問題児に混じって野生児が来るそうですよ?   作:ささみの照り焼き

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番外編
番外編 あるかもしれない、とある日の出来事【ペスト編】


◇◆◇◆◇

 

 

 それは、とある晴れた日の出来事。

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

「…………」ジーッ

「……何よ」

 

 メイドとしての仕事が一段落し、休憩に入ったペストがミカンを食べていると、たまたま通りがかったユーリが、物欲しそうな視線を送ってきた。

 ペストとて、その視線の意味が分からないわけではない。……というより、根っからの野生児であるユーリは、何よりもまず食欲を優先する節がある。

 実際、これまで幾度となく似たような視線を送られてきたこともあるし、その都度根負けして分け与えるかたちになっていたのだが……まぁそれは置いといて。

 

「あげないわよ。これは私がゲームに勝って貰ってきたんだもの。いくらあなたのでも、流石にメイドから食料を取り上げるなんてしないでしょう?」

「…………」ショボン

 

 目に見えて、ユーリがガッカリするのが分かった。

 獣耳がついていれば力なく伏せられ、尻尾がついていれば垂れ下がっていたことだろう。

 

「うっ……」

 

 何故か、罪悪感がわいてしまうペスト。

 本人はほぼ無自覚ではあるが、ユーリに少なからず異性としての好意を抱いているのだ。故に、罪悪感がわいてしまうのは当然であり、またその罪悪感も並みではないのだ。

 

「……し、仕方ないわね! そこまで欲しいんなら……あ、あげるわよ」

「一一!」パァァ!

 

 途端に明るい顔になったユーリを見て、ペストの頬がカァァッ、と熱くなる。

 しかし、ハッと我に返って頭を振り、熱を払う。

 そして毎回根負けしてしまう自分にため息を吐き、ユーリにミカンをあげようと一一

 

「……ぁ」

 

 ふと、数日前に飛鳥と耀が、ユーリ相手にしていたことを思い出す。

 

 

 それすなわち一一“お手”と“おかわり”。

 

 

 たまたま通りすがった時に、飛鳥と耀がその言葉を口にしているのを聞いて、本当にやっていたのを見たときは唖然としたものだ。

 

「……お手」

 

 だがまぁ、やってみるのも面白いかな、とペストは右手を差し出す。

 

「わぅ♪」

 

 ポンッ、とその手のひらに置かれる丸められたユーリの手。

 数瞬後、ペストの口からポツリと一一

 

 

「……可愛い」

 

 

 図らずしも、その言葉はガルド戦前夜に、飛鳥が思った言葉と似たものだった。

 

「は、はい」

 

 ミカンを一房摘まみ、ユーリに差し出す。

 ユーリはそれを一一

 

 

「はむっ」

 

 ペストの指ごと(・・・・・・・)、口に含んだ。

 

 

「一一一一!!??」

 

 一瞬で顔と思考が沸騰し、瞬時に引き抜こ一一うとして、その場合ペストの指かユーリの歯が傷ついてしまう可能性があるのに気づき、グッと堪えた。

 

「んむ」

「……っ!?」

 

 そんなペストを他所に、ユーリはペストの手についた僅かなミカンの汁を舌でチロチロと舐め取る。

 その舌が指先に触れるごとに、ペストの背筋にゾクゾクと甘い痺れが走る。

 

「……ん」

 

 ユーリが満足そうに口を離す頃には、ペストの顔は熟れたリンゴよりも真っ赤になっていた。

 

「……はぁ……はぁ……」

 

 荒い息を漏らすペストに、ユーリはもっと頂戴と言わんばかりの視線を送る。

 それを見て、ペストの心の中で二つの意思が葛藤する。

 一つは、自分の尊厳のためにここで止めるべきだ、という意思。

 そしてもう一つは一一もう少し、さっきの感覚を味わいたいという意思。

 

「一一っ!!」

 

 その意思に気づき、ペストは頭をブンブンと振る。

 だけど……、とユーリに目をやる。

 

「…………?」

 

 首をコテンと傾げ、全く邪気のない目線を送ってくるユーリ。

 

「……“おかわり”も、やってないしね」

 

 あと一回だけ。と自分に言い聞かせ、ペストは再びミカンを手に取った。

 

 

 

 

 

 結局最後の一房まであげてしまい、仕事を忘れてしまったのは仕方のないことかもしれない。

 そして、説教をしようとしたレティシアに、あまりの顔の赤さに病気かと心配されたのもまた、仕方のないことなのだ。

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇

 

 


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