Crescent Moon tears   作:アイリスさん

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片翼を広げて

「‥‥‥う‥‥‥」

 

フィアッセが二人と交戦し始めたその隅で。すずかは漸く気が付く。誰かに抱き上げられている。重たい瞳を開いてみると、驚きの人物が目に飛び込んで来た。

 

「はやて‥‥‥ちゃん‥‥‥‥‥‥」

 

すずかははやてに問いかけようとした。どうして此処にいるのか。地上本部から来たにしてはえらく早すぎる。

それに、他のみんなは?フェイトは?なのはは?

 

「今は、眠っておけ、月村すずか」

 

「はやて‥‥‥ちゃん?」

 

はやてにしては、口調がおかしい。そのはやては、疑問を浮かべているすずかの瞳に手を当てて、睡眠を促す。再び眠りに落ちていくすずかに、囁くように話した。

 

「今は眠れ。後は我等に任せよ。安心せい。我もあやつも、塵芥なんぞに負けはせん」

 

◇◆◇◆◇

 

同時刻、アルトセイム付近を航行中のクラウディア艦内。クロノは焦っていた。地上本部テロ。隣に座るヴェロッサ・アコースと共に、地上本部のカリムとはやて、機動六課のすずかに連絡を取ろうと先程からコンタクトを繰り返しているが、一向に繋がらない。

 

「アリサ、まだ繋がらないのか!」

 

「無茶言わないでよ、クロノ。さっきからやれるだけの事はやってるわ」

 

焦るクロノに返事を返しながらも、アリサは周りに指示を出しつつ、自身も目まぐるしくコンソールを叩く。

 

「どっちかでも良いから繋がりなさいよ!もうっ!」

 

痺れを切らして愚痴を溢すアリサを、ヴェロッサが宥める。

 

「まぁまぁアリサ、一先ず落ち着いて」

 

「落ち着いてなんて居られないわよ!親友が傷付いてるかも知れないのに!」

 

頬を膨らませて瞳を濡らしているアリサの頭を撫でるヴェロッサ。

 

「こんな時だからこそ冷静にならなきゃ。助けられるものも助けられなくなってしまうよ?」

 

「わ、分かってるわよ、馬鹿ロッサ」と、心なしか紅くなってるアリサの様子に、周りのスタッフが固まる。

誰かが「ツンデレだ」とボソッと言ってしまった事で、静かになっていたアリサは再び起動し始める。

 

「ちょっと!今ツンデレって言ったの誰よ!全く‥‥‥早く仕事しなさい、アンタ達!」

 

そのアリサの様子を見ながら席に着くクロノ。クロノは通信が回復する迄の間、ヴェロッサの報告を聞く事にした。

 

「相変わらずアリサは君の言うことは聞くんだな‥‥‥それで、ロッサ。此処までで分かった事は?」

 

「アリサが君と仕事してるってだけで僕は毎日気を病んでるんだけどね。さて、どこから話そうか‥‥‥そうだね、じゃあ、最高評議会とか」

 

丁度ヴェロッサが話し始めた所へ、連絡が入る。

 

《クロノ艦長》

 

「どうした?」

 

《艦長にお客様です。古い友人、だそうです。艦長が執務官の時のお知り合いだそうで》

 

「少し待っていてもらえないか?今はちょっと手が離せなくてな」

 

《ですが、『ヴィヴィオの事だと言えば分かる』、と》

 

他の用事なら、出来れば後にして欲しかった所だが、どうやらヴィヴィオ絡みのようだ。(古い友人にヴィヴィオが分かる人間なんて居たかな?)と疑問の残るクロノが渋っていると、連絡をくれた通信士を押し退け、その来客者がモニターを占拠して大声で捲し立てた。

 

《だからぁ、さっきから古い知り合いって言ってるじゃないの!さっさと出なさいクロノ提督、S・D・C、よ》

 

何処かで聞き覚えのある言い回しに、モニターを覗いたクロノは、驚愕を隠さなかった。

 

《ハァ~イ、『執務官』。お元気?》

 

「君は‥‥‥!」

 

◇◆◇◆◇

 

実を言えば、先程のディバインバスターで身体は既に限界、悲鳴を挙げていた。全身を襲う激痛に、額には脂汗が浮かび、表情は歪む。今すぐバリアジャケットを解除して病院のベッドで安静にしろ、と警告している身体に鞭を打ち、フィアッセは再び宙へと上がる。

逃げるのは簡単だ。だが、ここで逃げたら何も変わらない。逃げたらきっとこのまま、逃げ続けたまま、後ろ向きな自分のまま変われない。

 

(そんなの‥‥‥もう嫌だ。それに‥‥‥)

 

それに。すずかがいても、この状態。もし自分の元居た世界が、これと同じ未来を迎えたら‥‥‥。シャマルは、ザフィーラは、はやてやフェイトは‥‥‥そして、ヴィヴィオは、どうなるか。

 

(もう逃げない‥‥‥逃げないんだ!)

 

「『アクセルシューター、バニシングシフト!』」

 

フィアッセは数十個の桜色のシューターを展開。その全てをシャマル達を取り囲むガジェットにロックする。

その魔力負荷で身体に激痛が走る。

 

(もう少し‥‥‥もう少しだけでいいから、保ってよ、私の身体!)

