転生者・十六夜咲夜は静かに暮らしたい。   作:村雨 晶

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どうも、今度は早めに投稿できて少しほっとしてる作者です。

今回は永夜抄後日談編。この話をもって永夜抄編は終了です。

なので次は設定集ですね。よくある幻想郷縁起風に書いたほうがいいのか、普通に書いたほうがいいのか迷ってまだ未完成だったりしますw

さて設定書き終わったらどうしよう。
花映塚にいくか番外を書くか……。うーん悩ましい。


ここどこですか・・・?

 

「ん……」

 

 

背中に痛みを感じて目を覚ます。

うつ伏せで寝かされているようで、視界には畳と枕が映っていた。

 

 

「つっ、ぐ……」

 

 

起き上がろうとするが、背中の痛みに耐えきれずに布団へと再び倒れこんでしまう。

ここはどこだろう。フラン様はどうなっただろう。この痛みは一体――――

疑問が頭の中で飛び交い、消えていく。

痛みに耐えてでも起き上がろうとして、今までとは違うものが目に入ってきた。

 

 

「う、さぎ?」

 

 

白く、もこもことしたウサギが私の目を見つめている。

思いもしなかった生物に体が止まった瞬間、そのウサギは私に飛びかかってきた。

 

 

「わ、ぷっ!?」

 

 

頭に飛び乗られて、起き上がろうと浮いていた頭が枕へとたたきつけられた。

それを狙ったように(枕のせいでよく見えないが)ほかのウサギが私の上に乗ってきた。

今の私は大量のウサギに乗られて布団に押し付けられたような形になっているだろう。

 

ため息をつき、力を抜く。

流石に乗っているウサギを振り落としてでも起き上がる気力が今の私にはなかった。

 

 

 

 

しばらくウサギを乗せたまま二度寝しようか悩んでいると、足音が聞こえた。

 

 

「し、失礼します……、って、なにこれ……?」

 

 

気弱そうな声と共に入ってきた声には聞き覚えがあった。

 

 

「鈴仙?あなたなの?」

 

 

「ぴぃっ!?」

 

 

鈴仙(?)は声をかけるとバタバタと部屋を出てしまった。

おかしい。私が知っている鈴仙は女軍人と呼ぶにふさわしい性格をしていたはずだけど。

 

 

「お、起きたの……?」

 

 

「ええ。おかげさまで。ここはどこ?フラン様は?」

 

 

気弱そうな声で聞いてくる鈴仙へ返し、疑問をぶつける。

 

 

「えっと、ここは永遠亭、です。あの時の吸血鬼は姉を名乗る吸血鬼に連れられて帰りました」

 

 

なるほど。何故かは知らないけど、負傷している私にを運び込むには近くてうってつけの場所だ。

それにフラン様はレミリア様に連れられて紅魔館へと帰ったらしい。

 

 

「妙に背中が痛いのだけどこれは?」

 

 

「それはあなたが吸血鬼の特性を持ったまま日光を浴びたからよ」

 

 

む、この気だるげで頼りになる声は!

 

 

「パチュリー様、いらっしゃったのですね」

 

 

「あなたを一人残しておくわけないでしょう。レミィは意識がなかったあなたにべったりで邪魔だったからフランを押し付けて帰したけど」

 

 

邪魔て。パチュリー様相変わらずレミリア様に容赦ないですよね。

 

 

「それに、永琳の話も興味深かったし……。オホン、とにかく、ずいぶん無茶をしたわね咲夜」

 

 

「面目次第もありません、パチュリー様。お手数をおかけしました」

 

 

「お手数なんかいくらでもかけていいけどね、咲夜。あなたは少し無茶をしすぎよ。今回だってそこの兎が咄嗟に服をあなたにかけていなかったらどうなっていたか」

 

 

「え、あ、恐縮です……!」

 

 

「……ところで、鈴仙。なんだかあなた会った時と性格がだいぶ変わってないかしら?」

 

 

少し気になっていたことを口に出す。そんな弱気キャラじゃなかったよね君。

 

 

「え、えっと、その……。あれは理想の私、というか。戦うのが怖いので、能力で、そのう……」

 

 

「ああ、なんとなく分かったわ」

 

 

つまり能力で自己催眠かけて理想の自分を演じていたと。

 

 

「ふむ、恐怖や躊躇を抑えるほどの催眠……。興味あるわね。兎、私にそれをかけてみなさい」

 

