問題児に混じって野生児が来るそうですよ?   作:ささみの照り焼き

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YES!ウサギが呼びました!
野生児が異世界から呼ばれて来ました?


 

 

 

◇◆◇◆◇

 

「あ~、む」

 

 大口を開けてかぶりついた肉は、狩った甲斐のあるとても美味なものだった。

 少年は、ムグムグと口を動かしながら、ん~♪ と微笑んだ。ご満悦のようだ。

 

「……ごきゅん。キョーリューって、こんな味…だったの、か」

 

 たどたどしく喋りながら振り向くと、背の高い木々に囲まれた開けた場所に、骨のみになったTレックスの亡骸があった。

 少年は服ーー胸と腰に布を巻き付けただけ一ーをパンパンと払い砂埃を落として立ち上がる。もちろん、肉を焼くために起こした火を消すのも忘れない 。

 トコトコと歩いていき、Tレックスの亡骸の前で犬がお座りをするようにしゃがんだ。そして目を閉じて、心のなかで謝罪と感謝の言葉を述べた。

 

「……さて、と。どうし、ようか?」

 

 ぶっちゃけた話、少年はこの後はやることがない。一日三回の食事場終わったし、冬に向けての木の実などの備蓄はそれなりにある。

 月の輪熊のゲンさんのところにいこうか? それとも、麒麟のリュカさんに余った木の実のお裾分けに行こうか?

 少年がウンウン唸りながら首を捻っていると、頭の上に何かがパサリと落ちてきた。

 

「……?」

 

 ボサボサに伸びた長い銀髪を振り回しながら頭を振ると、ヒラヒラと手紙が落ちてきた 。

 しかし、少年は手紙を見たことがない。人の言葉はたどたどしいながらも話せるが、文字なんてものは見たこともないのだ。近いものならば、月の輪熊のゲンさんが縄張りを示すためにつけるような木の傷とか、そんなものだ。

 手紙を手に取り、くるくる回してみたり、太陽に透かしてみたりとしてみるが、当然そんなことでは中身は出てこない。

 

『一一ん? おぉ、人間の坊主じゃあねぇか』

「あ……ゲン、さん」

 

 いい加減苛立ってきて引き裂いてしまおうかと思っていた矢先、月の輪熊のゲンさんが四足歩行でノッシノッシと歩いてきた。ゲンさんはTレックスに負けず劣らずの巨体なので、ゆっくりと歩いていてもなかなか迫力がある。

 

「ねぇ、ゲンさん……これ……何か、分か、る?」

『どれだ?一一あぁ、そりゃあ手紙っつってなぁ。ほれ、そこの赤い丸いのがあるだろ? それを剥いだら、中身が出てくんだ』

「……なる、ほど。さすがゲンさん……物知、り」

『ガッハッハ! よせやい、年くった老いぼれの浅知恵だ』

「……ん。でも、ありがと」

『おう! ほんじゃあ、またな』

 

 ガッハッハ! と笑いながら去っていったゲンさんを見送り、少年はペリペリと赤いシールを剥がす。

 そうして出てきたのは、少年には読めない文字で書かれた文だった。

 

 一一悩み多し異才を持つ少年少女に告げる。その才能(ギフト)を試すことを望むのならば、己の家族を、友人を、財産を、世界の全てを捨て、我らの《箱庭》に来られたし。

 

 

 少年は訳がわからずに首を傾げる。

 しかし、次の瞬間。

 

「ーーッ!?」

 

 手紙が光を発し、少年は慌てて離脱しようとするが一一

 

「うにゃっ!?」

「きゃっ!?」

「わっ」

 

 景色は一変し、体は重力に従い落下を始める。

 混乱する頭をどうにかこうにか働かせ、遥か遠くに見えた巨大な亀の背中に驚愕した。続いて下を向き、湖が見えたことで混乱はさらに酷いものとなった。

 

「にゃ一一にゃにゃにゃっ!?」

 

 雑種の猫のにゃん吉みたいな鳴き声を連発し、いまだ落下中の体をバタバタと暴れさせる。

 恐らく同じような手紙が来たのであろう三人の少年少女が不思議そうな目を向けてくる。

 何故少年がこんなに慌てているのか。これにはふかーい事情がある。

 

 

 一一まぁぶっちゃけ、少年は泳げないのだ。

 

 

 ザッパーン!!

 

 しかし現実は非情で、バックステップをしたときの勢いが少しばかりずらしただけで、敢えなく、湖に盛大な水柱を上げることとなった。

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇

 

「ケホッケホッ……クゥン」

 

 なんとか湖から上がることには成功したものの、気管に入った水を吐き出した少年はぐったりと地に伏せた。

 

「し、信じられないわ! 問答無用で引きずり出した挙げ句、空に放り出すなんて!」

「右に同じだクソッタレ。場合によっちゃ、あれでゲームオーバーだぜ。これなら石の中に呼び出された方がまだマシだ」

「……いえ、石の中に呼び出されては動けないでしょう?」

「俺は動ける」

「そう、身勝手ね」

 

 そんな少年を尻目に、同じく空に放り出された三人のうち二人一一ヘッドホンをつけた少年とお嬢様のような少女一一は、文句を言いつつ服を絞り始めた。

 ちなみにもう一人一一ショートカットの少女一一は無言で服を絞っていた。

 

