転生者・十六夜咲夜は静かに暮らしたい。   作:村雨 晶

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どうも、就活のせいでなかなかパソが開けなくなってきている作者です。

今回は永夜抄導入編。
原作ではタッグを組んで異変に挑みますが、それに若干修正を加えています。

これ以降のプロットは全くと言っていいほど書いてないので次はいつになるやら。

それなのに新しい小説書き始めるとか、自分でも馬鹿だと思います。



永夜抄の始まりです…

 

 

 

――紅魔館

 

私はいつも通り業務を終え、眠りについた。

 

そのはずなんだけど……?

 

外を見ると、月が高く昇っている。

早めに起きてしまったのかと懐中時計を見るが、時間はすでに朝日が昇っていてもおかしくない時間帯だ。

 

夜が明けないって永夜抄か!

最近色々ありすぎて忘れてた。

 

ともかくレミリア様とフラン様の様子を見に行かなくちゃ。

二人とも吸血鬼だから今回の異変では影響が大きいだろうし。

 

時を止めてレミリア様の部屋の前に着く。

そして能力を解除した瞬間、物凄い威圧感に襲われた。

 

 

体が重くなったように動かない。呼吸ができない。意識が保てなくなる――。

思考が闇に沈もうとした瞬間、倒れかけた体が誰かに支えられた。

それと同時に唇に柔らかい感触があり、口の中に鉄の匂いが充満した。

それを自覚した途端、威圧感が弱まり、意識もしっかりしてくる。

 

「大丈夫?咲夜」

 

視界がはっきりして見えてきたのはレミリア様が唇から血を流している顔――って。

え、もしかしてさっき私が呑み込んだのってレミリア様の血?

 

「お嬢様、今私に飲ませたのは……」

 

「私の血よ。ああでもしないとあなたが私の威圧に耐えられないでしょう?安心なさい、飲んだのはほんの少しだけ。完全に吸血鬼化はしないわ。まあこれから半日くらいは半吸血鬼ぐらいにはなってるでしょうけど」

 

私は(一時的にだけど)人間を止めたぞ、ジョジョーーーーッ!!

 

というか威圧感が弱くなったんじゃなくて私に耐性が付いたんですね。

 

「どうやら月に細工をした愚か者がいるらしい。おかげで力が抑えきれなくなっている。このままだとフランが心配だ。咲夜、今すぐ能力を使ってフランの様子を見てきてちょうだい。私はこんな愚行を犯した輩を潰してくる」

 

「でしたら私も同行いたします」

 

「いいえ、咲夜はフランに付いていてちょうだい。あの子には今の状況が辛いはずよ」

 

「……かしこまりました」

 

こんな時でもフラン様を心配するレミリア様はマジお姉さんの鑑やでえ。

レミリア様も心配だけど、仕方ない。ここはフラン様に付いていることにしよう。

 

「お嬢様、お気をつけて」

 

「ああ、すぐ戻る」

 

レミリア様が服を翻して去っていく。かっこいい!カリスマをビンビン感じますよ!

 

 

 

 

 

レミリア様が去り、私は再び能力を使って今度はフラン様の部屋の前に着く。

能力を解除した瞬間、やはり威圧感を感じるが、レミリア様の血のおかげであまり気にならない。

私は扉を開けてフラン様に声をかけようとした。しかし――

 

「御無事ですかフランさ、ガッ!?」

 

扉を開けた瞬間私を出迎えたのは弾幕の嵐。

完全に油断していた私にそれらは何発も直撃した。

 

腕が焼かれる。足が砕かれる。脇腹が抉られる。

人間のままだったら即死だったであろうその傷は、しかし半吸血鬼化によって促進された治癒能力で即座に回復していく。

 

だけどまあ、肉体が無事でも私のチキンハートがこんな痛みに耐えられるわけがないわけで。

 

(痛い…。今すごく泣きそうだよ。あれだね、転んで膝をすりむいた子供並に大泣きできる気がするよ、今なら)

 

そんな内心に反して目からは涙一滴出やしない。まったく、不便すぎるでしょこの体。

 

「あれ?咲夜だあ。どうしたの、こんな真夜中に。駄目だよ、咲夜は人間なんだから、夜はきちんと眠らなくっちゃ」

 

クスクス、と笑うフラン様。

その笑顔はいつもの無邪気な物じゃなくて、狂気に彩られたものだった。

最近狂気に陥っていたというのに何を油断してたんだろう、私は。

 

おかしそうに笑っていたフラン様は私に近付いて匂い嗅いだ途端、笑みを潜め、無表情になる。

 

「クン……。お姉様の匂いがする。お姉さまの血の匂いが。ねえ、咲夜。もしかして、飲んだの?お姉様の血を」

 

フラン様が廊下に倒れている私に馬乗りになる。

そして私の体をくまなく嗅ぎ始めた。

いつもなら嬉しさでテンションが上がるけど、さすがに目に光が無くなった状態で睨まれている状態では恐怖しか感じない。

 

