問題児に混じって野生児が来るそうですよ?   作:ささみの照り焼き

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入浴!だそうです?

 

◇◆◇◆◇

 

 しばらくして、ユーリ達は黒ウサギの案内のもと、ノーネームの本拠地へと来ていた。

 

「……これが3年前? 300年前の間違いじゃないのか?」

「いいえ。これは正しく、3年前に襲来した魔王……その力が産み出した惨状です」

 

 まるで、何百年という年月の間放棄されていたような、荒廃した建物や自然。

 それが、ノーネームの本拠地の現状だった。

 

「……なんて出鱈目な」

 

 冷や汗を流しながら、飛鳥が小さく呟く。

 隣に立つ耀も、あまりの光景に言葉が出てこないようだ。

 

「…………」

 

 そんな中、ユーリは元居た世界の景色を思い出していた。

 あの異世界人がもたらした災禍も、1000年単位の時間をかけなければこうはいかないだろう。実際、ユーリの元居た世界もそうだった。

 だが、それをやってのけるだけの力を持つ化物がいる。

 

「……ん」

 

 決めた、とユーリは小さく頷いた。

 あんな景色は、もう見たくない。あんな惨劇は、もう繰り返させない。

 それが、あの世界での惨劇を乗り越えた、自分の意思だ、と。

 

『ユーリさん? どうかしましたか?』

 

 腕の中に抱かれた稲荷が、心配そうに見上げてくる。

 ユーリは首を振って、大丈夫だと伝えた。

 

「……さて! それでは、十六夜さんがとってくれた水樹で、ノーネームの水路を復活させましょうか!

「……あぁ、そうだな」

 

 魔王という存在に圧倒され、飲み込まれかけていた十六夜たちだったが、黒ウサギの一言によって気持ちを切り替えた。

 飛鳥たちも頷き、ノーネーム一行は水路を復活させるべく、本拠へと足を踏み入れた。

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇

 

「…………うにぃ」

 

 一億年近く生きてきて(・・・・・・・・・・)初めて入る風呂に(・・・・・・・・)ユーリは腑抜けた声を漏らした。

 元居た世界にも温泉はあったが、とても入れる温度ではなかったので本当に初めての入浴だ。そも、所持しているギフトの一つ、《超回復(リカバリー)》は体の老廃物さえ回復一一つまり体を常時清潔に保っているため入る必要もない。

 が、それとこれとは話が別である。というのは飛鳥の談。

 水路が回復したために風呂に入れる、という黒ウサギの発言を受け、

 

「……お風呂って……何?」

 

 と小首を傾げながら質問したユーリを、飛鳥たちが無理矢理風呂に押し込んだのだ。

 ちなみに、道中感じた視線や、そろそろ来るであろう来客(・・)については、十六夜に任せろと言われたので、こうして大人しく入浴しているわけだ。

 短い付き合いながら、ユーリは動物としての本能で十六夜達を信頼しているのだ。

 

「一一はぁぁ……いいお湯ですねぇ」

 

 と、ユーリの隣で、金色の髪を纏め(・・・・・・・)九本の尻尾を緩やかに揺らす少女(・・・・・・・・・・・・・・・)が呟いた。

 真っ白な肌を上気させ、頭の上の狐耳をピコピコと動かす。大きく特出する部分は無いものの、その均等のとれた体つきは、世の男たちの視線を捉えて離さないだろう。

 そんな美少女を前に、しかしユーリは未だ腑抜けた声で返事を返す。

 

「……ん。結構、気持ち……いい」

「でしょう? それに、せっかく綺麗な銀髪をしているのですから、、少しは身なりに気を付けてください」

「……前向きに……検討、します」

「社交辞令!? もしかして、また十六夜さんが余計なこと吹き込んだんですか!?」

稲荷(・・)……どうどう」

「私は馬じゃありません!」

 

 そう、何をかくそう、この少女は稲荷である。

 ユーリと出会った当初は弱っていたものの、しばらく休んでいた稲荷は、人化が出来るまでに回復したのだ。

 そして、勝手の分からないユーリに入浴方法などを教えるために、こうして一緒に入っているわけである。

 この役目は黒ウサギや子供達でもよかったのだが、いかんせんユーリは野生児だ。黒ウサギはもちろん、子供たちの中にも獣耳を生やした子達はいる。なので、下手をすれば獲物と見られかねないからだ。

 

「……というか、実際リリちゃんの耳を甘噛みしてましたし」

 

 すでに手遅れであった。

 

「……結構……美味し、そうだったから」

「だからってすぐ味見しない 分かりましたか!?」

「……ハーイ」

 

 気の無い返事を返すユーリ。

 稲荷は呆れた様子で、湯船に体を預けた。

 

 

 

 

 

 そんな二人をよそに、外では石ころが地面を粉砕した音が鳴り響いたのだった。

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇

 

 


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