問題児に混じって野生児が来るそうですよ?   作:ささみの照り焼き

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千の目と新たな獲物とギフトネームだそうですよ? (中編)

◇◆◇◆◇

 

 様子を見に来た女性店員により、ユーリの食事と変態たちの撮影会は終了した。

 結局、稲荷によって撮影機材を全て壊され、白夜叉と十六夜は少ししょんぼりとなっている。

 

 そして、現在。

 

『……なんで、こうなったんでしょうかねぇ』

「さぁ……」

 

 白夜叉と対峙する問題児三人を見て、ユーリの腕に抱かれた稲荷と、その隣に立つ黒ウサギが、ひどく遠い目をしながら呟いた。

 場所は白夜叉が展開したゲーム盤の上。水平に回る太陽と、巨大な山脈の見えるゲーム盤だ。

 

「……しょうがねぇ。今回は(・・・)試されてやるよ」

「えぇ、今回は(・・・)、ね」

「……うん。今回は(・・・)

「ククッ、良かろう。今回は(・・・)、だな」

 

 隠す気のない、リベンジする気満々ですよ~なオーラ全開の四人の会話に、さらに稲荷と黒ウサギの目が遠くを見た。

 

「……では、今回の試練は一一」

 

 その時、ユーリの聴覚が羽ばたきの音を一一否、大気を踏みしめる音をとらえた。

 それと同時、白夜叉が手に持った扇子で遥か遠くに見える山脈を指した。

 

「一一グリフォン!?」

 

 耀が驚愕の声を上げた。十六夜や飛鳥も、声には出さないが目を見開いていた。

 ただ、見たことのあるユーリは別段驚くこともしなかったが。

 

「……おんしは、驚かんのじゃの」

「……見たこ、と……ある、から」

「ほぅ。おんしのいた世界とやらは、どうやら他の小僧どもとは大分違うようじゃの」

「……ぇと、白夜叉?」

「なんじゃ?」

 

 グリフォンと会話する耀が、自分の命と引き換えにギフトゲームに挑む。と言ったのを尻目に、ユーリは白夜叉に向き直って告げた。

 

 

 

 

 

「……試練じゃ、なくて……決闘、したい」

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇

 

 ユーリのいた世界では、弱肉強食が当たり前だった。

 

 もちろん、ユーリだってその例に漏れず、常に死と隣り合わせで生きてきた。

 生きるために襲ってくる動物たちを、生きるために殺して食べる。

 ユーリだって好き嫌いはあるが、残すようなことはしない。それは、殺された彼ら彼女らへの冒涜になるからだ。

 

 そして、ユーリは常に対等な立場で全ての生き物たちと戦ってきた。

 奢りも、慢心も、恐怖も、生物としての格差も、全てを無視して戦ってきた。

 

 その結果、ユーリは住んでいた森一帯でヒエラルキーの頂点に立った。

 

 ユーリの本能は、白夜叉には敵わないとは告げていない(・・・・・・)

 なにより、ここで引いてしまえばあの森に住む生き物たちの格を下げることになる。

 

 だから、負けようが勝とうがどうでも良い。

 ただ、ここで引くことは、生物としての本能が許そうが、あの森の長としての立場が許さないのだ。

 

 

 

 

 

 グリフォンを味見しながら、ユーリはそんなことを考えていた。

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

 拳が空気を切り裂く。

 

 

 蹴りが地面に亀裂を生む。

 

 

 雷はあらゆるものを焼きつくし。

 

 

 衝撃波は全てを砕かんと突き進む。

 

 

 

 見誤っていた。

 白夜叉は、己の過ちを認めた。

 

(なんなのだ!? このデタラメな動きと、それに反する程の実力は一一一一っ! )

 

 “ソイツ”から放たれた蹴りと、それに追随してくる形で生み出された衝撃波を避け、一旦距離をとった。

 

「………………」

 

 どこまでも無機質な、色を失った毒々しい漆黒の瞳。

 初めて見たときは中々に見事だ、と思った銀髪は黒く染まり。

 サウザンドアイズ随一の固さをもつあの女性店員を落とした雷は、白夜叉を焼きつくさんと蛇のようにうねり、襲ってくる。

 白夜叉は一一否、十六夜も、黒ウサギも、飛鳥も、耀も、稲荷も、自分の知っている“彼”とは程遠い容姿に、言葉を失っていた。

 

「ありえない……! 死にはしないが、十分に倒れるほどの一撃だったはずだ……!」

 

 そう。

 黒ウサギの新たな仲間ということで、殺すような愚かしいことはする気もなかったが、それでも、元魔王の名に恥じぬ一撃を、階層支配者の名に恥じぬ一撃を与えたつもりだ。

 しかし“彼”はその一撃を、羽衣を纏っていたとはいえ無傷で耐え、あまつさえ白夜叉にもギリギリ反応することのできた速度で攻撃してきた。

 

 最初は、愚かにも白夜叉に決闘を挑んだ“彼”を、少しばかり教育してやろう、と思っていたのだ。

 だが、実際にはもう少しで一撃をもらうところだった。断言できる。先程の一撃を一一雷を拳にまとい、音速に迫ろうかという速度をもってして放たれたその一撃をもらっていれば、ただではすまなかった、と。

 良くて当たった部分は焦げる。悪ければ一一容赦なく、そこを吹き飛ばしていた。

 

 本当に、人間かと疑いたくなるほどの強さ。

 型はなく、文字通り自由自在な動き。

 目でとらえることも難しく、ほとんど本能に頼って避けるしか術はない。

 

 十六夜や黒ウサギは、“彼”を野生児だのと例えたが、冗談がキツい。

 コイツは、これは一一一一

 

 

 

 

 

 本物の、獣だ。

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

 


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