Crescent Moon tears   作:アイリスさん

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聖王、再び

ミッド中央の地下。

 

(融合騎と召喚師か)

 

狼形態のザフィーラが相手を睨み、静かに話す。

 

「メガーヌの娘、だな?」

 

「‥‥‥母さんを、知ってるの?」

 

無表情のまま、しかし興味を示し口を開いたルーテシア。その間に割って入り、二人(?)の話を分断する小さな融合騎。

 

「ルールー!こんな奴らの話なんて聞かなくていい!」

 

元々無表情な上に狼形態のザフィーラなので何処までかは分からないが、少し眉を潜めて、アギトを睨み、再び口を開く。

 

「部隊長から保護命令が出ている。ルーテシア・アルピーノ、一緒に来てもらうぞ」

 

メガーヌの名前を出したザフィーラに少し興味を覚え動かないルーテシアの代わりに、アギトは炎熱を帯びた魔力弾を数発発生させて、ザフィーラに浴びせる。

当然その程度の攻撃は効く訳もなく、全てザフィーラのシールドに弾かれる。アギトとルーテシアはその爆煙が発生している間に距離を取った。

 

◇◆◇◆◇

 

3人(?)が地下で対峙する数時間前のこと。エリオとキャロはショッピングを楽しんでいた。

 

「これとかどうかな?‥‥‥これ可愛い!どうかな、エリオ君」

 

「うん。可愛いんじゃないかな」

 

今日これから起こる事件など知る由もない二人。あれこれとキャロが服を選んでいる真っ最中。どうやらフェイトの(バリアジャケットのセンスの)影響は受けていないようで、歳相応の物を手に取っているキャロに少し安心しているエリオ。

 

「エリオ君、水着も見に行って良いかな?」

 

「えっ!?キャ、キャロ!?ちょっと!」

 

キャロは問答無用にエリオの手を引っ張り、水着売場へと走る。前言撤回。どうやらフェイトとすずかの影響は受けているようだ。

やがて売場に着いてしまった二人。キャロは笑顔で「これとかどうかな?」「これ私に似合うと思う?」「エリオ君?これどう?」とあれこれ水着を手に取り多少(?)暴走している。

幾つか気に入ったらしく、それを手に試着室へと走るキャロ。

苦笑いのエリオはどうやって離脱しようか悩んでいると、すずかから通信が入った。

 

《エリオ、キャロ、ごめんね。お休みは中止。レリックが見つかったの。現場の位置を送信するから、悪いけど向かってくれるかな?》

 

エリオは(助かった)と心の中で思いながら「はい、分かりました、すずかさん」と答えて現場へと向かう。‥‥‥少しだけ不貞腐れているキャロの手を引いて。

 

現場へと急ぐ二人だが、途中でエリオが立ち止まる。

 

「ねえキャロ。今、音が聞こえなかった?」

 

「えっ?何も聞こえなかったけど‥‥‥」

 

路地裏へと入って行くエリオ。1つのマンホールの前で立ち止まる。そのマンホールは蓋が開いていて、その脇に倒れている小さな女の子。金色の髪に、ボロボロの布を纏い、足には鎖で繋がれたレリックと思しき物が入ったケース。

 

「すずかさ‥‥‥部隊長、鎖で繋がれた倒れている女の子を発見しました。ケースには多分レリックが入って‥‥‥」

 

◇◆◇◆◇

 

その少女の映像を確認するすずか。そのすずかが発するよりも早く発言するスノーホワイト。

 

《至急その子の保護を。ちゃんと八神課長の許可は貰っておりますから》

 

「えっ?初耳だけど‥‥‥」と少し戸惑っているすずかは、漸く到着してきたはやての方を見た。

 

「八神課長、エリオがレリックに繋がれた少女を発見したんですけど、保護‥‥‥で良いんですよね?」

 

すずかがそう言い終える前に、はやては「そうやね。迅速にな」と呟く。と、同時に、はやては念話でスノーホワイトに確認を入れる。スノーホワイトも念話でそれに答える。

 

《ヴィヴィオ、でええんやろ?》

 

《間違い有りませんわ。まだ幼いですがヴィヴィオですわよ》

 

「迅速かつ安全に保護するよ!」

 

はやての指令と共に動き出す一同。フォワードの四人は現場待機。シャマルはヴィヴィオの検査と検診をするためヘリで現場へ。

 

 

 

「急にどうしたの?なのはちゃん」

 

「いえ、何て言うか。私、あの子に会わなきゃいけない気がして‥‥‥」

 

