問題児に混じって野生児が来るそうですよ? 作:ささみの照り焼き
北側へ向かうそうですよ?
◇◆◇◆◇
ルイオスとの戦いからしばらくして。
「──悠莉くん! ちょっと来なさい!」
ユーリが部屋で寛いでいると、飛鳥が扉を蹴破らんばかりの勢い……と言うか実際に蹴破って入ってきた。
飛鳥は何事かと目を見張るユーリの首根っこをひっ掴むと、来たときと同じように扉を蹴破って飛び出る。
「……んぅ?」
そんな状態でも、ユーリはマイペースに小首をかしげている。
そしてそのまま引き摺られ続けること一分ほど。
「ここにいたのね十六夜くん!?」
飛鳥は再び戸を蹴破り、図書館へと入っていく。
そこで本の山に埋もれて眠っていた十六夜を見つけると。
「──んぅ!?」
十六夜に向かい、手に持っていたユーリをぶん投げた。
が、十六夜は脇で眠っていたジンを引っ張り出し盾にする。
「カペッ!?」
「ジンー!?」
空中でクルリと回転して見事にジンの顔面に着地したユーリに、遅れてきた耀も含めて問題児三人がパチパチと拍手を送るのを背景に、これまた遅れてきたリリが二尾を振りながらジンを助け出す。
「……で、どうしたんだお嬢様? というか良くユーリを投げられたよな」
「ええ、自分でも驚いてるわ。それに暫くは腕が上がりそうにないわね。……それはともかく、春日部さん、例のものを」
「これ」
カサリ、と耀が十六夜に一枚の手紙を渡す。
最初は寝ぼけ眼で不機嫌そうにそれを眺めていた十六夜だったが──内容を把握した途端、目が爛々と輝き口が獰猛な獣のようにつり上がった。
「『北側の鬼種や精霊達が作り出した美術工芸品の展覧会及び批評会に加え、様々な『主催者』がギフトゲームを開催。メインは『階層支配者』が主催する大祭を予定しております』だと? なんだよこれ面白そうじゃねえか行ってみようぜオイ♪」
「ええ、もとよりそのつもりよ♪」
「き、北側……──って、ダメですよ!? 黒ウサギや稲荷さんと相談して十六夜さんたちには秘密って──」
「「「「──秘密?」」」」
「………………あー」
北側という単語に反応して飛び上がるジンだが、口を滑らせて問題児三人と野生児の視線が集まったことにより「あ、これ詰んだな」的な表情になった。
「……そっか。こんな面白そうなお祭りを秘密にされてたんだね私達。ぐすん」
「コミュニティを盛り上げようと毎日毎日頑張っているのに、とても残念だわ。ぐすん」
「ここらで一つ、黒ウサギ達に痛い目を見てもらうのも大事かもしれないなぁ。ぐすん」
「……ジン、隠してた。悪い、のは……ジンと、黒ウサギと、稲荷。……だから、お仕置き、やろ。ぐすん」
文字通りの死刑宣告を受け、ジンはふらふらと焦点の合っていない虚ろな瞳で問題児たちに連れ去られていった。
しばらくして、黒ウサギの絶叫と稲荷の絶叫が見事にシンクロするのだが、その頃には五人は本拠から跡形もなく消え去っていた。
◇◆◇◆◇
この“箱庭”はバカみたいにデカい。
どれくらいかというと、北側に行くのにさえ九十八万キロも距離があるぐらい。おおよそ地球二十五個分だ。デタラメである。
“
残る手段は徒歩か、誰かを脅してカツアゲするか。……後半は耀の案だが、流石に冗談だろう。ジンはそう思うことにした。
「……キュージュー…………遠い?」
途中で言うのを諦めたのか、距離を中途半端に言ってからユーリが首をかしげた。
野生児といえども、距離感覚はそれなりにある。普通は驚くのだが。
「……悠莉の住んでいた世界は、どれぐらいの大きさだったんだ?」
「ゲン、さんが……言うには。……太陽が……六億個は、余裕で……入るって」
いかんせん、過ごしてきた場所事態が普通じゃなかった。
十六夜を含め、全員の頬がひきつる。改めてこの野生児の元居た世界がデタラメなところだと全員が理解した。
ちなみに、重力や気温などの問題は関係ない。その程度で死んでしまうほど柔な生物は住んでいないし、ユーリに至っては全てに適応してしまうからだ。もっとも、それは箱庭に来た時点で不必要になり破棄されたが。
「──しゃあねぇ。そんじゃ、白夜叉のところにいくか」
微妙な雰囲気のなか、十六夜がそう言いつつ立ち上がった。
そも、北への招待状を送ってきたのは白夜叉──サウザンド・アイズだ。ノーネームの金銭事情を理解しているだろうし、そこら辺はどうにかしてくれるだろうと言うのが十六夜の考えである。
そんなこんなで、ノーネームの問題児と野生児と誘拐被害者はサウザンド・アイズの支店へと向かった。
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