうちぷれい』とはなんなのだ? 母達に聞いても教えてくれなくてな」

「じゃあなんで言ったの!?」

「【母】に『そう言うように』と習ったからな。〔母〕は止めたのだが、『母』も母も{母}も乗り気になってしまってな。それで結局そう言う事になったのだ」

 

 ……なんとなく全体的に疑問符が浮いたような気がする。

 

 ちなみに、母は私、『母』は簪、〔母〕は箒、【母】は鈴、〈母〉はシャルロット、{母}はセシリア、《母》は蘭、と言うように呼び分けている。さっきのシャル母と言うのは、複数人が目の前に居るときや誰かを名指しで呼ぶ時用の呼び名だと思ってくれ。

 ……今それで呼ばない理由? そんなもの『その方が面白そうだから』に決まっているだろうに。混乱したり羞恥にまみれたりする姿は実に面白い。特に普段はクールな相手だったり飄々としている相手だったりすれば最高だ。

 つまり、普段とからかわれている時のギャップの大きい鈴や箒、教官が照れているのを見るのは素晴らしい、と言うことだ。

 勿論かなりレアだし、それ以前に教官にそんなことをさたら間違いなく出席簿が0フレームで飛んでくるだろうが……まあ、それはそれ。その事を勘定に入れてもお釣りが出てくるほどに魅力的だ。

 

「それで母よ、『しゅうちぷれい』とはなんなのだ?」

「ぬぅ……実は私にもわからないのだ。……なあシャルロット、『しゅうちぷれい』とはなんなのだ?」

「なんで僕に聞くのさ!? 今まさにされてる気分だよ!」

「そうか!シャルロットは『しゅうちぷれい』がどんなものかわかるんだな? 教えてくれ!」

「だっ……ダメ!ラウラにも……えっと、アーデルハイトにもまだ早いよ!」

 

 異世界ではどうやら私はずいぶんと子供扱いされているらしい。まあ、確かに身長は小さいし胸もないし全体的に肉はついてないし、ついでに言うといまだに毛も生え揃っtげふんげふん。この件に関しては禁則事項だ。男で知っていいのは嫁である一夏だけだな。

 それはそうと、母を中心にからかおうとしたら何故か周囲にばかり飛び火してしまった。これでは残念なことに母をからかうことはできそうにない。残念だ、実に残念だ。

 自分で言うのもなんだが、私は見た目だけなら純粋無垢な子供に見られることが多い。それは言動や身長や体格が原因の一端を担っている訳だが、わざわざ意識してまで直すつもりはない。しっかりと私のことを見てくれる一夏がいるからな。

 

 ……ああ、ちなみに羞恥プレイについて聞いている私だが、実のところアーデルハイトとしては知らないということにしてあるが私個人としては普通に知っていたりする。

 私ももう日本の法律で見れば結婚できる年齢だ。そう言った夜の営みに関しての知識に興味もあるし、それを実行したいと思える相手だっている。色々調べるくらいのことはするさ。

 まあ、調べたからといって実際に使う事になるわけではないのだがな。一夏は眠たがりだということもあって、布団に入ればすぐに本気で寝てしまう。抱きついてくることはよくあるが、それ以上のことはまずしてこない。こちらからするのは受け入れてくれるのだがな。

 ……たまには一夏の方からも手を出してくれると嬉しいのだが……これは我儘だな。とりあえず『私が一夏を好いている』と言うことは知ってもらえているわけだし、今はそれでいいとしようか。

 

 周りは色々と騒がしいが、私はそれを全体的にさらりと流して眠りっぱなしの百秋の頬を撫でる。どうやらいまだに寝足りないらしく、起きる気配は全くない。ここで私が声をかければそれを察知して起きることもあるかもしれないが、わざわざ気分のいい眠りの世界にいる百秋を起こす必要はない。食事の時にはちゃんと起こしてやればいいだろうし、これくらいなら別にいいだろう。

 

「……って!むちゃくちゃな質問をし始めた本人がなんでそんなところで『私は関係ありませんよ』みたいな顔してるの!?」

 

 シャルロットからツッコミが入った。どうやらシャルロットはこちらでもシャルロットらしい。

 

 

 

 

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 side 織斑アーデルハイト

 

 昼食を終え、父達は午後の授業に参加している。私は百秋の頭を膝に乗せ、父達の機動を見学していた。

 だが、何故かこちらの世界の私達は随分と温い。全体的に遅いし方向転換は角度がついていないし武器の換装にも時間をかけている。これでは確かに百秋に『あまり強くない』と言われても仕方ないだろうな。

 ゆっくりやるのは他の生徒達のためかもしれないと思いもしたが、しばらく見ていればそれも違うということがわかった。つまり……全体的にレベルが低い。愛が足りん証拠だな!

 

 まあ、こちらの世界の私達が誰に愛情を向けていようが、その愛情が足りていなかろうが関係無い。私がこうして一夏に愛情を向けていて、一夏が十分にそれを感じ取っていてくれるならば個人的な問題など一つもない。

 広い目で見てみれば無いことはないのだが、その中で一番の問題は未来で誰と結婚するかと言うこと。だが……私はもう重婚でも問題ないと思うのだ。

 全員仲が良いし、絶対に自分一人だけのものにしたいと思う者もいない。一夏は自分一人の手には余る存在だと理解しているのが殆どだし、仮に本当に重婚するとなれば直ぐ様専用機を母国に返還して国籍を移動させるくらいは簡単にやって見せるだろう面々。一夏自身も日本人である限りは色々と面倒ごとに巻き込まれる可能性はあったが、幸運にも一夏は既に日本人としての国籍は既に『高度な政治的判断』とやらで剥奪されている。篠ノ之博士と同じように、『どこの国の人間でもない』という状況にあるわけだ。

 まあ、一夏が日本人であったなら間違いなく日本政府から色々と五月蝿いことを言われていただろうし、本人が気にしていないのだから私が気にするのもおかしな話だな。

 

 ……ちなみに教官や篠ノ之博士はトテモイイエガオを浮かべてなにかをした結果、日本はキング○ドラとゴ○ラと阿修羅を混ぜ合わせて『メタル化・魔法反射装甲』を装備させた感じの三本首六本腕竜面の機械巨人に襲われた。勿論ISも防衛しようとしたが、凄まじい速度で振るわれるエネルギーをごっそり消失させる純白のレーザーブレードのような剣に一瞬で叩き伏せられて沈黙。日本政府は泣き寝入りをするしかなかったとかなんとか。

