次回は藍しゃま視点です。
さて、それでは…らんしゃまああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!
橙に見送られ、魔理沙の後を追うと、前方に人影が見えてきた。
札を張ったようなデザインの帽子、ぶかぶかの袖に両手を突っ込み、よくある中国人のイメージのような姿勢。何より目を引くのは自身の体さえも包み込めそうな九本の狐の尾。
八雲紫の式神、「八雲藍」だ。
「そろそろ来るころだと思っていたよ、十六夜咲夜」
「私が来るのが分かってたの?」
「ああ、橙に張られている式は私が作ったものでね、離れていてもある程度ならその式が置かれている状況を把握できるのさ。橙が負けた感覚を感じ取って、もうすぐお前が来ると踏んでいた」
「魔理沙はどこ?先に来たはずだけど」
「先程紫様のもとに行ったよ。足止めしようとしたが上手く逃げられた」
「追わなくていいのかしら?」
「紫様は強い。あの魔法使い程度ならたやすく撃破するだろう。それに――――」
言葉を切り、藍がじっくりと品定めをするように私を見る。
「私としてはお前の方に興味がある。同じ従者としてもそうだが、紫様がお前を気にかけているからな」
「賢者が私を?むしろ注目してるのはお嬢様の方じゃないの?」
「お前の主人も厄介だった。かつてお前の主人――――レミリア・スカーレットが起こした騒動は幻想郷の主要人物のほとんどを動かすほど大規模なものだった。しかし彼女は、いや、あの紅魔館の住人たちはお前が来てから静かになった。だから私も紫様もお前に興味があるのさ」
「そのお嬢様が起こした騒動はあなたたちによって鎮圧されたんでしょう?なら大人しくなってもおかしくないじゃない。私はたまたまその時に現れたというだけで関係ないと思うけど」
「それはお前が大人しくなる前の彼女を知らないからこそ言えることだ。かつての彼女は負けたとしても侮れない存在だった。だからこそ紫様は強力な結界を紅魔館周辺に張ったのさ。……まあ昔話はここまでにしておこう。私も暇ではないのでな。冥界への結界を張りなおす仕事が残っている」
「じゃあ通ってもいいかしら?魔理沙を追いかけたいのだけど」
「それは駄目だ。これ以上紫様の邪魔をする輩が増えても困るし、先程の魔法使いも追わねばならん。それに、橙を倒したお前と戦ってみたいのだ」
「それは実力を見たいという意味?それとも、敵討ちという意味?」
「両方だ。……本音を言えば敵討ちという意味合いが強いがな」
苦笑しながら藍は答える。
「あら、意外に親馬鹿なのね」
「私が初めて作り、使い続けている式だ。愛着も湧くさ。……では、始めようか」
藍の周りに弾幕が出現する。それに込められている妖力は橙のそれをはるかに上回るものだった。
「お手柔らかにお願いしますわ」
私もナイフを配置し、迎撃姿勢をとる。
そして、お互いの弾幕が激突した—―――
戦いは一方的だった。
藍が弾幕を放ち、私はそれを能力によって避けていく。
しかも能力を使っているというのに常に紙一重の回避を私は強いられていた。
こちらも撃ちかえしているが、簡単に避けられてしまう。
藍の弾幕はまるで壁だ。スペルカードルール上抜け道は存在するのだろうが、そんなものを探している間に大量の弾幕が迫ってくるのだから時間を止めて対処しなければならない。
これが普通のショットだというのだから恐ろしい。同じEXボスでもフラン様の方がまだ可愛げがある。
藍に弾幕を撃たれるたびに時間を止めているものだから体力の消費も激しい。
まだ戦いが始まって数分しかたっていないというのに私は肩で息をするほどに疲労していた。
それでも避け続ける私を見て藍は感心したように言った。
「ほう、ここまで粘るとは予想外だ。ではスペルカードではどうかな?」
――式神「十二神将の宴」
ちょ、ここでスぺカ使う!?藍しゃまマジ鬼畜!
アホなことを考えつつも展開されたスぺカを避けていく。
そして避けていく過程で私は重大なことに気が付いた。
――――藍しゃまが弾幕を放つたびに尻尾がモフモフと動いている…だと…!?
気が付いてしまえば意識はそちらの方を向いてしまう。
(くっ、駄目だ私!耐えろ、あの誘惑を振りきるんだ!)
モフモフ…モフモフ…モフ…
くそっ、駄目だ、振りきれない!
顔はすごく凛々しくてかっこいいのに尻尾があまりにも愛らしすぎてギャップ萌えも感じるようになってきてしまった!
「どうした?先程よりも動きが悪いぞ?疲労してきたか?」
違います、いや疲れてきてるのは確かだけどそれよりも尻尾に目がいっちゃうんです!
弾幕を避けることに集中したいのにできない!九尾の狐の攻撃は隙の生じぬ二段構えということか……っ!
「隙だらけだぞ、そこだ」
――式輝「プリンセス天狐-Illusion-」
私の直線上に瞬間移動した藍はさらにスぺカを重ねてくる。
先程のスぺカと尻尾に意識を割いていた私にそれを避ける術はなく、弾幕に直撃した。
私の意識は直撃の衝撃に耐え切れず、闇へと落ちていく。
――――それは、霊夢の時以来の敗北だった。
意識が戻ると、私は何か温かいものに抱きついているのを感じた。
どうやらだれかにおんぶされているらしい。少し冷たい手が私の膝裏を支えている。
そういえば、小さいころ美鈴はよくおんぶをしてくれたっけ。
一回だけ、間違って彼女をこう呼んでしまったことがある。
――「お母さん」と。
「残念だが、私はお前の母ではないぞ?」
「!?」
聞き覚えのある声に私は驚いて目を開ける。
そこには苦笑してこちらを見る藍しゃまの姿がありました。
って、私声に出してた!?は、恥ずかしいいいいいいいいいい!!!!
「あ、えっと、今のは、その」
「何も言わなくていい。誰にも言わんよ。私は口が堅い方なんだ」
なにか言い訳がないかと口ごもっていると、藍が言わないと約束してくれた。
ありがたい。こういうミスは何かと恥ずかしいからね。例えるなら学校の先生のことをお母さんと呼んでしまった時くらい。
「……何となくだが、紅魔館の連中が大人しくなった理由が分かった気がしたよ」
温かい笑みでこちらを見てくる藍の顔を見ていられなくなり、つい顔をそらしてしまう。
「それで、今どこに向かっているの?」
照れ隠しにそう問いかけると、藍は苦笑しながらも答えてくれた。
「博麗神社だ。もっとも、今霊夢はいないがな」
「じゃあなんのために?」
「お前を紫様に会わせるためだ」
「なんで?」
「お前に話があるそうだ。連れて来いと命令された。霊夢と魔法使いは後から来るそうだ」
紫が私に話…?
何だろう、まさか、私が転生者だってばれたとか!?
私は戦々恐々としながらも藍の背中にしがみつくのだった。