バレンタインなんていうリア充ご用達の行事なんてこの世から消え去ればいいんだ(レイプ目)
今回も長いです。しかも初めて一万字越えをするという。おかげで書き上げるのが大変でした。
あと多分に独自設定が含まれております。ご注意ください。
――正門前
「はああああああああああああっ!!!!」
美鈴は迫りくる人形たちを拳で、蹴りで、時には頭で粉砕していく。
だが、圧倒的に手数が足りない。
美鈴が一体倒すたびに五体以上の人形が襲い掛かってくる。
しかも、ばらばらに攻撃してくるのではなく、それぞれが連携して仕掛けてくるので厄介この上ない。
相手が生物ではなく、人形ということも美鈴が押されている原因の一つだ。
気というものは攻撃するときに集中する。殴るならば拳、蹴るならば足、という風に。
だからこそ美鈴は相手の行動を先読みし、フェイントすらも見切ることが可能なのだ。
だが、人形達にはそれがない。
人形にあるのはアリスが操作するための魔力のみ。生物ではないために気は存在しないのだ。
確実に押し込まれていく美鈴が一直線に目指しているのは最後方で人形を指揮するアリスだ。
(このままでは確実に負ける。その前に彼女に辿り着かなければ……!!こうなったら!)
美鈴は一旦後ろに飛ぶことで人形達から距離をとる。
追撃しようと襲い掛かってくる人形達を見ながら美鈴は気を両手に集中させた。
「うらららららららららららららららららららららーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!」
次の瞬間、美鈴はラッシュを繰り出すことで気弾を前方へと乱射する。
気弾に直撃した人形達はあっという間に壊れていき、人形達が形成していた戦線が崩れた。
美鈴はそれを見逃さずに崩れた箇所へと突っ込む。
人形達はそれを止めようとするが、美鈴が手に纏った気によって吹き飛ばされていく。
やがて、美鈴は人形の防衛線を突破し、アリスの眼前まで来た。
そして、アリスを守る近衛人形達を薙ぎ払った。
もうアリスを守る人形はいない。
(勝った!)
そう、いない、はずだった。
「甘いわね。紅美鈴」
美鈴がそれを察知できたのは偶然だった。
突然月の光が遮られ、周囲が暗くなったのに気が付いた美鈴はアリスを警戒しつつも上を見上げる。
そこには、100メートル以上の巨大な人形が拳を振り上げて美鈴を攻撃しようとしている姿があった。
「~~~~~っ!!!????」
とっさにアリスへの攻撃を中止し、回避する。
そのおかげかすんでのところで巨大な拳を避けることができた。
「ゴリアテ。それがこの人形の名前よ。まだ試作段階だから出すつもりはなかったのだけれど、貴方は十分本気を出す相手だと認識したわ。だから――全力で叩き潰す」
アリスの指示によって迫るゴリアテ人形を美鈴は冷や汗を流しながらも見続ける。
目をそらせば叩き潰される。そんなプレッシャーが目の前の巨大人形にはあった。
美鈴はゴリアテが右拳を地面にたたきつける瞬間に回避し、その大きい腕を駆け上がっていく。
ゴリアテは美鈴を振り払おうと右腕を振り回すがすでに美鈴は肩の部分まで登っていた。
「すううううううっ、はああああああああっ、はあっ!!!!!」
美鈴は一度大きく深呼吸をすると、ゴリアテの肩を全力で殴った。
それによってゴリアテの右肩は破損し、ゴリアテ自身もバランスを崩し、転倒した。
ゴリアテが転倒した瞬間、美鈴は素早く地面に飛び降り、アリスへと殴りかかる。
アリス自身の戦闘能力はさほど高くはない。だからアリスに美鈴の攻撃を避ける術はなかった。
美鈴の拳がアリスに突き刺さる――そう思われた瞬間、美鈴は横から強い衝撃を受けて吹き飛ばされ、紅魔館の外壁に激突し、気絶した。
「危なかったわ。もう一体のゴリアテがいなかったら負けていたわね」
