今回もフランちゃん視点。戦闘回です。
終わりのように見えますが、まだ少しだけ萃夢想編は続きます。
――妖怪の山上空
「■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■!!!!!!!!!!!」
「ったく、一体何だってんだい!」
弾幕を妖怪に向けて放つ。
弾幕ごっこ用の非殺傷のものではなく、当たれば大怪我は間違いないであろう殺傷用のものを。
私の心はもはや自分でも止められないほどの狂気に侵されている。
だけど、そんな心の中でも未だ冷静に思考できる部分も残っていた。
いつもならばその残った冷静な部分で狂気を抑えようとするのだが、今回は狂気をさらに怒りという感情で加速させる。
(咲夜をあんな目に合わせて…、絶対に許さない!)
残った理性で私はスペルカードを発動する。だけどこれはただのスぺカじゃない。
殺傷用に調整された殺し合い用のものだ。
――禁忌「クランベリートラップ」
スぺカが発動する。いつもと違うのは威力、そしてその規模だ。
本来スペルカードルールによって絶対に当たる弾幕は撃ってはならない。
でも今回のスぺカは弾幕ごっこではなく、殺し合いを想定されて作られている。
故に、普通に回避しただけでは逃げ場など存在しない。
「ちいっ!」
妖怪は舌打ちを一つすると、姿を消してスぺカを回避した。
……あれ?こんな技を使う相手をどこかで見たような気がする。
「いきなり襲い掛かってくるなんて血の気の多いやつだねえ、……ん?よく見たらあんた、紅魔館の地下にいた奴じゃないか。はっはーん、分かったぞ、あんた、あの時の続きをしに来たんだね?なんだい、そうならそうと言えばいいのに。お望み通り思いっきり遊んでやるさ!」
――萃符「戸隠山投げ」
妖怪は勝手に自分で納得した後、スぺカを放ってきた。
私は吸血鬼の再生能力に任せて正面から妖怪に突っ込む。
体を弾幕で削られながらも、妖怪を捕まえた――――
はずだった。
「甘い甘い、私に同じ技は二度は通じないよ。まあ、あんたが弾幕ごっことやらじゃなくて殺し合いを望むんならそれに答えてやろうじゃないか」
また姿を消して私を回避した後、私の背後に現れて、私の頭を思いっきりぶん殴ってきた。
攻撃をモロに喰らった私は頭を吹き飛ばされ、衝撃にひかれるまま、地面へと激突した。
それでも私の狂気は止まらない。私の怒りは止まらない。
口が再生する――――怨嗟と憤怒の唸り声が漏れ出す。
目が再生する――――怨敵の姿を憎悪がこもった視線で睨みつける。
脳が再生する――――目の前の敵を殺すための思考が回復する。
「■■■■■■■■■■■■■■■■■■!!!!!!!!!!」
――禁忌「レーヴァテイン」
狂獣のような咆哮を上げ、慣れ親しんだ炎剣を作り上げる。
しかし普段のそれより遥かに熱量を持った炎剣はその保持している熱量だけで周囲の森を焼き払う。
周囲の木々は瞬時に炭化し、ボロボロとその姿を崩していく。
私はそんな光景を尻目に、炎剣を妖怪へと振り下ろした。
「その技は前に私に破られてるだろう?無駄だって、…!?」
妖怪が炎剣に手をかざすと、炎の威力が弱まる。
だが、炎剣は私がありったけの妖力と魔力を注ぎ込むことで前以上の威力を放つ。
妖怪にとっては予想外のことだったのか、動きを止める。
そして、炎剣が妖怪を飲み込み、大爆発を起こした。
ドッゴオオオオオオオン!!!!!!!!!!!
爆発は予想以上に大きく、地面にいた私さえも飲み込む。
でも私にとってこの程度の傷はすぐに再生する。
私は間髪入れずに能力で妖怪の「目」を掴んだ。
でもこれだけじゃ死なないかもしれない。
だから、私はさらに能力を行使する。
妖怪の周囲の空間の「目」も右手に集める。
周囲の空間もろとも破壊すればさすがにあの妖怪も死ぬだろう。
そのことに暗い悦楽を感じ、口が笑みに歪む。
一息ついて、壊そうと右手に力を込めた瞬間、後ろから誰かに抱きつかれた。
「フラン様…、お止め下さい……」
ずっと聞きたかった声。聞いていると落ち着く声。
その声を聞いた途端、私の中の狂気が急激に薄れていく。
「さ、くや……?」
「はい。私は無事です。だから、どうかこれ以上は……」
「どうして?あの妖怪は咲夜を酷い目に合わせたんだよ?」
薄れた狂気が再燃する。なんであの妖怪をかばうの?
だって、あの妖怪は咲夜を――――
「これ以上は八雲紫に目を付けられます。だから、フラン様、どうか――」
「私のため?」
咲夜の声を遮って問いかける。
これは大事なことだ。あの妖怪よりも私の方が大事?
咲夜はあの妖怪のためじゃなくて私のために止めてるの?
「はい。フラン様に危険な目にあってほしくないのです」
「ふーん、そうなんだ、私のためなんだ……」
殺意が薄れる。狂気が消えていく。
えへへ、咲夜は私を心配してくれるんだ。
私は振り向いて咲夜と向き合う。
ボロボロで、血で服が汚れていて酷い姿。
でもその眼は確かに私を案じていた。
「分かった。これ以上は止めるよ」
「ありがとうございます、フラン様」
「その代わり、私に意見したんだから罰を与えなきゃ♪」
「え?」
――チュッ――
私は呆けてる咲夜の唇に口づけをする。
咲夜ったら本当に可愛い。
このまま私だけのものにならないかなあ。
「さ、行こっ、咲夜!」
「え、は、はい……。あ、ちょっと待ってください。美鈴を拾っていかなくては……」
「あ、そうだね、すっかり忘れてたわ!」
咲夜の言うとおりに美鈴を途中で拾って紅魔館へと帰る私達。
ねだったら手を繋いでくれた咲夜に、少し近づけたかな、なんて考えながら咲夜を見つめるのだった。
その後、体力が尽きたのか、突然気絶した咲夜に美鈴と一緒に慌てたのは別の話。