Crescent Moon tears   作:アイリスさん

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各々の翼を

 

 

「少し待って、くれないかな」

 

フィアッセは痛む上半身を起こして、その場の面々を見回す。はやてとクロノ以外は、知らない顔。といっても、その内二人ははやてとなのはに瓜二つ。

 

「私‥‥‥まだやれるから。まだ解決してないんでしょ?」

 

何かを決意したような、真剣な表情のフィアッセの意図を理解したはやては険しい表情でフィアッセを睨むように見る。

 

「あかんよ、なのはちゃん。駄目や。なのはちゃんは重傷なんよ?」

 

はやての脳裏には、いつかの光景が浮かんでいた。あの時、U-D戦ではやてを助け、再び意識不明となったあの時のなのはと、目の前のフィアッセの姿が重なる。

 

「大丈夫や。みんな無事。あとは犯人のアジトに踏み込んで逮捕するだけや。何も心配ないよ」

 

決して無事とは言えない。ヴェロッサが探っているとは言え、スカリエッティのアジトだって確定できる保証もない。だが、はやては敢えて嘘をつく。これ以上、フィアッセに無理はさせられない。

 

「嘘だよ‥‥‥‥‥‥はやてちゃんが嘘ついてるのくらい、私分かるから!」

 

食い下がるフィアッセを、シュテルが窘める。

 

「これ以上、未来に関わるべきでは有りませんよ、ナノハ。元の世界に戻ったら、記憶封鎖でここでの記憶は無くなりますが、その思いや意志は残ります。余りに関われば、それは貴女の未来にも影響を及ぼし兼ねません」

 

「けど‥‥‥それじゃあ」

 

涙で瞳を潤ませ、か細い声を絞り出したフィアッセ。はやてがフィアッセの頭を優しく撫でると、急激な睡魔に襲われる。

 

「ずるいよ‥‥‥はやて‥‥‥ちゃん‥‥‥」

 

再び眠りに落ちていくフィアッセに「ごめんな」と呟いて、はやては話を再開し始めた。

 

「まぁ、なのはちゃんはもう少しだけ‥‥ギンガが目覚めてからでもええかな?それと、ヴェロッサがアジトを確定次第出るよ。リミッターは外して突入や」

 

と同時に、レヴィからの通信が入る。

 

《シュテるん、王様、子鴉っち!アジト見付けたよ!》

 

◆◇◆◇◆

 

シグナムは瞳を閉じて、待っていた。とある場所にある、とある施設。その中はと言えば、シグナムによって破壊され、見る影もない。何やら生物の破片らしき物も転がっていたりするが、其れが何だったかは、今はもう分からない。ただ言える事は、それは少なくとも『元々人間の形はしていなかった』という事くらい。

 

と、人の気配を感じ、シグナムは瞳を開く。中へと入って来た人物に向かい、口を開いた。

 

「待ち草臥れたぞ」

 

ドゥーエは少しだけ驚いたが、直ぐに戦闘体制を取り、無表情で「どうして貴女が此処に?」と疑問を投げ掛ける。

 

「答える義理はない」

 

シグナムはレヴァンティンを構えると、バシュン、とカートリッジを炸裂させ、一言だけ発した。

 

「最高評議会はもう無くなった。それだけだ」

 

◆◇◆◇◆

 

(ここは?)

 

チンクが目覚めると、ベッドの上だった。多少痛みはあるものの、スバルにあれだけやられたにも関わらず、身体は動く。

 

(これは、どういう‥‥‥?)

 

魔力は上手く結合せず、ISも使えない。どうやら自分が捕まった事を理解したチンクは瞳を閉じて、目の前で笑みを浮かべている人物に語り掛ける。

 

「話す事は、何もない」

 

「漸くお目覚めかい?良いよ。何も話さなくても結構」

 

答えたヴェロッサは、そのレアスキル『思考捜査』を使い、チンクから情報を引き出していく。

 

「成る程、協力ありがとう」と言って席を立つヴェロッサ。「貴様どうやって‥‥‥ま、待て!」と叫び起き上がろうとしたチンクだったが、直後襲った全身の痛みに思わず動きを止め、その場で踞る。

 

