転生者・十六夜咲夜は静かに暮らしたい。   作:村雨 晶

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咲夜さん以外の視点になると、途端にサブタイが思い浮かばなくなる不思議。

というわけでパチュリーさん視点です。
魔理沙視点じゃないのかって?いえ別に魔理沙視点だと話が思いつかなかったなんてことはないですよ?(目そらし)


咲夜のお菓子は(パチュリー視点)

 

 

「はあ…、まったく驚いたぜ…。なあパチュリー、あのメイドはいつもああなのか?」

 

 

珍しく時間を止めずに出て行った咲夜の背中を見送ると、隣に座っているコソ泥――霧雨魔理沙とか言ったか――が話しかけてくる。(咲夜が時間を止めずに出て行ったのは、彼女の反応を楽しむためだったに違いない。あんなイイ性格してたかしら?)

 

 

「いいえ、咲夜は必要以上に他人と触れ合おうとするタイプではないわね。私も珍しい光景を見て驚いているのよ?」

 

 

そう、咲夜は基本的に相手と触れ合う方ではない。

むしろ、自分から壁を作って接触を避ける方が多い。私とも、レミィとも、フランとも。

例外と言えば、美鈴と私の使い魔である小悪魔だが、小悪魔はどちらかと言えばペット感覚で接している感じがするし、美鈴の場合は、彼女が咲夜と多くの時間を過ごしているからだろう。もしかしたら、母親のような感覚で接しているのかもしれない。

 

紅魔館自体、隙間妖怪の手で結界を張られていたために、外部との接触は隙間妖怪とその式神以外にはなかった。

 

だからこそ、先程のような咲夜の姿は初めて見たかもしれない。

 

本来なら、安堵すべきなのだろう。人と触れ合おうとしなかった咲夜が自分から進んで交流を始めたのだから。

だが、私の胸にあるのは、どろどろとした醜い嫉妬だった。

 

――私達の方が咲夜といる時間が長いのに

――私達が咲夜を育ててきたのに

――何で咲夜は私達ではなく、赤の他人のこいつを?

 

薄暗い感情というのは、自覚すれば急速に心を侵食していく。

どうして?なんで?この吹けば飛ぶような人間に咲夜は何を感じたの?

私達にはそれは感じないの――?

 

 

「あー!これ、咲夜さんのクッキーですよね!私も食べていいですか!?」

 

 

私の思考を現実に引き戻したのは、使い魔の能天気な問いかけだった。

無邪気な目でこちらを見つめるこぁは、私の感情に全く気付かずに、待てをくらった犬のようにクッキーにちらちらと視線を向ける。

 

 

「ええ、いいわよ。…あなたは悩みがなさそうね、こぁ」

 

 

溜息を吐きつつ許可を出すと、素早い動作でクッキーをとり、幸せそうに頬張る。

その無邪気な笑顔を見ながら(悪魔のくせに邪気が無いとはなんともおかしな話だが)私もクッキーに手を伸ばす。

 

 

「あー、なあパチュリー、私もそれ、食べていいか?」

 

 

歯切れ悪く魔理沙が私に問いかけてくる。まあ、さっきまでネズミ扱いしていたのだからそうなるでしょうね。

 

 

「別にいいわよ。20枚なんて、私とこぁじゃ食べきれないし。あなたも食べられるように紅茶も淹れていったのでしょうしね」

 

 

紅茶を飲みながら答える。

相変わらず咲夜の淹れた紅茶はおいしい。前任のメイド長は美鈴で、彼女の紅茶もなかなかおいしかったが、咲夜のそれと比べると若干見劣りするのだ。

 

 

「…!これ、すごくおいしいぜ、この紅茶もだ!」

 

 

魔理沙はクッキーと紅茶を口に入れると、目を見開き、笑顔を浮かべる。

それに同調してこぁもうなずく。

 

 

「そうなんですよ!咲夜さんの作るおやつはどれも絶品なんです!」

 

 

はしゃぎながら話を弾ませる二人をよそに、私は自分の分を確保し、読みかけだった書物に目を移す。

 

クッキーを口に入れると、しつこくない程度の甘みが口内に広がり、続けて紅茶を入れると、上品な香りがクッキーの甘さと合わさり、さらに美味なものへと昇華させていく。

 

気が付けば、私の中の薄暗い感情は無くなっていた。

 

そういえば、フランがこの前、咲夜のお菓子を食べて感想を言っていたことを思い出す。

 

 

『咲夜の作るお菓子って、魔法みたいだね!』

 

 

それを聞いた咲夜は、意味がよく分かっていなかったようだが、ありがとうございます、とフランに礼を言っていた。

こうして改めて感じてみると、なるほど、たった二つの食物で私の心を落ち着かせ、初対面の魔理沙とこぁをここまで仲良くさせるのは、一種の魔法かもしれない。

 

 

「ん?なんだ、パチュリー、そんなにその本は面白いのか?」

 

 

魔理沙に言われて初めて気が付いたが、どうやら私は笑っていたらしい。

突然妙に照れくさくなった私は、魔理沙に言葉を返す。

 

 

「いいえ、貴方に貸す魔道書はどれがいいか、考えていたのよ」

 

 

「え!いいのか、パチュリー!?」

 

 

「ええ、ただし、2週間以内に返すこと。そうすれば、新しい魔道書を貸してあげるわ。分からないことがあれば私に聞きに来なさい。ここの魔道書は全部理解しているから」

 

 

そう言って、再び顔を書物に向けると、やったぜ、という喜色を含んだ魔理沙の声と、よかったですねー、なんていうこぁの相変わらずぽやぽやとした声が聞こえてくる。

 

これからは暇な時間は少なくなりそうだ、と私は知らず知らずのうちに笑みをこぼしていた。

 

 

 

 




はい、パチュリーさんの咲夜に対する印象でした。
咲夜の中では自分に興味がない人、という位置づけだったパチュリーですが、実は結構家族思いでした、という話。
あと、パチュリーの中では咲夜は孤高な人間、という印象ですが、これは咲夜が原作キャラをキャラクターの一人として見ている節があるせいです。

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