そう呟くアリスの隣に現れたのは先程美鈴が打倒したゴリアテ人形と瓜二つの巨大人形。そう、アリスが用意していたゴリアテ人形は二体存在したのだ。
ゴリアテ含む人形達を魔方陣によって還したアリスは気絶している美鈴をじっと見つめる。
「貴方の可能性、見させてもらったわ。機会があればまた会いたいわね、美鈴」
アリスは簡単な治癒魔術を美鈴にかけて大体の傷を治すと、魔法の森へと帰っていくのだった。
紅美鈴VSアリス・マーガトロイド 決着
勝者:アリス・マーガトロイド
♢
――紅魔館 中庭
中庭はまさしく戦場だった。
ムカデのような形をした妖怪が人狼の首を食いちぎり、その妖怪を人狼ごと焼き払う悪魔。中にはただ殴りあっている悪魔と妖怪もいる。
混沌としたその戦場である一角だけがぽっかりと開き、そこで戦う二つの影。
レティ・ホワイトロックと人狼組のリーダーである。
レティが能力で吹雪を起こせば、人狼は遠吠えをすることで口から妖力を発し、その吹雪を吹き飛ばす。
レティが氷剣を作り上げ斬りかかれば、人狼は鋭い爪を以て迎え撃つ。
「あら、予想以上に強いのね、貴方」
「見くびってもらっては困ります。ここの主人とは比べられませんが、まがりなりにもここの人狼を統率しているのは私なのですよ?」
言葉を交わすごとに同時に攻撃も交わる。お互いの必殺の力を込めた攻撃はしかしお互いに通らない。
何檄か攻撃を交わした後に、レティは人狼との距離を開け、あくびを一つする。
人狼はそんなレティを見て苦笑した。
「あくびとは随分余裕ですな。それほど私との戦いは退屈ですかな?」
「いいえ、違うのよ。私は普通冬に活動するから冬以外の季節に活動すると消耗が激しいの。そろそろこの戦いも終わりにしましょう狼さん。私もう眠くて」
「そうですか、ならばあなたを殺して幕引きといたしましょう!」
人狼の姿は人間に近いものだったが、徐々に狼のそれへと変貌していく。
この姿こそが人狼としての本気の姿であり、全力を発揮できる姿なのだ。その分消耗が激しくなるため最後の切り札となってしまうのだが。
「アオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンッッッッ!!!!!!!」
人狼は高らかに吠えると、レティへと突進する。
そのスピードは先程の何倍も早く、瞬く間に人狼はレティへと肉薄する。
爪を振り上げ、後はレティを切り裂くのみ。だが、次の瞬間、人狼が感知できたのは、凍りついた自らの肉体と、柔らかに、しかし残酷に笑うレティの顔だけだった。
「おい、雪女。今のはなんだったんだ?狼と悪魔どもが一斉に動きを止めちまったが」
氷像となり、砕け散った人狼をレティは眺める。
そんな彼女に突然の出来事で何が起こったのか分からなかった猿の妖怪が尋ねる。
彼が見たのは、戦っている途中で突然動かなくなった人狼達と悪魔達。
そのおかげで特に労力をかけずに人狼組と悪魔組を倒せたのだが。
他の妖怪も何故か分からなかったようでレティを見つめている。
妖怪達の視線を受け、ふふっ、と楽しそうに笑うレティ。
「私がやったのは思考の凍結よ。きっと彼らは何も分からないまま死んでいったでしょうね」
そう、レティが為したのは思考の凍結。凍結された相手は何も感じることもできないまま全ての行動を封じられる。凍気を操る能力を持つ彼女だからこそできる芸当である。
しかも彼女は無差別に凍結するのではなく、敵のみを選別して凍結した。これだけでレティがどれ程の実力を保持しているかは想像するにたやすい。
「やっぱてめえはバケモンだよ、雪女」
猿の妖怪は顔を引き攣らせながら言葉をこぼす。
「あらあら、レディに向かってバケモンなんて、失礼よ?」
レティは猿の妖怪をたしなめながらくすくす、と朗らかに笑うのだった。
