転生者・十六夜咲夜は静かに暮らしたい。   作:村雨 晶

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どうも、プロットが切れたのでこれからどうしようかと悩んでいる作者です。

今回はお見舞い編。
もう少し登場人物を増やしたかったですが、これ以上増やすと自分の技量じゃ書ききれないんですよね…。
はあ、文才が欲しい…。


看病されるって意外に恥ずかしいです…

 

 

「はい、あーん」

 

「……美鈴、私、腕は問題なく動くから自分で食べられるのだけど」

 

「それでも痛むんでしょう?パチュリー様から安静にするように言われてるんですし、どんどん甘えてください!」

 

「……」

 

なんだかどっかで見たような構図だなあ、これ。

前は私が食べさせてたけどね、食べさせてもらうって予想以上に恥ずかしい。

 

あの異変(異変っていうより事件?)が終わって帰宅し、すぐに美鈴とパチュリー様に怪我を見てもらったんだけど、美鈴ができるのは応急処置と気を持続的に送ることで治癒能力を高めるだけで、パチュリー様は治癒魔法は得意じゃないと早々に美鈴に丸投げしたために、美鈴が張り切って私の看病をしている。

 

パチュリー様の見立てだと、完治には一週間はかかるのだとか。(技術はないけど知識はあるからどの程度の怪我かを知ることはできる、とはパチュリー様の談)

一週間かあ。班長に任命してる妖精メイドはなんとか使えるレベルまで育てたけど、他の妖精メイドが不安なんだよなあ……。

一週間後に仕事に戻ったら紅魔館が荒れてました、なんてシャレにならない。

 

私が休んでいる間の業務を思い浮かべて溜息を吐くと、美鈴がレンゲを差し出してくる。

 

「はい、あーん。あ、熱いのは苦手なんでしたっけ?じゃあ冷ましますね」

 

ふー、ふー、とお粥を冷ます美鈴が可愛くて仕方ないが、自分で食べられるからレンゲを渡してくれないだろうか。

……無理だろうなあ。私がメイド長に指名されてから独り立ちできるように美鈴に甘えないようにしてきたし。(結構無意識に甘えてることが多いのは言わないでほしい)

公然と甘やかす理由ができて嬉しいんだろうなあ。美鈴って結構お世話好きだし。

 

私が諦めて美鈴に餌付けされていると、部屋の扉が開いた。

 

「調子はどうかしら、咲夜?」

 

「問題ありません、今からでも働けます」

 

「うふふ、意気込むのはいいけど、無理は駄目よ。貴方はしばらく安静にしていなさい」

 

入ってきたのはレミリアお嬢様だ。

あの異変の後、萃香に負けたことをどう謝ろうかと悩んでいたけど、レミリア様は私を叱ることなく、私を抱き寄せ、無事でよかった、って嬉しそうな顔で言ってくれたんだよね。

レミリア様マジカリスマ。もうこの方に一生付いていこうって心の中で誓い直した位かっこよかったね。

 

「ああ、パチュリーがこれを飲むように、と渡してきたわ。まったく、パチェったら私をパシリに使うなんて」

 

「それだけお嬢様を信頼しているということでしょう。そういうご友人はなかなか得難いものですよ」

 

「……まあ、そうね。ふふ、咲夜に免じて今回のことは不問にしましょう。じゃあ、安静にしてるのよ」

 

そう言ってレミリア様は持っていた袋を美鈴に渡して去っていった。

そのすぐ後にバタバタと騒がしい足音と共にフラン様が入ってくる。

 

「咲夜!見てみて、綺麗な花が咲いたのよ!」

 

そう言って差し出してきたのは一輪のジャスミン。

確か美鈴が管理してる花壇に植えられているものではなかったか。

 

「フラン様は私と一緒に花の手入れをしてくれるようになったんです。咲夜さんが早く元気になるようにってフラン様、頑張ったんですよ?」

 

そっと耳打ちしてくれる美鈴。

フラン様がそんなに私のことを思ってくれてたなんて、おねーさん、嬉しすぎて涙が出そう。

 

「ありがとうございます、フラン様。大切にしますね?」

 

「うん!」

 

このジャスミンは時間停止で永久保存決定だな、部屋の花瓶に飾っておこう。

 

「あ、お姉様に話があったんだ、もう行かなくちゃ。じゃあしっかり休んでね、咲夜!」

 

そう言って、来た時と同じようにバタバタと去っていくフラン様。

妖精メイドとぶつからないといいけど。

 

レミリア様とフラン様は私が休んでから毎日部屋に顔を出してくれる。

そんな些細なことが嬉しくて仕方がない。

……ていうか、そうだよ!私はこういう平穏な生活を過ごしたいのになんで私はトラブルに巻き込まれるんだろう。私(十六夜咲夜)に不幸体質なんてあったっけ?

 

そんなことを考えていると、突然、どこからか爆発音がした。

え、なになに?妖精メイドの誰かが料理にでも失敗した?

 

「……!この妖力は……!咲夜さん、ここで大人しくしていてください。私が様子を見て――」

 

「その必要はないよ」

 

立ち上がった美鈴の声を遮るようにして、声が聞こえてくる。

というかこの声、つい最近聞いたような……?

