問題児に混じって野生児が来るそうですよ?   作:ささみの照り焼き

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取ったどー、と《超回復》だそうです?

◇◆◇◆◇

 

 

 ドゴンッ!

 

「グッ──ガハァッ!」

 

 ユーリの蹴りで吹き飛ばされた部下の一人が、勢いそのままに柱の一柱へと叩きつけられて崩れ落ちた。

 これで、ユーリによって撃墜された部下は二十人を越えた。ちなみに、全員一撃だ。

 

「……また、違った」

 

 その兵士が被っていた兜をもぎ取ってしばらく眺めたあと、ユーリはポイと放り投げる。カランカランと虚しい音を立てて、兜が転がっていった。

 ユーリが探しているのは、透明化の能力を持ったギフトのオリジナルだ。

 もう既にレプリカは二つ手に入れているが、万全を期すために十六夜とジンは隠れた状態で、耀とユーリが手分けをして探しているのだ。

 

「悠莉、見つかった?」

「……まだ」

 

 耀からの問いかけにユーリは残念そうに答え、次いで耀をみて首をかしげた。

 

「なんで……離れ、てる?」

「…………な、なんとなく?」

「……んぅ?」

 

 耀とユーリの距離は、大分開いている。具体的に言うと、最低でも五メートルは。

 目をそらしながら言った耀に再び首をかしげたユーリは、その場でクルリと一回転して真後ろの空間を殴り付けた。

 

「ガッ!?」

 

 何もないはずのその空間から声が聞こえたかと思うと、その先の壁に、唐突に人が現れた。

 それはルイオスの部下の一人で、壁にめり込んでボロボロになった兜を被っていた。

 言わずもがな、たった今ユーリが気配を察知して吹き飛ばした部下の一人である。

 

「……ん、また違う」

「まぁ、そう簡単に見つかるものじゃ──ない、よっ!

 

 しゅんとなったユーリを慰める途中、耀が突然飛び上がって、先程まで自分のいた場所を飛び越えながら一回転。そしてそのまま自分がいたから人一人分後ろの空間を蹴りつける。

 先程のリプレイのように、壁にめり込みボロボロの兜を被った部下が、また一人現れた。

 

「……出ない」

「……出ないね」

 

 二人して手詰まりである。

 二人の倒した部下を合計すれば、もう五十に達しそうだ。さすがにそろそろ、オリジナルを発見したい。

 

「──ッ! 耀!」

 

 何かに気づいたように、ユーリが耀へと飛び付く。

 ユーリが耀に覆い被さる形になり、耀の顔が一瞬で真っ赤になる。

 

「──んっ!?」

「悠莉!?」

 

 が、何かに殴り付けられたように(・・・・・・・・・・・・・)、吹き飛ばされたユーリに耀は驚いて叫び、駆け寄ろうとする。

 しかしユーリが右手を伸ばして止めた。

 恐らく、先程ユーリが吹き飛んだ原因は、兜のオリジナルのギフトを持った部下の仕業だ。その証拠に耀は気づけなかったし、ユーリも敵が大きなモーション──拳を振りかぶる、もしくは足を振り上げる──をするまで気づけなかった。

 透明化のオリジナルギフトは、気配までをも隠すらしい。それでも気づいたユーリは、流石野生児といったところか。

 

「…………」

 

 ユーリが周囲を警戒する。

 敵も自分の攻撃を見破ったユーリを警戒してか、すぐには攻撃してこない。

 そして、その状態が十数秒続き。

 

「……──ッ!!」

 

 ユーリが、虚空に手を伸ばして何かを掴んだ。

 そしてそのまま──

 

「飛んで──けっ!!」

 

 グルンと大きく振りかぶり──ぶん投げた。

 

「──グガッ!!」

 

 苦悶の声と共に、壁の一部が凹んだ。

 そして、使用者が気を失ったからか、透明化のギフトの効果が切れたようで、一人の部下が姿を現した。

 ユーリはトコトコとその部下に近づき。

 

「……取ったどー」

 

 剥ぎ取った兜を掲げて、抑揚のない声を上げた。

 反応に困って微妙な顔をしていた耀は、しかしユーリの腕を見て慌てた顔になる。

 

「ゆ、悠莉、血が!」

「んぅ?」

 

 恐らく先程吹き飛ばされたときに怪我をおったであろうその腕を持ち上げた耀に、ユーリは首をかしげる。

 そんなユーリを無視して、耀は慌てて怪我を治療しようと──

 

「……え?」

 

 怪我が、まるでテープの巻き戻しのように治っていく様子を見て、呆けた声を漏らした。

 ハッと我に帰って、そういえばとユーリのギフトを思い出す。

 《超回復(リカバリー)》は、あらゆる傷を癒すギフトだったはずだ。ならばこの程度の傷、問題はないのだろう。

 

「よかった……」

「……耀?」

「ん? な──に?」

 

 顔を上げた耀とユーリの顔の距離、約十センチ。

 ユーリの紫玉とバッチリ目が合い、耀の顔が溶けるのではないかと言うほど熱くなる。

 さらに、《超回復》のことを思い出したついでに、ガルドとの一戦後のことを思い出す。

 それがさらに耀の顔を赤く染め、しばらく間が空いて。

 

「……うきゅぅ」

「……んぅ?」

 

 耐えきれずに気絶した耀をすんでのところで抱えたまま、ユーリは首をかしげた。

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇

 

 


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