レティ・ホワイトロック、幻想郷の無名妖怪軍団VS紅魔館人狼組、召還悪魔組 決着
勝者:レティ・ホワイトロック、幻想郷の無名妖怪軍団
♢
――紅魔館 図書館内部
「さっさと落ちなさい、魔法使い!」
「くっ……!!」
ルーミアの放った闇がパチュリーの障壁を破り、服を斬り裂く。
ルーミアの闇はパチュリーの魔力を食い破ることができるため、パチュリーが攻撃すれば闇の防御により魔法自体を喰われ、防御に徹すれば先程のように障壁を食い破られる。
しかし、ルーミア一人ならばパチュリーもこれほど苦戦することはなかっただろう。
大魔法使いとも呼べるパチュリーの実力ならば、ルーミアを一時的に拘束し、先程行ったような偽の太陽をぶつけることくらいたやすいことだ。
それができないのは、ルーミアの後ろで援護射撃を行っている風見幽香の存在のためである。
援護射撃とはいうものの、その威力はまさしく必殺。
掠りでもすれば撃墜されることは目に見えて明らかだった。
(あまり使いたくなかったけど、仕方ないわね)
このままでは一方的に攻撃されてやられるだけだと判断したパチュリーは切り札を使う。
パチュリーの周囲に七つの魔石が顕現する。
「賢者の石」これこそがパチュリーの研究の集大成であり、彼女の切り札だ。
ルーミアは現れた賢者の石を見て怪訝な顔をしたものの、問題にはならないと判断して攻撃する。幽香も砲撃を放つことでパチュリーの回避を妨害した。
手の形をした闇がパチュリーへと襲い掛かる。
しかしその攻撃は賢者の石から放たれた七つの砲撃の一つによってかき消される。
残る六つの砲撃は幽香の砲撃を打ち消しつつ幽香へと向かったが、それらは連続で放たれた幽香の砲撃によって相殺された。
しかし、その攻撃に重ねるように賢者の石からの砲撃。
ルーミアは自分の前に盾のように闇を形成し、砲撃を「喰い」止める。
幽香は妖力をのせて傘を一振りすることで砲撃を吹き飛ばした。
だが、それぞれのその行動は今この場面においては悪手だった。
二人が防御に回ったことでパチュリーに余裕を与えてしまったのである。
仮にこれが並の魔法使いだったならば、せいぜい下級の魔法を使う程度の猶予しかなかっただろう。
しかし、パチュリーは紛れもなく最高クラスの魔法使いだ。だからこそ、高速詠唱を用いて、さらに大規模な魔法を重ね掛けすることも可能なのである。
二人のうち、最初にそれに気が付いたのは幽香だった。
賢者の石への魔力供給が先程よりも増加していることに気が付いた幽香は瞬時にルーミアのもとまで駆けつけ、彼女を姫抱きすると、高速でその場から離脱した。
「ちょっ!?なんなのよ、いっ、た、い……」
ルーミアは最初こそいきなり抱きかかえられたことに抵抗したものの、パチュリーの方へと目を向けて、言葉を失った。
そこには、最大限まで魔力供給を受けたことで発光している賢者の石に、さらにもう一組の賢者の石を生成しているパチュリーの姿があったためである。
ルーミアが顔を引き攣らせて固まったと同時に、パチュリーは二組の賢者の石から魔砲(誤字ではない)が放たれた。
ズドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドッッッッッッッッッ!!!!!!!!!!!
もし仮に、この戦場に現代兵器の知識を持った人物がいたならば、パチュリーの攻撃を見てこう表現するだろう。「まるで爆撃のようだ」と。
賢者の石から連続で放たれた砲撃は、正確に逃げる二人へと迫る。
幽香はそれを一時的に妖力による浮遊を解除し、一瞬の自由落下によって回避する。
「宵闇の妖怪、能力を使って闇をまき散らしなさい。一時的な妨害にはなるわ」
「え?あ、分かったわ!」
