問題児に混じって野生児が来るそうですよ?   作:ささみの照り焼き

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千の目と新たな獲物とギフトネームだそうですよ? (前編)

◇◆◇◆◇

 

 十六夜の言葉を聞いても誤魔化し続けた黒ウサギだったが、十六夜の「話さなければコミュニティに入らない」宣言に観念し、ポツリポツリと話始めた。

 

 曰く、自分のコミュニティは昔かなり大きなものだっだが、ある時魔王に襲われて仲間が散り散りになってしまい、現在残っているメンバーはリーダーであるジン・ラッセルという十一才の少年を始めとした子供たちのみだという。

 まさに絶体絶命。正しく壊滅状態。

 

「……なるほど。事情は理解した」

「……ん」

 

 ビクリ、と黒ウサギは肩を震わせる。

 

 

 一一断られる。

 

 

 黒ウサギの予想は一一良い形で裏切られる。

 

「面白そうじゃねぇかオイ♪ 良いぜ、入ってやるよ」

「……右に、同じく」

「…………へ?」

 

 きょとん、とする黒ウサギ。そんな黒ウサギに十六夜は、

 

「なんだよ、いらないのか?」

「あ、いえ! いりますいります!」

 

 うっきゃー!と諸手を上げて喜ぶ黒ウサギを見ながら、ユーリは膝の上に乗った稲荷を見る。

 

「……稲荷も……来て、くれる?」

『もちろんです! 私も、微力ながらお手伝いさせていただきます! 良いですか、黒ウサギさん?』

「はい! 寧ろお願いしたいぐらいなのですよ!」

 

 稲荷の参加も決まり、黒ウサギはさらに有頂天になっていった。

 

「よし。じゃあ、一先ずお嬢様たちと合流するか?」

「……ん。それが良、い……と、思う」

『はい!』

「Yes! 黒ウサギも早くジン坊っちゃんに報告したいのですよ!」

「お嬢様たちにも、コミュニティの現状を説明しとかないとな?」

「……Yes」

 

 そうして三人と一匹は、飛鳥たちのところに向かった。

 

 

 

 

 この後、飛鳥たちが勝手に取り付けたギフトゲームに、黒ウサギは絶叫することになる。

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇

 

「一一というわけで、“フォレス・ガロ”とギフトゲームをすることになりました……」

「おんしもまた厄介な札を引いたのぉ、黒ウサギ」

「言わないでください……」

 

 しばらくして、ユーリたち五人は“サウザンドアイズ”というコミュニティの支店に来ていた。

 飛鳥たちの取り付けた“フォレス・ガロ”とのギフトゲームに黒ウサギが吼えたり、耀がどさくさで追加していたユーリの名前に十六夜が渋い顔をしたり、店に入ろうとして立ちふさがったお団子ヘアの女性店員を十六夜の指導のもとユーリが行った電気マッサージで骨抜きにしたり、店から飛び出てきた元魔王が黒ウサギにオヤジのような声をあげながらセクハラしたりしていたが、今のユーリの頭にはない。

 あるのはただ一一

 

「……バーム、クー……ヘン」

 

 未知なる食べ物によって呼び起こされた、純粋な食欲だけだった。

 ことの始まりは、元魔王で“サウザンドアイズ”のオーナーかつ変態の白夜叉から、箱庭の地図を見せて貰ったことだった。

 その地図を見て十六夜たちが漏らした『バームクーヘン』なる食べ物を教えて貰ったのだ。

 曰く、甘くて美味しい、木の断面のような模様をした食べ物なんだとか。

 そんなことを聞いてしまえば、野生児であるユーリの食欲がマックスになるのは仕方のないことだった。

 黒ウサギと白夜叉は、飛鳥の漏らした、

 

「あの外道一一“フォレス・ガロ”の、リーダーであるガルド・ガスパーのこと一一はこんなに小さな領土で満足してたのね……さすが、外道だけのことはあるわ」

 

 という言葉に反応して、明日のギフトゲームについて話しているが、もちろんユーリの耳には入っていない。

 

「バーム、クーヘン」

 

 もう一度、今度は少し饒舌に未知なる食べ物の名を口にする。

 そして、視線を下へと落とした。

 

『……あの、何でそこで私を見るんですかね?』

 

 視線を向けられた稲荷は、どうか嫌な予感が当たっていませんようにと祈りつつ問う。

 十六夜たちによれば、色は稲荷の毛に近い色らしい。

 ならば、とユーリは逃げようとする稲荷を捕まえる。

 そして一一

 

「あむ」

『一一ふひゃ!?』

 

 その小さな狐ミミを、軽く口に含んだ。

 いくら野生児と言えど、小さな動物はできるだけ生かすようにしてきた。なので、妥協案としてミミを口に含むことにしたのだ。

 

「……んむんむ」

『ふぁ……ちょ、やめ……んぅ!?』

 

 妙に色っぽい声をあげる稲荷。だが、野生児の食欲は止まらない。

 含んでいたミミから口を離すと、今度は九本ある尻尾のうち一番右端の尻尾にパクついた。

 

『一一ふやぅん!!?? や、そこはホントに一一やぁん!!』

 

 よりによって一番弱いところを舐められ、たまらず稲荷は周囲に助けを求めようと潤んできた視線を向ける。

 

「一一一一」

 

 黒ウサギは固まっている。

 

「…………」

 

 飛鳥はオーバーヒート状態。

 

「…………(サッ)」

 

 耀は目を逸らされた。

 

「オイ白夜叉、ボイスレコーダーあるか!?」

「こんなこともあろうかと用意してある! 無論カメラも回せるぞ!!」

「ナイスだ!!」

 

 十六夜と白夜叉は撮影を始めた。

 

「…………ペロペロ」

『ふっ!? うっ……くぅ…………!!』

 

 後でビデオは壊す!! と稲荷は誓い、再び始まったユーリの食事に、声を抑えて黒ウサギが復活するのを待った。

 

 

 

 

 

 ちなみに、結局黒ウサギは戻ってこず、十分ほどして様子を見に来た店員が止めるまで、ユーリの食事と変態たちの撮影は続いたのだった。

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇

 

 


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