Crescent Moon tears   作:アイリスさん

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過去は現在の積み重ね

 

 

《可能性は幾つかあるでしょうけど、次元震等の次元トラブルに巻き込まれたか、或いは‥‥‥》

(《ディアーチェ達の時間次元移動に巻き込まれたか、ですわね》)

 

「或いは‥‥‥何?」

 

スノーホワイトは、すずかのその質問には答えず、はぐらかす。未来を変える訳には行かない。ヴィヴィオがなのはの娘になり、成長してすずかを助けに過去に現れるその時迄は、間違っても真実は口に出来ない。

 

《いえ。何でもありませんわ。問題はフィアッセと名乗る彼女の記憶がない事。それと、車椅子》

 

ウーン、と考えながら、フェイトも思考を巡らせている。

 

「次元漂流者だとして、フィアッセがなのはだったとしたら、車椅子って事は、もしかして」

 

フェイトの言葉に、すずかの表情が曇る。入院当時の、決して表には出さなかったが、辛そうななのはの姿が思い出される。

 

《リハビリしても、治らなかった‥‥‥という事でしょうね》

 

沈黙。確かに、この世界のなのはは、8年前の撃墜から見事なまでに復帰している。

しかし、すずかもフェイトも、当時の担当医の言葉をよく覚えている。

『可能性は0ではないが、復帰は絶望的。恐らく今までのようには飛べないし、魔法も今まで通り、という訳にはいかないだろう』

それを覆し、限りなく確率0に近かった復帰を成し遂げたのは、なのはが涙を堪え日々挑んだ、血の滲むような努力と、奇跡の賜物。

 

それを成し得なかった未来の可能性だって有ってもおかしくはない。

 

それに。どんな結果になっていても、なのはである事には変わりない。何とか助けてあげたいし、記憶だって戻ってほしい。悲しみをその心に抱きつつも、すずかは口を開いた。

 

「フェイトちゃん。私達、どうしたらいいかな?」

 

悲しい表情を見せるすずかを、フェイトは包み込むように抱き締める。先ずは、フィアッセの記憶を取り戻さなければ。記憶が戻ったら、此方の世界に来た方法も分かるかもしれない。

 

「すずか。フィアッセ、私達で預かるのはどうかな?私達と一緒にいたら、思い出すのも早くなるかも知れないし。取り合えず、なのはとはやてに相談してみよう?」

 

静かにすずかの頭を撫でるフェイトに「‥‥‥うん」と悲しそうな表情のまま頷くすずか。フェイトはモニターを開き、なのはに通信を繋いだ。

 

《あれ?どうしたの?フェイトちゃん。連絡漏れとかあったっけ?》

 

「うん。なのは、実は‥‥‥」

 

◆◇◆◇◆

 

《もう一人の私、か》

 

モニター越しに複雑な表情を見せるなのは。入院当時の辛さ、絶望感は今でも覚えている。他の人にはあんな思いはして欲しくない、と、なのはの教導方針にも多大な影響を与えた出来事。

 

「うん、なのは。だから、私達で預かろうと思って。身近に知ってる人達が居れば、思い出す切欠も増えると思うんだ」

 

まだフェイトの上に座って、手を回したままのすずかは、フェイトの意見には半分は賛成、半分は反対だった。フィアッセは明らかに中学生くらい。そのフィアッセにとっては、今の世界は未来の世界。

 

「でも、フェイトちゃん。その場合、ここに来てからの記憶はどうするの?過去の人間が未来の事を知ってしまったら、未来に大きな影響をもたらして、あるべき事が無くなってしまうかも知れないって‥‥‥誰かが‥‥‥?」

 

昔、未来の事を知ってしまう危険性について誰かにそう聞いた気がするのだが、記憶に靄がかかってどうにも思い出せない。「あれ?誰に教わったんだっけ?」と必死に思い出そうとしているすずかを見て、スノーホワイトが焦り、話題を変える。

 

《引き取るのには反対はしませんわ。問題は、フィアッセの心ですわよ?》

 

《そうだね。スノーホワイトの言う通りだね。記憶が戻ったとして、今の私をみてフィアッセがどう思うか、だね。今だから言えるけど、あの時は物凄く辛かったもん。勿論、フィアッセが自分で乗り越えなきゃいけないんだけど、私が側にいるのはどうなのかな》

 

