IS~ほんとはただ寝たいだけ~ 外伝・超外伝   作:真暇 日間

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2014ハロウィン短編

 

 

 

 

 さて、話をしよう。

 これはいつのことだったか……36万……いや、1万4000年前のことだったか……などと、意味もなくネタを挟んでみつつ現状を把握するために周囲を見渡してみる。

 場所は不明。周囲に生命体の反応は数えられるところからいって、まず間違いなく地球上ではない。空気中や土の中に普通に居るはずの細菌や微生物も感知できないし、南極や北極、砂漠地帯でもないことがわかるからだ。

 ならばどこかと言うと…………別惑星か、あるいは四次元ポケット的な異空間の中と言うことになるのだろう。SFもいい加減にしろと言ってやりたいが、この世界にはギリギリ物理法則則って作られた空飛ぶパワードスーツなんて物があるんだからSFとは言い切れないかもしれない。

 

「そんなことよりほうとう食べたい」

「寝起きの第一声が『ほうとう食べたい』って、やっぱりいっくんはどこかしら飛んじゃってるよね」

「寒くなってきたからね。それにもうすぐハロウィンだし、カボチャ食べたい」

「日本だったらカボチャはもう少し遅い方が美味しいけどね。冬至の辺りに食べるんだっけ?」

 

 正確には『冬至にカボチャを食べると風邪を引かないと言われている』だけであって、冬至には必ずカボチャを食べなければいけないわけでもなければ冬至にしかカボチャを食べてはいけないわけでもないんだけどな。

 

 と、この状況の犯人らしき人物が自分から現れてくれたのでそちらに視線を向ける。

 

 ……束姉さんは、奇妙な格好をしていた。いつもの不思議の国の住人たちの格好をごちゃ混ぜにしたものが奇妙ではないと言うわけではないが、今回の格好は明らかに普段から着るような姿ではない。

 デフォルメされた黄色いカボチャの着ぐるみを頭にかぶり、フランケンシュタイナー博士の作った死体人形でも真似ているのかカボチャの側頭部には二本の太いボルトが飛び出している。

 胴体は何故かタキシード。外側が黒くて内側が血のように紅いマントをつけているところから恐らく吸血鬼なんだろうが、なんと言うかかんと言うか凄まじい。

 肘から先、膝から先には灰色の狼の着ぐるみをつけており、物を持つのに苦労しそうだが……何故か普通に節くれだった杖を持てている。某猫型ロボットの手を彷彿とさせるなこれは。

 下半身は短いスカート。黒でスカートと言うとちょっと思い付かないのだが、恐らくは魔女的なものを想像しているのだろう。魔法使いならロングスカートか、あるいはローブだと思わなくもないが……まあ、人によって魔女の解釈なんか変わって当然だろうな。俺だって基本はどこぞの伝承だか神話だかに載っていた魔法使いの姿を想像してこんなことを考えてるわけだし。

 そして、それらの着ぐるみや服に隠されていない素肌は、今度は純白の包帯によって隠されていた。ミイラ男……いや、ミイラ女を想定しているのだろう。恐らくは。

 

 そしてそれらを全て纏めた服を着ている束姉さんは、白夜の太陽のような眩しい笑顔を浮かべていた。

 

 ……うん、混沌としすぎた服装だと言わざるをえない。スタンダードなハロウィンの仮装をほぼ全て纏めて一人でやるとか、束姉さんの服装センスには脱帽する。

 そして何よりも驚くべきは……

 

「……束姉さん。ちょっと質問」

「何かな?」

「……何でその服装が似合うの? 人を選びまくる服装だと思うんだけど?」

「束さんが直々に似合うように作ったものだからさっ♪」

 

 ……そう、似合うのだ。普通なら苦笑いとか失笑とかそう言うものしか出ないと思うんだが、束姉さんが着るとやけに似合っている。束姉さんが自作したからだそうだが、自分にどう言うものが似合うのかをよく理解しているのだろう。おしゃれにかける情熱と言うものはよくわからないが、結果として似合っているのだから役に立たないわけではないはずだ。実際に目の前で役に立っているのを見せられているし。

