問題児に混じって野生児が来るそうですよ? 作:ささみの照り焼き
◇◆◇◆◇
その大きな足をうねらせ、クラーケンが襲いかかってきた。
しかしユーリはそれを紙一重で避けて、大きく宙へ飛び上がる。
「──ガブッ!」
そして、大きく口を開けてクラーケンの足へと噛みついた。
クラーケンは悲鳴をあげてあっちへこっちへ出鱈目に足を振り回す。
が、ユーリは離れずに噛みついたまま──
「……んむ」
蛇神の時と同じように不機嫌そうな声をあげて。
ゴォオオオオオオオオオオ!!!!!
《
「ーーーーー!!!!!」
声にならない悲鳴をあげ、さらに激しく暴れまわるクラーケン。
しかしその抵抗も虚しく、一向に火の手が収まる兆候はない。
「ーーーーー…………」
しばらくして、クラーケンはその巨体を地響きと共に地へと伏せた。
「……んむ」
その間もクラーケンに噛みついていたユーリは、クラーケンの足を噛み千切って咀嚼し、一言。
「……結構な、御手前で」
それは違う。とツッコむ人員は居らず、ユーリのどこか間違った言葉は、続けてユーリの手により放り込まれたクラーケンの足によって虚しく消えていった。
◇◆◇◆◇
──時を遡ること、ユーリが耀の様子を見て来て、その不思議な対応に首をかしげながら十六夜に報告しに戻ってきた頃。
「……んぅ?」
覗けば十六夜は居らず、ティーセットがそのままに置いてあるだけだった。
そこでユーリは、自慢の嗅覚を使って十六夜を追跡。途中黒ウサギと見知らぬ──いや嗅ぎ知らぬ誰かの臭いも混じっていることに気づき、ユーリはさらに首をかしげながらも追跡を続行。
そして辿り着いた時見たのは──見知らぬ誰かが、光に飲まれて石へと変わる姿だった。
後から聞いた話では、あの誰かは黒ウサギ達の昔の仲間だったらしい。その昔の仲間は、十六夜をコミュニティを預けるに足るか試そうとやって来たらしいのだ。
が、途中現在その昔の仲間の所有権を握っている“ペルセウス”というコミュニティが現れ、その仲間を石へと変えて連れ去っていったのだ。
その後、ユーリや飛鳥、耀も含めて、ノーネーム一行はサウザンドアイズへと向かった。ペルセウスと交渉をするためである。
しかしこの交渉は失敗。しかも黒ウサギは身を差し出せば昔の仲間を返してやると言われ悩みだし、飛鳥と耀から謹慎処分を申し付けられる。
そんな中、十六夜とユーリを白夜叉が呼び出した。
「おんしら、あやつらを助けるつもりはあるか?」
告げられたのは、ペルセウスと決闘をするための挑戦状を手に入れるためのギフトゲーム。十六夜とユーリは一も二もなく即答で了承し、早速向かった。
ただ、このギフトゲームは二つあり、そのどちらを担当するかで揉めた。
片方はクラーケンのギフトゲームで、所謂力押しでクリアできるタイプのものだ。対してもう片方はグライアイのギフトゲームで、所謂謎解き系のギフトゲームだった。
十六夜は暴れたいからクラーケンに行きたい。ユーリは食べたいからクラーケンに行きたい。
相反する両者のにらみ合いは、しかし店内で暴れられることを危惧した女性店員によりじゃんけんという形になった。
しかしユーリはそのルールを知らない。そこで女性店員が根気よく教えること十数分。いざ始まった勝負は──ビギナーズラックか、ユーリの勝利だった。
渋々、十六夜はグライアイへと向かい、ユーリはご機嫌でクラーケンへと向かった。
──そして結果は、冒頭の通り。クラーケンは、その身を余すことなく食べ尽くされた。憐れ、クラーケン。
◇◆◇◆◇
クラーケンとのギフトゲーム後、ユーリは羽衣のギフトをフルに使って空を音速に迫ろうかという速度で駆け抜けて行く。
しばらくして見えたノーネームの拠点を見て着地しようとしたユーリだったが、今の速度では着地など到底不可能。
仕方なく、逆側に羽衣のギフトで空中を蹴って速度を減らし──それでもかなりの勢いのまま、黒ウサギが謹慎中だったと記憶していた部屋へと突っ込んだ。
ドゴォオオオオン!!
「きゃあ!? な、何!?」
「わわっ!?」
「うおっ!?」
「うっきゃあああ!?」
部屋の主の黒ウサギ、訪ねてきていた耀と飛鳥、そして帰還して間もない十六夜の声は爆音に掻き消され、もうもうと立ち込める砂煙と飛んでくる木片の欠片を防ぎながら十六夜たちは侵入者を睨み付ける。
やがてその煙が晴れ──
「……きゅう」
──ひっくり返って、頭を勝利報酬で手に入れたボーリングの玉ぐらいの大きさの宝玉のような物にぶつけた、ユーリの姿を確認した。
「……なんだ、ユーリか。ならしょうがないな」
「そうね。しょうがないわ」
「うん、しょうがない」
問題児たち三人は、いまだに若干立ち込めている煙を払いつつ、何事もなかったかのように撤収し始めた。
その手際は素早いもので、十秒もしないうちに問題児たちは消えた。
「……黒ウサギはもう、泣いてもいいと思うのです」
残ったのは目に汗をにじませながら膝と手をつく黒ウサギと。
「……きゅう」
いまだ目を回している、ユーリだけだった。
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