今回は奇跡的に書けたけど次はいつになるやら……
私の前に広がる惨状。
花瓶はひっくり返り、敷物は裏返り、窓は割れているところがちらほらと。
「まさかここまで酷いとは……」
「あ、あはは……。妖精のみんなも頑張ったんですが……」
はあ、と溜息を吐く私の後ろで苦笑いしながらフォローする美鈴。
あのね美鈴、結果的にマイナスになったらその努力は無意味だと思うんだ、私。
♢
永夜異変から5日、ようやく永琳から退院許可も出て久しぶりの我が家に着いたらこの惨状。ため息の一つも出るよ……。
まあ妖精メイドに期待していなかったのも事実。
新たに壊れていなかったら御の字、最悪紅魔館半壊も想定していた私に隙は無い。
「まずは掃除ね、しばらくやっていなかったから腕の振るいがいもあるわ」
「あ、でしたら私も手伝います。瓦礫が散乱してるところもありますし」
あー、フラン様が暴れたところそのままになってるのか。
流石に瓦礫は運ぶの大変だし、素直に手伝ってもらおう。
…少女移動中…
(うわあお)
地下の廊下は想定以上に酷かった。
フラン様が壊した部屋の残骸、パチュリー様が魔法で生み出してできた水たまり、とどめは空まで見える大きな穴。
心の中で変な声も上がろうってもんだよ。
「どうしましょう、これ……」
美鈴の途方に暮れた声に遠くへ飛ばしてた意識を引き戻す。
瓦礫は美鈴の手伝いがあればなんとかなるし、水もパチュリー様に頼めば乾かしてもらえるだろう。
しかし大きな穴まではいかんともしがたい。
私は万能メイドの自負があるが、流石に建築スキルは専門外だ。
さて、幻想郷で建築と言えば……
「萃香に補修を依頼しましょう。鬼ならお酒で動いてくれるでしょうし」
「え、あの鬼にですか……」
嫌そうな顔しないの、まったく。
人里の大工に頼む手もあるが、木造建築が主流な人里で石造りの紅魔館を短期間で補修するのは困難なんだからこれが一番いい手なの。
フラン様もそうだけど、萃香が起こした異変以来、妙に目の敵にしてるよね。
「なんにせよ、しばらくは地下室を封鎖するしかないわね。フラン様には最上階の部屋へ移ってもらうとして、妖精メイドの後始末もしなくてはいけないわ」
「うう、すいません咲夜さん、病み上がりなのに……」
「あなたは門番なんだから余計なこと気にしなくていいのよ。じゃあ私は博麗神社に行ってくるわね」
「はい……」
しょぼん顔の美鈴の頭を撫でつつ私は手土産用のワインを用意するため、足を動かし始めた。
♢
ところ変わって博麗神社。
手土産のワインとおつまみ用のチーズを持って境内へと着地する。
「あら、いらっしゃい咲夜。素敵な賽銭箱はあっちよ?」
境内を掃除していたらしい霊夢が出迎えてくれた。
相変わらず生活はカツカツなんだね……。
「お賽銭は後で入れておくわ。それとこれが今日の夕飯に、おやつも置いていくから。それと……」
「私の母親かあんたは。まあもらうけど……」
ふふん、頬が緩んでいるぞ霊夢よ。気に入ってもらえたようで何より。
とと、今日は霊夢だけじゃなくて萃香にも用があったんだった。
「霊夢、萃香はいる?少し頼みたいことがあって……」
「ん~?私を呼んだかい?」
私の隣に霧が集まり、萃香が現れる。
途端に強い酒精の匂いが辺りを覆った。
「萃香、あんたまたお神酒を勝手に飲んだわね……?」
「固いこと言うなよ霊夢~。お酒は飲んでなんぼだろ~?」
「お神酒は神様に捧げるものであってあんたに飲まれるためにあるわけじゃないわ」
「で、咲夜は何の用だい?人が鬼に頼みだなんて珍しい」
後ろで霊夢が無表情ですごい威圧感出してるけど大丈夫かな……。萃香だし大丈夫か。
「紅魔館の補修を手伝ってほしいの。地下室から屋上まで大きな穴が開いちゃってね。鬼ならできるでしょう?」
「そりゃあもちろん。その手のことは鬼の得意分野さ。でもまさか、手ぶらで頼むわけじゃないよねえ……?」
萃香が怪しい笑みで凄むけど、鬼に手ぶらなんてするわけないじゃないですか、ふふん。
「もちろん。これを報酬として渡しておくわ」
「こ、これは……!!」
人里一と呼ばれる酒屋から購入した日本酒!作れる数が少ないから朝一で並ばないと手に入らない逸品!手に入れるために能力を全力で使ったほどのお酒だよ!
まあ本当はレミリア様に献上する予定だったお酒だけど背に腹は代えられない。また買えばいいことだし。
「よし乗った!準備してから行くから先に戻って待ってな!」
酒瓶を奪い取るように手にすると酒瓶に頬ずりする萃香。
よし、予想通り食いついた。これで紅魔館の補修は大丈夫かな。
「じゃあ頼んだわね。私はまだやることがあるからこの辺りで失礼するわ」
館の補修の目途がついたとはいえ、やることはまだ多い。
私は御幣でぶっ叩かれる萃香を尻目に紅魔館に戻るのだった。
後日、修復どころか改装に改装を重ねたトンデモ地下室になっていて美鈴とそろって頭を抱えるのは別の話。