問題児に混じって野生児が来るそうですよ? 作:ささみの照り焼き
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しばらくして、ユーリ達は黒ウサギの案内のもと、ノーネームの本拠地へと来ていた。
「……これが3年前? 300年前の間違いじゃないのか?」
「いいえ。これは正しく、3年前に襲来した魔王……その力が産み出した惨状です」
まるで、何百年という年月の間放棄されていたような、荒廃した建物や自然。
それが、ノーネームの本拠地の現状だった。
「……なんて出鱈目な」
冷や汗を流しながら、飛鳥が小さく呟く。
隣に立つ耀も、あまりの光景に言葉が出てこないようだ。
「…………」
そんな中、ユーリは元居た世界の景色を思い出していた。
あの異世界人がもたらした災禍も、1000年単位の時間をかけなければこうはいかないだろう。実際、ユーリの元居た世界もそうだった。
だが、それをやってのけるだけの力を持つ化物がいる。
「……ん」
決めた、とユーリは小さく頷いた。
あんな景色は、もう見たくない。あんな惨劇は、もう繰り返させない。
それが、あの世界での惨劇を乗り越えた、自分の意思だ、と。
『ユーリさん? どうかしましたか?』
腕の中に抱かれた稲荷が、心配そうに見上げてくる。
ユーリは首を振って、大丈夫だと伝えた。
「……さて! それでは、十六夜さんがとってくれた水樹で、ノーネームの水路を復活させましょうか!
「……あぁ、そうだな」
魔王という存在に圧倒され、飲み込まれかけていた十六夜たちだったが、黒ウサギの一言によって気持ちを切り替えた。
飛鳥たちも頷き、ノーネーム一行は水路を復活させるべく、本拠へと足を踏み入れた。
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「…………うにぃ」
元居た世界にも温泉はあったが、とても入れる温度ではなかったので本当に初めての入浴だ。そも、所持しているギフトの一つ、《
が、それとこれとは話が別である。というのは飛鳥の談。
水路が回復したために風呂に入れる、という黒ウサギの発言を受け、
「……お風呂って……何?」
と小首を傾げながら質問したユーリを、飛鳥たちが無理矢理風呂に押し込んだのだ。
ちなみに、道中感じた視線や、そろそろ来るであろう
短い付き合いながら、ユーリは動物としての本能で十六夜達を信頼しているのだ。
「一一はぁぁ……いいお湯ですねぇ」
と、ユーリの隣で、
真っ白な肌を上気させ、頭の上の狐耳をピコピコと動かす。大きく特出する部分は無いものの、その均等のとれた体つきは、世の男たちの視線を捉えて離さないだろう。
そんな美少女を前に、しかしユーリは未だ腑抜けた声で返事を返す。
「……ん。結構、気持ち……いい」
「でしょう? それに、せっかく綺麗な銀髪をしているのですから、、少しは身なりに気を付けてください」
「……前向きに……検討、します」
「社交辞令!? もしかして、また十六夜さんが余計なこと吹き込んだんですか!?」
「
「私は馬じゃありません!」
そう、何をかくそう、この少女は稲荷である。
ユーリと出会った当初は弱っていたものの、しばらく休んでいた稲荷は、人化が出来るまでに回復したのだ。
そして、勝手の分からないユーリに入浴方法などを教えるために、こうして一緒に入っているわけである。
この役目は黒ウサギや子供達でもよかったのだが、いかんせんユーリは野生児だ。黒ウサギはもちろん、子供たちの中にも獣耳を生やした子達はいる。なので、下手をすれば獲物と見られかねないからだ。
「……というか、実際リリちゃんの耳を甘噛みしてましたし」
すでに手遅れであった。
「……結構……美味し、そうだったから」
「だからってすぐ味見しない 分かりましたか!?」
「……ハーイ」
気の無い返事を返すユーリ。
稲荷は呆れた様子で、湯船に体を預けた。
そんな二人をよそに、外では石ころが地面を粉砕した音が鳴り響いたのだった。
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