今日も朝から、なのはの教導を受けているフォワードの面々。なのは、ヴィータ、フェイトと模擬戦中。
スバルが最後に撃墜されて、「そこまで」というなのはの声が響く。
「く~や~し~い~」
スバルはその場で座り込み、他の3人も悔しさを滲ませている。そんなフォワード陣を見ながら、ヴィータが口を開く。
「大分動けるようになってきたな。それだけ動けりゃ第2段階合格だな。明日からはセカンドモードを基本型にして訓練すっからな。今日はユックリ身体を休めとけよ」
さっきの模擬戦が見極めテストを兼ねていたようで、結果はどうやら及第点のようだ。これで今日の訓練は終わり。フォワードの4人は明日迄、束の間の休息。
「何か有ったら連絡入れるから、通信はオフにしないでね。あんまり遠くまでじゃなければ、出掛けても構わないからリフレッシュしておいで」
なのはの言葉に笑みを洩らす4人。解散して隊舎に戻ると、其々着替えて準備を始める。
スバルとティアナはさっさと出掛たらしく、既に影も形もない。一方のエリオとキャロは、フェイトとすずかの部屋にいた。
「これで良し。うん。可愛いよ、キャロ」
「フェイトさん、ありがとうございます」
フェイトに用意してもらった服を着て、少し頬を染めて笑みを溢すキャロ。その肩に乗せられたフェイトの右手を見ると、中指にプラチナと思しき指輪をしている。
「あれ?フェイトさん、指輪してましたっけ?」
「あっ、これ?この前の誕生日に、すずかがくれたんだ」
フェイトは右手の中指を、嬉しそうにキャロに見せた。「いいなぁ。私もエ‥‥‥」と何か言いかけ、キャロは誤魔化すようにエリオとすずかの方へと駆け寄る。
「二人とも今日は楽しんでおいで?」
そう言ってすずかは、フェイトと考えたプランを二人に渡す。キャロはフェイトに小声で「頑張って」と耳打ちされて「ハイっ!」と笑顔で答え、エリオの手を引いて出掛けていった。
◇◆◇◆◇
フォワード4人が出掛けて数刻。ヴィータはすずか達の部屋に居た。腕を組み、眉をヒクつかせて、怒鳴りたいのを抑えている。
そのヴィータの目の前には、フェイトとすずかが座って‥‥‥否、床に正座していた。
「お前らなぁ‥‥‥エリオもキャロもまだ10歳なんだぞ?何なんだよ、これはっ!」
ヴィータがある紙を二人に見せている。今日のエリオとキャロのお出掛けプラン。
「なっ、何ってヴィータ、二人の今日のプランでしょ?何処も変じゃないよ?」
「おいこらフェイト、これの何処が普通なんだよ!公園散歩して、デパートを見て回って、雰囲気のある所で食事して、映画を見て、夕方に海岸線の夕焼けを眺めて‥‥‥って、これ完全にデートじゃねーかよ!」
フェイトの発言に、怒りメーターを少しずつ上げていくヴィータは、更に続ける。
「それに、この最後にある『雰囲気が良ければ肩に手を回して‥‥‥』って何なんだよ!お前ら保護者だろうがよ!!」
ヴィータはヒートアップしていく。困惑した表情を浮かべているすずかも、意図せずして(?)火に油を注ぐ。
「だっ、だってヴィータちゃん。私とフェイトちゃんだって、9歳の頃にはキスの1つや2つは普通にしてたし、それ以上だって‥‥‥」
「だ・か・ら!お前らが異常なんだよ!今から追いかけて変更してこい!今すぐ!!」
と、お怒りのヴィータの所へ、はやてが入ってくる。
「まぁまぁヴィータ、そう怒らんで。キャロは、まぁ‥‥‥置いといて、エリオが居るんやから大丈夫やろ」
「はやて、でもさ‥‥‥」
食い下がるヴィータの頭を撫で、フェイトとすずかの方を見ながら笑顔で、しかしながら穏やかとは程遠い怒りに満ちたオーラを発しながら、はやては静かに口を開いた。
「流石に平気やろ。にしてもフェイトちゃんもすずかちゃんも、ちょーっとやり過ぎとちゃうか?少し自重、し・よ・う・な?‥‥‥‥‥‥二人の部屋、別々の方がええかな?」