「うっ、うううっ‥‥‥」

 

「まだ動いてはいけない。マリーとキリエが治療したと言っても、あくまでもアレは応急処置。ちゃんと治すには時間が必要だからね」

 

再び椅子に座るヴェロッサ。痛みに耐え兼ねベッドに横になってしまったチンクの布団を直しながら、口を開く。

 

「君達の場合は、周りの環境にも問題があるようだし、逮捕者だって協力的なら決して悪いようにはしないさ。それに、メガーヌもちゃんと助けるよ」

 

「‥‥‥‥‥‥その言葉、信じてもいいのか?」

 

ヴェロッサの言葉に反応し、迷いながらもそう口にしたチンク。妹達が気掛かりな彼女の肩に静かに手を置き、「約束するよ」と一言答え、ヴェロッサは部屋を後にした。

 

一人残されたチンクは、ヴェロッサが出ていった扉の方をぼんやりと見つめながら、妹達を想っていた。

 

(あの子達が無事生きて行けるなら、私は‥‥‥)

 

◆◇◆◇◆

 

別の病室。キリエに直してもらった左手の具合を確かめるスバル。

隣で眠るギンガを気にしつつ、ティアナと話していた。

 

「ギンガさんの怪我はアンタのせいじゃないんだから、確りしなさいよ」

 

「うん。ありがとう、ティア」

 

スバルは相変わらず俯いたまま。ギンガ一人すら守れなかった自分が歯痒いのだろう。

 

「ほら、スバル。シャキッとしなさいよ」

 

ティアナはポン、とスバルの肩を叩く。スバルは身体は本当にもう何ともないようだ。スバルを治療した、何時の間にか現れた正体不明のキリエの技術に驚愕しながらも、ティアナはヴェロッサの纏めた相手戦力のレポートに目を通す。

 

「アンタも出るんでしょ?ほら。目、通しときなさいよ」

 

「ありがとう、ティア」

 

スバルは渡されたレポートを確認する。(みんなを守れるように、もっと強くなる。あの日のなのはさんやすずかさんのように)と、心の中に決意を秘めて。

 

◆◇◆◇◆

 

すずかはギプスで左足の患部を固め、ベッドから起き上がる。

 

「行くんだね、すずかちゃん」

 

「うん。私も出るよ」

 

幸せそうに眠るヴィヴィオを抱いたなのはと一言だけ交わし、扉へと向かう。

 

「すずかっ!駄目だよ、怪我してるんだから!」

 

すずかの背中側から叫ぶ、心配そうなフェイトの方を向いたすずかはそのフェイトを抱き締め、囁く。

 

「大丈夫。リミッターさえ無ければ、魔法でカバー出来るし。みんなが立ち向かってるのに、私だけ寝てなんていられないよ」

 

「でもっ」と渋るフェイトに口付けをして、すずかは更に強く抱き着く。

 

「大丈夫。ね?フェイトちゃん」

 

◆◇◆◇◆

 

地上本部から少し離れた上空。アギトとユニゾンしたゼストがオーバードライブの一撃を放つ。今のゼストにとっては、身体に多大な負担の掛かる危険な一撃。しかしながら、目の前の、リィンとユニゾンしたヴィータに勝つには、どうしても撃たねばならない一撃だった。

 

《嘘だろ‥‥‥旦那、アイツ等!》

 

アギトが驚愕するのも無理は無かった。先程の一撃を確実に当てたにも関わらず、ヴィータは無事。ついさっき迄のヴィータならば、今の一撃で墜ちる筈だった。そう、先程迄のヴィータならば。

辛そうに顔を顰めるゼストが睨む中、ヴィータは口を開く。

 

「危ねぇ危ねぇ。リミッター解除が間に合ったみてぇだな。そいじゃ、行くぞ、リィン!」

 

《ハイです、ヴィータちゃん!》

 

ヴィータはアイゼンを握る手に力を込め直す。バシュン、バシュン、とカートリッジが炸裂。ゼストに向かってスピードを上げる。

 

「行くぞ!アイゼン!!」

 

 

 

 

 




いよいよ大詰めが近付いて参りました。

最後までお付き合い頂ければ幸いです。

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