その必要は無かったのだが、ヘリ出発の直前で、何故かシャマルに同行するなのは。そうしてヘリは現場へと向かう。

 

◇◆◇◆◇

 

「気を失ってるだけみたい。バイタルも安定してるし、大丈夫よ」

 

シャマルは手際よく少女を診断。どうやら別状はないようで、一同は一先ず胸を撫で下ろす。

 

「フォワードのみんなはザフィーラと合流して。地下のレリックの確保をよろしく。私は‥‥‥」

 

「ハイ」と答えるフォワードの四人の視線の中、なのはは診断の終わった少女を抱き上げる。何故かは分からないが、懐かしさと、愛しさが底から込み上げてきて、なのはは思わず抱き締めた。

 

「なのはちゃん?ねぇ、なのはちゃん?」

 

「‥‥‥へっ!?あ、ハイ、シャマル先生、どうしたんですか?」

 

瞳を閉じて、抱き締めたまま惚けていたなのはにシャマルは呼び掛けるが、返ってきたのは間の抜けた返事。その幼い少女を見てからどこか様子のおかしいなのはを、フォワード陣も不思議そうに見ている。

 

「じゃ、じゃあ私はシャマル先生と、この子をヘリで運ぶから、後は頼んだよ?」

 

そう言うと、なのはは少女を愛おしそうに抱いてヘリへと乗り込む。離陸するヘリを見ながら、スバルはティアナに話しかけた。

 

「ティア‥‥‥‥‥なのはさん、母性刺激されちゃったのかな?」

 

「どうかしらね。元々お母さんっぽい所有ったし、そうかも知れないわね」

 

そんな会話を交わしながら、ザフィーラと合流すべく、四人は地下へと入って行く。

 

◇◆◇◆◇

 

それと同時刻。六課ロングアーチは慌ただしくなっていた。

 

「八神課長、ザフィーラさんが例の召喚師と遭遇したみたいです」

 

「月村部隊長、あっちはどうやらガジェットⅡ型みたいやね。しかも、大編隊で」

 

レリックを発見したザフィーラは、ルーテシア、アギトと接触、交戦中。空からは数百を数えるガジェットⅡ型の大編隊。すずかは顔を僅かに顰める。

 

「今回はどうしてこんな大規模に?そんなに重要なレリックなのかな?それとも‥‥‥あの少女?」

 

すずかの隣で腕を組んでモニターを睨むはやては、言葉を選びながらそれに答えた。

 

「どうやろね。どっちにしても、私達のやることは同じや。ザフィーラの方にはヴィータとリィンが向かってくれとる。あとはあのガジェットやけど‥‥‥月村部隊長、行けるか?」

 

同時に、はやてはクロノに通信を繋ぐ。モニターが開き、クラウディアと通信が繋がる。

 

「クロノ提督、月村部隊長のリミッター解除するけど、ええな?」

 

《ああ。はやて。但し場所が場所だけにSSランクは許可出来ない》

 

「分かっとる。Sランクでの解除で行くわ。それじゃ、月村部隊長、よろしくな?」

 

「ハイ」と1度敬礼して出ていったすずかを見送り、はやては再びモニターのガジェットの大編隊を睨んだ。

 

(スカリエッティの狙いは十中八九聖王のヴィヴィオやな。てことはやっぱり『ゆりかご』を動かす気なんやな‥‥‥させへんよ!)

 

◇◆◇◆◇

 

一方のすずかは、六課のヘリポートに居た。その隣には、フェイトの姿。

 

「私もこれから現場に向かうから。気を付けて、すずか」

 

「うん。フェイトちゃんもね」

 

周りに誰も居ないのを確認した二人は、そっと抱き合ってキスを交わす。

 

「んっ‥‥‥んちゅ‥‥‥ムチュっ‥‥‥んちゅ‥‥‥」

 

そうして暫く舌を絡ませていた二人は、名残惜しそうに唇を離す。フェイトはすずかを強く抱き締め、瞳を閉じる。

 

「すずか。無理しちゃ、駄目だよ?」

 

「うん、フェイトちゃん。ありがとう」

 

柔らかな笑みを浮かべ、もう一度軽く唇にキスをして、すずかは飛び立つ。フェイトも現場へと向かうべく、ヘリポートを後にした。

 

すずかとフェイトは気が付かなかった。二人のその濃厚なキスを、影からフィアッセが顔を真っ赤にしながら見ていた事に。

 

 




フィアッセは見た!

なのはさん、記憶は封印されていても本能で愛娘を認識。

キャロはやはりフェイ×すずの子です、回でした。

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