「する!自重するから!」という、以前も聞いた気がするすずかの声と、「はやて、お願い!それだけは許して!」というフェイトのあまりにも必死な叫びが部屋に響いた。
◇◆◇◆◇
時々深い溜め息をつきながら、ボーッと窓から外を眺めるフィアッセ。考えていたのは先日の、なのはの答え。
『‥‥‥諦めたくなかったから、かな』
諦めたくないから諦めなかった、当然と言えば当然なのだが、参考にすらならない。嘗ての、怪我をする前の自分だったら、そう答えたのかも知れない。(答えになってないよ‥‥‥)と再び溜め息をつく。外を見ると、私服姿で手を繋いで出掛けるキャロとエリオの姿。
(ユーノ君に、会いたいよ)
仲の良さげな二人を見て、手の届かない元の世界のユーノを思い出して寂しさが込み上げる。‥‥‥と、入口の方から声が聞こえた。
「なのはちゃん」
不意にフィアッセが振り向くと、部屋の入口にすずかが立っていた。
「すずか‥‥‥さん」
「すずかちゃん、でいいよ。はやてちゃんに言われなかった?」
「じゃあ‥‥‥すずかちゃん。すずかちゃんは、辛くないの?」
悲しげな表情を見せるフィアッセに、すずかは少し頬を染めて、笑顔を向けて答えた。
「辛くない、って言ったら嘘になるかな。今でも向こうのみんなには会いたい。でもね、私は決めたの。大切な人の‥‥‥フェイトちゃんの傍に居るって。それに‥‥‥」
すずかは言葉に詰まり、深く息を吸う。先程とは違い、その表情は辛そうなものに変わる。
「それに、私は‥‥‥私のせいで『この世界の月村すずか』は消えてしまったから。だから‥‥‥『この世界の私』の為にも、みんなの為にも、戻れない‥‥‥かな」
重苦しい空気の中、「そっか‥‥‥」とフィアッセが一言だけ発して二人は無言になる。そんな中、すずかは微笑を浮かべて再び話し始めた。
「なのはちゃん、諦めないで。きっと帰れると思うから。それから‥‥‥なのはちゃんにしか出来ない事、有るから。自分から逃げちゃ、駄目だよ?」
暫く黙っていたフィアッセは遠くを見ながら、すずかの言葉に自信無さげに「‥‥‥うん」とだけ答えた。
◆◇◆◇◆
すずかがフィアッセの部屋を出ると、フェイトが複雑そうな表情で壁に寄り掛かって待っていた。
歩きながら話す、二人。
「すずか、話は、もういいの?」
「うん。フェイトちゃん、私ね‥‥‥フェイトちゃんがずっと傍に居てくれるなら、私‥‥‥」
「わぅ」という声と共に、すずかは急にフェイトに手を引かれて、目の前にあった倉庫へと連れ込まれた。壁に両手首を押さえつけられる。
「だっ、駄目だよフェイトちゃん。こんな場所で‥‥‥」
「大丈夫。此処なら、誰も来ないから」
フェイトの唇が、すずかに近付く。すずかが瞳を閉じたのと同時に触れあう、2つの唇。
「んっ‥‥‥んちゅ‥‥‥ヌちゅ‥‥‥」
手首を拘束していたフェイトの手が離れ、すずかの腰に回される。すずかもそのままフェイトに抱きつく。
《フェイトちゃん》
《すずか》
唇は離さないままで見つめ合う二人。
‥‥‥しかし。
《月村部隊長、『ザフィーラ』が下水路でレリックを見付けたよ!レリックは『人に鎖で繋がれてた』みたいでな?その人を捜索中や。今すぐ現場に急行し‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥何しとんねん、二人とも》
唇はそのままに、二人は目の前に開かれたモニターのはやてを見て固まる。はやては眉をヒクつかせて、青筋を立てながらユックリと口を開いた。
《二人とも、ちょーっと部屋まで来てくれるか?》
暴走フェイ×すずと、怒れるはやての回。
キャロは兎も角、エリオはまだ常識人のようです。
ザッフィーは見事主の期待に応えました。