転生者・十六夜咲夜は静かに暮らしたい。   作:村雨 晶

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どうも、day after dayをカラオケで熱唱した後、下手糞加減に恥ずかしくなった作者です。

今回は咲夜さん視点。
いつも以上に短い上に、グロ注意。まあ、ほんのちょっぴりですが。


どうにかして抜け出さないと…

 

――妖怪の山 某洞窟

 

 

 

私が文と談笑し、椛を愛でていると、洞窟の中に一羽の烏が飛び込んできた。

文はその烏を右腕に乗せると、何やら烏と話しはじめたのだ。

烏天狗って烏とも会話できるんだね、羨ましい。

文は烏から伝言か何かを受け取ったのか、真面目な表情で頷いている。

 

「ふむ、分かったわ、すぐに行くと伝えておいてちょうだい」

 

やがて聞き終わったのか、文は烏を飛ばして立ち上がった。

 

「咲夜さん、どうやら貴方を助けるために妖怪の山へと誰かが入り込んだようですよ」

 

愛されてますね~、とニヤニヤ笑う文。

誰だろう、萃夢想で私以外に動いてた人は霊夢と魔理沙、妖夢だったはずだけど、その誰かかな?

 

「ほら、行きますよ椛。哨戒はあなたの領分でしょう」

 

「あと少し、あと少しだけこの感触を……」

 

「どれだけハマってるんですか!ほら、行きますよ!」

 

文は私から離れたがらない椛を引っ張って洞窟の出口へと向かう。

椛は耳や尻尾をしょんぼりさせながらもとぼとぼ文についていった。

 

「あ、そうだ、貴方を助けに来た人達には手を出さないように根回ししておきます。まあその分警戒態勢が高まるのでこれ以上の協力はできませんが……。まあ取材のギャラということで。では!」

 

文は椛を引っ張って飛んで行った。

ちらりちらりとこちらを振り返る椛がすごく印象的でした。

 

 

 

 

さて、私も休んでばかりはいられない。

これでも無駄に時間を過ごしていたわけじゃない。二人と話している間、私は霊力の回復に集中していたのだ。

萃香はこの鎖で私の霊力を封じたと言っていたが、厳密に言えば少し違う。

私に繋がれている鎖は私の霊力を散らす力を持っているのだ。

だから私の霊力の回復が大幅に遅れてしまったのだが、今なら能力を一回だけ使えるぐらいには回復した。

霊力弾を撃ちたいところだが、どうやらこの鎖、私から離れた霊力も散らしてしまうらしく、霊力弾を作ることができない。

ならば能力で心臓の鼓動の時間を早めることで一時的に身体能力を向上させればどうか、と考えたのだ。

修行中に一回だけこの技を使ったことがあるのだが、辛すぎて三秒しか持たないうえに、能力の向上が激しすぎて、制御しきれずに勢い余って壁に激突してしまった。

あの時美鈴に多大な心配をかけてしまった。

ともかく、これならば鎖も壊せるかもしれないと試してみることにしたのだ。

 

「ぐっ、はあっ……!!」

 

能力で心臓を早めるたびに激痛が全身を襲う。

ギチギチ、と体が嫌な音を立てる。

それを堪え、全力で右手の手刀を鎖へと叩きつけた。

 

ズドオオオオオオオン・・・・・・・・・!!!!!

 

洞窟が衝撃で揺れる。

揺れた瞬間、パラパラと土片が落ちてくるが、崩れる様子はない。

 

砂煙が晴れ、私は鎖を確認する。

壊れていないかと希望を持って見てみたが――確認できたのは傷一つついていない鎖だった。

 

駄目か……。やっぱり能力で硬度を上げていたのだろうか?

そこで右手の痛みを自覚する。

見ると、右手首はあらぬ方向へと曲がり、明らかに折れていることが分かる。

覚悟してたけど痛いなあ……。涙が出てきそうだ。

そして体の中から何かが込みあがるのを感じ取り、それを吐き出す。

 

「げほ、げほっ!!…」

 

血だ。どうやら無理に肉体増強した結果、内臓のどこかが傷ついたらしい。

うえ、血の味が口全体に……。気持ち悪い。でもゆすぐ水なんかないしなあ。

 

私はそこで四次元鞄の存在を思い出す。

萃香が持って行っていなければここにあるはず。

周りを見渡すと、少し離れた場所に鞄が落ちているのを見つけた。

私はそれを引き寄せて、左手で中を探る。

やがて痛み止めの薬を取り出すことができた。…まさか買って数時間後に使うことになるとは思わなかった。

右手が使えない故に手こずりながらもそれを何とか数錠飲み込むことに成功する。

しばらくすればこの痛みも引くだろう。

 

しかし、霊力を使い切ってしまった反動か、体が満身創痍になってしまったための防衛反応なのか、意識が霞み始めた。

 

(眠いなあ。寝ちゃおうか。体痛いし。寝れば回復するかも)

 

私は近くの岩に背中を預け、眠る体勢に入る。

 

(右手から血は出てないから大丈夫、だよね?やだよ、出血多量で死亡、なんて)

 

この状況を見られたら死んだと誤解されるんじゃないかなあ、なんて馬鹿なことを考えながら、私は意識を再び飛ばしたのだった。

 


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