Crescent Moon tears   作:アイリスさん

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番外編2 雫との出逢い編

 

とある世界にある、周囲から隠れるようにひっそりと佇む研究所らしき建物。中は、かなり広いようだ。

 

「管理局です!全員その場を動かないで下さい!」

 

武装局員達と共に突入したフェイトの声に、その場に居た研究員らしき人間達の動きが止まる。驚いている研究員達は抵抗する事無く此方に従っている。余りにもすんなりと事が運んでいるのに疑問を感じて、ティアナに通信を繋ぐ。

 

「ティアナ、そっちはどう?此方は研究員達の身柄を確保、これから所内を‥‥‥」

 

《こっちは『当たり』です!武装したグループと交戦中ですので、また!》

 

別方向から踏み込んだティアナは、どうやら交戦中のようだ。フェイトの方にはそれらしき姿は無いが、警戒しながら辺りを伺う。

 

(こっちが落ち着いたらティアナの援護に行かなくちゃ)

 

武装局員に研究員達の連行を任せ、一つずつ部屋を捜索し、証拠品を押収していく。

 

「あちらは宜しくお願いします。私は、こっちを」

 

「了解しました、執務官!」

 

幾つかの編隊に別れ、更に奥へと入っていく。既に中の図面はシャーリーによって入手されている。どうやら先に踏み込んだティアナの方に戦力が大きく割かれているらしく、フェイト達の方には重要とおぼしき部屋の前の見張りが数人のみだった。

 

‥‥‥と、フェイトは厳重そうな扉と、電子ロックのある部屋の前で止まり、シャーリーに通信を繋ぐ。

 

「シャーリー、この部屋は?」

 

《図面上には記載が有りませんね。重要施設でしょうか‥‥‥?ロックを解除してみます》

 

1度通信が切られる。暫くして、ガシャン、とロックの解除音。流石はシャーリーである。

 

《開きましたよ、フェイトさん。気を付けて》

 

「うん。ありがとう、シャーリー」

 

フェイトは慎重にその扉を開く。中にはモニターにコンソール。それから、良く分からない何かの機械類。

 

(これは‥‥‥?)

 

充分に警戒しながら、モニターを開く。先程押収したばかりの、研究員のパスを読み込ませると、内容が表示されていく。

 

(やっぱり、クローン研究‥‥‥)

 

息を飲みつつ、その内容を読み進むフェイト。その心境は複雑だった。自身を生み出した『プロジェクトFate』。目の前のそれは、やはりその内容を周到したもの。

第2、第3のフェイトやエリオ、ヴィヴィオと同じようなクローンの研究。それを読み進めていくフェイトだが、ある部分に驚愕し、思わず「えっ?」と声をあげた。

 

(どういう事‥‥‥?まさか、はやてのクローンを?)

 

そこには、SSランク魔導師のクローン作製計画が書かれていた。‥‥‥が、その報告書には、警備が厳重すぎてはやてには接触不可、と書かれている。

 

(それじゃあ、計画は失敗に‥‥‥‥‥‥!!)

 

一瞬ホッとしたフェイトだったが、その先の内容に狼狽する。対象を、ガードが固い八神はやてから、すずかに変更したと書かれている。

 

(じゃあ、まさか‥‥‥すずかのクローンを?)

 

フェイトはその事に動揺しながらも更に先を読む。

 

(えっと‥‥‥『月村すずかのDNAの入手に成功。培養しクローンを作製するが、何度作製しても魔力を全く持たない劣化品のみの為、この計画を破棄、新たに高町なのはを対象とする‥‥‥!?』)

 

フェイトは驚きの余り固まっている。どうやらはやて、すずかのクローンには失敗したらしいが、今度はなのは。

まさか、今ティアナが相手にしているのはなのはのクローンかと焦り、モニターを切り急ぎ戻ろうかとするが、その足を止める。

 

(あれ?でも、この報告書の日付って昨日だ‥‥‥良かった)

 

ホッと胸を撫で下ろす。どうやら計画倒れで終わったらしい。

 

その報告書をコピーして、対策本部に居るシャーリーに転送。その部屋を後にする。扉から出た所で、モニターが開いた。

 

《フェイトさん、こっちは片付きました。そちらはどうですか?》

 

「うん。色々厄介な研究をしてたみたい。ねえ、ティアナ。そっちになのはのクローンとか居なかったよね?」

 

一瞬「え?」という表情を見せたティアナだが、直ぐに険しい表情になる。どうやらフェイトの言っている意味を理解したようで、《まさか、なのはさんのクローンの研究を?》と口にしている。

 

「うん。でも、失敗だったみたい。作られる前で良かった」

 

◆◇◆◇◆

 

犯人グループは無事全員逮捕。施設内も一通り捜索を終えて、後は別動隊に引き渡すのみ。フェイトは出口に向かっていたが、ある施設の前でふと足を止める。

 

(廃棄エリア‥‥‥)

 

本当に、何となくだった。リストにあった犯人は全て逮捕したし、この廃棄エリアには出口になるような所も無い。どのみちこのまま本局に引き渡せば、ここも一応捜索する事になる。

 

(何だろう‥‥‥気になる‥‥‥)

 

何故か分からないが、その時のフェイトは、何かに吸い寄せられるように廃棄エリアへと入っていく。毒性のものが無いか慎重になりながら進むと、奥で何かが動いた。

 

(動物‥‥‥?違う‥‥‥人間だ!)

