今回の咲夜さん視点で一応萃夢想編は終わりです。
あとは後日談を書くことは決まっていますが、そこからは全く考えていないので作者にもどうなるか分かりません。
「ん……」
目が覚める。
目を閉じたときに背中に感じていた岩のごつごつした感触はなく、代わりに柔らかくて温かいものがあった。
何だろ?それに体がポカポカしてすごく気持ちいい。
それの正体を確かめるため、目を開けると、美鈴の顔がドアップで映った。
「咲夜さん!目が覚めたんですね、良かった……」
「美鈴……?なんでここに……?っ!」
起き上がろうとした瞬間、お腹のあたりに激痛を感じてまた横たわってしまう。
「無理しないでください。気で治療しているとはいえ、内臓がやられてるんです、そのまま楽にしててください」
どうやら私は美鈴の膝枕で眠っていたらしい。
いつもならテンションが上がりまくって天元突破するんだろうけど、お腹の痛みが強くてそれどころじゃない。
「内臓がひどく傷つけられていました。攫った妖怪がやったんですか?」
「いえ、これは能力の身体強化による副作用よ。萃香は関係ないわ」
「あの妖怪は萃香というのですか……。ともかく、紅魔館にすぐ帰りましょう。今の咲夜さんにはきちんとした治療が必要です」
「でももうすぐ萃香が戻ってくるわ。霊力を追って紅魔館まで来るかも」
「それなら大丈夫です。今フラン様が戦っていますから」
……へ?
♢
洞窟の外に出ると美鈴の言っていた通り萃香とフラン様が戦っていた。
……明らかに弾幕ごっこじゃない戦い方で。
「■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■!!!!!!!」
フラン様完全に狂気モードに入ってるじゃないですかやだー!
久し振りにあの状態のフラン様見たなあ。赤霧異変の少し前あたりから見てないし、溜まってたのかな?
「手が出せませんね、どうしましょう?」
「どうしようもないわね。私は負傷してるし、貴方は治療で疲労してる。今の状態のフラン様を止めるには不足すぎるわ」
ああなったフラン様は私が万全の状態で本気を出しても止められるかは半々だからね。
この状態の私には勝機なんて無いに等しい。
やがてフラン様が萃香に地面に叩きつけられた。
だけどフラン様は巨大な炎剣を顕現させ、萃香へと振り下ろす。
萃香は炎剣に飲み込まれ爆発四散した。
え、何あれ。フラン様ってあんなに強かったの?
私が予想以上のフラン様の強さに呆然としていると、フラン様が右手に何か集める動作をする。
あれもしかして、萃香の破壊の目を右手に持ってきてる?
ううん、それならもっと早く発動できるはず。
なのにまだ発動しないってことは、まだ何か集めてるってこと。
私がフラン様ならどうする?
萃香を確実に倒すために何をする?
萃香を破壊するだけじゃ倒せないかもしれない。鬼は頑丈だから。
なら私がやるのは面制圧。周囲の空間ごと破壊して圧殺する。
でもそれをやったら確実に博麗大結界に影響が起こる。
だからこそ普通はしない。だけどフラン様はそれを知らないし、何より今のフラン様は何をするか分からない。
もしフラン様が結界を破壊しちゃったら確実に紫や霊夢がフラン様を討伐するだろう。
それはまずい!私の数少ない癒しが減ってしまう!
どうにかしてフラン様を止めないと……でもどうやって?
今のうちにナイフで攻撃する……却下。その後に攻撃される未来しか見えない。何より(再生するとはいえ)フラン様の顔に傷をつけるとか私にはできない。
美鈴に頼んで押さえ込んでもらう……却下。美鈴が吹き飛ばされる光景しか思い浮かばない。
私が抑え込む……却下、したいけどこの状況確実に私のせいだよね……。
うう、私が責任取るしかないか。
美鈴曰く、フラン様が私のことを心配してレミリア様に無理を言って探しに来たらしいし。
痛いのは嫌だけど仕方ない。
「美鈴。万が一の時はあなたがフラン様を抑えて頂戴」
「え、咲夜さん、何を――」
時間が止まる。世界が色を失い、停止する。
私は痛みが走る体に鞭打ってフラン様のもとへ走る。
そして、フラン様に抱きついて能力を解除した。
「フラン様…、お止め下さい……」
私が声をかけると、フラン様はぴたりと動きを止めた。
「さ、くや……?」
「はい。私は無事です。だから、どうかこれ以上は……」
「どうして?あの妖怪は咲夜を酷い目に合わせたんだよ?」
私が攻撃を止めさせようと声をかけると、不機嫌そうな声を上げる。
あれ、これなんだか地雷踏んだ?
でも止めなきゃ紫に目をつけられる。フラン様の能力がいくらチート級のものだったとしても、紫相手は分が悪い。
「これ以上は八雲紫に目を付けられます。だから、フラン様、どうか――」
「私のため?」
私が必死に説得していると、それを遮ってフラン様が問いかけてくる。
これが好機と便乗して肯定すると、フラン様は嬉しそうにはにかんで妖力を収めてくれた。
ふう、良かった。危うくゆかりんと全面戦争になるところだった。
私が安心して一息つくと、フラン様は悪戯を思いついたような顔になる。
「その代わり、私に意見したんだから罰を与えなきゃ♪」
「え?」
――チュッ――
突然フラン様の顔が目の前に広がり、唇に柔らかい感触が――って!
ききききききききききききききキス!?今私フラン様にキスされた!?
ふ、ふふっ、最高にハイっ!ってやつだああああああ!!!!!!!
今なら!体の痛みなど超越できるっ!
「さ、行こっ、咲夜!」
フラン様の声でハッと我に返る。しまったしまった、嬉しすぎて我を失うところだった。
「え、は、はい……。あ、ちょっと待ってください。美鈴を拾っていかなくては……」
「あ、そうだね、すっかり忘れてたわ!」
美鈴ェ…。まあ私もさっきまでキスの衝撃で忘れてたけどね!
美鈴を迎えに行く途中で上空を見上げると、自機三人組と戦ってる萃香が見えた。
近距離の妖夢、中距離の霊夢、遠距離の魔理沙。
それぞれが持ち味を生かして萃香を追いこんでいる。
でも萃香も負けてない。私だったら確実に詰むだろう状況を上手く立ち回っている。
やっぱり萃香もチートだったか……。
「美鈴連れてきたよー。じゃあ帰ろう、咲夜!」
美鈴を連れてきたフラン様が左腕に抱きついてくる。
まだ残っている傷になかなか響くが、どうにかして笑顔を保つ。
すると突然、私は美鈴に抱きかかえられた。
「ちょっと、自分で飛べるわよ、美鈴」
「その体でですか?霊力だってほとんどないのに」
うっ、それを言われると……。仕方ない、大人しくしておこう。
そうして私達は紅魔館へと向かう。
とにかくレミリア様に謝る言葉を考えておこう……。
帰る途中でキスのテンションが切れて本日三度目の気絶を体験するのはまた別の話。