問題児に混じって野生児が来るそうですよ? 作:ささみの照り焼き
◇◆◇◆◇
「そ、それでは、この《箱庭》について説明させていただきます!」
約一時間一一黒ウサギが泣き止むまでが二割で、ユーリに黒ウサギが獲物ではないと言い聞かせて理解させるまでが四割、そして残りは黒ウサギのウサミミを弄りだした問題児三名を落ち着かせるための時間一一後。あからさまに疲れの色が見える黒ウサギが、問題児三名と野生児一名を前に、精一杯の笑顔をもって説明を開始した……のだが。
「…………」ジーッ
「……ぁぅ」ヘニャリ
ユーリは全く聞いちゃいない。黒ウサギのウサミミを凝視している。
なんとか黒ウサギを獲物ではないと理解させることは出来たものの、ユーリの興味は初めて見る自分以外の人間と、それ以上に不思議なウサギと人間が合体した存在一一つまり黒ウサギに向いているのだ。
「おい、さっさと説明しろ」
「はいぃ……」
十六夜の言葉に、黒ウサギの目から汗が流れた。
~説明中~
黒ウサギの説明を纏めるとこうだ。
①《箱庭》は、修羅神仏や精霊など、様々な存在から与えられた力一一“ギフト”を持ったものたちが、オモシロオカシク過ごす場所である。
②箱庭で過ごすにあたって、“コミュニティ”と呼ばれる組織に、必ず加入しなくてはならない。
③“ギフトゲーム”という、賭けのようなものがある。
④この世界は面白い
本当はもっと長い説明だったのだが、頭の上に?マークを大量発生させていたユーリに、黒ウサギと飛鳥が簡単に説明してくれた。しかしそれでもいまいち分かっていなかったユーリだったが、十六夜が上記の三つを覚えておけば良いと言い、四つ目を笑いながら付け足した。
そして、その説明を終えた黒ウサギと問題児三名と野生児は、黒ウサギの所属するコミュニティに向かう一一はずだったのだが。
「悠里、ちょっとついて来い」
「…………?」
「お嬢様、春日部。俺ら、ちょっと世界の果てに行ってくるわ」
「「行ってらっしゃい」」
「……良いの、かな?」
そこは問題児。大人しく着いていくわけもなかった。
◇◆◇◆◇
「ジン坊っちゃーん! 新しい方々をお連れしましたよー!」
黒ウサギが、ウサミミをピコピコと動かしながら手を振る。
その先には、ダボッとしたローブを着た少年がいた。
「お帰り黒ウサギ! そちらの女性二人が?」
「はい! こちらの四名様が一一」
少年一一ジンの問いかけに、黒ウサギはクルリと振り返り一一そしてビシリと固まった。
「……ゑ? あ、あれ? もう二方ほどいらっしゃいませんでしたか? 『俺問題児!』オーラ全開の方と、ちょっと際どい服というか布を着た『僕野生児!』な殿方が?」
「あぁ、もしかして十六夜くんと悠里くんのこと?」
「……あの二人なら、ちょっと前に『世界の果てに行ってくる!』って走っていった」
「あと、黒ウサギも人のこと言えないと思うわよ? その服」
「こ、これは事情が一一ではなく! 何故止めてくれなかったのですか!?」
「『止めてくれるなよ』と言われたもの」
「『黒ウサギには黙ってて』とも言われた」
「嘘でしょう!? 本当はただめんどくさかっただけでしょう!?」
「「ハッ、何を今さら」」
「この問題児様方ぁぁぁぁぁ!!」
嘲るように言った飛鳥と耀に、黒ウサギが顔を真っ赤にさせてハリセンを降り下ろす。スパパンッ!と良い音がした。
そして、その傍らではジンが顔を真っ青にして慌てていた。
「ま、まずいよ黒ウサギ! 世界の果てには幻獣が!」
「一一ハッ! そ、そうでした!」
「幻獣?」
ガバッと顔をあげた黒ウサギを尻目に、耀がジンに問いかけた。
心なしか、目が輝いて見える。
「そ、そうです。ギフトを持った獣のことを指します。幻獣はとても強く、出くわせば最後、人間ではとても歯が立ちません!」
「あら、ということは、あの二人は揃ってゲームオーバーなのかしら?」
「……残念。悠里とは友達になってみたかったのに」
「そ、そんな悠長なことをいっている場合ではないのですよ! すいません、ジン坊っちゃん。お二人をお任せしてもよろしいでしょうか?」
「う、うん。黒ウサギは?」
「黒ウサギは一一」
キッと十六夜たちの向かった先に目をやった黒ウサギの髪が緋色に染まる。
飛鳥と耀は驚き、軽く目を見開いた。
「あの問題児様と野生児様に、“箱庭の貴族”の力を思い知らせて参ります!」
ドンッ!と地面を蹴り抜き、黒ウサギは風を切りながら跳んでいった。
「……箱庭のウサギは、ずいぶん速く跳べるのね」
「そういえば、悠里がウサミミを噛みきろうとしたときも凄く高く跳んでたよね」
「何がどうなって噛みきるなんて事態になったんですか!?」
◇◆◇◆◇
「なぁ、悠里?」
「……なぁに?」
木々の多い繁る道を走るなか、十六夜がユーリを見上げながら話しかけてきた。
十六夜は黒ウサギに勝るとも劣らないスピードで地面を蹴り、ユーリは木々の枝を足場にしてさながら猿のように移動していた。
「お前がいた世界、多分俺たちと違うだろ?」
「……ごめん、なさい。よく分から……ない」
ユーリの申し訳なさそうな顔に、十六夜は苦笑をしていいさと、首を振った。
「質問を変えるぜ。お前のいたところは、どんな生き物がいたんだ?」
「ぇと……キョーリュー、とか……ユニコーン、とか……あと、月の輪熊のゲンさんとか」
「なんだそのバリエーション? 古代生物に聖獣に熊? 楽しそうじゃねえかオイ♪」
ニヤリ、と好戦的な笑みを浮かべる十六夜。対してユーリは微妙な顔だ。
「……十六夜と、ゲンさんた、ちが……戦う、のは、ちょっと……困る」
「ん? 何でだ?」
ユーリは少し恥ずかしそうに頬を染めて、
「……両方、友達……だから」
目を明後日の方向に向けながら、そう言った。
「……ヤハハ、確かに友達の友達と戦うのは遠慮願いたいな」
十六夜は少し驚いた顔をしたのち、笑いながらそう言った。
しかし、心のなかでは一一
(悠里……ホントに男かよ?)
自分以外の男性ならば落ちていたであろう笑顔に、微妙な心境だった。
◇◆◇◆◇
主人公紹介(現時点で公開可能な範囲)
名前:神無月 悠里
カンナヅキ
容姿:銀髪紫眼。髪型はロング。目にハイライトが入ってない。
ただし、恥じらったりしたときは入る。
顔は可愛い系。並の女性よりは可愛い。
所謂男の娘だが、前髪が長いためよく見えない。
性格:野生児だが一応話せる。だが途切れ途切れになってしまう。
意外とうぶ。照れた表情はすっごく可愛い。食いしん坊。