 なお、その後にアメリカや中国などのいくつかの国にその三面六腕竜面の機械巨人が現れて、破壊の限りを尽くしていったとかいかないとか。詳しいことはよく知らない。知らないことにしといた方が色々と面倒がなくていいとかそういう汚い大人の事情とかそんな感じのものを抜きにして、本当に知らない。当時の私はそう言ったものを『割とどうでもいいこと』として切り捨てていたからな。

 本当なら『どうでもいいこと』でも一応知っておいた方がいい。周りが何を企んでいるのかを事前に知って、それに対応する策を準備しておけば、本当に誰かが私達にちょっかいをかけてきたとしてもすぐに叩き潰して反撃できるのだから。

 それで篠ノ之博士と教官は、事前に行動してこないように行動するのに必要な機械やIS、意思決定をする議会などを潰して見せたわけだ。所謂『先の先』と言うやつだな。怖い怖い。

 

 ……そう言えば、さっきから視線が鬱陶しい。私のことを警戒しているのか、それとも監視しているのか、あるいは心配して警護と言う目的なのかはわからないが、あまりじろじろと見られるのは好きではない。当たり前の事だが、最近の若い者や歳を食った者は本当に他人を信用すると言うことがなくて困る。少しは信用したらどうなのだ?

 

「目の前に突然自分の惚れた相手の子供を名乗る子供が現れ、自分の物によく似たISを動かしてみせました。あなたならどうしますか? なお、相手は自分より強いとする」

「教官に頼んで捕らえてもらってからDNA鑑定だな。そうしている間に相手の思考を読み取りながら話を聞いて、その内容によってその後のことを決める」

「アーデルもかなり荒っぽいことを自覚しような」

「自覚はしているが棚上げしている。安心しろ」

 

 安心できね~、と呟き、一夏は……いや、百秋は薄く開いていた瞼を閉じる。……やはり百秋の睡眠方法はわかりにくいな。寝ているように見えて起きていることもあるし、起きているように見えて寝ていることもある。起きているように見えて普通に起きていることもあるし、寝ているように見えてやっぱり寝ていることもある。それどころか寝ながら起きていたり、起きながら寝たりしていると言うのだから恐ろしい。

 ……人間の意識とは電灯のスイッチを入れたり切ったりするかのように簡単に切り替えられるようなものではないはずなのだが……まあ、百秋風に言うならば『実際できているからできる』のだろう。納得しようがしまいが、実際にできてしまっていると言う事実ばかりは変えられない。宗教家と比べてなんと柔らかな頭を持っていることか。

 宗教家と言えば、最近では一部の女性権利団体が宗教染みてきていたな。男は女に従うべきだとか、女は優れていて男は劣っているだとか……。

 そこまで行ってしまうともはや女尊男卑と言う言葉には収まりきらなくなってくる。完全に女性至上主義とかそう言ったものだ。非常に無意味で非常に気色の悪い考えだが、そのような頭の悪い考えをする者はいつの時代のどんな場所にでも居るものだ。実に下らない。

 男だから劣っているとか、女だから優れているとか、そんなものは関係無い。もしかしたら傾向として種族や性別で優れている傾向や劣っている傾向があるかもしれないが、それはよほどの場合は除くとして、大概の場合はちょっとした矯正でなんとかなる範囲。劣っているだのなんだのと言うようなことではない。

 つまり、宗教とは基本面倒なものだから関わりを持とうとしてこなければ極力スルー推奨。関わろうとしてきたら基本無視。矯正してきたら事故が起きる可能性が高くなる。それでいい。

 

 ……しかし、こちらの世界の私達はよくこの程度の練度であのシルバリオ・ゴスペルを打倒できたな。セカンドシフトしてない時ならともかく、していたらまず間違いなく勝てないだろうに。

 箒の『絢爛舞踏』のエネルギー供与があり、父の『零落白夜』があれば……まあなんとかできなくもないかもしれないが……確率は低い。

 こちらの世界ではシロ……いや、白式は大分スペックが落ちているようだし、紅椿も大した出力はない。特に白式の方は見たことのない形状であり、明らかに戦闘継続可能時間が短くなっているのがわかる。

 ……あれでは倒しきるのに時間がかかるだろう。本人の動体視力や反射神経、操作技量などから見ても明らかに能力が高すぎる。本人の能力に合わせて少しずつ進化していく物が最良だろうし、百秋に『束さんは異界でもやっぱり束さん』と言わせた篠ノ之博士ならばその程度のことはできて当たり前だと思うのだがな?

 

 ……あれか、愛情が足りないと言うやつか。なら仕方ないな。

 

 

 

 

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 side 織斑アーデルハイト

 

 異世界には愛が足りないと言うことがよくわかったが、その中でも懸命に生きている人間はいくらでもいる。私にとっては愛が足りないと言うのは酸素が少ないようなものだが、そうでない人間も数多い。

 ……まあ、私の場合は周囲に愛がなくとも魂の奥底より沸き上がってくる一夏への愛情があれば大体なんでもできるのだがな。愛とはやはり偉大だ。愛は世界を救う!

 

「そう言うわけで母よ。どうせ毎日父に夜這いをかけているなら、ついでに婚前交渉と洒落込んでみればどうだ?」

「なに言っちゃってるのこの子供!?」

「考えたことはあるが教官が居るから無理だ」

「ラウラ!? ちょっ、なにを言ってるのさ!?」

「ならば教官も巻き込めばどうだ? 教官は父が卒業する寸前に子を孕んだのが発覚するように時期を合わせていたそうだが、既成事実を作るだけなら子供は必要なかろう? できれば既成事実を作った直後に父が目覚めるようにしてしまえば、もうそのまま突き進む道しか残らないと思うのだが」

「黒い!黒いよこの子!?」

「ブラックラビッ党だからな。仕方無い」

「なにその党派!?」

「『ラウラ・ボーデヴィッヒ・織斑の恋と愛を応援・推進する会』を、その前身となった黒兎(シュヴァルツェア・ハーゼ)隊の名前から取った物だな。そのまま使うのは機密保護の観点から却下され、意味は同じである『ブラックラビッ党』となったのだ。これは党の規模で言えば『更識楯無(ヘタレ)を応援する会』、『ツッコミくん補助の会』に次ぐ規模だ。かなり大きいと考えてもらっていい」

「あっれえなんだか嫌な予感がする名前が出てきたよ!? 『ツッコミくん』って誰かな!?」

「今もツッコミくんは仕事をしているな。ご苦労様、だ」

「何で僕の方を見て言うのかな!?」

 

 シャルロットはやはりツッコミだな。普段は常識に縛られつつも必要な時には常識と言う名の鎖を引きちぎって来ると言う特殊なツッコミだ。こちらの世界でもやはり一番の常識人としての座はシャルロットの物らしい。