突然の出来事が連続で起きたことで思考停止していたルーミアは、幽香の言葉で我に返る。そして、幽香の言った通りに闇をまき散らすと、正確に二人を追っていた砲撃群がそれぞれあらぬ方向に行き、爆散した。
砲撃は二人の妖力を辿って追尾していたのだが、ルーミアの闇がフレアのような働きをしたことで追尾性を失ったのだ。
「どうするのよ?このままじゃ削りきられるわよ?私の闇も一度に喰える量には限界があるし」
「私にいい考えがあるわ。耳を貸しなさい」
本棚の物陰に隠れた二人は、一旦着地し、話し合う。
ルーミアが幽香の口元に耳を寄せると、幽香が「いい考え」を教える。
最初こそは神妙に聞いていたルーミアだったが、聞いていくうちにだんだんと顔を青ざめさせていく。
「そ、それ、本当にやるの?」
「ええ、貴方にしかできないわ、頑張って」
にっこり、と笑った幽香の顔は天使のように美しかったが、作戦を聞いたルーミアにとっては悪魔の笑みにしか見えなかった。
「見つけたわ、まったく、厄介なものをばらまいて」
やがてパチュリーが呆れ顔で現れ、再び二人に砲撃を放つ。
「それじゃあ、作戦通りに行くわよ?」
「え、ちょ、ま、心の準備だけでも……、おおおおおおおおおおっっっ!!!!!????」
幽香はルーミアの言葉に聞く耳持たずに彼女をパチュリーへと無駄に綺麗なフォームで投擲した。
パチュリーは冷静に砲撃の照準をルーミアへと定め、放つ。が、ルーミアは闇を全身に纏うことで砲撃から身を守る。
それにパチュリーは一瞬眉をひそめたものの、最初に放ったものより二回りほど小さい太陽をルーミアへと放った。
しかし、その太陽は幽香の砲撃によって消滅した。
「!?」
ルーミアは、驚いて動きを止めているパチュリーへと激突し、パチュリーにしがみつくことで拘束する。
パチュリーはすぐにルーミアを振りほどこうとするが、ガクン、と自身の魔力が減少したことで、それはかなわなかった。
「くっ、この……!私の魔力を……!」
ルーミアはパチュリーの魔力を喰うことで、パチュリーの行動を阻害した。
そして、魔力が供給されなくなったことで賢者の石が消滅する。
パチュリーは、どうにかしてルーミアを離そうともがいているうちにあることに気が付く。風見幽香はどうしているのか、と。
すぐに視線を下に向け、幽香を見ると、彼女はすでにチャージを完了させ、照準をこちらへと定めていた。
(いえ、まだこちらには宵闇の妖怪がいる。仲間を巻き込むはずが――)
幽香がパチュリーの思考を嘲笑うかのように妖力砲を放った。
その一撃はパチュリーはもちろんルーミアも巻き込み、図書館の天井に穴をあけて幻想郷の空へと消えていった。
中庭でそれを目撃した雪女は「綺麗ね~」と言って周りの妖怪達を呆れさせたとかなんとか。
風見幽香が気絶したルーミアを連れて紅魔館を出て行った数十分後、パチュリーは目を覚ました。
図書館は戦闘の余波でボロボロだった。魔法で保護していた本棚はともかく、壁や床はめくれ上がり、廃墟さながらになっていたし、天井には夜空が見える大穴が開いているときている。
さすがのパチュリーもこの惨状には溜息を吐くほかなかった。
パチュリーがこの状態をどうしようかと悩んでいると、ガラリ、と瓦礫が崩れる音がした。
そちらへ目を向けると赤い髪の悪魔がいた。
そういえば悪魔の軍勢を呼び出したときにこの明らかに戦力外な悪魔も混じっていたのだったか、とパチュリーは思い出す。
とりあえずこの惨状の整理を手伝わせよう、とパチュリーはぷるぷると涙目で震えているその小悪魔へと歩を進めるのだった。
パチュリー・ノーレッジVS風見幽香、ルーミア 決着
勝者:風見幽香、ルーミア(ルーミアは戦闘不能)
♢
――紅魔館 地下室 フランドール・スカーレットの部屋
ドッゴオオ大オオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!!!!!!!
