問題児に混じって野生児が来るそうですよ? 作:ささみの照り焼き
◇◆◇◆◇
「一一まず確認したいのだけど……悠莉くんはいくつなの?」
「……だいたい、一億」
飛鳥は思わずこめかみを押さえた。
いや、予想はしていた。話を聞いていた、少なくとも6000才に達していることは。
しかし信じろというのも無理な話で、今目の前にいるこの少年は、とても一億の時を生きてきた人間だと一一いや、もう人間の領域を出ているのだが、ともかく信じられない。
風呂上がりのユーリを捕まえて、明日のギフトゲームの打ち合わせ一一といっても話すことはあまり無いが一一をするために、飛鳥と耀のいる部屋へとつれてきたのはいいが、そも、自分達はそれぞれのことを、ギフトを含めてよく知らないことに気がついた。そこで、一先ずユーリの年齢から確認することにしたのだ。
「い、一億……」
予想以上どころではない。だいたい、ということはもしかしたらそれ以上かもしれないのだ。もちろん下回っている可能性もあるが、ほぼ誤差の範囲だろう。
飛鳥たちの約625万倍。出鱈目にもほどがある。
「ねぇ、悠莉の居た世界には、どんな友達が居たの?」
「……ユニコーンとか、月の輪熊とか……猫とか犬……あと一一」
頭痛のしてきた頭を押さえる飛鳥を尻目に、耀とユーリは楽しそうに話している。
この世界に来てから、初めて出来た友人たちではあるが、どうにも掴めない。
耀は動物のことになると、まるで人が変わったように目をキラキラとさせて話し出す。実際、ユーリの友達の話を聞いていて、ユーリの年齢など毛ほども気にしていないようだし。
ユーリはもっと分からない。一億年近く生きているのに、同い年の少年のような感覚で話せる。……それに、
だが、ユーリは何事もないかのように、動かなかった。
飛鳥のギフトは、いわば強制的に自分の命令を聞かせるギフト。黒ウサギによれば、おそらく自分より霊格の低い相手を操るギフトらしい。つまり、ユーリは飛鳥より霊格が遥かに高いことになる。
……まぁ、一億年を生きた野生児と、たかだか十代の問題児の霊格が同等であるはずもない。
「……飛鳥?」
「一一え?」
かけられた声に、ふと我に帰る。
そして、視界に飛び込んできたのは、こちらをジッと見つめるユーリの顔。
飛鳥は、思わず顔を真っ赤にしてしまう。
飛鳥とて、まだまだ青春真っ盛りの年頃だ。しかも、令嬢という立場故に、異性がこんなに近くに迫ってきたのは一回もないのである。
つまり、照れたのだ。
「え、えぇと、私は大丈夫よ。……だから、少しはなれてくれるかしら」
「……ん」
ユーリはふいっと顔をそらすと、次は耀に向き直った。
そして一一
「お手」
「わぅ」
「おかわり」
「わぅっ」
「……いい子」
「くぅん♪」
「…………」
飛鳥、絶句である。
いつの間にか、友人たちが主従の関係になっているのだから、無理もない。
「ほら、飛鳥も」
「え?」
「…………」ジーっ
「……え?」
向けられる、純粋無垢なユーリの視線。
「……お、お手?」
おずおずと、飛鳥はユーリに手を伸ばす。
「わぅ♪」
ポンッ、と置かれる丸められたユーリの手。
「……」
飛鳥は戦慄した。
一一何これ、可愛い
「お、おかわり」
「くぅん♪」
「……いい子ね♪」
「わぅんっ♪」
「次は私の番」
結局、ギフトゲームの打ち合わせは行われなかった。
◇◆◇◆◇
一おまけ一
世界の果てに行く道中の事。
「なぁユーリ」
「……んぅ?」
「とってこぉいっ!!」(木の棒を馬鹿げた速度でぶん投げる)
「ガゥッ!!」(馬鹿げた速度で木の棒を追う)
~数分後~
「わぅっ!」
「よぉしよし。ちゃんと取ってこれたな」
「……くぅん♪」
どうやら、十六夜とも主従関係は成立していたようです。
◇◆◇◆◇