 

「……そう言えば、少し前に胸を潰して男物の服を着て父と出掛けていたが、いったい……ああいや、なんでもない。未来の事を過去の人物に聞いても答えられないものな」

「聞きたくない情報が入ってきたんだけど!? なにそれどう言うこと!?」

「『だんそうれいじょうかんらくもの』とかなんとか言う記録映像の存在を百秋がこっそり確認しているぞ? 内容は知らないらしいが……『だんそう』は知っているぞ!地震等によって大陸を乗せているプレートがずれた結果、上に乗っている陸地もずれた痕である割れ目の事だろう? 『れいじょう』と『かんらく』は……警察が家の中を調べたりする時に必要な書類と……日本の菓子だったか?」

「……多分最後のは『落雁(らくがん)』と勘違いしてるんじゃないかな……」

 

 知っている。まあ、軽い冗談だ。本人にはどう言う物かはわかってしまっただろうから、からかうこと自体は成功しただろう。顔は赤くなっているし、想像してしまったのか身体を少しくねらせるようにしているし……やはりシャルロットは地味にエロいな。セシリアは派手にエロいが。

 

「……では、母と一緒に行くのは教官ではなくシャルロットさんでいかがかな?」

「いかがって言うかいかがわしいよ!子供がそんなこと言っちゃいけません!」

「聞いたのは母とシャルロットさんの会話だが?」

「僕ぅぅぅぅっ!?」

「……やはりシャルロットはエロいな」

「エロくないよ!と言うかラウラも子供の前で何を言ってるの!? ほんと辞めてよ!」

「今さらだから安心してくれていいぞ。シャルロットさんはムッツリエロス、セシリアはオープンエロス、更識楯無はヘタレと言うのは私達の中では常識だからな」

「どんな常識!? ああもう楯無さんがからかわれてた時の気持ちがわかりすぎて辛い!」

「……? からかって行ったのか? ただの事実を並べられて勝手にダメージを受けたわけでなく?」

「そろそろやめたげて!? やめたげてよぉ!」

 

 うむ、それではそろそろやめておこうか。シャルロットを泣かせるのは本意ではないしな。

 ……更識楯無? 泣かせられそうなら泣かせておくべきだろう? 弄られキャラが定着してしまえば、私達がいなくとも勝手に弄られてしまうようになるだろうし。

 私はどちらかと言うと刹那的な方だからな。未来の事を考えるよりも現在の事を考えることの方が遥かに多い。だからこそ百秋なら耐性をつけないようにと手加減をするところでも、私はそのまま続行してしまう。悪い癖だと言う自覚はあるのだが……直せそうにないとも思っている。所謂『処置なし』と言うやつだ。

 

「うぅ……前から思ってはいたけど、なんだか僕と会長さんばっかり被害にあってないかな……?」

「出た杭は打たれるものだと考えればいい。今のところ一番仲が進んでいるのは恐らくシャルロットさんだからな」

「……会長さんは?」

「マイナス方向に飛び出ているだろう。それこそ海抜0mから見た日本海溝が如く。つまり、下から尻を叩いてやれば少しは上に行くのではないかと言う、子供の浅知恵と言う名の無駄な努力と言うわけだ」

「どうしようどんな話からも会長さんへの暴言に繋がっちゃうんだけど!?」

「それについては仕方無いと思ってほしい。箒さんはからかうとすぐに日本刀を持ち出してくるし、鈴さんはからかうとすぐに柳葉刀を持ち出してくるし、セシリアさんはもっと罵倒してほしいと詰め寄ってくるし、母はからかっても反応が薄いどころか喜ぶし、簪さんはからかうと泣いてしまうし、蘭さんはからかうとすぐにオーバーヒートしてしまうし、音を置き去りにする出席簿は怖いし……からかう相手が限局されてしまうのは仕方無いだろう?」

「あー……うん、一部は本当に死にかねないね」

「父はそれでも生きていたそうだが、私はあまり頑丈ではなくてね。切られれば死ぬし、出血が多くても死ぬのだよ」

「うん普通だよねそれ。人間なら切られて死ぬのは普通だよね?」

「父もよく殺されかけていたそうだ。一番頻度が少ないのは蘭さんで、次に更識楯無だったそうだがな」

 

 ……おや、どうやら身に覚えがあるようだ。私から思いきり顔を逸らしてしまったな。そう言うところがあるから私のような者に漬け込まれてしまうんだ。気を付けた方がいいのではないか?

 ……まあ、今は言わないでおくがな。からかうための基点があった方が楽だし。

 

 

 

 

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 side 織斑アーデルハイト

 

「それで、結局夜這いはしないことになったそうだ。残念だったな、父よ」

「そこぉぉぉっ!なに一夏に伝えちゃってるかなぁぁぁぁ!?」

「嘘はつけないタチでな。『さっきまでシャル達となんの話をしてたんだ?』と父に聞かれてしまっては、答えるしかないだろう?」

「だからってさ!もう少しどうでもいいことみたいに言葉を濁すとか隠すとかしてくれないかな!?」

「何を言うか。家族との時間がどうでもいいことであるはずがないだろうに。大切な家族との時間をどうでもいいものとして扱えなどと……そんなことをしてしまってはまるで昼ドラのように一家の絆に皹が入って離婚してしまったりするかもしれんぞ? ……シャーリーも可哀想にな」

「離婚前提に言わないでくれないかな!? 絶対しないよ!? 離婚なんて絶対しないからね!?」

「……? 何を言っているのだ? 未来ならともかく、現在では元々シャルロットさんは父と結婚などしていないではないか。結婚してないのに離婚すると言うのは、生まれていない命を殺すようなものだ。可能性と言う命を殺し、自らの良いように世界を動かそうとは……」

「なんかよくわからないけど凄い濡れ衣を着せられてるような気がするよ!?」

「濡れ衣と言えば、かつてこの国で行われていた裁判の方法が語源らしいな。二人に濡れた着物を着せ、どちらの着物が早く乾くかで判断していたそうだ。恐らく、日本の神話では太陽神天照大御神が全ての状況を見ているために悪人の衣服が乾きにくく、善人の衣服は乾きやすく太陽の光を当てると考えられたのだろう。よくできているのかいないのか……」

「突然の雑学!?」

「雑学は使われることはまず無いが、使える時になると少し嬉しい。事前準備は大切だ」

「ラウラ!この子と話してるとちょっと疲れるんだけど!?」

「父曰く、私は母に似て天然な所があるらしいからな。私にはよくわからないのだが、そんなことよりうどんが食べたい」

「また話が飛んだよ!? 僕もうついていけないよ!」

 

 シャルロットは頭を抱えて苦悩しているが、頭が固いな。もっと頭を柔らかく、そうした方が幸せだぞ?