轟音が部屋の中に響く。
吸血鬼と鬼が法外な力をぶつけ合っているのだから当然と言えば当然だ。
戦況は拮抗していた。
純粋な身体能力としては鬼である伊吹萃香の方が上なのだが、吸血鬼特有の異常なまでの再生速度が萃香を苦しめていた。
腕を、脚を、腹を、胸を、そして頭を何回、何十回と潰そうとも瞬く間に再生し、萃香に襲い掛かってくる。
無論萃香もこのような再生能力を保持した妖怪と戦ったことがないわけではない。
故に再生能力持ちとの戦い方は萃香も熟知していた。
しかし、それらの妖怪とフランドールとの違いもある。
まず一つは妖怪としての基礎能力、そしてもう一つが萃香が攻めあぐねている一番の要因なのだが、異常なまでの狂気である。
妖怪と言えど痛覚は存在する。それは無論自身が生き残るための機能であり、いくら再生能力があれど傷つけられれば怯むし、死を目前としたことで恐怖する。そして怯んだ瞬間に再生能力を上回るほどの攻撃を加えることが再生能力持ちへの最善の対処法だ。
しかし、フランドールにはそれがない。むしろ痛みすらも娯楽のように感じている節すらある。
今この時も右腕が萃香とぶつかり合ったことで消し飛んだというのに、狂気に彩られた笑みを浮かべて左腕で殴り掛かってきている。
さすがの鬼の頑丈さでも吸血鬼の一撃をもらえばただでは済まない。少なくとも当たった箇所は抉れてしまうだろう。
それはまずいと萃香は疎となって攻撃を回避する。
もはや勝負を初めて何十回と繰り返されたことだ。さすがの萃香もこれほどまでに相手が消耗しなければ冷や汗の一つもかく。
(まずいねえ。このままじゃじり貧だ。かといって打開策もなし。まいったまいった)
「うふふ。すごいわ、貴方。ここまで生き残ったのは貴方が初めて。きっと貴方なら私の本気を受けても壊れないと思うの。だから、もっともっと遊びましょ!」
内心焦っている萃香の心を知ってか知らずかフランドールは炎剣を作り上げる。
後に北欧神話の魔杖の名を冠することとなる炎剣は、密閉空間である地下の酸素を燃焼させ、温度を際限なくあげていく。その暑さたるや、基本的に暑さ寒さをものともしない鬼である萃香ですら汗をかくほどだった。
その炎剣の一撃を受ければほとんどの者は融解し、灰も残らないであろうことは想像に難くない。
無論萃香でさえその例外に漏れることはないだろう。
そして炎剣は振るわれる。萃香へと狙いを定めて。
(疎になって避け――いや駄目だ。あれじゃどれだけ疎になっても蒸発する。ならっ!)
萃香へと炎剣が当たろうとした直前、炎剣は雲散霧消した。
萃香が能力を使ってフランドールの魔力を散らしたためである。
「あれ?」
突然のことに反応しきれずにフランドールは大きく空振ってしまう。
その隙を萃香が見逃すはずもなく、能力によって周囲の力を右腕に集め、フランドールの胴へと叩き込む。
その一撃は胴の左半分を抉り取って、フランドールを壁へとめり込ませた。
しかし、壁を壊して再び萃香に襲い掛かってくる頃にはその傷は完全に癒えていた。
萃香はその攻撃を疎となることで回避する。
「むー、また霧になって避けるの?それならこっちだって……キュッとして、どかーん!」
フランドールが右手を握る動作をすることで能力を行使する。
能力によって為された破壊は霧となっている萃香の一部を空間ごと削り取った。
「がっ、ああああああああああ!!!???」
疎となった状態の自分を攻撃されるとは思わず、痛みに驚いた萃香は能力を解除してしまう。
「あはっ♪まだまだあっ!!」
姿を現した萃香にフランドールは狂った笑顔で殴り掛かる。
「ちいっ!!」
萃香は傷を抑えながらもそれを回避し、妖力弾で牽制する。
しかし、フランドールは、怯むことなく弾幕に突っ込み、まっすぐ萃香めがけて攻撃を仕掛ける。
「あれ?」
だが途中でフランドールが疑問の声を上げて倒れる。
足を吹き飛ばされ、それが今までのように再生しなかったためだ。
「ん~?なんで治らないの?」
「私の能力のちょっとした応用さ。まさかこんな戦い方をしなけりゃならないなんて思わなかったけど」
不機嫌な顔で萃香がフランドールへと返す。
フランドールの再生能力は吸血鬼の特性の一つであるが、それは多大な妖力と引き換えに起こしている。萃香はそこへ目を付け、疎の能力を使って妖力を散らすことでフランドールの再生を一時的に封じたのだ。
しかしこのような小細工じみた方法は鬼である萃香にとっては不本意な物であり、不機嫌になっている。
「ん~、そっかあ。私の負けかあ。今度遊ぶときは勝つからね」
フランドールは自分がうまく体を動かせないことが分かると、あっさりと抵抗をやめ、満足した表情で床へと寝転がる。
しばらくすると寝息が萃香の耳に届き、萃香は苦笑した。
