Crescent Moon tears   作:アイリスさん

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未来へと

 

スカリエッティアジト突入から、1週間後。

 

病院のとある一室。ベッドに横になっている(強制的に寝かされている)ゼストが口を開く。

 

「その後は、どうなった?」

 

「捜査に協力的な者達や関与が軽い者は、それほどの罪にはならんだろう。スカリエッティやその他はそうはいかんだろうがな。戦闘機人はナカジマ三佐や聖王教会が身元引き受け人になってくれるそうだ」

 

微笑を湛え、シグナムが答える。ディード、オットー、セインは聖王教会が、チンク、ディエチ、ウェンディ、ノーヴェはギンガとナカジマ三佐が引き受けるそうだ。

 

スカリエッティやその他の戦闘機人は、各々別々の世界に投獄。スカリエッティは2度と出られないだろう。

 

「それで、ルーテシアは?」

 

ゼストの気掛かりに、シグナムは静かに答える。

 

「あの子なら、カルナージに隔離する事になった。母親のメガーヌ・アルピーノが目を覚ましてな。一緒に付いていくそうだ」

 

「そうか。それならば」

 

メガーヌとルーテシアの無事に、安心して微かに笑みを浮かべるゼスト。しかし今度は一転してその表情を真剣なものに変えて、ゼストは再び話し始めた。

 

「シグナムよ、アギトの事なのだが、八神家で預かってはくれまいか。俺ももう、長くない。お前達なら、安心して預けられる。それに、シグナム。炎熱を操るお前ならアギトとの相性も良い筈だ」

 

「ああ、分かった」

 

シグナムも真剣な表情で、それに答えた。ゼストは自由に動いてくれない身体をなんとか起こし、窓の外へと視線を落とす。

シグナムが部屋を出ようとすると、ゼストはそれを呼び止めた。

 

「もう一つ、頼まれてはくれないか」

 

立ち止まり、振り返るシグナム。ゼストは静かに続ける。

 

「月村に、宜しく伝えておいてはくれないか?」

 

「自分で言ったらどうだ?直接言わなくては、伝わらん事もある」

 

シグナムはそう返して、部屋を後にした。その口元は、微かに緩んでいた。

 

◆◇◆◇◆

 

「すずかさん、話って何ですか?」

 

スバルはベッドの傍の椅子に座り、すずかに問う。スバルを呼び出した張本人のすずかはベッドに横になったまま答える。

 

「うん、スバル。港湾警備隊の特救、興味ある?」

 

「え?」

 

すずかの言葉に直ぐには反応出来ないスバル。すずかは言葉を続ける。

 

「ヴォルツ防災司令から依頼が来ててね?是非紹介して欲しいって」

 

「すずかさん!本当ですか!」

 

すずかの言葉に、テンションの上がるスバル。特別救助隊に行けるとは、願ったり叶ったり。

 

「うん。私の後釜に、って話みたいで。何だかスバルに悪いんだけど」

 

「とんでもない!すずかさんの後釜なんて光栄ですよ!‥‥‥‥‥‥あれ?じゃあすずかさんは?」

 

流石にスバルでも気付いた。すずかが元居たポジションにスバルが。それではすずかは?

 

「私はね‥‥‥湾岸警備隊の方に移る事になって。防災司令としてね。ヴォルツ司令が『三佐になったんだから、さっさと上に行っちまえ』って」

 

すずかと一緒に仕事が出来るかも、と少し期待したスバルだったが、そう思い通りには行かなかったようだ。

 

「すずかさんと一緒に特救の仕事が出来ないのは残念ですけど、負けないように頑張ります!」

 

すずかは術後間もない、ガチガチに固定された自身の左足を見ながら「うん。期待してるからね」と笑顔で答えた。

 

◇◆◇◆◇

 

「でな?一昨日の試験の結果なんやけど‥‥‥満点で合格や。先ずはおめでとう、ティアナ」

 

「ありがとうございます、八神課長!」

 

課長室。先日ティアナが受けた執務官補佐の試験は、満点で合格。これからはティアナも執務官を目指して精進していく事になる。

 

「それでね、ティアナ。4月から正式に私の補佐として頑張って欲しいんだ。一緒に頑張ろうね?」

 

フェイトのその言葉に、ティアナは気を引き締め直し、答えた。

 

「ハイ。色々とご教授ください。宜しくお願いします!」

 

◇◆◇◆◇

 