 この言葉については私が保証しよう。幸福とは個人差が大きい物だが、少なくとも私はそう感じているからな。

 

 ……不思議なものだ。人間の感情を見てみれば、幸福の形はそれこそ無数に存在するのに、不幸の形は数少ない。

 逆に、第三者の視点……つまり劇を見る観客や小説の読者の視点からしてみれば人間の幸福の形はおよそ決まっているのに、人間の不幸の形はそれこそ無数に存在している。

 視点を変えるだけで基準になるものがひっくり返ることも多い。人間の感情とは複雑怪奇だ。

 

「しかし今はそれよりうどんだ。関東風も美味いが関西風も美味い!」

「私は鍋焼うどんも好きだぞ。嫁に教えてもらって以来、時々食べてみることにしている」

「二人ともそれどこから出したの!? さっきまで無かったよねそんなの!?」

「そう言うシャルロットさんもいつの間にかラザニアを食べているではないか。どこから出したのだ?」

「……え? 嘘? あれ……?」

 

 ……まあ、私が用意したのだから、知らなくとも仕方ない。頭が固いと本人の常識から少し外れたことをするだけで簡単にからかえるのが楽なところだ。

 つまり、純粋で頭が柔らかい子供を騙してもいい反応は出ないが、純粋でも頭の固い誰かを騙すといい反応が返って来るので、楽しみたいならある程度常識の固まった相手をからかった方がいい。

 年端もいかない子供に大嘘を教え込んでニヤニヤしたいと言うのならば話は別だが、そこまで悪趣味なことはしないでやってほしい。あまりに可哀想だからな。

 具体的には……クラリッサのことだ。クラリッサの場合はクラリッサ自身も本気で信じていたから不問にしたが、もしもあれがわざとだったら少しばかり暴れていたかもしれん。

 暴れたとしても最近の黒兎隊は私に叩かれるなりなんなりすると喜ぶから困るのだが……セシリアと違ってただ関われることが嬉しいだけだと言うのがある意味では救いだと言える。

 また、本人達には悪意がない。全く、欠片も、これっぽっちもない。ただ私の幸せを願っての行動であるがゆえに、私も彼女達を批難するのが難しいと言う事情もある。

 ……批難する時はするがな。精神的にしにくいと言うだけのことであり、実際にしてはいけない理由やできない理由があるわけでもない。締める時は締めておかねば。

 必要ないならやりたくはないが、残念ながら必要なことだからな。面倒事は少ない方がありがたいのだが……上手くいかないものだ。

 

「うむ、今日も元気だうどんが美味い!」

「若いうちに悩むのもいいが、時には若さに任せてうどんを啜るのもまた良い!」

「なんでラウラとアーデルハイトはそんなに元気なの!?」

「ああ、私の事はアーデルと呼んでくれて構わないぞ。一々アーデルハイトと呼ぶのは面倒だろう?」

「ああうんそれについては結構ありがたかったり嬉しかったりするんだけど、今欲しかった返答はそれじゃないんだよね?」

「……?」

「……いや、別にアーデルの食べてるうどんが食べたい訳じゃないから」

「……?」

「いやだからラウラの食べてる焼きうどんが食べたい訳じゃないから!親子揃って『あーん』とかやめて!?」

「嫌か?」

「嫌じゃないけど困るよ!?」

 

 困るのなら仕方ないな。やめておくとしようか。私はあくまでもからかいたいのであって、困らせたいわけではないのだから。

 ……『困らせるのも面白そうだ』等とは考えていないぞ? 本当だぞ?

 

「それで、シャルロットさんは父に告白したのか?」

「何がどうしていきなりそんな話になったのかな!? 僕ちょっと理解できないんだけど!?」

「なんだ、まだなのか。恐らく百秋からも聞いているだろうが、この頃の父は本当に朴念人だったそうだからしっかりはっきり伝えておかねば気付いてくれんぞ? どこぞの化猫のようにな」

「化猫……もしかして楯無さんのこと?」

「うむ、ヘタレ化猫だ。父に対してはヘタレるくせに、私達を抱き締めたり頬擦りしたり撫で回したりキスしてきたり匂いを嗅いできたり舐めてきたりとやりたい放題でな。嫌だと言っても聞いてくれないで困っている。ちなみに一番の被害者はシャーリーだな。根が真面目だからかちゃらんぽらんで軽口家の化猫とはかなり相性が悪いのだ」

「……楯無さんェ……」

 

 シャルロットが頭を抱えているうちに、私はうどんを食べきってしまう。うむ、今日も美味かったな。

 味がわかるのは元気な証拠。今日も元気だうどんが美味い!

 

 ……さて、風呂にでも入るか。着替え用に着ぐるみパジャマも用意してあるしな。

 

 

 

 

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 side 織斑アーデルハイト

 

 風呂に入ることにしたが、シャルロットと私は私の太股にいる待機状態のISに驚いていた。まあ、子供に実力以上の物を渡すと危ないから、未来ではすでに当たり前となっている第三世代のISと言うことにしておいた。

 まあ、第三世代から第四世代に移行するのに凄まじく高いハードルがあり、第三世代以降のISを開発した国は公式にはまだいないことになっている、と言うのも付け加えておいた。

 なお、第五世代は複数のコアを連結させるなりなんなりすることで機動性やエネルギーの問題もろもろをまるっと解決してさらにスペックを上げてしまうと言う……まあなんと言うか力任せな解決方法をとった物だと説明しておいた。

 ……ただし、この方法を使うにはコア同士の相性もさることながら、それぞれのコアと操縦者の相性も重要なファクターとなってくるために、今のところ束博士以外には事実上製作不可だと言うのも付け加えておいたが。

 

 実際、コアをうまいこといくつか繋げる事ができれば貯蔵可能エネルギー量なども増えるし、処理能力も上がる。ただし、性格の合わないコア同士を繋げるとむしろ性能は下がってしまうし、コア同士の相性が合っていたとしても操縦者との折り合いについてもある。コアと操縦者との相性が悪い物が一つでも混ざっているといきなり性能が下がってしまうので、普通はあまり使わないわけだ。

 それを考えると、百秋とシロは凄まじい。シロにいったいいくつのコアが使われているかを正確に知ることはできないが、少なくとも五つ以上のコアを使っていることは間違いない。でなければあの出力であの航続時間を実現するのは不可能だ。

 ……亜光速で戦闘しながらでも三日程度なら戦えると言うのは、五つのコア程度では不可能だと思うがな。それこそ数十のコアを用意して、直列に五つ、並列にいくつかを使って一つのコア列からエネルギーを使っている時には他のコア列のエネルギーは回復するようになっているとか、そんな感じの物でもなければまず不可能だ。

 そして、そんなものを作るのも操縦するのも普通は不可能だが……まあ、篠ノ之博士と百秋だからな。仕方ない。その辺りに関しては私はすでに諦めたよ。ツッコミする気にもならない。

 

「ふぅ……気持ちいいね~」

 

 ぱしゃん、と水音を立てながら湯船に浸かるのは、体を洗い終えたシャルロット。今日の授業は簡単なものばかりだったとはいえ、やはりそれなりに疲れは溜まっているようで……ぐうっと指を組んで頭の上に持ち上げている。

 そしてその時に目に入るのは、年齢から考えるとかなり大きい部類に入るだろうその胸。私はこんなものだと言うのに、いったい何を食べて過ごせばこんな大きさに育つのだろうか?

