問題児に混じって野生児が来るそうですよ? 作:ささみの照り焼き
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手に入れたオリジナルを十六夜たちに渡し、ユーリと耀は飛鳥のところへと援護へ向かった。
姿を見られているのでルイオスへの挑戦権はないが、ゲームの続行は出来るのだ。暇潰しにもちょうどいい、というのがユーリと耀の共通の見解だった。
「ぎゃぁあああああぁぁぁ……」
「あちぃいいいいいぃぃぃ……」
「ありがとうございますぅうううううぅぅぅ……!!」
「「………………」」
「アハハハハハ!!」
が、援護に来て目の当たりにしたのは、死飢累々の部下たち。
全員が全員衣服や鎧を焼き付くされ、外傷を与えない炎で身を焼かれている。何人か喜んでいるような奴らがいるような気がしないでもないが、そこは努めて無視することにして。
そして、高笑いをしている稲荷。
はっきり言わなくてもカオスだ。混沌だ。つまりなんだこれ。
「あら、やっと来てくれたのね二人とも……」
ポカンとする二人に、物凄く疲れた顔をした飛鳥が水樹に腰掛けながら声をかけてきた。
「あ、飛鳥? これはどういう……?」
「あの大人しそうな稲荷が、まさか戦闘狂だったとはね……」
「……んぅ? あれ、いな……り?」
「アハハハハハ──ッハ!? わ、私は何をって何ですかこれ!? え、何!? 何があったんですかこれー!?」
意識を取り戻した──のかは分からないが、とにかく正気に戻った稲荷はわたわたと自分の回りにいる体中から煙を出す男たちを見る。
幸い、大事な部分はしっかりと衣服は残っていたので、この場の女性陣は赤面するものはだれ一人としていない。
「まぁ、何はともあれ、ほとんどの部下は倒したと思うわ。後は十六夜君がどうにかして──」
飛鳥が溜め息を吐きながら言い切ろうとした途端、ユーリが耀を脇に抱えて稲荷へ走り出した。
いまだわたわたと慌てていた稲荷を逆の脇に抱えて、次は飛鳥へと跳躍。
飛鳥の隣へ着地すると──
「──ん──ぅううう!!」
唸り声をあげて、
驚きを通り越して呆然とする女性陣とユーリはその中へと消える。
──直後、宮殿内の全てが石と化した。
◇◆◇◆◇
《
同時に、先程のユーリの行動は自分達を守るための行動だったのかと納得した。
恐らくこの石化は《ゴーゴンの威光》──黒ウサギの昔の仲間を石に変えたあの光と同効果を持ったギフトの影響だろう。そのギフトが威光と同じく光の奔流であるならば、竜巻で光を屈折させて守ったのだと想像できる。
何故光が来ると分かったのかは、多分野生児の勘だろう。
それはともかくとして、四人は慌てて宮殿の最奥へと向かった。十六夜──は無事だろうが、ジンや黒ウサギの安否が気になる。
そうして、宮殿の最奥へと辿り着いた三人が見たのは──
「──ハッ──しゃらくせぇ!」
拘束具に身を包まれた女性が吐き出した光の奔流を、踵落としで叩き割る十六夜の姿だった。
「「「えー…………」」」
「……お~」
女性陣三人が体ごと引き、対照的にユーリは目を輝かせて十六夜と女性の戦いを見る。
「蛇……!」
……というか、女性の蛇のようにうねった髪を見ていた。ついでに涎も垂れていた。
「くっ、もう一度だ、アルゴール!」
「Rerrrrrrrrrrr!!」
空に浮かんでいる男──ルイオスが、女性に命令を下す。
その命を受けて女性が光を吐き出す──が、その光の矛先は十六夜ではなく。
「──皆さん!?」
ジンと共に控えていた黒ウサギが悲鳴をあげる。
ユーリ達がここに来るまでに散々痛め付けられていたアルゴールは、バランスを崩して光をユーリ達へと放ってしまったのだ。
まぁ、しかし。
「──んっ」
「「「……は?」」」
ユーリがトンッと軽く床を蹴ると、現れた竜巻によって光は明後日の方向に屈折して消えていった。
黒ウサギ、ジン、ルイオスはポカンと間抜けに口を開けて、少し前に同じ光景を見ていた飛鳥、耀、稲荷の三人は乾いた笑みを浮かべた。
本来ならば、先程の距離があったために威力の下がっていた光とは違い、今回は竜巻をも石化させることの出来る光だ。それが石化しなかったのは、一重に《
「オイ、黒ウサギ!」
「あ、は、はい! 何ですか!?」
ポカンとしていた黒ウサギだったが、十六夜の声に我に帰る。
そんな黒ウサギに十六夜は軽く苦笑して。
「今のは立派な攻撃だよな? なら、悠莉は反撃できるんじゃないのか?」
「……はい、箱庭の中枢から許可は出ました!」
それを聞いた十六夜は心底つまらなそうな顔で、後ろ指にアルゴールとルイオスを指しつつユーリを見て声をかけた。
「悠莉、後は任せていいか? もう飽きたんでな」
「ん!」
後始末を任されたというのに、ユーリの顔は寧ろ喜びに満ち溢れている。
それと言うのも──
「……いただき、ますっ!」
「な──あ、アルゴール!」
「R、Rerrrrrrrrrrrrrrrr!!!」
走り出したユーリに、アルゴールが光を吐き出す。
しかしそれは、風を纏ったユーリの拳に殴られ彼方へと消えていく。
数秒もしないうちにアルゴールの元へと辿り着いたユーリは、跳び上がってアルゴールの頭へと組み付く。
そして大きく口を開けて──
「は──むっ!」
「Ge──Gyaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!!!!」
やはりというか、噛みついた。
アルゴールは獣のような悲鳴をあげ、たまらずブンブンと頭を振り回す。
しばらくそうしていたユーリだったが、唐突に顔をしかめてアルゴールから離れた。
「──んっ!」
着地と同時、アルゴールの足を掴んでルイオスへとぶん投げる。
「なっ──」
驚愕の表情を浮かべるルイオスと、それに重なるように飛んでいくアルゴールに向かい、ユーリは《
たちまち炎と髪が一体化して瞳のなかで炎が渦巻き、拳に炎が圧縮されていき巨大な腕を形作る。
そしてしっかりと右足を踏み込んだユーリは──
「──るぁっ!」
その巨腕を、振り抜いた。
炎が渦を巻きながらルイオスとアルゴールを飲み込んでいく。
身を焼き焦がすはずのそれは、しかしルイオスとアルゴールの意識だけを奪い取っていった。
ユーリはギフトゲームの前日に、白夜叉にこんなことを言われた。
「すまんが、ルイオスの命まではとらないでくれんか」
ルイオスはけして親がコミュニティのリーダーだったからという理由だけでリーダーへとなったわけではない。非凡ならぬ才能を持っていたし、事実ルイオスのギフトゲームの戦績は中々のものだった。だが、その人を見下した性格からか、親の七光だなんだと言われ始めて、その性格に拍車がかかって今のようになったのだ。
故に白夜叉は、今回のことで懲りて少しはマトモになることを願っていた。
「ん。……約、束」
ユーリはそう答えた故に、ルイオスを殺さずに意識を奪うのみに納めたのだ。
ユーリの一撃を受けてアルゴールは完全に沈黙し、ルイオスも意識を失った。
「……ん……勝ち」
嬉しそうにピースをして、だが顔は無表情な上に抑揚のない声のユーリに、ノーネームのメンバーは苦笑した。
ギフトゲーム、『“FAIRYTALE in PERSEUS”』。
勝者──ノーネーム。
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