 

「『シューート!!』」

 

放たれたシューターは全てガジェットを撃ち抜き、爆発。フィアッセはその間にシャマルとザフィーラを中心にワイドエリアプロテクションを展開、そのまま飛び上がるとルーテシアの方へと標準を合わせる。

 

「『ディバイーーン』」

 

「させるか!」

 

ディードが斬りかかって来たのを大きく上昇して避ける。フィアッセを追って飛び上がろうとしたディードは、足を取られてバランスを崩す。

 

「バインド!?まさか‥‥‥」

 

「フェイクだよ。貴女がいるのにあの子だけに集中する訳ないからね。油断大敵!」

 

そのままディードをレストリクトロックでガチガチに拘束。

今度こそルーテシアと対峙する。

 

「次は貴女だよ!」

 

ルーテシアは少しだけ不機嫌になると、召喚魔法陣を展開。

 

「‥‥‥‥‥‥地雷王」

 

ルーテシアは放電をしながら蠢く巨大甲虫を召喚。自らは後方へと下がる。

 

フィアッセは表情を引き締め、ホルダー型デバイスから1枚、カードを取り出す。金色に輝くそのカードを掲げ、叫んだ。

 

「『ユニゾン・イン!』」

 

フィアッセのバリアジャケットとレイジングハートが漆黒と金色の、フェイトのカラーリングに変わる。フィアッセの周りに雷が迸る。

大規模魔法陣を展開、フィアッセの持つデバイスの先端に金色の魔力が集まっていく。

 

「行くよ!『プラズマ・スマッシャー!!』」

 

◇◆◇◆◇

 

ルーテシアの機嫌は見た目には微妙にだが、更に悪くなっていた。

流石は『なのは』と言うべきだろう。地雷王を難なく打ち倒し、ルーテシアを睨んでいる。

 

ルーテシアは白天王を召喚すべく、巨大な召喚魔法陣を展開する。

 

 

 

(‥‥‥お願い、もう少しだけ)

 

肩で息をするフィアッセ。彼女はもう、限界であった。気を抜けば、意識を失う程の苦痛に必死に耐えていた。

 

「ハァ、ハァ、ハァ‥‥‥させない!『クロススマッシャー!』」

 

フィアッセは高速砲を撃つ。詠唱時間ゼロで放たれた砲撃に、召喚途中のルーテシアはその場を動かざるを得ない。アクセルシューターを放ち、それを目眩ましにルーテシアに近付く。

 

「『バスター!!バスター!!バスター!!』」

 

ルーテシアに防がれると分かっていて、激痛に耐えながら敢えてショートバスターを何度も放つ。ルーテシアも当然、シールドを張ってそれを防ぐ。

 

(そう、そうやって足を止めて‥‥‥)

 

放たれる砲撃に、ルーテシアは前方にシールドを集中する。フィアッセはそれを見逃さない。

 

 

「!!」

 

ルーテシアが気付いた時には、足をバインドで縫い付けられていた。

 

フィアッセはシャマルとザフィーラを待避させる。上空へと高く上がると、大規模魔法陣を展開した。

フィアッセの持つデバイスに、周囲の魔力が収束していく。巨大な雷の球体となっていく魔力。

 

「行くよ!全力全開!『プラズマーーー』」

 

ブレイカーを撃ち出す直前。遂に限界を迎えたフィアッセの意識が飛ぶ。

魔法陣が消え、収束していた魔力は霧散。気を失い上空から落下していくフィアッセ。彼女の意識が無くなったのと同時に、ルーテシアとディードのバインドも解ける。

 

 

「フィアッセちゃん!」

 

シャマルは叫ぶ。助けに行こうにも、身体が言うことを利かない。このままでは‥‥‥。

 

しかし、フィアッセが地面に激突する事は無かった。

落下途中の中空で止まり、その意識は失われたままフワフワと浮いているフィアッセ。誰かが助けた、としか考えられない。

シャマルがその周囲を見渡すと、驚きの光景。

 

「嘘‥‥‥よね?ヴィヴィオちゃん!?」

 

小さくてよく見えなかったが、支えていたのはヴィヴィオだった。魔力で補助しているのか、身体に似合わずフィアッセを抱いて飛行している。

表情ではイマイチ分からないが、ヴィヴィオは申し訳なさそうにフィアッセに語りかけた。

 

「遅れて申し訳ありません。その身体で、よく頑張りましたね、ナノハ。後は私とハヤテに任せて、休んでいて下さい」

 

ヴィヴィオはシャマルの側に降り立ち、フィアッセを丁寧に寝かせる。「ヴィヴィオちゃん?」と疑問のシャマルに彼女を任せて、自身はルーテシア達の方を見据える。

 

そこに、すずかを抱えたはやても合流。口調の変な二人が話す。

 

「では、ハヤテ。行くとしましょうか」

 

「シュ‥‥‥ヴィヴィオ、お主、演技する気はあるのか?」

 

「ハヤテこそ、大分口調が違うようですが?」

 

「我に子鴉の真似事をしろと言うのか!誰が好き好んでやるかッ!」

 

その会話に、シャマルはハッとする。

 

「貴女達、まさか」

 

ヴィヴィオはそれに釘を刺すように答える。

 

「貴女方は、あくまでもハヤテとヴィヴィオに助けられた。そういう事にしておいて下さい」

 

はやてが「そういう事よ、シャマル」と言い残し、二人はルーテシア達の方へと飛び立ち、対峙。ふんぞり反って相手を見下すように睨むはやてと、その傍らに佇むヴィヴィオ。二人は徐に口を開いた。

 

「覚悟は出来ておるか?塵芥共」

 

「今の私に手加減は出来ません。『殲滅者(デストラクター)』の名に懸けて、命を燃やして参ります」

 

 

 




機動六課の攻防中編。

ツンデレアリサの回。
会話から察するに、ヴェロッサとアリサは‥‥‥

フィアッセは前回で既に限界でした。よく此処まで頑張った。

あれー?ディア‥‥‥じゃなかった、はやてとヴィヴィオがおかしいぞー(棒読み)

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