Crescent Moon tears   作:アイリスさん

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after story第5話『先代のエース』

 

 

東アクアラインを抜けて、下層へと進むヴィヴィオは、焦りの表情を浮かべていた。ガーデン内で待っている筈の雫と連絡が着かない。

 

(雫ちゃん、何処‥‥‥お願い、無事で居て)

 

これだけ探しても見つからない。救出の報告もない。最悪の事態がヴィヴィオの頭を過る。

 

《奥は危険だ!崩落の可能性もある!ソードフィッシュ01、戻れ!》

 

ヴォルツの制止も聞かず、「大丈夫です!もう少し捜索したら戻ります!」と更に奥へと進む。

 

(何処!?雫ちゃん‥‥‥)

 

炎で徐々に狭くなる退路。愛機のクリスと、母親譲りのサーチで必死に反応を探す。‥‥‥と。

 

《‥‥‥て‥‥‥か‥‥‥‥す‥‥‥て》

 

(今の声‥‥‥雫ちゃん!?)

 

微かにではあるが、確かに聞こえる。更にサーチエリアを広げ、慎重に探すと、海底トンネルの方に微かに二つの生命反応。

 

(‥‥‥居た!!)

 

迷っている時間は無い。ヴィヴィオは魔法陣を展開し、右手に魔力を込める。

 

「こちらソードフィッシュ01!海底トンネル方面に生命反応有り!救助に向かいます!」

 

《‥‥‥ど‥‥‥‥‥‥も‥‥‥》

 

(通信が!?)

 

どうにも通信状況は良くないらしく、彼方の声は聞き取れない。救助してから報告するしかない、と考えたヴィヴィオは、雫との間を隔てている壁に向かって、右手の虹色の魔力を解き放った。

 

「『ディバインバスター!』」

 

◆◇◆◇◆

 

「お姉ちゃん!」

 

「クッ!」

 

ガキン、という音が響き、ヴィヴィオはギリギリでマリアージュの右刀を受け止める。あと僅かでも反応が遅ければ、雫は切られていた所だった。

心配そうに「お姉ちゃん!」と叫ぶ雫に、「大丈夫‥‥‥大丈夫、だから」と言って落ち着かせる。

 

刀を押し戻し、マリアージュを蹴り飛ばす。大きく後ろへ飛ばされたと同時に、もう一体がヴィヴィオの真後ろから切り掛かって来る。振り向き様にカウンターアッパーで迎撃するが、着地する瞬間に更にもう一体に足を払われ、ヴィヴィオは体勢を崩す。そこをヴィヴィオの顔面目掛けて突いてきた刀をギリギリで避けて、そのマリアージュの方足を掴んで投げ飛ばす。

 

(どうしようかな‥‥‥何か、打開策を‥‥‥)

 

マリアージュ3体。それも、ティアナに聞いていたよりも大きい。予想よりも強いし、恐らくは司令官クラスか。ヴィヴィオ一人なら何とかはなるかも知れないが、雫とイクスを守りながら。無理に攻撃に行けば、雫達の守りががら空きになる。慎重にチャンスを伺いながら守るしかない。しかし、ガーデン自体がいつ崩落するか分からないし、悠長に戦っている時間は無い。

 

丁度ヴィヴィオを囲むように倒れていたマリアージュ達は立ち上がり、両腕を砲撃形体に変化させる。それが全て自分に向けられている事に気付いたヴィヴィオは、防御体勢を取る。

 

「クリス!全開‥‥‥!!」

 

次の瞬間には一斉に砲撃が放たれ、爆発と爆音。室内が揺れて、ヴィヴィオが立っていた場所は瓦礫と煙に覆われた。

 

「嫌あぁぁぁ!」という雫の悲鳴と、「オリヴィエ!」というイクスの声が同時に発せられて、マリアージュ達が一斉にそちらに向き直す。

 

「イヤ‥‥‥来ないで‥‥‥」

 

涙を流しながらイクスにしがみつき、ガタガタと震える雫。

一体が右手を刀に変えて、ゆっくりと雫に近付く。

 

もう距離2、3mという所で、瓦礫が崩れ、ヴィヴィオが姿を現した。

 

「させ‥‥‥ない‥‥‥」

 

あちこちから血を流し、決して無事とは言えないヴィヴィオは、マリアージュ達を睨み、少しずつ雫達の方へと進む。戦車なら軽く1、2台消し飛ばす位の砲撃にどうにか耐え、2人を守ろうと歩みを進める。

 

「ハァ、ハァ、ハァ、ハァ‥‥‥雫ちゃん、今、助けるから‥‥‥」

 

