ここまで手こずった話は初めてかもしれません。
今私は紅魔館近くの森を飛んでいる。
途中に毛玉や妖精に襲われたのだが、その全てをマジカル☆さくやちゃんスターが撃ち落としてしまうため、私が迎撃する必要もなかった。
私一人では到底無理な弾幕量、その弾幕を簡単に操作できる使いやすさ、弾幕に込められた高いホーミング性能。
…これでこの外見じゃなかったら完璧なんだけどなあ…。
私の両脇で、襲い掛かってくる毛玉に対して明らかにオーバーキルなナイフ形弾幕を発射しているマジカル☆さくやちゃんスターを見つめていると、前方から今までの妖精とは違った妖精が近づいてきた。
「そこのあんた!あたいとしょーぶしなさい!あたいはそこらの妖精とは違ってさいきょーだからあんたなんてこてんぱんしてあげるわ!」
背中の氷の羽、青い服、頭には青いリボン。間違いなく氷精チルノだ。
ここはあの湖からも近いので湖周辺を飛んでいた彼女にエンカウントしてしまったんだろう。
しかもこの長すぎる冬の影響で興奮しているのか、こちらの返事も聞かないうちからスぺカを取り出している。
この状況で背中なんてむけたら後ろから弾幕を撃たれかねない。
「はあ、寄り道してる暇なんてないんだけど」
こちらもスぺカを取り出し迎撃する体制をとる。
チルノは私がスぺカを取り出すとさっそく弾幕を放ってきた。
私はそれを見て応戦しようとして――やめた。
何故ならマジカル☆さくやちゃんスターがチルノの弾幕を相殺するどころかそれ以上の物量を以てチルノを追いこんでいるからだ。
押され気味になりつつもしっかり避けてこちらの隙をうかがってくるあたりさすがは妖精最強だと思うが、オプションであるはずのマジカル☆さくやちゃんスターに負けそうになっているところからして妖精という種族はやはり弱いのだろう。
結局そのまま押されきってしまったチルノは弾幕の波にのまれ、墜落してしまった。
何もしていない私にはなんか釈然としない気持ちだけ残った。
チルノを倒してしばらく飛んでいると、吹雪が強くなってきた。
私は美鈴から借りたマフラーを巻きなおすことで寒さに耐える。
吹雪によって視界が悪くなってしまったために、どっちの方角に行こうか迷っていると、風が突然やんだ。
いや違う。まるで台風の目のように私の周囲だけ風がないのだ。
周りを吹雪の壁が阻み、これを突破しようとすれば確実に方角を見失ってしまうだろう。
そして、その吹雪の壁からまるでラスボスのように現れたのはレティ・ホワイトロックだった。
「あなたもこの冬を終わらせようとしているのかしら?」
穏やかな笑みを浮かべながら問いかけてくるが、彼女から感じるプレッシャーは彼女が私をすでに敵認定していることを示している。
…というか、穏やかな笑み浮かべながら静かに威圧するって、本当に黒幕みたいだなあ。
彼女は1面ボスのはずなんだけど。
「ええ、早く春になってほしいというのが私の主人の願いなの。邪魔をするなら容赦はしないわ」
初対面の相手に勝手に喧嘩を吹っかける私の口は置いといて、どうやら彼女を倒さないと先には進めないらしい。
「季節が移り替わるのは当然のことよ。だからそのことについて何か言うつもりはないわ。でも、こんないい天気の日に人に会ったんだもの、戯れてみたいと思うでしょう?」
レティが弾幕を張り、私はそれに応戦する。
今までの敵と違い、マジカル☆さくやちゃんスターだけでは彼女は抑えきれないので、ナイフを投擲し、彼女の進路を妨害する。
この戦いも今までの弾幕ごっこのように恐怖心を覚えると思ったが、そんなことはなかった。
むしろ、相手の弾幕の軌道が読め、その美しさを理解できるようになったことで弾幕ごっこの楽しさが理解できた。
これはお互いの思いのぶつけ合いなのだ。
例えるなら、不良二人が河原で殴りあって最後に土手に寝転がりながら「お前、なかなかやるじゃねえか」「へっ、お前もな」という感じに近い。
弾幕に自分の気持ち、特性などを組み込むことでお互いの意思を見せつける。
なるほど、これは確かに楽しい。
霊夢が楽しんでやっているかどうかは不明だが、魔理沙がこのゲームにのめりこむ気持ちも分かる気がする。
霊夢という理不尽なまでの強敵と戦ったことで私は少しのことでは怖がることが無くなっていたのだ。
レティの弾幕を難なく避け、ナイフを投擲する。
このままでは負けると思ったのか、レティがスぺカを宣言した。
――寒符「リンガリングコールド」
青色と水色の弾幕が迫ってくる。
しかし、それらはやはり霊夢の夢想封印と比べると遅く、追尾性能も低い。
それらを危なげなく避け、こちらもスぺカを宣言する。
――幻符「殺人ドール」
今までのナイフの量をはるかに超えるナイフの波がレティに殺到する。
レティはそれらを避けようとするが、避けきれずに喰らった。
「あら、負けちゃった。もう少しいけると思ったんだけど」
負けたというのに相変わらず微笑んでいるレティからはもうプレッシャーは感じない。
「それじゃ、負けちゃったし、私は帰って春眠を貪ることにするわ。異変解決、頑張ってね~」
手をひらひらと振って去っていくレティの姿に毒気を抜かれた私は、いつの間にか周囲の吹雪の壁が無くなっていることに気づいた。
「彼女、何がしたかったのかしら…」
私は首をかしげつつも、魔法の森の方角へと飛び始めたのだった。