ここまでくると感動しますね…。
今回はレミリア視点。
何故か一番長くなったでござる。
きっとレミリアに運命を操られたに違いない。
私はぼんやりと今日私を倒した巫女「博麗霊夢」を思い出していた。
気怠そうな顔をしている割には巫女としての責務を果たそうと私に戦いを挑んできた彼女。
あの道理を引っ込ませてでも自分の我を通そうとする姿には妖怪として好感が持てる。
久しぶりに人間に興味を持つほどに彼女は魅力的だった。
咲夜に会わずに彼女に会っていれば、きっと彼女の神社に押しかけ、彼女を独占したいと思ってしまうほどに執着しただろう。
しかし、その魅力も咲夜と会ったとき、いや、咲夜の存在を知った時の興奮と比べれば薄れてしまう。
咲夜の存在を知ったのは、暇を持て余して何か面白いものがないか手当たり次第に運命を覗いていた時だった。
廊下を掃除していた美鈴の運命を覗いたとき、彼女の運命に一人の少女が見えた。
銀髪の、月の光に照らされている、美しい少女。
――一目惚れ、だった。
すぐに彼女が欲しくなった。どんな手段を使ってでも、彼女を私の手元に置いておきたいと思った。
そして、その選択が彼女の運命を捻じ曲げるものだったとしても。
分かっていたのは、彼女が美鈴に会うのは満月の日で、紅魔館の近くの森だということ。
だから、次の満月の日に、美鈴に散歩するように命令することに決めた。
そして当日、私はぎりぎりまで迷った。
――私の選択で彼女に迷惑をかけてしまわないだろうか?
――彼女は自分の運命を捻じ曲げた私を許さないだろうか?
――私を、嫌いにはならないだろうか?
彼女の存在を知る前の私ならば、きっと鼻で笑って馬鹿にしたであろう疑問。
けど、今の私にはもはや死活問題ともいえるものになっていた。
結局、私は自身の欲に従うことにした。
いつも通り掃除をしていた美鈴に散歩に行くように命令した。
美鈴は怪訝そうな顔をしていたが、命令通り散歩に出かけた。
美鈴が帰るのを待っている間、ずっと私はそわそわしていた。
――美鈴は近くの森を散歩するだろうか?
――美鈴は彼女に出会えるだろうか?
――出会ったとして、彼女は美鈴についてくるだろうか?
私の能力は運命を見ることができるし、ある程度ならば操作することも可能だ。
しかし、他人の運命を操るとなると、途端に困難なものになる。
他人の運命はあくまで他人のものだ。
自分の運命ならば自分が好きなように弄ることができるが、他人のものはそうはいかない。
運命とは未来と同義だ。
いくら運命を弄ったとしても過去を変えることはできないが、未来を変えることができる。
そして、未来とは無数に枝分かれしているもので、どの未来に行くかはその運命の持ち主の選択次第なのだ。
私ができるのは、せいぜい他人の運命に矢印をつけて、そちらに行かせやすくする程度のもので、本人がそれを拒絶してしまえば意味がない。
しかも、大きく運命を改変させてしまうと、それがきっかけとなって世界に多大な影響を与えてしまう場合もある。
私の能力は強力だが、それ故に扱いに気を付けなければ世界を滅ぼす可能性すら孕んでいるのだ。
…話が大分それたので元に戻そう。
部屋で待つことに耐え切れなくなった私は玄関で待つことにした。
私が玄関に来て数分後、美鈴はあの少女を連れて帰ってきた。
私は喜びのあまり叫びたくなったが彼女の前で醜態をさらすわけにはいかない。
あくまで冷静に、汚れていた彼女を綺麗にするように美鈴に命じ、後で私の部屋に連れてくるように言った。
30分後、彼女は私の部屋にやってきた。
私はいつものように運命を覗く。
それで見えたものは驚くべきものだった。
見えたのは、和風の木造の建物。たぶん、神社と呼ばれるものだろう。
そこには、博麗霊夢がいた。本に出てくるような魔女の恰好をした人間がいた。
半霊を連れている剣士、大量の料理を食べている亡霊、隙間妖怪にその式、猫の妖怪もいる。
人形を連れている女に、兎耳の少女、美しい容姿の女、赤青の服を着て赤十字のマークを帽子に付けている女。
銀と蒼が混ざったような髪色をした塔のような帽子をかぶった女に、赤いモンペを着た白髪の女。
近くの湖でよく見る青い妖精にそれにいつも付いていっている緑の妖精。
蟲の妖怪に鳥の妖怪、宵闇の妖怪までもいた。
鬼、天狗、河童、神、妖精、妖怪、様々な種族がその神社に一堂に会している。
彼女ら全員に共通してみられるものは楽しそうに笑っていること。
普通、これ程の種族が一か所に集まれば、諍いの一つぐらいは起きそうだが、それが起こる様子もない。
そして、そこには紅魔館の面々もいた。
美鈴は一本角の鬼と飲み比べをし、パチュリーはこんなところでも本を読んで、白黒の魔法使いや人形を連れている女に絡まれている。
小悪魔は端の方で酔いつぶれて、フランは赤青の羽をもった妖怪と第三の目を塞いだ悟り妖怪と共に遊んでいる。
そして、私はそんな宴会じみた光景を見て柔らかく微笑んでいた。
いつもの傲慢な、強者としての笑みではなく、まるで聖母のような微笑みだった。
気が付くと、私の意識は少女の運命から現実へと戻っていた。
衝撃だった。この私が、吸血鬼の私が、あんな風に笑うのかと。
そして、その運命はこの目の前の少女によってもたらされるのかと。
――欲しい。彼女がどうしようもないほど欲しい。
存在を知った時から感じていた欲望が勢いを増すのを感じる。
だからだろう、気付いたら、私は彼女に名を与えていた。
私の力が最も増す満月の名を。
「十六夜咲夜」
「?」
「あなたの名前よ。これからここに住みなさい。仕事は美鈴に習うこと。いいわね?」
彼女――咲夜はこくりと頷くと、私を見つめる。
「あの、あなたのおなまえは…」
「そういえば言ってなかったわね、私はレミリア・スカーレットよ。お嬢様と呼びなさい」
「かしこまりました、おじょうさま」
鈴のような声で返事をした咲夜は部屋を出ていった。
咲夜が出て行ったのを確認して、私は喜びを全身で表した。
――手に入った、彼女が!しかも私が付けた名を名乗り、私の命令に従う従者になって!
私はその日、高揚で眠れなかった。
咲夜はいつも無表情で、笑顔を見たことはなかったけれど、それでも私は幸せだ。
――一番欲しかった満月は、私の手の中にあるのだから。
どうやら今夜も私は眠れそうにない。