「敵の前で寝るとは随分豪胆だねえ。いや、私はただの「遊び相手」だったか。鬼相手にそこまで言ったのはあんたが初めてだよ。こんど遊ぶときはもっと思い切りやりたいもんだ」
萃香はフランドールをベッドの上まで運ぶと、霧となってその場を離れるのだった。
フランドール・スカーレットVS伊吹萃香 決着
勝者:伊吹萃香
♢
――紅魔館 最上階 レミリア・スカーレットの部屋
部屋の中を弾幕が埋め尽くす。
弾幕を放っているのは八雲紫に八雲藍。彼女たちが放つそれはまさしく一撃必殺、絶対命中のもの。
並みの妖怪ならば掠っただけでも消し飛ぶであろう弾幕はしかし、標的であるレミリア・スカーレットを捉えることはない。
抜ける隙間すらないはずの弾幕は、まるでそれが当然であるかのようにレミリアの目前で逸れていく。
本来ならばありえない偶然。しかしレミリアは自身の能力によって奇跡のような確率を確実に引き起こす。「弾幕全てが全く当たらない」運命を。
(彼女の能力……、想像以上に厄介ね)
紫は内心焦りを感じ始めていた。
何故なら彼女たちの攻撃が全く当たらないためだ。
弾幕は全てが逸れて、紫の能力であるスキマですらレミリアのすぐ近くには発生させることができない。
式神である藍はもっとひどい。彼女の能力は計算に依存するものであるが故に運命という不確定要素を引き起こすレミリアの能力と最悪なまでに相性が悪いのだ。
博麗の巫女はどうにかしてレミリアに近づこうとしているが、紅い槍のような弾幕に阻まれて近づくことができない。
今代の博麗の巫女の難点はそこだ。彼女は霊力を外に放つ才能が全く無かったのである。
そのため、霊力弾を使うことができない彼女の戦闘スタイルは「近づいてぶん殴る」という形で完成していた。
霊力を纏うことで身体機能を著しく上昇させる術を使っているものの、途切れることのない弾幕を突っ切ることはできなかったようだ。
「どうした?まさかこの程度というわけではないだろう?」
退屈そうに声をかけるレミリア。彼女にとっては自分が弾幕に当たらず、また、自分の周りで能力が発動しないように運命を操作することは満月の夜である今ならば呼吸することよりも容易いことだ。
後はただ弾幕を放つだけ。避ける必要もない彼女にとってはこの上なく退屈な時間だった。
「くっ、なめるな、吸血鬼ぃっ!」
戦況が不利であることに焦燥を感じている所に挑発がきて、いつもならば冷静でいられる藍が激昂する。
更に弾幕の濃度を上げ、レミリアへと放つが、動くことなく避けられてしまい、藍の怒りがさらに上がる。
「落ち着きなさい、藍。焦ったところで何もならないわよ?むしろ思考が鈍くなるだけ」
「紫様、ですがっ!」
「いいから。今から彼女の周囲に結界を張るわ。あなたも手伝いなさい」
「は、い…」
窘められて声を荒げる藍だったが、紫からの命令でいったん感情を抑える。
そして紫と同時にレミリアの周囲に結界を張った。
「む?結界か。こんなもので私を閉じ込められるとでも――」
レミリアの言葉の途中で結界から内部に向かって弾幕が放たれる。
それを見てレミリアがつまらなそうに溜息を吐く。
「やれやれ。弾幕など私には意味がないといい加減分かればいいものを」
レミリアの運命操作によってやはり弾幕はレミリアから逸れていく。
「もういい。この程度ならば早々に死ね」
レミリアは右手に紅の槍を顕現させる。
それは弾幕として放たれていた物とは込められている妖力の量と密度が段違いに別物だった。
レミリアは禍々しく発光するその槍を妖怪の賢者へと狙いを定めたところで気が付いた。
(む?あの博麗の巫女とやらはどこに――っ!!上か!!)
博麗の巫女の姿が見えないことに気が付いた瞬間、天井近くに霊力を感知する。
見上げると、霊力を込めた拳を振り上げた巫女がいた。
紫は藍と共に弾幕結界を放つと同時にレミリアの能力が及ばないところに博麗の巫女をスキマで転送していたのだ。
「だが、残念だったな。奇襲は気が付かれてしまえば意味がない!」
レミリアは紅の槍の照準を紫から巫女へと変更し、投擲する。
空中にいる巫女には避ける手段はなく、迎撃しても押し負ける。
レミリアは勝利を確信した――が、それは巫女が振るった拳によって砕かれた槍を見て霧散した。
「な、にぃっ!?」
レミリアは槍を砕かれたことで驚愕しながらも、運命操作をすることで拳が当たらないようにする。
だが、外れるというレミリアの思いを嘲笑うかのように巫女の拳がレミリアの頬へと突き刺さった。
「が、ああああああああああああああっっっっっっっっ!!!!!!??????」
まさか攻撃が当たると思っていなかったレミリアはもろに吹き飛び、床へと叩きつけられた。
(何が起きた?私の運命操作は完璧だったはずだ。なのに何故あの巫女は私に攻撃を当てられる?)