足止めしようと、2体のマリアージュがヴィヴィオの方へと歩み寄る。残りの1体は尚も雫達に近付いて来ていた。

 

◆◇◆◇◆

 

「稼働しているマリアージュは約50‥‥‥ガーデン周辺で動いている局員は約200‥‥‥これだけ居れば‥‥‥マリアージュの数も確保できる」

 

マリン・ガーデンの駐車場。ルネッサは炎上するガーデンを見ながら、ブツブツと呟いていた。

 

「トレディア‥‥‥貴方の意思は私が。イクスとマリアージュを使って、必ず‥‥‥!」

 

次の瞬間。ルネッサは衝撃を受けて、その場に倒れた。全身が痺れて動けない。どうやらスタンバレットで後ろから攻撃されたらしい。つい先程ルネッサが倒れる迄その視界の先に姿があった筈のティアナ。今の一瞬で背後に回られた事が、ルネッサには理解出来ない。

 

「ティアナ執務官‥‥‥どうやって」

 

「フェイク‥‥‥シルエット。‥‥‥‥‥‥態とやってるのかと思ってたけど、独り言を言うの、ホントに癖だったのね‥‥‥」

 

成る程と納得して地面に倒れているルネッサに、クロスミラージュを向けているティアナ。その表情は、少しだけ切なそうだった。

 

「やっぱり貴女が犯人だったのね。動機は、復讐かしら?」

 

「違う。この生温い平和でだらけきった世界に戦争をもたらして、その価値を再確認させる。それが、目的」

 

「‥‥‥ルネッサ。貴女を逮捕します」

 

無言のまま、悲しげな表情を浮かべるティアナは、ルネッサを逮捕、拘束した。

 

◆◇◆◇◆

アインハルトは、丁度地下2階層に居た。

 

《ドルフィン01!ソードフィッシュ01の‥‥‥高町の援護に向かえるか?》

 

「司令、直ぐに向かいたい所ですが、少し時間が掛かりそうです」

 

アインハルトは、対峙していた。彼女の前方を遮る、40~50体程のマリアージュと。

 

改めて構え直し、アインハルトが今当に飛びかからんとしたその時。ヴォルツの通信がそれを止める。

 

《予定変更だ。ドルフィン01、『本局01』合流の後、撤退しろ》

 

「撤退なんて!どうしてですか!?ヴィヴィオさんがまだ中に居るのに!!」

 

ヴォルツの言葉に驚愕し、今にもモニターに噛み付こうかという勢いのアインハルト。

興奮の冷めやらぬ彼女に向かって、モニターからは再度指示が入る。彼女は、そこに映る人物に驚きを隠せなかった。

 

《ちょう落ち着こうか、アインハルト。大丈夫や。最強の助っ人二人がそっちに向かっとる。要救助者もあと二人だけやし、撤退や。ええな?》

 

「八神‥‥‥最高司令!?」

 

はやてが口を閉じたのと同時。アインハルトの目の前のマリアージュ全員を飲み込む、桜色の砲撃。一瞬で全てを消し飛ばし、助っ人の一人がアインハルトの隣に静かに降り立つ。

 

「ヴィヴィオさんの‥‥‥お母様!」

 

「さぁ、行くよ!」

 

◆◇◆◇◆

 

雫は瞳からポロポロと涙を流し、恐怖でイクスに縋り付いたまま、動く事が出来ない。

 

「た‥‥‥助けて‥‥‥」

 

辛うじて絞り出した声も震え、良くは聞き取れない。目の前のマリアージュはそんな事は意に介する様子は無く、右刀を振り上げる。

思うように前に進めないヴィヴィオが「止めてぇぇぇ!!」と叫ぶ中、刀が降り下ろされ、雫は恐怖の余りその瞳を閉じた。

 

「‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥」

 

雫は、一瞬過ぎて痛みを感じる暇も無かったのかと思い、恐る恐る瞳を開く。 目の前には、氷で出来たシールド。目前のマリアージュは、刀を振り上げた体勢のまま氷漬けになっている。それどころか、辺り一帯が凍り付いて銀世界と化しており、ヴィヴィオに迫っていたマリアージュは氷の柱で既に潰れていた。

ヴィヴィオと雫は、目の前の人物を見て同時に叫んだ。

 

「「すずかママ!」」

 

「雫、ヴィヴィオ、大丈夫だった?」

 

安堵と嬉しさのあまり、雫はその場で盛大に声をあげて泣き始めた。

 

 




なのすず登場でアッサリ解決。フェイトさんはお仕事中につき不参加でした。

INNOCENTのランドセルノーヴェの破壊力たるや、凄まじい‥‥‥

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