今回は咲夜さんが攫われた時の紅魔館の面子+αの反応です。
次の話は咲夜さん視点の予定です。
それにしてもパチュリーが優秀で便利です。困ったときのパチュリーが定着化してきた気がします。
その日はいつもと変わらない日だった。
強いて違うところを挙げるとすれば咲夜さんが買い物に人里へと向かったことと、その後に博麗の巫女がワインを飲みに訪れたこと位だろうか。
私は門番として立っている間は気を張り巡らせて紅魔館に近付いてくるものがいないかどうか警戒している。
知っている人物ならば気で分かるし、戦意があれば気がどれ程高まっているかで判断できる。
だから紅魔館に近付く慣れ親しんだ気――咲夜さんの気を感じ取ることができた。
さてどういう風に彼女を出迎えようか、と考えていると、突如妖力が発生し、咲夜さんの霊力とぶつかり始めた。
(咲夜さんと誰かが戦ってる!?早く助けに行かないと!)
私は気で身体強化を施し、全力で地面を蹴った。
普段は飛んで移動する私だが、速さを重視するならば走った方が早い。
しかし、走っている途中で咲夜さんの気が弱まっていき、やがて感じ取れなくなった。
その感覚に私の背中が粟立つ。
――咲夜さんがいなくなる?死んで、しまう?
想像しただけで泣きそうになる。それほどまでに私の中で彼女の存在は大きくなっていた。
やがて戦っていたと思われる場所に辿り着く。
霊力と妖力が混ざり合い、ここで激しい闘いがあったことが分かる。
私は能力と併用して咲夜さんの痕跡を探る。
すると、妖力と咲夜さんの霊力が同じ方向に向かっていることに気が付く。
きっと咲夜さんは帰る途中で妖怪と遭遇し、戦いになり、負けた。
その妖怪が何故咲夜さんを殺さずに連れ去ったのかは分からないが、まだ彼女が死んだわけではないことに安堵する。
(そうだ、レミリア様にこのことを伝えないと!)
私はすぐに紅魔館へと全力疾走を始めた。
♢
気を探ってレミリアお嬢様がどこにいるかを調べると、図書館にいることが分かった。
私は驚いた表情の妖精メイド達に見られながらも廊下を全力で走り、図書館の扉を乱暴に開けた。
「うるさいわよ、美鈴。何の騒ぎ?」
パチュリー様が眉をひそめて注意してくる。いつもならば謝るところだが、今はそんな場合ではない。
「咲夜さんが、妖怪に攫われました!」
「――何ですって?」
私が叫ぶと、レミリア様が椅子を蹴倒して乱暴に立ち上がる。
その場にいた他の面子も様々な反応を返した。
ワインを煽っていた霊夢は無表情だった顔を険しくし、
パチュリー様と魔道書を読んでいた魔理沙は驚いて固まっている。
パチュリー様は眉をひそめていた顔から思案するような顔になり、
魔理沙の勉強を見ていたフラン様は泣きそうな表情になった。
小悪魔はショックで本を落としてへたり込んでしまっている。
「それは本当?美鈴」
「はい。咲夜さんの気を感じ取ったと思ったら突然現れた妖力と戦い始めて、咲夜さんの気が感じ取れなくなったんです。すぐに現場に向かったら、妖力と共に咲夜さんの霊力がどこかへ移動しているのを感じ取れました」
「どこのどいつだ。私の大事な従者を連れ去った愚か者は……?」
確認をしてきたパチュリー様に答えると、レミリア様が膨大な妖力をまき散らしながら激昂した。ピシリ、ピシリと図書館用の結界が軋む。
そしてその妖力に当てられて、魔理沙と小悪魔が顔を青ざめさせている。
「落ち着きなさい、レミィ」
「落ち着けだと?これが落ち着いていられるかっ!!私の大事な従者を連れ去った愚か者を串刺しにしなければ気が済まん!!」
「落ち着きなさい、と言ったわレミィ。主人であるあなたが咲夜を信じないでどうするの。死んでいないなら咲夜は大丈夫よ」
「パチェ!!お前は何とも思わんのか!」
「何とも思わない?冗談を言わないでレミィ。――そいつを殺したいのは私だって同じことよ。でもね、感情のままに行動したら追い込まれるのは私達。スキマ妖怪との約定を忘れたの?ここが無くなってしまったら咲夜はどうなるの。怒りを忘れろとは言わない。ただ、冷静になりなさいと言っているのよ」
大声で怒鳴り散らしていたレミリア様だったが、パチュリー様の言葉で私が戻していた椅子にゆっくりと腰掛け、左手で顔を覆った。
「……すまなかった、パチェ。そうだな、主人である私が咲夜を信じなければならなかった。ありがとう」
「分かったならいいわ。さて、これからどうするかを決めましょう。咲夜を信じていると言っても救出には向かわなければならない。万が一、咲夜が自力で戻ってきた時のために私とレミィは残るとして、誰が行く?」
「私が行きます、パチュリー様」
私はパチュリー様の問いかけに即答した。ここで適任なのは私だろうし、何より咲夜さんの無事を自分の目で確認したい。
「なら私も行く!」
「フラン…!?駄目よ、貴方はまだ能力の制御が!」
「お願いお姉様!咲夜のために何かしたいの!咲夜の無事を願ってるだけなんて嫌!だから…お願い…!!」
目に涙をためてレミリア様に懇願するフラン様。レミリア様はしばらく迷っていたが、やがて諦めたように溜息をついた。
「……はぁ。分かったわ。でも、無理はしないようにね。……パチェ、幻想郷全体を曇り空に変えることはできる?」
「できるけど、それにはスキマ妖怪の許可が必要ね。無断でやると異変として動くかもしれないわ」
「紫には私が伝えるわ。それと、私も咲夜を探す。なんだか、ここ最近の幻想郷全体の変な雰囲気と関係している気がするのよね。勘だけど」
「霊夢の勘なら信用できるな。よし!私も咲夜を探すぜ。友人として放っておけないしな」
今まで沈黙を貫いていた霊夢が言葉を発すると、それに続いて魔理沙も参加を希望した。
それを聞いてパチュリー様が頷く。
「じゃあ、咲夜を助けましょう。こぁ、貴方は私のサポートに周りなさい。後、美鈴、フラン、霊夢、魔理沙、貴方達にはこれを渡しておくわ」
パチュリー様は私達に色とりどりの石を投げ渡してきた。
私が緑でフラン様は金。霊夢が赤で魔理沙は黒だ。
「それは私が魔力を込めた魔石よ。霊力、妖力、魔力を増幅させる効果とそれぞれの魔石を持っている相手と交信できるわ。私はそれを通して指示を出すから無くさないように」
パチュリー様の説明を聞いて私達は頷く。
「私は何かあったら出るが、館に残っている。全員、頼んだぞ」
レミリア様が私達を見て頭を下げる。
それを見て霊夢や魔理沙が驚いているが、おかしなことではない。
それほどまでに、咲夜さんの存在は紅魔館の中で大きいのだ。
「じゃあ、行きましょうか」
霊夢の一声で私達は出口へと向かう。
こうして、咲夜さん救出作戦は幕を上げた。