IS~ほんとはただ寝たいだけ~ 外伝・超外伝 作:真暇 日間
サーセン!なんかハリポタ書いていてこっちの方の更新状況を確認してたら突然頭の中で
「モッピー知ってるよ。ちゃんとここまで書いた方が収まりがよくなるってこと」
「モッピー知ってるよ。真暇はそう言うのを思い付いたらテスト期間中だろうがなんだろうが書かなくちゃ収まらない馬鹿野郎だってこと」
「モッピー知ってるよ。今も真暇はこの話を書きたいってこと」
「モッピー知ってるよ」
「モッピー知ってるよ」
「知ってるよ……」
……って声が響いてしまったんで書き上げました。百秋君こと織斑一夏と、原作公式チートの束さんの初めての会合です。
薄ぼんやりした夢。それはいつも俺を異なる世界へ……原作の世界へと引っ張り込む時に俺がみる夢だ。
いつもは濃厚な霧の中で一ヶ所だけが薄くなり、その方向に足を進めることで原作一夏の夢や原作世界そのものに足を踏み入れることができるのだが……今回はいつもと勝手が違った。
突然、霧が強制的に晴らされた。そう思ったらその場に急に現れた穴に引き込まれ、俺は見知らぬ見知った場所で、見知らぬ見知った相手と初対面の挨拶を交わした。
「……どうもハジメマシテ、ずいぶんと粗っぽいご招待でしたが、何かございましたか?」
「……なんだよオマエ、意味わかんないんだけど」
「……は?」
いきなりなんか訳がわからないとか言われた。こっちも意味わからねえよ。
「なにいっくんや箒ちゃんにちょっかいかけてくれちゃってんの? しかもこの私のセキュリティを全部すり抜けてさ。何が目的なんだよ?」
かなり剣呑な表情と口調でそう言われた。だが、俺には正直目的なんてものは無い。ただこっちに来ることがあるから来ているだけだ。
……だが、ようやく束さんが言っていたことの意味がわかった。束さんは夢の中……つまり人間の脳を一つの電脳世界として捉えた上で、電子戦と精神力での戦闘を俺に挑んできている訳だ。
確かにくーちゃんのことを考えれば束さんだったらそのくらいのことはやって見せてもおかしくない……と言うかやったところで誰も疑問に思わないだろうが、まさか生体リンク型のISを使わずに原作世界でこれだけのことをやって見せるとは思いもしなかった。
……ああ、そう言えば質問されてたんだったな。俺はそれを思い出して見知った見知らぬ束さんに視線を向けた。
「特に何も。ただ意識せずに来れたから来ただけ」
「ふざけんなよ」
ヒュンッ!と甲高い風切り音と共に束さんの右手が振るわれ、そこから何かが展開される光が俺に向かって伸びてくる。とりあえず俺も同じように千の顔を持つ英雄で絶刀を出してその武器を押さえ込んだ。
直後、鈍い金属音が響いて束さんの腕が止まる。金属製の薄い薄いブレードが握られていたが、そのブレードは絶刀を両断することができずに止まっている。
「は? なんで止めてるわけ? 大人しく私に斬られろよ」
「やだよ。痛いの嫌いだし」
「知るかよ。いいから斬られろよ」
束さんの振るう薄い剣が人外と呼ばれるに相応しい速度で振り回される。まるで機械のように正確に、しかし子供のように荒々しく振り回されるそれは俺からしてみればそこまで速いものでもなかったが、もしも俺と同じだけの速度が出せていればまず避けきることはできなかっただろう。
だが、俺の基本戦法は『相手の使う物より明らかにこちらが優れている状態での力押し』である。簡単に言うと、チェスで例を出すと『相手は一度の手番に一つの駒を一つしか動かせない上に全部ポーンの状態でこちらだけは全ての駒を計五回ずつ動かせる上に取った相手の駒の再利用あり』みたいなものだ。
俺の戦法に一番よく似ているのは賛嬢ちゃんだろう。相手の軍より明らかにあらゆる面で勝る軍を用意し、ステルスしながらの力押し。相手は賛嬢ちゃんにもその軍にも気付かずに死んでいく……といった感じで。
まさに、相手がまともなルールの中でやろうとしている勝負を真正面から自分ルールで受けてたつ。そんな感じの戦法だ。
そしてあまりにもスペックが違いすぎるために、束さんの剣は俺に触れることがない。その全てを絶刀で弾き返し、あるいは回避してやり過ごしている。