はやては病院の廊下を歩いていた。ある病室の前まで来ると、立ち止まり、扉を開ける。

 

「フィアッセちゃん、入るよ」

 

「‥‥‥はやてちゃん」

 

はやてが中へと入ると、車椅子に座るフィアッセと、シュテルの姿。

 

「ハヤテ。ナノハの事ですが。身体も回復しましたし、元の世界へ連れて戻ろうかと思います」

 

「そうなんか。なのはちゃん、ギンガやみんなには話したんか?」

 

そうはやてが聞くと、フィアッセは少し寂しそうな表情を浮かべる。はやてから視線を逸らし、窓の外、遠くを見る。

 

「本当は、ちゃんとお別れしたい。けど‥‥‥はやてちゃんから、言っておいてくれないかな?」

 

本当は、全員にお別れをしたい。けれど、気付かれずに静かに消えたほうが、きっとこの世界には影響が少ないだろう。それに、顔を合わせてしまったら、何よりもフィアッセが辛くて耐えられそうにない。

 

「分かったわ。伝えるよ」

 

はやてはポンッとフィアッセの肩に手を乗せて、「頑張ってな、なのはちゃん」と声を掛けた。

 

「うん‥‥‥」と答えて言葉に詰まり、涙が潤むフィアッセ。足下にフォーミュラプレートが展開される。

 

「そろそろ行きますよ、ナノハ」

 

シュテルの言葉と同時に、足下のプレートが輝く。フィアッセは瞳一杯に涙を溜めてはやてを見る。

 

と、その時。

 

「フィアッセ!!」

 

フィアッセの転移する直前。扉を勢いよく開けて、なのはが部屋へと飛び込んで来た。

 

「なのはさん‥‥‥!ありがとう、なのはさん。私に勇気をくれて。ありがとう‥‥‥もう一人の、私」

 

フォーミュラプレートが一層輝き、フィアッセが光に包まれていく。最後まで届くか分からないが、なのはは精一杯叫んだ。

 

「フィアッセ‥‥‥ううん、もう一人の私‥‥‥貴女なら、きっと出来るよ。だって、貴女は私だから!」

 

なのはがその言葉を言い終わると同時に、フォーミュラプレートは消えて、部屋にははやてとなのはが残った。フィアッセが消えた場所を見つめたまま、なのはははやてに静かに問う。

 

「はやてちゃん、フィアッセが帰る事、どうして黙ってたの?」

 

「‥‥‥フィアッセが辛くなると思ったんや」

 

憂いを帯びた、遠くを見るような瞳で、はやては異世界からの来訪者の事を思い返しながら答えた。

 

◆◇◆◇◆

 

4ヶ月後。すずかはエルセアの共同墓地の、とある墓の前に居た。

 

(後ろ楯を失ったレジアス元中将は終身刑で別次元に収監されました。これで、全て終わりましたよ)

 

すずかは瞳を閉じて、墓の主にゆっくりと報告を続ける。

 

(アギトちゃんもルーテシアちゃんも。勿論メガーヌさんも元気ですよ。だから、安心して眠ってください、ゼストさん)

 

報告を終えたすずかは、風に靡く髪を押さえながら、ゼストの墓を後にする。

微笑を浮かべ、空を見上げながら。

 

(クイントさん、ゼストさん。どうか、安らかに)

 

 

 

 

丁度その頃。六課ではヴィヴィオがシャーリーと大人しく見学する中、フォワード陣の教導が始まっていた。

 

「じゃあ、今日も昨日の続き。ティアナは私と。スバルはヴィータ副隊長、エリオはシグナム副隊長と。キャロはフェイト隊長とだよ。みんな、頑張ろうね!」

 

なのはの言葉に、「ハイ!」と元気よく答えるフォワード陣。

 

隣では「よし、来い!スバル!」「ヴィータ副隊長、行きます!『ギア・エクセリオン!』うおおおおお!」という叫びが聞こえる。

 

各々が目標に向かって進んでいる中、なのはは自身の収束砲『スターライトブレイカー』を授けるべく、ティアナと対峙する。

 

「あと3ヶ月。それまでに絶対モノにしてもらうから!ティアナ、それじゃ、張り切っていくよ!」




エピローグを残すのみとなりました。

まぁ、突入は書くまでもなく、ライオットブレードⅡを手にしたフェイトちゃん無双でした。すずかに手を出したスカさんの最大のミスでした。

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