それでもいい、という方は、どうぞ。
after story第1話『大魔導師の娘』
それは、JS事件から13年後の新暦88年の7月の暑い日の事。
初めまして。雫・テスタロッサ・ハラオウン、12歳です。私の両親は、時空管理局本局執務官のフェイトママと、元管理局の防災司令で現在翠屋ミッドチルダ店店長のすずかママ。今でもバカップルな二人のママだけど、私は大好きです。二人共とても30代には見えなくて、20代のまま時間が止まったんじゃないかと思う位綺麗です。
色んな事があって二人の子供になりました。そういう意味では、なのはさんの所のヴィヴィオお姉ちゃんと少し似てるかな?あ、でも尊敬するヴィヴィオお姉ちゃんと私なんかを比べたら失礼かな‥‥‥‥‥‥。
今日は学校の夏休みの課題で、職場体験に来てます。‥‥‥私の通っている所は、ごくごく一般的な学校の中等科。本当はヴィヴィオお姉ちゃんと同じSt.ヒルデ魔法学院に行きたかったんですが、私、魔法の才能無くって。
私、すずかママのクローンらしいんです。なのに、魔法が使えない。フェイトママも、すずかママも、管理局を代表する位の魔導師なのに。
その事を初めて知った時は、落ち込んだりもしました。でも、今は大丈夫!ナカジマのおじさんみたいに魔法が使えなくても活躍してる人だっていますし!
あ、それから、フェイトママなんですが、なんだっけ‥‥‥‥‥‥そうそう、執務官長になるかも、ってこの間言ってました。それって凄いんでしょうか‥‥‥?
大分話が逸れちゃいました。それで、今、私は職場体験で港湾警備隊の防災課に来ています。学校の課題って言ったら、すずかママが話を通してくれたみたいで。えっと、責任者の人は何処かな‥‥‥。
◆◇◆◇◆
「よう、雫ちゃん。いらっしゃい」
防災司令ヴォルツ・スターン(相変わらず)は、雫を見るなり肩をポンッ、と叩き挨拶。雫の方はヴォルツとは初対面で、しどろもどろしている。
「スマンスマン、月村とソックリだったから、ついつい、な。防災司令のヴォルツ・スターンだ」
「えっ、えっと、雫・テスタロッサ・ハラオウンです。宜しくお願いします」
慌てて自己紹介をする雫。と、雫の姿を見つけ、近寄ってくる女性が一人。
「雫ちゃん、いらっしゃい!すずかさんから話は聞いてるよ」
「はい。スバルさん。今日は宜しくお願いします」
見知った顔が現れて、緊張していた雫から笑みが溢れる。スバルも笑顔を返し、3人は応接用のテーブルを囲み座る。
「今日はこの子が夕方まで同行の予定だ。この子の面倒、宜しく頼むぞ、ナカジマ副司令」
ヴォルツの言葉に、「了解しました!」と昔と変わらない調子で答えるスバル。そう。スバルは港湾警備隊防災課防災副司令。
雫は「あの‥‥‥」と質問しようと口を開く。『あの二人』の姿が見えない。港湾警備隊の特別救助隊の、シルバーの『双翼のエース』と呼ばれる二人の姿が。
「ああ、二人なら、今日は別々のお仕事なんだ。早速観に行ってみる?」
雫の言いたい事を察したスバル。「では、司令、行ってきます!」と敬礼をしてから、雫の手を取り外へと歩き始めた。
◆◇◆◇◆
改めましてこんにちは。雫・テスタロッサ・ハラオウンです。私は今、スバルさんに連れられて港の埠頭に来ています。少し離れた所で初等科の1、2年生位の子達が20人位で集まって座っていて、防災課の職員の方が説明してるみたいです。社会科見学かな?
「じゃあ今日は防災課のお仕事を説明します。皆さんにお話してくれるのは、あの人!」
職員の方が示した方角から、飛んで来る人が見えます。あ、あれは‥‥‥!
