問題児に混じって野生児が来るそうですよ? 作:ささみの照り焼き
これ、元ネタ(?)は、メガロサウルスさんの「ユーリが性転換したらどういう反応になるんだろう?(笑)」という感想の中の一文です。
書きたくなったんで書いてみました。反省も後悔もしていないですけど何か?(キリッ
ちなみに時系列は気にしちゃダメですよー?
◇◆◇◆◇
「皆さん、変態です──いえ大変です!!」
ズバーン、と。
とある日の午後、ノーネームの隠れ戦闘狂こと稲荷が扉を蹴破りながら、十六夜達の居る部屋へと駆け込んできた。
変態、という言葉に反応し、黒ウサギとペストは反射的にどこぞの元・魔王の姿を探したが、言い直した稲荷にほっと息をついた。……余談ではあるが、どこぞの元・魔王がくしゃみをする姿が女性店員によって確認されていたりする。
「ど、どうしたんですか稲荷さん? そんなに慌てて」
目がグルグルと渦を巻き、明らかに混乱している様子の稲荷に黒ウサギが駆け寄る。十六夜達も、稲荷の尋常ではない様子に目を丸くしていた。
息も絶え絶えなに座り込んだ稲荷は、駆け寄ってきた黒ウサギの服を掴むと掠れた声で何かを伝えようとする。
「──ユー、リ──さんが、────」
ユーリに何かあったのか、と慌てる黒ウサギ達。
しかし、稲荷は一度大きく息を吸うと──
「──ユーリさんが! 女の子になってますっ!!」
ピシリ、と空気が凍る。
ユーリが? 女の子に? なっ……た?
長い、長い沈黙の後。
『……は?』
十六夜達は、辛うじてそれだけを言い、今度こそ思考が完全に停止した。
◇◆◇◆◇
「…………無かった」
今でも信じられない様子の耀の言葉に、十六夜がマジかよ……と呟いて目を覆う。
あの後、耀とペストで風呂場で一人取り残されていたユーリに『付いているか』を確認しに行ったのだが……結果はご覧の通りである。
ちなみに、胸は黒ウサギ並みだった、と耀とペストは悔しそうに語っていた。
「……というか、どうゆう事よ。アレが無茶苦茶だっていうのは分かってたけど……なにこれ? ねぇなにこれ?」
「知るか。俺も混乱してんだよ、少し落ち着かせろ」
混乱のあまりハイライトの入っていない目で詰め寄るペストを押し退け、十六夜は額をおさえ考える。
考えられるとすれば、ユーリの持つギフトの力だ。《
だが、それならそれ相応の理由があるはずだ。それを突き止めれば、あるいはユーリが男に……いや男の娘に戻るはず──
「……む? すまない、主殿。ユーリは何処だ?」
と、部屋に入った来たレティシアの声で十六夜の思考が一時的に中断された。
「あ? なんだ、レティシアか。ユーリのヤツならちょっと面倒なことに……待て、それはなんだ?」
「ん? これか?」
レティシアが持っていたチラシに、なんとなく嫌な予感がして十六夜はそれを奪い取った。
そこに書いてあったのは、様々なお菓子の絵と『女性限定!』の文字。
「それは明日開催されるギフトゲームのチラシだ。ユーリが気にしていたんだが、それは女性限定でな。でも、ユーリはあの容姿だろう? 女装でもすればギリギリなんとか──」
事情を知らないレティシアの説明に、十六夜は心底脱力した。
その様子に気づき集まってきた黒ウサギ達が、十六夜の背後からチラシを除きこんで同じように脱力する。
どうやら今回は、我らが野生児はこんな理由で女体化したらしい。
「──それで、ユーリを探していたんだが……どうかしたのか?」
不思議そうに首を傾げるレティシアに、十六夜は見た方が早いとその後ろを指差す。
レティシアは後ろを振り向き──そして、固まる。
「……んぅ?」
──レティシアの絶叫が響いた。
◇◆◇◆◇
『……………………』
会場中の視線を受け、レティシアはあまりの居心地の悪さにモゾモゾと身を縮めた。
その隣にいるユーリはといえば特に気にした様子はなく、ギフトゲームの開催が待ち遠しいのかふらふらと左右に体を揺らしていた。
ただし、ファンタジー世界のお姫様のような格好で。
「……………………」
なんでだー!? とレティシアは心の中で叫ぶ。
この衣装は十六夜達が用意したものだ。やはり任せるべきではなかったか……、と後悔するがもう遅い。
「…………」
チラリ、とユーリを横目で見る。
キラキラと輝く銀髪と神秘的な紫の瞳も相まって本物のお姫様のようだ──が、これでも中身は野生児である。内にあるのは純粋な食欲のみ。お姫様なんてほど遠い。
元男の娘であるユーリだが、今は胸も膨らみ骨格さえも女性のそれになっている。つまり、外見だけ見れば貴族の令嬢かお姫様。中身だけ見れば野生児の男の娘だ。
それを知っているレティシアは、ユーリに見とれている観客達に心の中でご愁傷さまと合掌した。
「レディィィィィス、ゥアァァァァァン、
突如、会場の壇上で少女が声を上げた。
手にマイクを持った少女は、それに向かい吠えるように言うと、人差し指を観客席に向け。
「──お菓子は、好きかぁあああああ!?」
『イェェェェェェェェス!!』
「…………」
レティシアは何処からともなく耳栓を取り出すと、ユーリと自分の耳に嵌めた。ちなみに防音のギフトが付与されている一級品である。
「オォケェ!! お前らの気持ちはよォく分かった! ──だが男共は参加不可なので御愁傷様でした残念無念ザマァみろ!」
うぉおおおお、と、男達の野太い悲鳴が会場に響く。
レティシアとしてはその気持ちは理解できなくはない。このギフトゲームの優勝者に進呈されるお菓子は、世界一美味しいと評判の物だ。しかも毎年違う種類のお菓子が出されるので、参加者はいっこうに減る気配がないくらいに人気であるし。
……だが何故、防音ギフト付きの耳栓をしていて声が聞こえるのだろうか。
「ハッハァ! だがしかし──いや駄菓子菓子! ここにいるレディース達は世界一の菓子を手にいれることが出来るかもしれない! 嬉しいかこの甘党共ォ!?」
わぁああああ、と、女達の黄色い悲鳴が会場に響いた。
……これはちょっと予想外だ、とレティシアは少し後悔したが、やはりもう遅い。
「さァてさてさてさて!! 下らない前口上は置いといて──ギフトゲーム、開始だァ!!」
中世のコロッセオじみた会場が、一瞬ですべてがお菓子で出来た世界に変わる。
ギフトゲームの内容はいたって単純──お菓子で出来た怪物を、より多く倒した者の勝利。
「……はぁ。主殿、こうなったら早く終わらせ──て……」
その時、レティシアは見た。見て、しまった。
「──んふっ♪」
甘い匂いに囲まれ、ご満悦な表情で舌舐めずりをするユーリを。
男の娘の状態であれば、レティシアもギリギリ堪えていただろう。
だがしかし──いや駄菓子菓子。今のユーリは正真正銘の女の子である。
──つまり、何が言いたいのかというと。
『──────』
レティシアを含め、全ての参加者は見とれてしまった。
お菓子を手にいれるために『適応』し、完膚なきまでに『女』として最高の要素を揃えまくった──今のユーリに。
「んっふふ♪」
……しかし、当のユーリはそんな参加者達に目もくれず、お菓子を手にいれるために走り出した。
◇◆◇◆◇