問題児に混じって野生児が来るそうですよ? 作:ささみの照り焼き
◇◆◇◆◇
黒ウサギとジン達の所属するコミュニティが、まだその旗と名を掲げていた頃のことだ。
「《災禍の魔王》……奴はそう名乗っていた」
場所は変わり、サウザンドアイズの支店の、白夜叉の私室。そこで神妙な顔をした白夜叉が、ノーネームの面々を前に話していた。
内容は、ユーリの持つ災禍のギフトと一一そのギフトを、過去に所持していた魔王について。
「奴のギフトはあらゆる災いを操る、最凶最悪のギフトだ。腕を振るえば雷が大地を穿ち、目を向ければ病が振り撒かれ、声を上げれば草木が枯れる。……奴ほど出鱈目な力を持つ魔王はそうそうおらんだろう」
文字通りの災禍。言葉通りの災い。
それが、《災禍の魔王》だった。
「しかも、奴が賭けさせたのは旗でも、名でも、ギフトでもない。一一命だ」
悲痛な面持ちで語る白夜叉に、十六夜たちは思わず息を飲む。
「……結果、百はくだらないコミュニティが文字通り潰された。その中にも、当時名を馳せておった私の友人のコミュニティもおったのだ。……まぁ、仇を討つ前に、奴はどこかへと消えたがの」
パシリ、と扇子を閉じて、白夜叉は締めくくった。
「さて、次はおんしの番だ。……聞かせてもらおうか、そのギフトを何処で手に入れたのかを」
「……ん」
白夜叉の鋭い視線に臆することなく、ユーリはたどたどしい口調で話し始めた。
◇◆◇◆◇
一一
ユーリが、
突如として、
その頃のユーリは、まだまだ幼かった。それこそ、今では楽々と勝つことのできる元居た世界の生物の中で、最弱であった。
隕石の原因は、たった一人の
ユーリは6000年経った今でも覚えている。
天から落ちてくる巨大な隕石と、それを背に空中に立つ一人の人間の形をした何か。
その時は、沢山の友達に助けてもらい、死にかけで済んだ。
しかしその被害は甚大で、沢山の命が失われていた。
一一ユーリの所持するギフトの一つ、《
これは、生物としての進化の証である。
あらゆる環境に適応し、生き残ることを欲する生物としての本能。その最終進化系と言っても過言ではない。
《
《
生き残るために必要な
生き残るためならば、あらゆる手段をもってその害を排除する、凶悪なギフト。
しかして、その
1000年が経ち、世界は荒廃した。
2000年が経ち、生物の大部分が絶滅した。
3000年が経ち、生き残るために生物が急激な進化を遂げた。
4000年が経ち、ユーリの所持する
5000年が経ち、《適応力》は一つの結論を出した。
《適応力》の出した結論。それは、災禍に災禍をぶつけることだった。
『目には目を、歯には歯を』の言葉通り、災禍に災禍をぶつけて相殺したのだ。
結果として、《適応力》は一人の異世界人を殺し、生き残るために、5000年という途方もない時間を費やし一一異世界人を殺し、生き残った。
皮肉なことに、異世界から舞い降りた災禍は、その世界に新たな災禍を産み出して消えたのだった。
◇◆◇◆◇
ユーリが話し終える頃には、その話を聞いていた全員があまりの途方もない過程に、愕然としていた。
「《適応力》……生き残るためにギフトを産み出すギフトじゃと……!?」
「というか、さっきの話によると……悠莉くんは少なくとも6000才ってことになるわよね……?」
「しかも、災禍から生き残るために災禍をぶつける? 荒唐無稽すぎる結論だぜオイ」
『……なんと言うか、途方もなさすぎて言葉も出てきません』
「……同感」
「……これ以上は、黒ウサギの脳がキャパシティオーバーを起こしそうなのですよ……!」
反応は様々で、予想以上に強力なギフトに驚愕したり、話から察した年齢に頬をひくつかせたり、無茶苦茶な結論に呆れたり、言葉を失っていたり、自分達の呼んだ野生児の過去に頭痛がしてきたり、と。
しかしながら、その中でもユーリは、お腹が空いたな、等と緊張感の無いことを考えていたりする。
「……一先ず、今日のところは帰りませんか?」
黒ウサギの提案に、後日また改めて訪ねることにして、今日は解散することとなった。
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ユーリの所持ギフト説明まとめ。
《
生物としての進化の証。生き残るためにあらゆる手段をもってその害を排除する。
必要であるならば、ギフトを産み出すことさえできるギフト。
《
あらゆる傷を癒すギフト。その効果は異常なまでで、腕をもがれても一秒もしないうちに治す。
※追記 このギフトは老化も防いでいます。ですので、不老のギフトでもあります。
《
あらゆるものを強制的に進化させるギフト。
例 ただの剣→魔剣クラスの性能にはねあがる
ただし、効果が切れたときの反動が大きく、上記の例ならば効果が切れたと同時に剣が原子レベルまで分解される。
《
あらゆる災いを操るギフト。
過去に《災禍の魔王》が所持していたギフトの模倣ギフト。
※注意
過去に所持していた億を越えるギフトは、災禍を手に入れると同時に《適応力》が不必要と判断し、全て失われました。
元々、《災禍の魔王》を殺すために作られたものですから、そのギフトで倒せないのならば不必要、ということです。