 

「さてと……それじゃあいっくん!トリックアンドトリート!」

「両方やるってか」

 

 そんな楽しそうな姿の束姉さんは、にっこり笑顔を浮かべて俺にお菓子と悪戯する権利を要求してきた。普通は子供が仮想して大人にお菓子か悪戯の権利を要求するものだと思うが、その辺りは束姉さん。ガン無視である。

 仕方がないので適当にカボチャを潰して生クリームを少量混ぜて柔らかくした餡を入れたデニッシュを渡しておく。すると束姉さんはそれをにこにこしながら受け取り、カボチャの着ぐるみの一部を開いてそこに放り込んだ。開けた時に白い煙が漏れていたので、あそこはどうやら冷蔵庫としての機能もあるらしい。便利だなオイ。

 

「よぉーっし!いっくんのお菓子も手に入れたし、次は悪戯にしよう!」

「あ、本当に両方やるんだ?」

「もっちろん!束さんは結構欲張りなんだよ? だよ?」

「あっはい存じ上げています」

 

 ついそんな口調になってしまったが、束姉さんはけらけらと笑って俺を抱き締める。昔からよく抱き締められてはいたが、真っ正面から悪戯すると言われて抱き締められたことは───

 

 ・・・(回想中)

 

 ……いや、割と普通にあったわ。よく悪戯すると言われて抱き締められた。ちー姉さんが長いこと留守にして居るときに現れて初めて食われたときにもそんな事をいっていたような気がする。

 ちー姉さんの前でそう言われたことは流石に無いが、それ以外で何かしらのイベントがあればそんな感じの事が割とよくあった。

 

 ……あ、今もか。今まさにそんな状況になってるのか。なるほど。

 無駄だとは思うが、少し足掻いてみよう。

 

「えっと……ハロウィンって、子供が大人に菓子をねだる感じの収穫祭じゃなかったっけ?」

「そうだね。だから……はい!いっくんのもちゃんと用意してあるよ!」

「あ、はい。それじゃあ……って、何で脱がしてます?」

「着替えるんでしょ? 束さんが手伝ってあげるよ!拒否は認めないけどね!」

「……え、あの、なんかこれ布が少ない上に革製のゴツい首輪とか鎖とか手枷とかが見えるんですがそれは」

人狼(ワーウルフ)だよ? ちゃんと耳と尻尾も用意してあるから大丈夫!」

「……あ~……もう好きにしてください」

「……え? 本当に好きにしちゃっていいの? 加減しないよ? ペロペロするよ? 自重とか放り棄てるよ? マジでやっちゃうよ?」

 

 早まったかもしれないが、目がもうガチだ。ここで否定とか赦されない感じだ。しかも止めても暴走するな、これは。

 こうなったら、できるだけ暴走の規模を押さえてもらいつつ、こっちの意見もある程度通せるようにしないといけない。大変な仕事だな。

 

「……痛いのは嫌。苦しいのも嫌。汚いのも嫌。……それだけは守ってね?」

「──────」

 

 ……あ、なんか今『ぷちっ』て音が聞こえた気がした。

 だがしかし、ここで突如暴走しないのが束姉さんクオリティ。大きく息を吸って、ゆっくりと吐いて、俺に向き直る。

 

「……優しくするから」

「性別逆じゃないっすかねぇ……」

 

 軽いツッコミを入れてすぐ、俺は束姉さんの手によってひょいひょいと着替えさせられ───ここから先は想像に任せよう。

 まあ、初めに言ったことでもあるんだが、これは俺にとっては過去の出来事だが、君達にとっては多分……これから起きる出来事だろうからな。

 

 

 

 

 




 
 ワッフルを注文されればかぼちゃ風味のワッフルを出す準備が……私にはある!(キリッ!)

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