なのはの言うことも尤も。乗り越えて復帰できたなのはと、車椅子になってしまったフィアッセ。今も感じてしまっている心の傷を抉るであろう事は、想像に難くない。

 

「とりあえず、『上司』のはやてちゃんに相談してみよっか。それと、『お義兄さん』にも」

 

そう言ったすずかに、苦笑いするなのは。確かに、はやてとクロノに相談するのは判断として間違いではない。しかし、だ。

 

「すずかちゃん、『お義兄さん』って、もしかしなくてもクロノ君、だよね?」

 

「そうだよ。なのはちゃん、どうして?」

 

『お義兄さん』で理解出来てしまう自分もどうかと思いつつ、どうして当然の事を聞いているのかという表情のすずかに、「にゃはは」と苦笑いしか出ないなのはは、(すずかちゃん‥‥‥いつまでフェイトちゃんに抱かれたままなのかなぁ)と思いながらもはやてに通信を繋いだ。

 

◆◇◆◇◆

 

深夜、ナカジマ邸。モニター越しに談笑する、ギンガとはやて。

 

《‥‥‥‥‥‥という訳なんよ。いやぁ、いくら何でも、すずかちゃんの『お義兄さん』はないわぁ》

 

「そうですね。フェイトさんとは同性ですからね。‥‥‥私と八神二佐も歳は近いですし、『お義母さん』、『義娘』にならなくて良かったですよね」

 

《そうやね、あははは》(アカン。墓穴掘ったわ‥‥‥)

 

‥‥‥確かに談笑してはいるのだが、雰囲気は何処か刺々しい。

その雰囲気の変化を感じとったのか、就寝した筈のフィアッセが目を擦りながら起きてきた。(余談だが、ゲンヤはその刺々しい雰囲気に耐えられないので、自室で寝たフリをしている)

 

《この子が、例の。こんばんは、フィアッセちゃん。八神はやてです》

 

またも、何処かで会ったような気がする人物に疑問を感じて首を傾げながら、フィアッセは挨拶を返した。

 

「こんばんは、『八神さん』。初めまして。フィアッセです」

 

《これはキツいわ。なのはちゃんに他人行儀されるとか、想像したこと無かったわ》

 

ギンガは二人の話に割って入る。出来れば、フィアッセを(生理的に受け入れ難い)はやての側には置きたくはなかった。

 

「フィアッセ。この人は、フィアッセを引き取りたいって言ってるのだけれど。その方が、貴女の記憶も早く戻るかも知れないって」

 

やはり何処か刺々しくなってしまう。頭では理解していても、今は亡き自分の母親、クイントを差し置いて父親と付き合った目の前のはやてとはどうしても仲良くは出来ない。と、暫く黙って考えていたフィアッセが口を開いた。

 

「嫌です。ギンガさんもゲンヤさんも優しいですし、大好きです。優しいギンガさんと仲良く出来ない貴女とは、私きっとうまく生活出来ないと思いますから」

 

《なっ‥‥‥》

 

その答えに、はやては思わず唸った。想定外かと言えば、そうではない。ある程度予想の範囲内。ギンガとギクシャクしている以上、反発もある程度あるとは思っていた。だが、仮にもなのはは親友である。例え世界が違っても、そのなのはに否定されるのは思っていた以上にダメージがあった。

 

《ま、まぁ、想定内や。それに、これは決定事項なんよ。話はさっき私とクロノ提督からナカジマ三佐に通して有るしな。それに》

 

「‥‥‥私、聞いてませんけど」

 

あからさまにギンガは不機嫌。そのギンガとフィアッセを交互に見ながら、続けるはやて。

 

《決定事項や。ギンガ・ナカジマ陸曹、機動六課発足と共に正式に六課への出向を命じます。フィアッセも一緒にな?言うとくけど、かの三提督の御墨付きやから、拒否は認められません》

 

あまりに急なはやての言葉に「‥‥‥うそっ!?」と驚くギンガ。

こうして、ギンガとイレギュラー、フィアッセを加えて機動六課はスタートとなった。

 

 

‥‥‥‥‥‥ゲンヤはそれから3日程ギンガに口を聞いてもらえなかった。

 

 

 

 

 




ゲンヤさん‥‥‥。

フィアッセ、ギンガと共に六課へと引っ越しです。
すずかはもう養子縁組して月村すずか・テスタロッサ・ハラオウンになってしまえばいいのでは!?回でした。

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