 

やがて部屋の中に霧が発生し、それが人の形をとっていく。

そして現れたのは私を浚った妖怪、伊吹萃香だった。

 

「何をしに来たんですか?」

 

美鈴が険しい顔で萃香に問いかける。

萃香はそんな美鈴を気にもかけず、私に話しかけてきた。

 

「やあ、元気かい?十六夜咲夜。まあ、万全、ではなさそうだね」

 

「おかげさまでね。さっきの音、あれは貴方が原因?」

 

「ああ、吸血鬼二人とばったり会っちまってね、こっちに聞く耳持たずに弾幕を撃ってくるもんだから分体残してこっちに来たのさ」

 

弾幕ごっこするだけならあれで十分だからね、と笑う萃香。

レミリア様達が知ったら怒るだろうなあ。特にレミリア様は相手が本気出してないと怒るタイプだし。

 

「今回はあんたのお見舞いと、この前の謝罪をしに来たのさ。改めて前は攫っちまって悪かったねえ。良い人間がいると鬼としては攫っちまいたくなるのさ」

 

悪かったと言いながらまったく悪びれた様子がない萃香。

そのくせ憎めないのだから萃香もいい性格をしている。

 

「まあ、謝りに来たのは家主の命令でもあるんだけどね」

 

「家主?」

 

「今度から博麗神社に居候することにしてね、霊夢が謝りに行けって言うもんだから」

 

萃香の手綱をすでに握っているとは、霊夢…恐ろしい娘っ!

 

「ではお見舞いも謝罪も終わりましたね、なら出ていってください、咲夜さんには休息が必要なんです」

 

「そうツンケンするなよ、危害は加えないって」

 

美鈴がどうにかして萃香を追い出そうとしているが、萃香はそれを飄々と受け流している。

美鈴と萃香ってこんなに仲悪かったっけ?

 

「美鈴、私なら大丈夫よ。危害を加えないと言ってるんだから安心していいわ」

 

「そうそう、鬼は嘘を嫌うからね。あんたはよく分かってるじゃないか」

 

からからと笑いながらポンポンと肩を叩いてくる萃香。

手加減しているのか、特に痛みは感じない。

 

その後、萃香と人里のお祭り騒ぎや私達が帰った後どうなったかを萃香に聞いていると、突然後ろに引っ張られた。

突然のことに反応できず、そのまま後ろに倒れると、ポヨン、と柔らかいものに後頭部が当たる。

 

「咲夜さん、この妖怪は貴方を攫ったんですよ?もう少し警戒すべきです」

 

「どうしたの、美鈴?いつもの貴方らしくないわ」

 

今日の美鈴はなんだかピリピリしてる気がする。

どうしたんだろう、生理?

 

美鈴の顔を不思議な気持ちで見ていると、萃香が何か思い至ったようにニヤリと笑った。

 

「はっはーん、なるほどね。なかなか好かれてるねえ、あんたも。ここまで妖怪に好かれる人間もなかなか珍しいんだが」

 

「どういうこと?」

 

「おや、澄ました顔して意外に鈍感だねえ。そこの妖怪は私に妬いたのさ、あんたと楽しそうに話して自分は置いてけぼりくらったからね」

 

「っ、違います、勝手なことを言わないでください!」

 

「おいおい、そんな下手糞な嘘じゃあ赤子だってだませないよ?ほら、咲夜だって驚いてるじゃないか」

 

おお、びっくりしたあ。美鈴が怒鳴るなんて珍しい。

萃香と美鈴って相性悪いのかな?

 

「私はお邪魔みたいだし、帰るとするよ。気が向いたら遊びに来るからね。ここには上手そうな酒も置いてあるみたいだしね」

 

じゃあね~、と霧になって消えていく萃香。

ワインの存在に気が付くとはさすが鬼。今日は一本も開けてないはずだけど。

 

ふと美鈴の方を見ると、赤い顔で俯いていた。

え、どうしたの!?風邪!?また風邪ひいたの美鈴!?

 

「美鈴?どうしたの?顔が赤いけど」

 

「あ、いや、これはその、何でもないんです、何でも!」

 

あはは、と誤魔化そうとする美鈴を見て、私はちょっとした悪戯を思いつく。

私は美鈴の右手を取り、その甲を舐めた。

 

「さ、咲夜さん!?何を――」

 

「これは嘘をついている味ね、美鈴。どうして顔を赤くしてたのかしら?」

 

元ネタ的には顔を舐めた方がいいんだろうけど、それだと変態みたいじゃないか!

え?手の甲を舐めるのも十分変態的?こまけえこたあいいんだよ!

 

「そ、それは、その、咲夜さんが……」

 

「私が、何?」

 

「咲夜さんが――」

 

「咲夜、美鈴!無事!?」

 

美鈴が声を絞り出そうとした瞬間、レミリア様が乱暴に扉を開けて入ってくる。

 

「さっきあの鬼を見かけたのだけれど、勝負の途中で消えてしまってね、もしかしたら咲夜をまた攫うのではないかと思ったのだけれど……。良かった、無事みたいね」

 

私達の姿を見て安心したように息を吐くレミリア様。

さっきまで萃香がここにいましたなんて言えないよなあ……。

 

「あ、その、ちょっと外の空気を吸ってきます!レミリア様、後はお願いします!」

 

「あ、ちょっと、美鈴!?」

 

美鈴が突然椅子から立ち上がり、部屋を出ていく。

驚いたレミリア様が引きとめようと声を上げたが、美鈴はそのまま出て行ってしまった。

……逃げたな……。

 

「何なのかしら、もう。まあいいわ。咲夜と過ごす時間も悪くなさそうだし」

 

「それも運命を見た結果ですか?お嬢様」

 

「見なくたって分かるわよ、咲夜といるととても幸せな気分になるんですもの」

 

嬉しいこと言ってくれるなあ、といっても私がベッドから降りることができない以上、話すことしかすることはないんだけどね。

 

 

 

 

 

その後、レミリア様としばらく話し込むことになるのだが、お見舞いに来た魔理沙がパチュリー様を連れて部屋に来て、それを目撃したフラン様がまた部屋に戻ってきた結果、カオスな状況に陥ったのは、また別のお話。

 




本編の誰も気が付かなかったのでここで補足。

ジャスミンの花言葉は、「あなたは私のもの」らしいですよ?

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