「……んにぃ」

 

 少年はノロノロと起き上がり、猫のように四つん這いになる。そして、体をブルブルと震わせて、髪や体についた水を落とした。

 

「きゃっ」

 

 が、予想より大分ん飛んだらしく、お嬢様のような少女に少し散ってしまった。

 

「ぁ……ごめん、なさい?」

「え、えぇ、構わないのだけど……なんで疑問系なのかしら?」

 

 なんでと言われても。と言いたげに少年は困った表情になった 。

 少年は産まれたときから、密林やら火山やら底無し沼やらが当たり前にある、人気の()の字も無い場所で暮らしてきたので、謝るという行為の正式なやり方があやふやなのだ。

 何故だか人の言語は理解できていたが、会話したことがあるのも動物たちと一一といっても、相手が何を伝えたいのかが感覚でわかるだけ一一ぐらいだ。故に、少しばかり自信がなかったのである。

 

「……ここ、どこだろう?」

 

 と、先程まで黙っていた少女が辺りを見回しながら言った。

 

「さぁな。手紙通りなら一一っと、一応確認しとくが、お前らにも手紙が?」

「そうだけど……まずお前というのを止めてくれるかしら? 私の名前は久遠 飛鳥よ。以後気をつけてちょうだい」

「ヤハハ、了解だお嬢様」

「だから一一まぁいいわ。それで、そこの猫を抱えたあなたは?」

 

 猫? と少年は首を傾げたが、ショートカットの少女がいつの間にか三毛猫を抱えていたのに気がついた。

 

「春日部 耀。以下同文」

「そう、よろしく春日部さん。次に、野蛮そうなあなたは?」

「見たまんま、野蛮で凶暴な逆廻 十六夜です。野蛮・凶悪・快楽主義者と三拍子揃ってるから、用法容量を守ったうえで適切な態度で接してくれよ、お嬢様」

「取り扱い説明書をくれたら考えてあげるわ」

「ハハッ、マジかよ。今度作っとくから覚悟しとけよ?」

 

 カイラク? トリアツカイセツメイショ? と聞いたことの無い単語に首を傾げる少年を置き去りにして、ヘッドホンをつけた少年とお嬢様のような少女一一改め十六夜と飛鳥の言い合いは続いた。

 

「…………一一!」

 

 と、湖に落ちたために少し狂いぎみだった感覚が、獲物の気配を捉えた。

 

「一一最後に、そこの野生児のようなあなたは「ガォンッ!」えっ」

 

 飛鳥の呼び掛けを無視して、少年は湖の周りにある茂みの一角に飛び込む。

 

「うぇ!?」

「ガウッ!」

 

 茂みに隠れていた少女は、急な出来事に驚いたのか変な声をあげて固まる。

 少年はこれ幸いとばかりに、少女の頭に生えたウサミミ(・・・・・・・・・・・)に一一勢いよくかじりついた。

 

「へ?一一ウッキャァァァァァァァァァ!!??」

 

 噛みつかれた少女は、一瞬ポカンとしたあと、その耳通り、脱兎のごとく跳び上がった。

 しかし少年は噛みついたまま話さない一一かに思われた。

 

「一一にゃにゃにゃっ!?」

 

 本日二回目となるにゃん吉みたいな鳴き声を上げて、ウサミミを、ペッと吐き出し、慣性の法則にしたがって、ピュ~ッ、と宙を舞う。

 そして、その先には湖が。

 幸か不幸か、ウサミミの少女が跳び上がったコースは、まっすぐ湖直行コースだったのだ。

 なんとか逃げようとワタワタと二人して暴れるが、結局どうすることもできず。

 

 

 再び、湖に水柱が上がった。

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇

 

「……神無月 悠里(ユーリ)

「よろしくね、神無月くん」

「ヤハハ、よろしくな、神無月」

「よろしく、神無月」

「ユーリで……良い、よ……?」

「一一って、黒ウサギは放置でございますか!?」

 

 ニコニコと自己紹介をする四人一一耀とユーリは無表情なので正確には二人だが一一に、哀れなウサミミ少女一一黒ウサギのツッコミがはいった。

 

「…………」クルリ

「一一ッ!?」ビクゥッ!

「…………」ジーッ

「…………」ズザザザッ

 

 振り向いたユーリに、黒ウサギは肩とウサミミを震わせて距離をとる。よほど痛かったらしく、ウサミミは力なくヘニョリとしていた。

 しかし、ユーリは黒ウサギのウサミミを見ながら一言。

 

「……あんまり、美味、しく……なかった」

「グハッ!?」

「「「ぶっ!?」」」

 

 胸を押さえて膝をつく黒ウサギと、思わず吹き出す問題児三名。

 

「くっ、ハハハハッ! 悠里、やっぱお前面白いな!!」

「ゆ、悠里くん、そういうことはもう少しオブラートに……ぷふっ!!」

「そ、そうだよ。もしくは社交辞令を……っく!!」

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁん!!」

 

 問題児たちは腹を抱えて震え、黒ウサギは泣き出した。

 ユーリはそんな四人を、不思議そうに首を傾げながら見ていた。

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇

 

 


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