就活も終わり、大学も夏休み。ああ、休暇って素晴らしい。
さて、やってきました迷いの竹林。
ん?フラン様のことを追ってたんじゃなかったか?
パチュリー様の魔力探知によるとフラン様はこのあたりにいるらしい。
ちなみに人里が無くなってる云々はスルーしました。さすがにそんな余裕はなかったからね。
私は事情を知ってるし、パチュリー様は人里の場所を知らないからお互いにそのことに関しては触れなかった。(まあパチュリー様は人里があるはずの場所でなんだかキョロキョロしてたから、もしかしたらなにかある、位には感づいているんだろうけど)
やがてなにか呪文を詠唱していたパチュリー様が竹林を指さした。
「やっぱりこの先に魔力は続いているわ。探すのはなかなか骨が折れそうね」
しかも、とパチュリー様が続ける。
「厄介な結界が張られているわ。上空から探すのは無理そうね。歩いて探すしかないわ」
竹林の広さもかなりあるけど、入ってきた相手を迷わせる結界も張られてるし、フラン様を探すのはかなり大変だろう。
しかも下手をすれば永遠亭の住人に敵認定されて攻撃されるかもしれない。
「まあここで足踏みしていても始まりません。先に進みましょう」
私がそう言うとパチュリー様もそうね、と返事して私に体を預けてくる。
最初に紅魔館で抱き上げた時はあたふたして真っ赤になっていたパチュリー様もこっちの方が楽で早いと気付いたのか、素直に私に抱かれてくれるようになった。
私はパチュリー様を抱き上げると、竹林へと足を踏み入れる。
そして、踏み込んだ瞬間に気付く。
この一帯には凄まじい量の罠が仕掛けられている。
私の能力は空間にも干渉できる。だからこそ空間感知の能力にも優れているわけだが、今回はそれが幸いした。
落とし穴といった古典的な物から、草結び、紐が切れると丸太やら矢が飛んでくるもの、地中に仕掛けられた網で釣りあげるなど、どこのゲリラ戦地だ、と言いたくなるほどの罠が存在していた。
「どうかしたの?咲夜」
「いえ、罠が大量に仕掛けられています。避けるために少し慎重に動きます」
突然動きを止めた私を不審に思ったのであろうパチュリー様にそう返す。
私は落とし穴を避けたり、小さな弾幕を撃つことで罠を壊して進んでいく。
パチュリー様の探知による指示に従って竹林を進んでいるが、私にはもはやどこを進んでいるか分からなくなってしまった。どうやら竹林全体に張られている結界は方向感覚を狂わせる機能まであるらしい。
30分ほどゆっくりと進み続けていると、どこかから声のようなものが聞こえてきた。
「~ぃ、た…だ~ぃ」
「パチュリー様、今のは聞こえましたか?」
「ええ、微かにだけどね。……行ってみましょう、もしかしたらフランの痕跡があるかも」
パチュリー様と頷きあい、声が聞こえた方へと向かう。
だんだんと声がはっきりと聞こえるようになり、やがて人が一人分すっぽり入りそうな穴を見つけた。
その穴の周りでなんだか慌てた様子でふよふよ浮いている半霊を見つけて、穴に落ちているのが誰か察する。
穴を覗きこんでみると、予想通り、妖夢が半泣きで座り込んでいた。
「……何してるの?」
「あ、咲夜さん!お願いします、助けてください!」
「……飛べば自力で抜け出せるんじゃないかしら?」
「え?……あっ…」
その発想はなかった、といった顔をした後、赤い顔で浮いて出てくる妖夢。可愛い。
妖夢の顔に泥がついているのに気が付き、ハンカチでそれを拭う。
「大丈夫?怪我はない?」
「はい、大丈夫です……。すいません、お恥ずかしいところをお見せしました……」
顔を拭かれてくすぐったそうな妖夢に問いかける。