 ……うむ、実に不思議だ。自分が持っていない物となると途端に欲しくなる。無くても困らないだろうし、あったらあったで色々と苦労もあるのだろうが……感情と言うのはわからんものだな。制御するのが大変だ。

 

「……シャルロットさん。前にも聞いたがこの胸にはいったい何が詰まっているのだ? 前は『夢と希望と愛情だ』と言っていたが、何を食べれば育つのだ?」

「ふわっ!? ちょ、まっ!」

 

 気になったので真正面から胸を揉んでみた。……うむ、やはり大きいな。(物理的に)私の手には余る代物だ。

 前に揉んでみた私達の世界のシャルロットの胸と遜色ない大きさと柔らかさを持ち、肌ツヤやキメの細かさ、ハリなど、かなり気を使っているのがわかる。

 ……だが、私の体格でこんな大きな脂肪の塊を胸からぶら下げていては……間違いなく行動一つ一つが遅れてしまう。悲しくはあるが、やはり諦めた方がいいだろう。

 幸運なことに百秋は巨乳派ではなくどちらかと言うと自分の掌にすっぽりと収まるくらいの大きさの胸が好みだそうだから、私の場合はあとほんの少しだけ大きくできればそれでいい。箒ほど大きくするつもりはないし、今からでも……まあ、数cm程度なら大きくできるだろう。私の身体は色々と弄られているせいもあってまだ成長期だしな。

 

「それで、何をすれば胸は大きくなるのだ?」むにむに

「ひやんっ!ちょっ、揉まないでぇ……」

「私も気になるな。どうすれば胸は大きくなるのだ?」たゆたゆ

「ラウラっ!? やだ、やめ……っ!?」

 

 前から私が、後ろからは母が、シャルロットの胸を揉んでいる。痛みは感じさせないように優しくしているが、少しシャルロットの胸の一部が固くなってきているのが掌の感覚でわかる。あまりやり過ぎると怒られてしまうな。

 そこで私は胸を揉むのをやめて軽く顔を埋め、そのままやや上目使いでシャルロットの顔を見上げる。

 

「……ダメか? 教えてはくれないか?」

「うっ……」

 

 シャルロットは私の表情を見て頬を朱に染める。……やはりシャルロットは可愛い物好きであるらしく、こういった姿に弱いと見える。ちょろいものだ。

 だが、それを表情に出してしまってはなんの意味もないのでそれまで通りの表情のまま首をかしげる。頬に柔らかな感触があり、やはり他人の胸に顔を埋めるのはいいものだと思わせてくれる。一番は今のところ教官で、二番目は箒。三番目にシャルロットだが……あまり胸部装甲が厚いと心音を聞き取りづらいのだよな。

 現に今も右側の耳をシャルロットの胸に当てているのだが、残念なことに心音はあまり聞こえない。素肌に耳を当てているのだから、もう少し聞こえてもいいように思うのだが……。

 

「……そんなこと言われても……僕だってよくわからないよ。大きくしようなんて考えてなかったのに、勝手にどんどん大きくなっちゃって……」

「揉み倒していいか? ご利益とかありそうだ」

「やめてよ!? そもそもなんで僕なのさ!? 胸の大きさだったら僕より箒や山田先生の方がずっと大きいよね!?」

「……それもそうか」

 

 揉むのはやめておくが、しばらく残念そうな表情は崩さないでおく。シャルロットの胸から離れ、自分の胸に視線を落とし、ぺたぺたと撫でてみる。

 ……うむ、肉体年齢もあいまって実に貧相な胸だな。『膨らみかけの胸』ですらないとは、これはもう女としての機能をちゃんと持つことができるかどうか心配になってくるほどだ。

 もう少し育ってくれればそんな心配もする必要がないと思えそうなのだが……そうそう上手く行くようなものでもないか。

 それに、元の身体に戻ればもう少し大きくなるしな。安心ではないが、慰めにはなる。

 

 ……最終的に、今の鈴程度は欲しいのだがな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 山田先生≧束>箒>楯無=千冬>のほほんさん>シャルロット=セシリア>>>蘭>鈴>ラウラ

 

 

 大体こんな感じを想定しています。何をとは言いませんが。

 ちなみに、弾を入れるとのほほんさんの下でシャルロットより上……と言うことで。何がとは言いませんが。

 

 

 

 

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 side 織斑アーデルハイト

 

 風呂から上がり、身体を拭いて、黒兎の着ぐるみパジャマを着る。こちらの世界の私は黒猫の、シャルロットは白猫の着ぐるみパジャマを着ているのだが……もしかしてこれは私に合わせてくれたのだろうか?

 ……それはそれとして、何故か次に私が来ることがあったらISで勝負することになってしまった。正直なところ負ける気はしないが、私とこちらの世界の私では少しばかり能力に差がありすぎる。具体的に言ってしまうと、MMOの1プレイヤーと、最終ダンジョンの隠しレイドボスくらいの差がある。

 つまり……あれだ。『やめてよね。私と母が本気で戦って、母が勝てるはずがないだろう?』と言う奴だ。勝ちたいならこちらの世界の娘を相手にやってみてくれ。いつになるかはわからんが。

 

 ……それはそうと。

 

「抱き締めるなら母を抱き締めるのはどうだ?」

「ラウラならいつも抱き締めてるから、今はアーデルね」

 

 サクリファイス・エスケープ、失敗。原因は貴重度の差を念頭に入れておかなかったことだろう。次はそもそも捕まらないように気を付ける必要がありそうだ。

 

「アーデル。今、母を売ろうとしなかったか?」

「母はシャルロットさんに抱かれてのんびりするのが好きと聞きましたので、少し困る私がシャルロットさんの膝を占領するくらいなら母が膝に乗った方が好ましいのではないかと思ってな」