「こ、のぉ……!」
両手の二刀の刃溢れが酷くなってきた頃に、束さんは俺から距離をとろうと後ろに弾けるように飛びすさる。飛んでいる最中に先端だけは潰れていなかった二刀を投げつけてくるが、横腹を軽く払うだけで薄すぎるその刃は砕け散る。
「なんだよお前!束さんから箒ちゃんといっくんを奪って何する気だよ!」
突然束さんが叫ぶ。その瞳に涙は浮かんでいなかったが、両手に新しく出したばかりの真紅と純白に輝く二刀のエネルギーブレードを持つ手が震えていた。
そして束さんは震える手をそのままに俺へと突撃してくる。泣いているくせに、悲しいくせに、その刃筋は全く乱れるような事は無かったし、涙もいつも以上に浮かべるようなことはしていなかった。
「私よりも強いくせに!」
両手で振るわれるエネルギーブレードを弾き飛ばし、エネルギーをブレードとして固定する部分を破壊する。束さんはすぐさま新しいブレードを出して俺に向けて振るう。
「私よりもぶっ飛んでるくせに!」
新たに現れた実体ブレードの刃をへし折るが、束さんが直後になんらかのボタンを押した瞬間に元々刃があった形に白いブレードが延びて俺へと襲い掛かってくる。
「私よりもずっと異常なくせに!」
そのブレードを柄ごと砕くと、また新しい武器が現れる。今度は銃と刃が一体化したような短剣で、振るいながら銃撃を仕掛けてくる。
「なんでだよ!なんでお前はいっくんや箒ちゃんに好かれてるんだよ!」
俺はその銃弾を全て叩き落とし、いくつか俺に向かってくる跳弾と追尾性のあるエネルギー弾を切り払う。同時に俺からある程度距離をとろうとする束さんに追い付き、銃身を刃ごとへし折った。
「なんでお前は……っ!お前だって、束さんと同じ───」
隣接距離まで近付いた俺に、束さんは一瞬で小さな小さなナイフを突き出した。俺はそれを───
「───『化物』のくせにっ!!」
───避けることもなく、腹部で直接受け止めた。
肉を殴り付けたような鈍い音が響く。俺に短剣ごとぶつかった束さんも、短剣ごと束さんを受け止めた俺も、全く動かない。
「……は、ははは…………ほら、見てみろよ……」
束さんは虚ろに笑い始めた。その視線は短刀の先端に集中している。
「……束さんだって、生身でこんなことはできないぜ?」
そしてその短剣は、俺の腹の皮膚一枚すら傷つけることなくへし折れていた。束さんの力と俺の間にあったため、かかった力に耐えきれなかったのだろうと勝手に予想してみた。
「……それじゃ、とりあえずこれで幕ってことで」
俺は武器を失った束さんの身体を抱き寄せて、その鳩尾に拳を宛がう。それを未だ虚ろな瞳をしたまま、束さんは受け入れた。
そして一瞬の溜めもなく、拳から発勁に乗せた斬魔剣・二の太刀が束さんの意識を刈り取った。
がくりと倒れ込んだ束さんの身体を支えるが、正直予想より遥かに軽くて驚いた。
同時に束さんが気絶したせいか、薄ぼんやりとしていた周囲の景色から霧が晴れ始め、束さんの研究室の一画らしい場所に現れた。
「束様っ!?」
そこですぐに現れたくーちゃんだったが、俺が抱えた束さんを見て俺を睨み付けてきた。
「貴様……束様を放せっ!」
「別にいいけどここで放したら間違いなく背中打つと思うけど?」
「五月蝿い!いいからさっさと放せ!」
くーちゃんがそう叫んだ途端に辺りが白一色に染まる。とりあえず危なくなさそうな方向に避けて、ついでにヤクザキックを目の前に。
「ごぶぅっ!?」
鈍い音が響き、辺りの白が瞬きの間に消える。アリス・イン・ワンダーランドと似たような効果を出しているんだろうが、残念ながら光学的な物だけでは俺の動きは止められない。
横っ腹に踵を打ち込まれたくーちゃんは吹き飛び、壁に激突する。そのまま気絶するかと思ったが、ずるずると這うように俺に近づいてくる。
「た……束、さまを……はな……せ…………っ」
とりあえず俺に伸ばされた手を踏みつけ、顎を蹴り抜いて脳を揺らして気絶させたんだが……ここでふと俺がやったことを思い出す。
束さん気絶させて(暴行)、抱えて運んで(誘拐)、束さんを守るために来たくーちゃん蹴り転がして気絶させた(暴行)。
……悪役、俺じゃね?