「それで妖夢はなんで穴に落ちてたの?」
「幽々子様に月の異常の原因を調べてくるように言われまして。この竹林から妙な気配がするので入ってみたのですが、罠は多いし、道に迷ってしまって。空から探そうと思って飛べばなにかに弾かれて墜落してしまいまして」
「落ちた拍子に穴に落ちた、と」
お恥ずかしながら、と再び顔を赤くして俯く妖夢。
原作だと幽々子も付いてきてたはずだけど、妖夢一人か。こんなところでも原作との差異が現れてる。まあフラン様が暴れて外に出たり、私が吸血鬼になったり、パチュリー様と一緒にいる時点で原作なんて投げ捨ててるような気がするけど。
「それで、お二人は何故ここに?貴方たちも異変を解決しに?」
「いえ、私達はフラン様を探しに来たの。痕跡を追っていたらここに着いたものだから。貴方はフラン様を見かけた?」
「確かレミリアさんの妹さんですよね。宴会で見たことがあります。……すいません、私は一度も見ていませんね」
「そう……、っ!?」
私達が妖夢と話していると、背後に気配を感じ、振り向く。
視線を向けた瞬間、弾幕が襲い掛かってくるのが見えた。
私は咄嗟に妖夢とパチュリー様を抱えて飛び退く。
無意識に力を込めていたのか、蹴った地面がかなり抉れて、飛び散った瓦礫が弾幕をかき消した。
私が弾幕の放たれた方向を警戒していると、そこから人がまるで光学迷彩を解くかのように姿を現した。
「気配を殺して、背後から撃ったのだけれど、感づかれるとはね。あなた、戦士の才能があるわよ?」
学生が着るブレザーのような服、長いウサ耳、能力を使っていることを表す赤い瞳。
新参ホイホイと呼ばれる鈴仙・優曇華院・因幡がそこにいた。
♢
「悪いけど、今夜竹林に侵入した者は例外なく排除するように師匠から言われているの」
黒い手袋をはめながらゆっくりとこちらに近づいてくる鈴仙。
そして両手を銃の形にしてこちらへ向けてくる。
「ルールだから殺しはしない。けど、痛い目にはあってもらうわ。――私の狂気の波長を以て存分に狂いなさい」
ギン、と赤く光る両目をこちらに向けてくる鈴仙。
そんな鈴仙を見ながら私は原作を思い出していた。
(確か、妖夢って赤い月を見ただけで正気失ってたよね?あれ、じゃあ妖夢と鈴仙の相性って最悪なんじゃ……)
そこに思い至り、私は三歩ほど前に進み、妖夢に振り返る。
「妖夢、彼女は私が抑えるわ。貴方はパチュリー様を連れて奥へ」
「ですが、私は道が分かりませんよ?空も飛べないようですし」
「パチュリー様、結界の基点は?」
「分かってるわ。結界の中心に特に大きな基点があるわね」
「おそらくそこに今回の異変の犯人がいます。妖夢をそこまで案内してください」
「でも、それじゃ……」
「異変を解決しておけばフラン様を探すのも楽になりますし、解決しようとしていた方々に頼めば、手伝ってくれるかもしれません。お願いします」
「……はあ。分かったわ。無理は、しないでね」
「もちろんです。妖夢!パチュリー様を抱えてパチュリー様の案内に従って!」
「は、はい!分かりました!」
妖夢がパチュリー様を抱きかかえ、妖夢が離れようとする。
「逃がさない!」
そこに鈴仙が弾幕を撃ちこもうとするが、私はそれをナイフで切り払う。
「貴方……!!」
「悪いけど、付き合ってもらうわ。簡単に勝てるとは思わないことね」
「……いいわ。すごくいい。自分を犠牲に味方を守る。素晴らしいけど、そういう人ほど早死にするのよ、戦場ではね!」
「今の私は吸血鬼。人間ならこの程度の伏線で死ぬけれど、吸血鬼はどうなのかしらね」
そして、私達は竹林をかき分け、ぶつかり合った。