「あ~んもう可愛い~~♪」

 

 シャルロットは私を全身で抱き締め、すりすりと頬擦りをしてくる。まあ、どこぞの化猫のようにセクハラしてこないならそれもいい。

 ……ちなみに、私は基本的に化猫を見付けたら離れるようにしている。姿を見かけたらすぐに隠れながら逃げるし、声が聞こえたら近付かないようにしているし、どうしても近付かなければいけない時はできるだけ用事をすぐに終わらせるか、あるいは誰かに頼んで近付かなくてもいいように。これも全てセクハラしてくる化猫が悪い。私は悪くない。

 あの化猫は、最近男も女も構わないと言う状態だからな。本当に困る。

 一夏を相手にするならそれでもいいが、どうも色々と脅かされたせいもあって化猫から見た一夏は恐怖の対象か乗り越えるべき壁でしかないようだ。少し前に勇気を出してなんとかトラウマからは脱出したようだが、まだまだ恐怖の対象であることに変わりはない。

 こちらの世界の化猫はヘタレで勇気が出せないところがあるそうだし、そこのところを考慮すれば私達の世界の化猫の方が少しはましなのかもしれないが……どっちもどっちだな。

 勇気を出すのはいいことだが、セクハラは困る私の世界の化猫。

 勇気を出せず、相手の心の奥深くにずかずかと入ろうとしてくるくせに、本当に奥の方に着いてしまうと途端に意気地がなくなるこちらの世界の化猫。

 人間にも道具にも一長一短あるのが普通だが、これはあまりに酷すぎるような気がするな。

 

「……で、まだ放してくれないのか?」

「うん!」

「なぜそんなに嬉しそうなのか理解に苦しむな……」

「シャルロットは可愛い物好きだからな」

「物好きなのか?」

「……間違ってはいないが正しくないな。私のようなものを可愛いと言う辺りは物好きだ」

「もー、ラウラは可愛いっていつも言ってるでしょ? 一夏だって可愛いって言ってくれてるじゃない」

「……その先が長いのだがな……」

「……そうだね」

 

 ……どうやらこちらの世界の一夏は相当に鈍いらしい。私の知る一夏とは大分違うな。

 気付いていて流すか、本当に気付かなくて流すか。どちらも正直なところ好ましくはないが、好ましくなければ現実が変わるわけでもない。嘆くよりも行動するべきだ。

 

「私を抱き締めている暇があるのならば、父にアプローチをかけてはどうだ? まだ自分の想いに気付いてもらえていないのだろう?」

「かふっ!? ……僕は傷付いたよ!もう絶対許さない!この痛みが癒えるまでアーデルを抱き締めるからね!」

「おお、なるほど。これが薮蛇と言うやつか。失敗したな……母、助けてくれ」

「無理だ。私ももう身動きがとれん。こういう時のシャルロットは無類無敵だからな」

「この頃からそうだったのか。母でも駄目なら私にどうこうできるような問題ではなさそうだ。諦めるとするか」

「ん~♪ 二人とも可愛いよぉ~~♪」

 

 私とこちらの世界の私を同時に抱き締めながら頬を摺り寄せてくるシャルロット。私でこれなのだから、いつか来ることになるだろう『シャーリー』には同情しよう。救ってはやれんがな。

 ……だが、百秋からこんなことは聞いていなかったのだが……シャルロットは百秋には食指が動かないのだろうか? ロリコンなのか?

 

「……母よ。シャルロットさんはもしかしてロリコンなのか?」

「はいっ!? そんなことないよ!?」

「うむ、シャルロットは確りと嫁のことが大好きだからな」

「つまり両刀と言うことか? そうでなければ私がここまで執着される理由がわからないのだが」

「……ああ、百秋の方の話か。百秋は教官か嫁が一緒にいることが多いからな。シャルロットのところにいる時間はかなり短いし、そもそも私やアーデルと違って抱かれて大人しくしているばかりではないのでな。気が乗らなければしっかり抱き締めていても平然と抜け出すし、時に仕返しされたりもする。少し苦手意識があっても仕方あるまい」

 

 ……まあ、本気で嫌がっていることに気付かずにそういう風になってしまったのだったら自業自得でしかないのだが、それにしても百秋はどちらかと言えばやり過ぎる方だし、容赦とか手加減は必要最低限しかしない質なので色々と酷い目にあわされたのだろうな。私には関係の薄いことだが。

 ……昔の私はよくもまああれだけで済んだな。一夏が優しかったのか、教官が止めてくれたか……そもそも興味がなかったのか。

 愛に飢えた当時の私は限界を越えることなどできなかった。飢えた感情に自分を喰わせて一時的な強化をすることはできても根本的な強化に繋げることはできなかったし、精神的なものよりも身体的なものばかり見つめていたような気がする。

 ……なるほど。視界に止めておいてすらくれないわけだ。私だって実際にそんな私が目の前にいたとしても視界に入れるどころか記憶に留めすらしないだろう。

 

 それはそれとして、とりあえずこの状況を写真に残しておくとしよう。そのために過去に来た……と言うことになっているわけだしな。

 はい、チーズ。

 

 

 

 

 

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 side 織斑アーデルハイト

 

 夜になり、眠る時間になった。だが、私はどうやらすぐに眠ることはできなさそうだ。

 百秋に付き合って早寝を心がけていたせいですでに大分眠いのだが、私は百秋の近くで眠らなければ危なっかしくて眠っていられないのだ。

 何が危なっかしいのかと言えば、もしかしたら百秋が寝ている間に元の世界に一人で戻ってしまう可能性があり、そして私が置いていかれてしまう可能性もそれなりにあるせいだ。

 そうなってしまっては、流石に私も追うのが骨だ。追えないことはないだろうが、世界の外壁を抜けていくのは少し疲れる。空間そのものに作用する壁は、上手いこと穴を開けるなりなんなりしなければ転移でも通常移動でも越えることができないので面倒なのだ。

 それに、一時的にであろうとも一夏の居ない世界にいるなど願い下げだ。今まではいなくなると同時に戻っていていたから見逃してきていたが、私がこちらの世界に残ってしまうとなれば必然的に私と一夏が一緒に居れない時間と言うものができてしまう。

 

 ……あ、私死ぬかも。そんなことになったら本当に死にかねない。なんとかせねば。なんとかせねばならぬ。私の命と平穏のために。

 と言うことで、私の心の平穏のためにシャルロットと私のベッドを抜け出して一夏の……百秋の眠っているだろう一夏の部屋に移動する。色々と注意することはあるが、一番はやはりこちらの世界の教官のことだろうな。

 教官はやはりこちらの世界でも教官であるらしく、人外への道を突っ走っているらしい。幸運なのかどうかはわからないが、人外への道を一人で走っているわけではなく、道連れがいるそうだ。篠ノ之博士だが。

 つまり、もしかしたら私がこうして夜に歩き回っているのにも気づいているかもしれないと言うことであり、注意されれば戻らざるをえない。いやいや、実に困った事態だ。困った困った。ここで戻るわけにはいかないのだがなぁ……。

 

 ……よし、着いた。それではお邪魔……チッ、鍵がかかっているな。まあ、防犯上の都合で言えば寝ているときに鍵をかけておくのは至極当然のことではあるのだが、この場合は困る。

 全く、このままでは夜に見回りをしている教官に見つかってしまうではないか。いったいどうしてそんなことをするのだ?