困惑して動きが止まった刹那、レミリアは三人に零距離まで詰められていた。
「さすがのあなたでもこの距離からの弾幕には当たるでしょう?敗北を認めなさい、レミリア・スカーレット」
紫が扇子をレミリアに向け、言い放つ。
さすがのレミリアでも零距離からの弾幕を避ける術はない。しかも、謎の攻撃をした巫女まで近くにいるのだ。レミリアの負けは決定的だった。
「ああ、そうだな、私の負けだ。だが分からんことがある。そこの巫女、どうやって私に攻撃を当てた?運命を操作していた以上、貴様の攻撃は失敗するはずだったのだが」
博麗の巫女はしばらく逡巡していたが、やがて口を開いた。
「私の能力は「ありとあらゆるものを吹き飛ばす程度の能力」。お前が自分の勝利する運命を引き寄せていたのなら、私はそれを吹き飛ばした。それだけだ」
巫女は攻撃の種を明かし、沈黙した。
言葉を引き継ぐかのように紫が口を開く。
「とりあえず貴方が敗北した以上、幻想郷への侵攻は止めてもらうわ。そして幻想郷へ迎合するならそれなりの約定を――」
「そうだな、私が負けた以上、侵攻は止めよう。だが貴様の条件など飲むつもりはない」
レミリアは紫の言葉を切って捨てる。
そのことに紫が眉をひそめる。
「そうなると、貴方達はこの館に閉じ込めておかざるを得ないけれど、いいのかしら?」
「構わん。元より幻想郷に辿り着くことが目的だったからな。侵攻などついでにすぎん」
紫が脅しじみた言葉を吐くが、レミリアはそれを了承する。そしてそのまま博麗の巫女へと話しかけた。
「貴様もそれで構わんな、博麗の巫女」
「私の役目は幻想郷の調整だ。お前が暴れんと言うならば私からは何もない」
巫女は淡々と返事をする。むしろ異変が終わった以上、興味がないようにも見えた。
「ではな。私は疲れたから少し休む。詳細については後日送れ。不満がなければ了承の返事を使い魔で送る」
そう言ってレミリアは部屋を出て行ってしまう。
それに続いて博麗の巫女も出口へと向かう。それを見て紫が声をかけた。
「あら、帰るのなら送るわよ?スキマで」
「いらん。お前のスキマは見ていて気持ちのいいものでも無いしな。それに妖怪とあまりつるむわけにもいかんだろう」
「相変わらず固いわねえ、貴方は」
巫女は返事もせずに出ていく。それを見て溜息を吐いた紫は自らの式神へと声をかけた。
「じゃあ、私達も帰りましょうか、藍」
「はい、かしこまりました」
藍が返事した瞬間、二人の姿はスキマの中へと消えていった。
誰もいなくなった部屋を、満月の光だけが煌々と照らしていた。
レミリア・スカーレットVS八雲紫、八雲藍、博麗■■ 決着
勝者:八雲紫、八雲藍、博麗■■
今回出た博麗の巫女、原作で言うところの先代巫女ですね。
もうこれ以降出ることはないと思うので設定だけ載せておきます。
名前が■■なのは作者がいい名前を思いつかなかったせいです。
名前:博麗■■
歴代巫女で唯一肉弾戦を主体としている。
鍛え上げられた肉体は鬼すらも感嘆の声を上げるほど。
性格は寡黙で冷静。
博麗の巫女の仕事は幻想郷の調停だと考えており、秩序を乱す者は人間、妖怪問わず叩きのめす。
誰かに肩入れすることはなく、常に中立。幻想郷を守る、という思想の点で紫と行動することはあるものの、紫に肩入れすることもなければ、必要なければ話そうともしない。
だがそんな姿勢が人里の住人には好ましく思われていたようで、時折差し入れが届いていた模様。
容姿はMUGENの先代巫女を思い浮かべてもらえればいいかも。
能力は「ありとあらゆるものを吹き飛ばす程度の能力」物理的な物から概念的なものまで吹き飛ばせると言えばチート臭いが、実は拳を振るうというワンアクションが必要なうえに拳を振るった1メートル先までしか効果を及ぼせないため、使い勝手はあまりよくない。