 

慌ててその方向へと走るフェイト。奥に辿り着いてみると、3、4歳位の小さな少女が、布を全身に巻いて踞っている。どうやら、フェイトの姿に怯えているらしく、頭まですっぽりと布を被り、フルフルと震えている。布の間から覗くその瞳には、恐怖の色が見てとれる。

 

「怖く、ないよ?大丈夫。助けに来たんだ」

 

「こないで‥‥‥」

 

努めて優しく、柔らかい表情で話しかけたフェイト。小さな少女はそれでも尚怯え、後ずさる。余程酷い扱いを受けたのだろう。

 

「もう酷い事する人はいないから。ね?ほら」

 

フェイトは柔らかい笑みを浮かべたまま、少女を抱き上げた。少女もフェイトの優しさを感じる事が出来たのか、涙目ながらも「‥‥‥うん」と答えて抱き着く。

 

「大丈夫。だから、お姉さんと一緒に行こうね?」

 

「‥‥‥うん」

 

少女を抱いたフェイトは、何やら引っ掛かるものを感じた。聞き覚えのある声。否、そんな曖昧なものではない。何故なら少女の声は、最愛のすずかの声とそっくりだったのだから。

そう言えば、布から覗く瞳も、見覚えのあるもの。恐る恐る布を避けてその顔を確認する。

 

驚き固まるフェイト。予想は的中した。やはり‥‥‥。

 

(この子‥‥‥すずかだ!すずかのクローン‥‥‥!)

 

その瞳から涙が流れ、思わずその少女を抱き締めるフェイト。訳が分からず混乱していた少女は、それが悪い感情からの行動ではないと理解すると、フェイトに強く抱き着き返す。

 

「ごめんね、怖い思い一杯したよね?もう、大丈夫だから。そんな思いしなくてもいいんだよ?」

 

涙を浮かべ話すフェイトの言葉に、少女は泣き出した。辛いからではない。もう、怖い人達に怯えなくても良いんだと、幼いながらに理解したから。

 

◆◇◆◇◆

 

「それでね、すずか。その子の事なんだけど‥‥‥」

 

まだオープンして間もない翠屋ミッドチルダ店兼自宅。

事件も一段落し、漸く帰宅できたフェイトはすずかとリビングで話している。勿論、すずかのクローンの少女について。

 

「分かってる。引き取りたい、って言うんだよね?私も、賛成だよ。今度はちゃんと、家で育てよう?私はいつも居るんだし、私達の娘として」

 

笑顔で答えるすずか。フェイトの答えは予想できていたようだ。

 

「うん。ありがとう、すずか」

 

フェイトも笑顔を返す。明日は翠屋は休み。二人は少女を引き取る為に、本局へと赴く予定。こうして、新たな物語は紡がれていく。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

‥‥‥それから。

 

「そうでしたか。詳しいお話は初めて伺いました。ありがとうございます、フェイトさん」

 

イクスは笑みを浮かべているが、雫は頬を紅くして恥ずかしそうにしながらフェイトに訴える。

 

「もうっ。恥ずかしいよ、フェイトママ!」

 

フェイトは悪びれる様子は無い。笑顔のイクスの頭を撫でながら「良いじゃない。イクスだって、雫の事知りたかったんだから。ね?」と同意を求めている。

 

「はい。いつか詳しいお話を伺いたいと思っていましたので。‥‥‥駄目でしたでしょうか?」

 

純粋な視線を向けるイクスに折れた雫苦笑いしながら「良いよ、別に」と答え空を見上げる。

 

「そう言えば雫さんは、中等科を卒業したらどうされるんですか?」

 

ふとしたイクスの疑問。雫は「そうだなぁ」と前置きして、「なのはお義姉さんのブーケ受け取っちゃったし、お嫁さん、って言うのも有りなんだけど‥‥‥翠屋を継ごうかなぁ」と答える。その表情からは、それが本心かどうかは分からない。

 

「ほんとに!?すずか喜ぶよ!」

 

ガタッ、と興奮して立ち上がるフェイト。その様子を見ながら、雫は言葉を続ける。

 

「管理局って言う考えもあったんだけど‥‥‥お店で働いてるすずかママが、輝いて見えたから」

 

「雫~!」と声をあげて抱き着き、大袈裟に喜ぶフェイト。イクスが笑顔を向けているその隣で、雫は静かに、けれど確かに。真っ直ぐな視線を向ける。

 

「だからって、勉強だって確りやるよ。経営学だって必要だもん。なのはお義姉さんやヴィヴィオお姉ちゃんの言葉を借りるなら、『全力全開』、だよ」

 

ニコッと笑う雫。そんなやり取りをしていた3人を呼ぶ、すずかの声。

 

「みんな、お店落ち着いたから、中でケーキでもどうぞ」

 

3人は「はーい」と答えて、中へと入っていく。




ありがとうございました。
これにて本編は真に完結とさせていただきます。

(R-18版はまだまだ続きます)

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