 ……仕方無い、抜ける(・・・)か。

 

 一時的に私の身体を構成する全ての分子及び原子を愛情に変化させ、扉と言う物質を透過する。『愛情』と言う感情そのものは、物理的な距離も時間も隔てる壁も関係なく届く。相手がそれを認知するかどうかは別として、一方的に送りつけたりする分には全く問題なく届く筈だ。やってみたから間違いない。

 そしてすり抜けた扉の先では、どこかで見たことのある光景が広がっていた。

 正確には見たことのある光景ととてもよく似ているだけなのだが、大体同じなので問題ないだろう。なんにしろ、あの化猫は少々引くレベルの変態と言うことでFinal Answer。事実変態だから仕方ないな。

 

 ……とりあえず、何とは言わないが励んでいる化猫は放置して百秋だけは拾っていこうか。流石の化猫もこの状況を見られたと言うのは知られたくないし知りたくない事実だろうからな。私は別に他人の嫌がることをして喜ぶような倒錯した性癖など持ってはいないので、黙っていることも吝かではない。

 だがなぁ……普通、子供がいる前でするか? 背徳感が堪らないとでも言うつもりなのだろうか? そうだとしたら私が言うことは『そうですか。死ね』になるだろうがな。

 

「……死ねばいいのにな。エロ猫」

「!?」

 

 あ、つい声に出してしまった。気配遮断して床をすり抜けてベッドの下まで潜行しておこう。この状態なら物理的な影響を受けないし、生物相手でもすり抜けられるから見つかることも触れられることもまずありえないし。

 そのまま百秋を拾ってすぐに出ていくとしよう。百秋や私の前でそれをやっているわけでないのなら、エロ化猫がどこでナニをしようが構わないしな。化猫の精神耐久以外が減るわけでもないし、元々株はかなり落ちているから今更だ。上場からやり直すようなことにはならないように祈るだけ祈っているよ。祈りが届くかどうか、届いたとして叶うかどうかは私の知ったことではないが。

 

 ベッドの下まで床の中をすり抜けながら移動し、下からベッドをすり抜けて百秋に触れてそのまま回収。百秋の身体を抱き締めて、床を何枚かすり抜けて一階のとある部屋に到着する。ここにも人がいるようだが、用があるわけではないのでさっさと壁をすり抜けて移動する。

 どこかに眠るのにちょうどいい場所はないのかと探してみるが、今のところ一番はソファーだな。あくまでソファーなので二人で寝るには少し狭い。一夏も私も小さくなっていなければ、初めから選択肢に入らない程度には狭い。

 だが今の状況で選り好みできる訳ではないので、普通にソファーで寝ておくことにする。狭いと言うことは余裕がないと言うこと。余裕がないと言うことは合法的にくっつけると言うこと。うむ、なんの問題もないな。

 それでは、今日のうちにとった何枚かの写真をその場で現像し、残しておこう。

 今まで百秋がこちらの世界で撮った分と、同じく仁と朝日が撮った分。小鈴は写真を撮らなかったと言う設定だから残せないが、代わりに仁が残しているから問題ない筈だ。

 

 ……こうして見ると、ヘタレエロ猫の分がかなり多いな。それだけ隙が多いと言うこと……ではなく、実際にはギャップを引き出すためにちゃんとした写真も数多く残してあるだけだ。

 それに、あのヘタレエロ駄猫は他人と一緒の写真も多い。簪の後ろから抱きついてみたり、箒の胸を揉んでみたり、色々とトラブルを作っては振り撒いている。こちらの世界の一夏も可哀想にな。

 あのエロ駄猫も、寂しいなら寂しいと素直に言ってしまえば少しは扱いもましになるだろうに。怒って殺しに来るこちらの世界の箒や鈴達もどうかと思うが、全く心の内側を見せないと言うのは常に一枚壁を作っているように取られてしまうぞ?

 

 ……さて、それでは最後につい先程撮っておいたエロ猫の写真をヘタレエロ駄猫用の封筒に他の写真と一緒に入れておいてから封をする。他の全員分も同じように封をしておいて、これで恐らく問題ない筈だ。

 

 本人達にとってはかなりの問題かもしれないが、私は知らん。

 

 箒用に一つ。鈴用に一つ。セシリア用に一つ。シャルロット用に一つ。私用に一つ。簪用に一つ。教官用に一つ。生徒会会計用に一つ。ドヘタレエロエロ化猫生徒会長用に一つ。それぞれに爆弾がいくつか仕込んであるので、是非楽しんでくれ。

 

 ……ああ、本当にヤバいものは検閲されてこちらの世界に持ってこれていないので、気にする必要はない。全てからかいの範囲で済むため、とりあえず放り込んでおいた。

 

 ……さて、それでは私もそろそろ寝るとしようか。いい加減に眠いしな。

 

 

 

 

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 side ラウラ・ボーデヴィッヒ(原作)

 

 アーデルハイトが戻ってしまった日の朝。寮の一階にある広間に、アーデルハイトからの土産の写真が残されていた。

 私達一人一人が写っている写真や、誰かと話している写真。一夏とのツーショットや仲のいい相手とのツーショット。真剣な写真や面白い写真など、色々な写真が、それこそ数えきれないほどに。

 

 確かだと言えるのは、どれもこれも私達の事をよく捉えた写真であると言うこと。

 日常では私は美味いものならば何でも試してみているし、シャルロットは基本的に一夏と同じもの。鈴は中華料理が多く、セシリアは箸が使えないと言うこともあって洋食が多い。箒はいつも和食で、簪は麺類が多い。一夏はなんでも食べているが、自分の知る料理以外はあまり頼まない傾向がある。