 

「え、いやでも……」

 

 

「いいから早く」

 

 

あー、珍しくパチュリー様の悪癖が発動してる。

ああいうところ見るとやっぱり魔女なんだなあって思うよね。

 

 

「あまり私の弟子をいじめないで頂戴、パチュリー。ほら、貴方たちも。あまりけが人に負担をかけさせてはいけないわ」

 

 

また違う声が現れ、私の上のウサギたちが散っていく。

頭に乗っていたウサギがいなくなったため、首を動かして声のほうを見てみると赤と青の奇妙な服を着た女性が湿布のようなものを持ってそこにいた。

 

 

「傷を見せて頂戴……。うん、ここまで回復したなら明日中には痛みはとれるでしょう。でも傷跡が残らないように薬は出しておくわね」、

 

 

私の服をあげて診察するおねーさん。

たぶん永琳だよねこの人。なぜかパチュリー様とやたら親しげだけど。

 

 

「お医者さん、かしら」

 

 

「まあ似たようなものね。薬学を学ぶにあたってついでに学んだ程度だけど」

 

 

ついで(世界最高クラス)ですね分かります。

 

 

「あと、この薬も飲んでおきなさい。痛み止めよ。その姿勢では起きてるのもつらいでしょうし、睡眠導入剤も混ぜ込んであるからよく眠れるはずよ」

 

 

顎を持ち上げられ、なんだか青っぽい薬を飲まされる。

味は意外に甘かった。

 

飲み終わると、逆らい難い眠気に襲われる。

即効性とは本当永琳は優…秀……zzzzz……

 

 

睡魔に身を任せ、私は再び意識を落とすのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

再び目を覚ますと今度は仰向けで寝かされていた。

背中の痛みはなくなっていて、どこもおかしなところは感じられない。

 

起き上がろうとして、右腕に重みを感じて目を向ける。

そこにはフラン様が私の右手を両手で包んで眠っていた。看病してくれたのだろうか。

 

 

「起きたか、咲夜」

 

 

声がかけられ、目を向けるとレミリア様が月を背に立っていた。

 

 

「お嬢様、紅魔館に戻られたはずでは?」

 

 

「ああ、一度はな。しかし、フランがどうしても行きたい、というから連れてきたんだ。……私自身、気になっていたしな」

 

 

レミリア様は私の枕元に座ると寝ている私の頭を優しく撫でる。

 

 

「無茶をしすぎだ、馬鹿者が」

 

 

「パチュリー様にも言われました」

 

 

「当然だ。まったく……。お前が重症だと聞き、血の気が引いたお前を見た私がどれだけ、どれだけ……」

 

 

レミリア様の声がだんだんと小さくなる。その声に込められた感情を感じて私の心は罪悪感で一杯になった。

 

 

「すまない、私が、お前にあんなことをしなければ、血を与えなければ、こんなことには……」

 

 

「それは違います、お嬢様。たとえ私がいつも通りだったとしてもきっと同じことをしたでしょう。そうすれば、私はフラン様の狂気を止められなかったかもしれません」

 

 

「本当に、お前は無茶をする。やめろと言っても聞かんのだろうな」

 

 

「それがお嬢様たちの為となるならば」

 

 

「私達にとって一番の痛手はお前がいなくなることだ。たとえ私達が苦しんでいてもお前がいれば耐えられるのだ、私達は。だから、頼む、いなくならないでくれ……」

 

 

涙声で、うるんだ瞳で見つめてくるその顔に見惚れる。

これほどまでに弱気なレミリア様を私は見たことがない。

いつでも笑みを浮かべ、余裕をもって私の上に君臨する吸血鬼の、その心の奥を覗き込んだ気がする。

 

 

「この身尽き果てるまで、私は決して離れません」

 

 

「できるならば、私は、お前を……。いや、なんでもない。今はゆっくり休め。怪我が治ればまた館で働いてもらうのだからな」

 

 

レミリア様の瞳が紅く揺れる。

その揺れに誘われるように意識が遠のいていく。

 

 

「だから、今はただ、眠れ。私の、私達の、愛しい、愛しい咲夜」

 

 

最後の声は聞き取れない。ただ、その優しい感覚は、きっと。

 

頭を撫でる手の温かさを感じながら私は眠りへと落ちるのだった。

 

 

 

 

 


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