IS~ほんとはただ寝たいだけ~ 外伝・超外伝   作:真暇 日間

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時越え兎編 2

 

 

 

 

「ん……ぅあ……」

「……おはようさん。気分はどうだね?」

「……最悪、だね。なんで寝起きにお前の顔なんか見なくちゃならないのさ」

「そうかい。まあ諦めな。お前さんが俺を呼んだんだから」

 

 束さんとくーちゃんをベッドに放り込んでから暫くして、束さんが意識を取り戻した。一応声をかけたらなんか凄まじい勢いで悪態をついてきたのでこちらも皮肉で返しておく。

 ……なんか舌打ちで返されたが、そのくらいの事なら気にしない。そんなことでどうにかなるような神経してたら眠たがりなんてやってられないし。

 

「……で、なんで何にもしてないのさ?」

「したぞ? 勝手にここ見て回ってベッド見つけて放り込んだし」

「ふざけんなよ。なんで私になにもしてないんだよ」

 

 束さんは起き上がることもなく俺に文句をぶちまける。なんでと言われても正直面倒臭かったからとしか言いようがないんだが、それじゃあ納得してくれないだろうな。

 原作世界の奴等は基本的に俺の本心からの言葉を信用しない。理由はわからないが、俺が本気で言っても大半は冗談として取られてしまうし、あるいは妙に勘違いしたままいなくなる奴もいるからはっきり言って厄介だ。

 しかし、恐らく束さんが今言っているのはそう言う系統の言葉だろうし、束さんは真剣に聞いてきている。だったら俺も真剣に、本心からの言葉を持ってして返すしかない。

 

「面倒だったからだ。やる意味も無い」

「ハ、おめでたいね? 束さんじゃなにやっても傷一つ負わせることもできないって言うのかい?」

「そいつはお前さんが一番よくわかってるだろうに。反論したいんだったら起き上がってみ?」

 

 束さんは歯を食いしばる。加減はしたつもりだが、つい全身の内臓と筋肉と骨とに等しくダメージを与えてしまったせいかいまだに起き上がることはできなさそうだ。

 本来ならばこれだけ早く起きることができていると言う時点で人間から外れかけていると言ってもいいほどなのだが、束さんはそう言われたところで嬉しくもなんともないだろう。

 

「起き上がれるようになったらここに置いてあるお粥でも食いな」

「いらないよそんなもの」

「じゃあ今すぐ食わせてやるから口開けな?」

「は? いやちょっと待てよなにやっていや待て待て待ってってそれなんなのいや本当になんなのその薄く灰色に輝いてるそのよくわからないどろどろした半液状の物質いや待てやめろほんとうに待てそれを近づけるな超笑顔のままそれ片手に近づいてくんななんで近づいてきていや待て待てやめろやめろやめろふーふーしたところで食わないからいらないからいやほんとまっ───」

「はい、あーん」

「アッ──────!!?」

 

 ……とか言う小芝居に乗ってくれる辺り、少しは俺に心を許してくれたのかと思ってみたりする。確かにこのお粥は光の加減で若干灰色に見えるし、俺は超笑顔のままふーふーして食べさせてあげていたが、本当に食べたくないなら口を閉じてしまえばいいわけだしな。

 悲鳴をあげたりわざわざぐだぐだと説明台詞をずっとぶちまけたりして口を開けていてくれたんだから、そこはやっぱり俺も乗っておかないと。

 

「……で、味の方は?」

「…………不味くはない。食べてあげるからふーふーしてよ」

「はいはい」

 

 ふーふーと湯気を上げるお粥に息を吹きかけ、ゆっくりと冷ましていく。出汁を効かせてありながら塩気は最低限にしてあるこの卵粥は、二日酔いのちー姉さんやそれに付き合って物凄い量の酒を飲んでしまった束姉さんに好評だ。……前にも似たような話をしたことがあるような気がしたが、今は関係無いので流しておくことにする。

 ふーふーと冷まして口許に運べば、束さんは普通にパクパクと食べる。笑顔を浮かべることはないが、それでも文句の一つも言わないで食べ続けている。

 回復薬とかそんな感じのは入れていない、普通で普通な普通の卵粥なんだが……そんな美味いかね?

 

「不味くはないよ」

「美味いとは言わないんだな」

「不味くはないよ」

「美味いとは梃子でも言わないんだな」

「不味くはないよ」

「わかったよ」

 

 空になったどんぶりにお粥の二杯目を盛ってくる。内臓が弱っているだろうからと作ったお粥だが、どうやらそこそこ好評なようでよかったよ。

 

「不味くはないって言っただけだよ」

「美味いか不味いかで言うと?」

「不味くはないよ」

「美味いと言う気は欠片も無いのな」

 

 ふいっ、と顔を逸らした束さんに軽く溜め息をつきつつ、俺は二杯目のお粥を束さんの口許に運んでいく。束さんは拒絶することはなかったが、それでも自分から食べようとはしなかった。

 

「……それじゃあ俺は帰るよ。多分通ってきた道を戻れば元の場所に戻れるよな?」

「多分ね」

 

 相手からしてみれば初対面の態度は結局崩れることはなく、俺は最後まで後の束さんの優しい言葉は聞けずじまいだった。

 だがまあ、別に悪いことじゃあるまい。少しは仲良くなれただろうし、次に会ったときには問答無用で殺しに来たりはないはずだ。

 ……無いといいなぁ…………。

 

「それじゃあ、またな。中々見ない純粋なる同類よ」

「うっせ。束さんはお前ほど化物じゃねえよ」

 

 やはり最後まで悪態をつく束さんに笑いかけ、寝所の扉を閉める。

 

「お休み、束さん。……よい夢を」

 

 ……さて、帰るのにはどれだけ時間がかかるかね?

 

 

 

 

 

side 篠ノ之 束

 

 あいつが居なくなってから、私はゆっくりと天井を見上げる。飾り気の無い灰色の天井は私の心を落ち着けることはなく、私は溜め息を一つついた。

 

 思い出すのはあいつの言葉。私の我儘を聞きながら、のんびりと話していたあいつのやり方。

 ただ、あいつは自由に動いていた。その代わりに、他人の自由を奪わなかった。ただそれだけのことで、あいつは私と違って周囲の奴等に溶け込むことができたのだと言う。

 

 そしてあいつは、私のことを同類と呼び、化物ではなく一つの存在として相手をした。ちーちゃんがかつて私にそうしたように真正面からぶつかり合って、自分が私と同類だと、同格以上だと示して見せた。

 それはまるで私に『寂しくないぞ。敵意もないぞ』と語りかけてくるようで、無駄に私の心に浸透していく。

 

『それじゃあまたな。同類よ』

 

 突然あいつの言葉がはっきりと聞こえてしまい、私は腕で視界を覆い隠す。

 

「……うるせーや。なにが同類だ、この化物め。この───」

 

 ……ああ、認めてやるよ、バカ野郎。お前は───

 

「私を凌駕する───」

 

 私を守れる───

 

「私よりぶっ飛んだ───」

 

 私の予想を越えられる───

 

「私よりキチガイな───」

 

 私の理想の───

 

「───化物め」

 

 ───私の騎士。

 

 ……ああ、まったくもう。私もヤキが回ったかな。

 顔に全身から顔に血が集まるのを感じながらも、ごろごろと転がって気をまぎらわせる事もできない体を呪うのだった。

 

 

 

 




 
これで外伝・超外伝は一時終了。お次はハリポタ編に入ります。

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