あれ?これもう別の小説じゃね?
ま、まあ異変中の紅魔館の一コマってことにすれば(震え声
「…行きましたか」
咲夜さんの姿が見えなくなり、私は振っていた腕を下ろす。
彼女が異変解決へと繰り出すのは昨晩にレミリア様に聞いて知っていた。
この終わらない冬を終わらせに行ったのだろう。
咲夜さんが強いのは知っている。
彼女の特訓に付き合ってきたのは私だし、弾幕ごっこでも彼女に勝てるのはレミリア様かフラン様位だ。
それでもつい心配で咲夜さんに渡したマフラーに少し仕掛けを施した。
といってもせいぜい霊力の巡りがよくなるように能力で強化した程度だが、咲夜さんならその程度で十分だろう。
「美鈴様!メイド長が見当たらないのですが、どこにいるか知りませんか!?」
メイド妖精の一人が慌てた様子で私に駆け寄ってくる。
メイド妖精の仕事は咲夜さんが全て把握し、管理しているため、彼女がいなくなっただけで紅魔館のほとんどの仕事が麻痺してしまうのだ。(といっても妖精メイドの仕事は後で咲夜さんがやり直すことが基本のため、妖精メイドたちが働こうが働かなかろうがあまり変わらないのだけど)
「咲夜さんならさっき異変を解決しに行ったよ」
苦笑しながら返すとその妖精メイドは目に見えてうろたえ始めた。
「え…!?そんな、私だけじゃ指示を伝えきれないし、このままじゃメイド長に迷惑がかかっちゃう…!」
泣きそうな、というかもう半分泣いてしまっている彼女を見て気が付く。
どうやら彼女は班長のようだ、と。
メイド妖精の知力はさほど高くない。
しかし、彼女たちにも個体差というのは存在し、メイド妖精の中でも比較的頭の良いものは班長と呼ばれる役職に就く。
班は全部で6つあり、それぞれ与えられている仕事が異なる。
料理、掃除、雑用、見張り、伝達、戦闘。
それぞれの仕事に専念させることで効率を上げ、今まで使い物にならなかった妖精メイドたちをある程度使えるようにしたのだ。
咲夜さんが来るまではむしろ足手まといだった彼女たちが咲夜さんの指示で動くようになって仕事を覚えてきた妖精メイドは少なくない。
そして仕事を覚え、能力があると咲夜さんに判断された6人の妖精メイドが班長に抜擢される。
この6人は自分の能力を引き上げてくれた咲夜さんに多大な感謝と尊敬の念を抱いているため、咲夜さんに必要以上の迷惑がかかることを酷く嫌うのだ。
指示を伝えきれない、という言葉からして彼女は情報班の班長なのだろう。
私は一つ溜息をこぼすと、彼女に指示を出す。
「あなたの班員に全てのメイド妖精は私の指示下に入るように伝達するように言って。
咲夜さんが帰ってくるまでは私が代理で指示を出すわ」
これでも咲夜さんが来るまでは私がメイド長をやっていたのだ。
私は咲夜さんのように班長を通して指示を出すことはできないが、妖精メイド一人一人に直接指示を出すことで動かすこと位はできる。
今まで門番に専念してきたため、こうして他人を動かすのは久しぶりだ。
「さて、頑張りますか!」
館は任せた――そんな咲夜さんの言葉を思い出し、気合を入れて久しぶりのメイドとしての仕事を始めた。
「あ~、疲れた…」
自室に戻ってベッドに倒れこむ。
仕事に区切りがついて今は少し休憩中。
誤算だったのは、予想以上に妖精メイドの動きが悪かったこと。
咲夜さんはよくも彼女たちをあそこまで動かせるものだと改めて感心する。
あんな華奢な体で紅魔館の仕事のほとんどを背負っているのかと思うとなんとなく情けない気持ちになった。
「美鈴?いる?」
ベッドで横になってぼーっとしていると扉の向こうからフラン様の声が聞こえた。
慌てて扉を開けると、クマのぬいぐるみを持ったフラン様が立っていた。
フラン様は部屋に入ると、ベッドにちょこんと座り、ぬいぐるみを抱きしめる。
私は部屋に置いてある紅茶を入れてフラン様に出す。
フラン様は一口紅茶を飲むと、不安そうな顔で私の顔を見上げる。
「お姉様から聞いたの。咲夜が異変を解決しに行ったって。咲夜、大丈夫だよね?」
「ええ、咲夜さんは強いですから、すぐに異変を解決して帰ってきますよ」
咲夜さんが紅魔館を離れるのはこれが初めてだ。
だからフラン様も長く離れたために不安になってしまうのだろう。
どうやって安心させようか、と考えていると、外から聞こえていた雪の降る音がやんだ。
不思議に思ってカーテンを開けると、今までずっと降り続いていた雪がやみ、月が顔を出している。
どうやら咲夜さんは無事異変を解決したらしい。
「フラン様、外を見てください。雪がやんでますよ。きっと咲夜さんが異変を解決したんです」
フラン様は窓に駆け寄り、外を見ると、先程の不安そうな表情が嘘のように笑顔になった。
「私、咲夜のこと出迎えに行ってくる!」
そういうとフラン様は玄関まで走っていってしまった。
咲夜さんが帰ってくるにはまだまだ時間がかかると思うのだが…。
とりあえず温かい食べ物と毛布を用意しなくては。
きっと体も冷えきっているからお風呂も沸かしておこう。
私は咲夜さんが帰ってくるのを心待ちにしながら咲夜さんを出迎える準備を始めるのだった。