今回は霊夢視点です。
私は境内の掃除を終えると、出かける準備をする。
行き先は以前異変で乗り込んだ紅魔館だ。
そこへ行くのはまあ、なんとなくだ。
なんとなく、今日紅魔館で何かがありそうな気がする。
いつもならこの程度の予感は無視して縁側でお茶でもすするのだが、紅魔館は数日前に異変を起こしたばかりだし、放置してまた異変を起こされたら面倒だ。
だから念のため紅魔館へ出かけることにしたのである。
「よし、じゃあ行きましょうかね」
札や針、陰陽玉を持つと私は紅魔館へ飛び始めた。
途中、勝負を仕掛けてきた氷精を数分で撃墜し、紅魔館に到着した。
相変わらず悪趣味な配色だと思う。
異変の時は霧のせいでよく見えなかったけど、晴れてる今、改めて見ると目が痛くなりそうだ。
今回は乗り込むわけではないので門へと降り立ち、門番に話しかけようと近づく。
門番も私に気が付いたらしく、臨戦態勢をとる。
「今日は戦うつもりで来たんじゃないわ。だから拳を下ろしなさい」
「信じられると思いますか?この前問答無用で自分を撃墜した相手のことを」
まあ、こうなるわよねえ…。
私としては戦うつもりなんてないからこういうのは面倒でしかないんだけど。
でも、戦わなきゃ入れないならやるしかないか。
諦めてスぺカを取り出そうとすると、紅魔館から見覚えのあるメイドがこっちに向かってきた。
ナイフを取り出していないところから見るに、今すぐ戦おうとは思っていないだろう。
だから、メイドに門番を止めるように言った。
すると、門番が突っかかってきたが、メイドが門番を宥め、ついてくるように言った。
なんだか私が来ることが分かってたような口ぶりね。
門番の隣を通り過ぎる時門番が私を睨みつけていたのでこっちも睨み返してやった。
普通の敵意というよりはどちらかといえばもっと別の感情からきたような睨みだったので少し変な感じがしたが。
廊下を歩いている途中でそういえばメイドの名前を知らないことに気が付いた。
吸血鬼が「さくや」と言っていたのは覚えているのだが、あれは知った内には入らないだろう。
彼女に名札のようなものはないかと観察していたら怪訝そうな顔で何度かこちらを振り向く。
そのたびに私はなぜか照れくさくなって顔を背けてしまった。
彼女は私の視線に我慢できなくなったのか、こちらに向き直って用があるのか、と問いかけてきた。
また謎の照れくささに襲われながらも彼女の名前を聞くことに成功する。
彼女は少し思い出すような仕草をしてから、「十六夜咲夜」だと自己紹介してくれた。
門では私の名前を呼んでいたが、あれは確認のようなものだったし、今度は私を博麗の巫女と呼んだ。
どうやら彼女は私と親しくするつもりはないらしい。
それが何となく気に食わなくなって、名前で呼ぶように言った。ついでに私も彼女を名前で呼ぶことにした。
そんなやり取りからしばらくして、吸血鬼の部屋に着いた。
部屋に入ると、この前の吸血鬼が偉そうに紅茶を飲んでいた。
吸血鬼が言うには来るころだと思っていただとか。
私の行動が予見されていたようで気に食わないが、とりあえず近くの椅子に座ることにした。
椅子に座ると突然目の前にケーキが現れて驚いたが、そういえば咲夜は瞬間移動のような能力を持っていたことを思い出して、便利な能力だと呟く。
予想以上においしいケーキを堪能していると、どこからか凄まじい爆音が聞こえてきた。(その時咲夜が何か言ったようだったが、音にかき消されて聞こえなかった)
音を聞いて咲夜は焦ったような顔になると、失礼します、と一言言って姿を消した。
「なんかすごい音が聞こえたけど、あんたはここでゆっくりしてていいの?」
「いつものことよ。対処は咲夜に任せてるわ。あなたこそ動かないの?」
「私は異変でなければ動かないわよ。小競り合いでいちいち動いてたら身が持たないわ」
騒ぎが起こっているのに動こうとしないレミリアに不思議に思って聞くと、落ち着いたまま同じことを聞き返された。
私も動く気はないことを伝えると、レミリアは何か考え込むように顎に手を置き、虚空を見つめ始めた。
話しかけてくる様子もないのでケーキを味わっていると、レミリアは考え事から戻ってきて問いかけてきた。
「あなたは咲夜のことをどう思ってるのかしら?」
「え?そうね、変わった人間、てとこかしら。普通なら妖怪のもとで働こうなんて思わないしね」
「変わった人間筆頭のあなたがそれを言うのかしら…。まあ、咲夜に対して特に思い入れがないならそれでいいわ。でも見る限り咲夜に対して何か思うところがあるようだけど?」
少し心が跳ねた。
彼女に対して思うところがない、言えば嘘になるからだ。
初めて会った時に彼女に一瞬見惚れたし、戦う姿も美しいとも思った。
少しだけ、彼女に近づきたいという気持ちもある。だから少し強引に名前を聞き出したのだ。
私の動揺に気が付いたのかは分からないが、レミリアはぞっとするような冷たい瞳で私を見据えた。
「咲夜は私のモノよ。私の部下で、家族で、満月なの。もしあなたがあの子を手に入れようとするのなら――」
レミリアは言葉を切り、吐息が私の顔にかかるほど近づく。
「――殺すわよ?」
その言葉には並々ならない殺意が込められていた。
きっとスペルカードルールなど無視して私を全力で殺しに来ることが理解できるほどに。
「ええ。分かったわ」
レミリアは私の言葉に満足そうに頷くと、再び椅子に座りなおした。
私達は下から聞こえてくる音がやみ、咲夜が戻ってくるまで剣呑な雰囲気でお茶を飲み続けたのだった。
分かりにくかったかもしれないのでここで説明しておくと、美鈴が霊夢を睨んでいたのは霊夢が咲夜を倒したことを知っていたからです。
つまり美鈴は咲夜さんを守ろうとしたわけですね。
もう美鈴は咲夜さんのお母さんでいいんじゃないかな。