 食事中では私達の誰かが一夏に少し食べさせてもらっていたり、逆に私達の分を少しあげていたりしているので、一夏の頼むメニューも少しずつ増えてきてはいる。

 そんな日常の風景が、何枚もの写真に納められている。私達は慌てていたり恥ずかしがっていたりしてもいるが、いつも最後には笑っていた。

 

「……なかなかいい写真ではないか。この写真など、特に特徴を捉えている」

「どれどれ? ……えっ!? 僕こんな顔してたの!?」

「うむ、大体いつもこんな顔だ。一夏には見せられんな」

 

 写真には、私とアーデルハイトを抱き締めながら蕩けきっただらしない笑みを浮かべているシャルロットと、大きさは違えど鏡写しのように疲れた表情を浮かべている私とアーデルハイトが写っていた。

 ……そう言えば、昨日こんな写真も撮っていたな。帰る前にプリントしていったのか。

 

「うぅ……こんな顔してたなんて……一夏に見られたら恥ずかしくてお嫁に行けないよぉ……」

「わかった、では一夏に見せてくるからしっかりと責任を取ってもらえるように交渉してこい。ああ、正妻は教官で私が第二婦人だから、第三婦人といったところでな」

「……第一婦人が織斑先生なのはもう諦めてるけど、第二婦人がラウラって言うのはいつ決まったのかな?」

「決まっていないぞ。第一婦人はもう間違いないものだが、第二婦人の座を射止めて見せると言う気合いと心意気の問題だ。私はそうなりたいし、そうするつもりでいる。実際に不可能だったら少し目標を下げたり妥協したりする必要も出てくるかもしれないが、目標は高い方がいいだろう?」

 

 私がそう言うと、シャルロットは毒気を抜かれたような顔をした。

 

「……いやいや、まず一夏に見せようとしないでよ。恥ずかしいじゃない」

「恥ずかしいからと言う理由で引いてばかりいては、一夏の心を射止めるのは不可能だと思うがな」

 

 一夏は鈍い。最近になって少しましになったような気もするが、それでもかなり鈍いことは間違いない。

 実際の戦闘では時に私達の誰もが息を飲むような機動をしたり、驚かざるを得ないほどに鋭い攻撃を繰り返してくると言うのに、いったいなぜこうも女心に関しては鈍いままなのか。

 ……少なくとも、私が嫁に出会った時には既に嫁は鈍かった筈だ。そして幼馴染みである箒と鈴の話では、出会った頃はともかくとして、別れの時にはまず間違いなく鈍かったとか。

 箒と嫁の別れは確か10になるかならないかの頃。その年頃の男子は恋愛に興味を持つことはまず無いだろうから鈍いとは言えないとして……やはり、鈴との出会いの頃に問題があるのだろう。

 

 ……ああ、そう言えば、嫁がドイツで誘拐されたのもその頃か。第二回モンド・グロッソで、教官の優勝を妨げるために誘拐されてしまったのだったな。

 もしかしたらその時になんらかのトラウマでも刻みつけられたか、誘拐した相手はISを使っていたそうだし……どこぞの変態に襲われでもしたか。

 そのせいで女からの感情に鈍くなったのだとしたら……とりあえずは実行犯であるらしい亡國機業のメンバーを潰していこうと思う。やっていなくても潰すがな。

 

 と、そこでいくつか悲鳴が聞こえた。私とシャルロットは一瞬身構えたが、だが、声を聞いてすぐに力を抜く。

 声の主は生徒会長と箒と鈴。と言うことは、私やシャルロットのところにもいくつか混ざっていた地雷が爆発したのだろう。……地雷と言うよりも機雷と言った方が正しいかもしれんがな。

 私のはそこまででもなかったが、シャルロットはかなり恥ずかしがっていた。いくつかの写真でシャルロットが一夏に『あーん』で料理を食べさせ、そして同じ箸を使って自分でもう一度料理を口に運んでいる写真が入っていたのだ。

 つまり、間接キスと言う奴だな。直接した私には及ばん!

 だが、それでもシャルロットには刺激が強すぎたようで……シャルロットは暫く顔を真っ赤にして悶えていた。

 普段からかなり積極的に嫁にぶつかりに行っていると言うのに、随分と初な反応をするものだ。なぜ自分がいつもしていることを他人の視点から見せられただけでそんな反応をするのやら。私には訳がわからないな。

 

 ……そう言えば、あの化猫はいったいどんな写真を見てあんな悲鳴をあげたのだろうな? あれだけの悲鳴をあげたのだから、よほど凄まじいものでも写っていたに違いない。

 そうだな……土下座……程度ではあんな悲鳴はあげんだろう。良くも悪くももう慣れてしまっているだろうしな。

 ただの驚愕であれば一度驚いてそれまで。しかし今回の場合はあれから大分長い時間騒がしかった事から、驚愕と羞恥がない交ぜになったものだと想像できる。と言うことは……ふむ、嫁と簪が仲良くしているのを壁の影から監視しているところをこっそり写真にでも撮られていたか?

 いつ頃に撮られたのかは知らないが、やはり人間は一つの事に集中すると他の事が疎かになるらしい。百発百中の狙撃手が背後から狙撃されることだってある訳だし、私も気を付けなければな。

 

 さて、次の写真は───

 

 

 

 □←水着に猫耳装備の自分が満面の笑みを浮かべて一夏に甘えている写真

 

 

 

 ───は?

 

 いやまてまてこんなもの覚えがないぞ私!? 何がどうしていつこんなものがどうして意味がよくちょっと不明極まりないんだが!?

 よし、こんな時は素数を数えるのだ!素数は1と自分自身でしか割れない孤独な数字!私に冷静さを取り戻させてくれる!

 

 ───2、3、5、7、11、13、17、19、23、29、31、37、41、43、47、53、59、61…………ふぅ、大分落ち着いたな。

 

 さて、それではどうしてこんな写真があるのかを考えてみよう。

 まず、私は水着に猫耳装備で嫁に甘えに行ったことはない。つまり、この写真は明らかに偽物だと言うことだ。それはわかる。

 そして、以前に私がこの水着を着たことがあるのは臨海学校直前の買い物の時と、臨海学校の本番に一日だけ。その時には百秋はともかくとしてアーデルハイトは来ていなかった……と言うか、存在すら知らなかったのだ。つまり、これはアーデルハイトの仕業ではない。置いたのはアーデルハイトかもしれないが、撮ったのは違う人物の筈だ。

 

 忌々しげに写真を睨み付ける。視界に入るだけで腹が立つので裏返しておく。

 

 

 

 □<To かつての私の可能性 

 

合成だ。びっくりしたか? 

 

by 未来の私の可能性

 

 

 

 私かっ!!

 

 

 

 


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