問題児に混じって野生児が来るそうですよ?   作:ささみの照り焼き

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蛇神様を味見だそうですよ?

◇◆◇◆◇

 

 黒ウサギは見た。

 

 水飛沫を上げながら出てきた蛇神を見つめる、一人の少年。

 

 いつの間にか服は黒一色の立派なものに変わっており、それとは正反対に銀髪は陽光を受けてキラキラと輝く。

 

 その少年は、雷を纏いながら、文字通り空を跳んできた。

 

 そして、その少年の瞳を、黒ウサギは見た。

 

 後に彼女はこう語る。

 

 

 

 

 

 一一あの目は、獲物を捉えた獣の目だった、と。

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇

 

「ガウッ!!」

 

 蛇神を見つけるなり、ユーリは宙を蹴って飛びかかった。

 突然の乱入者に、蛇神は一瞬固まる。

 

 一一そして、その一瞬が仇となる。

 

 ガブゥッ!!

 

『ギャァァァァァァァァァァ!!??』

 

 首元に思いっきり噛みつかれ、たまらず蛇神は悲鳴をあげる。

 暴れて振り払おうとするが、寧ろ深く深く牙は食い込んでくる。

 さらに一一

 

「……んむ」

 

 バチバチバチバチッ!!

 

『アババババババババババ』

 

 不機嫌そうな声と共に放出される雷。

 当然噛みつかれていた蛇神は感電し、その巨体を力なく河に沈ませた。

 ちゃっかりユーリは離脱し、岸辺に跳んだ。もう濡れるのはごめんなのだ。

 

「オイオイ、悠里。どうしたんだよその服?」

 

 岸辺に着地すると、十六夜がニヤニヤと堪えきれていない笑みを浮かべながら話しかけてきた。

 

「……この、子……から、貰った」

『…………ぅきゅぅ』

 

 パーカーのフードから引っ張り出されたのは、先の放電を受けて伸びた稲荷。ユーリは「あ……」と申し訳なさそうな顔になった。

 稲荷からはプスプスと煙が上がり、黄金色の綺麗だった毛も所々焦げていた。

 

「……ハッ!? い、十六夜さん!? 悠里さんまで!?」

「おっ、黒ウサギも来たのか一一ってなんだその髪? 染めたのか?」

「……やほ~」

 

 突然のユーリの登場に驚いていた黒ウサギが、その緋色に染まった髪を靡かせながら走ってきた。

 十六夜は笑いながら、ユーリは稲荷を抱え直して黒ウサギに視線を向ける。

 

「もうっ、何処まで来てるんですかこの問題児様と野生児様は!?」

「世界の果てまで」

「……イッ○~、Q」

「止めなさいお馬鹿様!」

 

 黒ウサギはどこからか取り出したハリセンで、危ない発言をしたユーリを叩く。スパァンッ!と、これまた良い音がした。

 

「そんなことより、悠里。さっきのがお前のギフトってことで良いのか?」

「……あの……バチバチ~って、なる……やつ?」

「自覚無いのかよ?」

「……普通じゃ、ない……の?」

 

 首をかしげるユーリを見て、十六夜は苦笑を浮かべた。

 ユーリは雷を出すのは“普通”だと思っているようだ。まぁ、恐竜やらユニコーンやらのいる世界にいたならば、雷を出すことの出来る生き物は居そうだから仕方がない。

 

「十六夜、は……何して、たの?」

「あぁ、ちょっとさっきの蛇と喧嘩してたんだ。そしたら急に悠里が降ってきたからな、ビックリしたぜ?」

「……そっか~」

「そうそう」

「「あはははは~」」

「って何ほのぼのと話してるんですか! というか十六夜さん、どうやったら蛇神と喧嘩なんてことになるんですか!?」

「『試練を選べ』とか偉そうに言ってきやがったから、俺を試せるか試してやったんだよ」

「お馬鹿様!? いえお馬鹿様!!」

 

 再び黒ウサギのハリセンが火を噴いた。

 

『……あれ? え、これどういう状況ですか?』

 

 目を覚ました稲荷は、ユーリの腕の中で困惑するばかりだった。

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇

 

『この一一小僧共がァァァァァ!!』

 

 ザバァンッ!と三度蛇神が川から現れる。

 その首は焼け焦げ、目は完全に血走っていた。

 

『えぇっ!? ちょっ、あれ蛇神様じゃないですか!! 何であんなに怒ってるんですかぁ!?』

「俺がぶっ飛ばして、ユーリが噛みついたからだ。それと、逆廻 十六夜だ。よろしくな」

『あ、どうもご丁寧に。私は稲荷と申しま一一ではなく! 蛇神様相手に何てことしてるんですかあなた達は!?』

「喧嘩だ」

「……味、見?」

「あぁそうだ、どうだったよ味の方は?」

「……オススメ、は……出来ない」

「『もう黙っててくださいこの問題児(野生児)様方ぁ!!』」

 

 十六夜に黒ウサギのハリセンが、ユーリに稲荷の尻尾ビンタが炸裂した。

 

『もう許さんぞ、小僧共ォォォォォ!!』

 

 無視され続けていた蛇神は、水を巻き上げて水柱を作り、十六夜とユーリに放った。

 

「稲荷連れて離れてろ、黒ウサギ!」

「よろし、く」

「『え、えぇ!?』」

 

 ユーリがポイッと稲荷を黒ウサギに放り、黒ウサギはなんとかキャッチして戸惑いながらも二人から離れた。

 十六夜とユーリに、一柱ずつ水柱が迫る。

 

 

 

 

 

「一一ハッ一一しゃらくせぇ!!」

 

 

 

 

 

 しかし、十六夜はそれを拳一つで破壊し。

 

 

 

 

 

「一一んっ」

 

 

 

 

 

 ユーリは、回し蹴りから放たれた衝撃波で破壊した。

 

 

 

 

 

「『『なっ一一』』」

 

 驚愕する黒ウサギと稲荷。蛇神も驚きの声を上げた。

 

「一一悠里。これは俺が売って奴が買った喧嘩だ。だから……良いか?」

「……ん。分かっ、た」

 

 十六夜とユーリは一つ頷き合い、コツンと拳を合わせた。

 笑みを浮かべた十六夜は、蛇神の目の前まで一息で飛び上がる。

 

「一一ま、最後のは悪くなかったぜ?」

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇

 

「見てください! こんなに大きな水樹の苗を貰ったんですよ!」

『わぁ、ほんとに大きな苗ですね! これだけあれば、水に不自由することはありませんよ!』

 

 蛇神から勝利の報酬として、大きな“水樹”という木の苗を貰った黒ウサギは、ルンルン気分で戻ってきた。

 稲荷と黒ウサギはすっかり打ち解け、仲が良くなっていた。……問題児と野生児のお陰だろう。良い意味でも、悪い意味でも。

 

「Yes! これも十六夜さんが蛇神様を倒してくれたお陰一一」

「なぁ黒ウサギ」

「一一です……はい?」

 

 急に名前を呼ばれた黒ウサギが、ウサミミをピクピクとさせながら十六夜に向き直った。

 その十六夜は、隣に座るユーリと稲荷の視線を受けながら、黒ウサギに言った。

 

 

 

 

 

「一一お前、俺たちに何か隠してるだろ?」

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

 


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