◆◇◆◇◆
地上に降り立ち笑顔で「こんにちは~!」と元気よく挨拶を交わした女性。サイドポニーで纏めたブロンドの髪に、紅と碧の虹彩異色の瞳。
子供達も彼女に「こんにちは~」と返す。それが落ち着いた所で、職員が口を開く。
「じゃあ、所属と名前をお願いします」
その女性もそれに合わせて答える。
「港湾警備隊防災課・特別救助隊セカンドチーム防災士長、高町ヴィヴィオ一等陸士です!」
ヴィヴィオの自己紹介が終わると、子供達は、「知ってる!」とか「エースオブエースの子供!」とか口々に話し始める。そのなかで、ある一人の子供が口にした呼称が、今の彼女を最も良く表していた。
「チャンピオン!」
その呼称に、ヴィヴィオは「アハハ、ありがとう!」と笑顔で答えた。そして改めて話す。
「今の私はレスキューの隊員だから、ヴィヴィオ隊員、でいいよ」
シルバーの『双翼のエース』の一人、高町ヴィヴィオ。『人を助ける仕事を』と、彼女はレスキューの仕事に就いた。
まぁ、そこに元防災司令のすずかや、スバル、そして現地上本部最高責任者のはやてのコネがあったのは本人には秘密である。
彼女が参加した最後の年のインターミドルの、世界大会の決勝戦は激闘だった。現世に蘇った聖王のヴィヴィオと、ジーク直伝のエレミアの技と五体の完全外部操作を駆使するコロナの激戦。仕事の合間に観戦していたアインハルトには思う所があったようだった。
勿論、雫も観に行った。どんなに努力しようとも、雫には決して届かない場所。
自身の才能の無さをまざまざと見せつけられたあの日から、雫は思い悩んでいた。魔法が使える訳ではないし、多少手先は器用だが、すずかのように料理が上手い訳でもない。将来の姿が全く見えず、雫は藻掻いていた。
子供達の相手をしていたヴィヴィオだが、雫に気付いてウィンクを送ってきた。その直ぐ後に、スバルが「ヴィヴィオ、終わったら来てくれるって」と教えてくれた。雫はこの『念話』という通信手段が、羨ましくて堪らなかった。
「私も念話、使ってみたいです」
「うーん、アリサさんに相談してみよっか?」
雫の無理難題な願望に、スバルは悩みながらも答える。並行世界の次元移動の手段まで生み出したアリサ・アコースなら、何か出来るかもとの考えから。因みに、この次元移動はトップシークレットである。
二人がそんな事を考えていた時。スバルの目の前にモニターが開く。
《スバル、今何処にいる?》
「ティア!どうしたの?」
《ちょっと近く迄来たからね。たまには顔でも出そうと思ってさ》
「ホント!?こっちは今埠頭に居るから。ヴィヴィオと雫ちゃんも居るから早く来てね!」
嬉しそうに話すスバル。エース執務官のティアナが、久し振りにミッドチルダまで来ているという。忙しい筈のティアナが態々来ているというのは、何か大きな事件の捜査か何かかと一抹の不安を抱えながらも、再会に喜ぶ二人。
丁度通信が終わったくらいに、「お待たせしました~」と走ってくるヴィヴィオ。
「ごめんね~雫ちゃん、私の所にばっかりこういう仕事回ってくるの」
ヴィヴィオはノリもいいし、子供にも受けがいいので、こういうイベントの仕事は優先的に回される(それまではスバルの役割だった)。
「まぁまぁ、アインハルトちゃんはこういうの苦手だから」
スバルの言葉にヴィヴィオも「そうですね」と苦笑いで同意する。確かに、笑顔でノリ良く応対するアインハルトの姿は想像できない。因みに、察しの通り『双翼のエース』のもう一人は、アインハルトである。
「お疲れ様、お姉ちゃん」
労いの言葉を掛ける雫に「ありがとう」と答えたヴィヴィオは、何か思い付いたらしい。ポンッと手を叩く。
「そうだ、雫ちゃんの職場体験終わったらマリン・ガーデン観に行こっか?私、今日は夕方で終わりだし」
「ホント!?うん!」
笑顔になった雫と共に、スバルとヴィヴィオはティアナに会う為に歩き始めた。
◆◇◆◇◆
翠屋ミッドチルダ店。すずかは、帰宅したフェイトと話していた。
「え?連続殺人事件?ニュースでやってる?」
「うん、すずか。古代ベルカ専門の考古学者を狙った事件。捜査でティアナも近く迄来てるんだ。一応、雫にも気を付けるように言っておこう?」
「そうだね、フェイトちゃん。‥‥‥大きな事件にならなければいいけど‥‥‥」
そう。ティアナは連続殺人事件の捜査の為に、ミッドチルダを訪れていた。彼女の現補佐官のルネッサ・マグナスと共に。
キリエ達の話していた歪みのせいで、あの事件が未来にずれ込んでいます。
話は短めになる予定。