「ズルい……ズルい、ズルい、ズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルい。ズルい!!お姉様ばっかり。咲夜を好きにして。私も好きだもん、咲夜が大好きなのに。なのにお姉様ったら抜け駆けして。いいもん、なら私も付ける。咲夜に匂いをつける!!お姉様よりずうっと強いものを。お姉様が咲夜を独り占めできないようにしてやる。ううん、私が咲夜を独り占めするの。美鈴にも、パチュリーにも、小悪魔にも、お姉様にも、霊夢にも魔理沙にも妖夢にも橙にもルーミアにもリリーにも渡さない。咲夜は私のモノだもん。ずっとずっとずっとずっとずうううううううっと、私のモノなんだから。ねえ、咲夜。私のモノになってよ。壊さないから。傷つけないから。守ってあげる。大切にしてあげる。だから、咲夜のゼンブを私に頂戴?」

 

フラン様が体を密着させてくる。私の顔を固定して両目で私の目を見つめてくる。

フラン様の眼の中に映る私を見つめれば見つめるほど思考がぼんやりしていく。

 

(大切に……?いいじゃない、私が傷つかなくなるなら。このままフラン様に身を委ねてしまえばそれでいい。それだけで全部解決する―――――――)

 

逆らえない。フラン様の言葉に。命令に。魅了に。

思考放棄してフラン様にすべてを任せようとした――その瞬間。

 

――水符「プリンセスウンディネ」

 

大量の水が私とフラン様を飲み込む。

冷たい水が全身に思いっきり浴びせられたことで思考が一気に回復した。

 

(え?あれ?今私は何をしようとしてたんだっけ?)

 

「危なかったわね、咲夜。なんであなたが吸血鬼になっているかは分からないけど、今あなた、フランの魅了の魔法に掛かる寸前だったのよ?」

 

廊下の奥から現れたのは魔道書を持ったパチュリー様。

どうやら魔法で私達に鉄砲水を浴びせたらしい。

 

「…………邪魔しないでよ、パチュリー。咲夜が私のモノになるんだから。いくらパチュリーでも、ユルサナイよ?」

 

「頭を冷やしなさい、フラン。衝動に任せてそんなことをすればあなたは絶対に後悔するわ。あなたが欲しいのはいつもの咲夜でしょう?魅了の魔法で傀儡になった咲夜が欲しいの?」

 

「ウルサイなあ。邪魔をするなら容赦しないよ?あ、分かった。パチュリーも咲夜が欲しいんでしょ?でもダメ。咲夜を手に入れるのは私なんだから!」

 

フラン様が炎剣を顕現させる。

スペルカードではないそれは当たれば確実に対象を消しとばしてしまうだろう。

 

――それは駄目だ。それはいけない。フラン様は優しくて、繊細だ。狂気から覚め、家族の誰かを殺してしまったことに気が付けば、きっと壊れてしまう。

そんなことをさせるわけにはいかない。フラン様が好きだから。何があってもそれだけは止めてみせる。

 

(申し訳ありません、フラン様……)

 

体はすでに完治している。精神も持ち直した。ならばやることはただ一つ。

 

――「咲夜の世界」

 

ありったけのナイフを展開する。

だが本命のナイフは一本だけ。フラン様が狂気に陥った時、あまり傷つけずに抑えるために吸血鬼を弱らせ、拘束する術を付与してあるナイフだ。

霊夢に頼み込んで五本だけ作ってもらった。

 

フラン様は自分に当たるナイフだけを選別して叩き落とす。

そして、その中に本命のナイフも混じっていた。

ナイフは弾かれたが、術は発動する。陣がフラン様の真下に現れ、拘束した。

 

「あ、れ?咲夜、何で?なんでこんなことするの?咲夜、私のこと嫌いになっちゃったの?」

 

「違います、フラン様。今のあなたは狂気を抑えられていない。今のままでは、フラン様自身すらも傷つけかねない。ですので、大人しくしていてください。もうすぐ、お嬢様がこの異変を解決しますので」

 

「咲夜はお姉様がいいの?私じゃなくて?」

 

「違います。私にとっては二人とも大切です」

 

「嘘。嘘だよ。だって咲夜、お姉様のことになると嬉しそうだもん。私よりお姉様の方がいいんでしょ?だからこんなひどいことするんだ」

 

「フラン様、私は――」

 

「やめて。聞きたくない、聞きたくない、聞きたくない!」

 

フラン様が叫ぶたびに陣に罅が入り、ついには陣そのものが崩壊した。

もしかして、能力が暴走してる?

次第に床や壁、果てには私が紅魔館全体にかけている空間を広げる能力さえもが破壊されていく。

やがて、天井が崩落した。

思わず身を守ろうとしゃがみ、目を閉じる。

天井の崩落が収まり、目を開けると、そこにあったのは瓦礫の山だけ。

 

「まずいわね……。どうやらフランが外に出てしまったわ。月がおかしくなっている今、これ以上狂気がひどくなる可能性があるわ。咲夜、フランを追うわよ!」

 

どうやら魔法で瓦礫から身を守ったらしいパチュリー様が私を急かしてくる。

 

 

今回の異変も、ただでは終わらなそうだ、と気合を引き締め直すのだった。

 


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