ミッドチルダ郊外の公園に立つ、桜の並木。近所では、『サクラ』はかなり有名である。元々は無かったものだが、とある一家の大の日本好き提督(リンディ)たっての希望で、クロノが持ち込んだもの(ハラオウン家の財力恐るべし)。
サクラは『高町なのは』の故郷の花、それに彼女の魔力光と同じ色、というのもあって、すぐに広まった。単純にサクラが綺麗だったというのもあるだろうが。
既にベンチで酒を飲んで酔っているゲンヤを苦笑いを浮かべ残念な目で眺めるギンガを他所に、フィアッセは上を向いてボーッと桜を眺めていた。
やはり、記憶にある。何故だろうか、桜は身近に感じるというか、いつも見ていたような気がしてならない。
(何だろう。いつも目にしてた気が)
そんなフィアッセの脳裏にパッとイメージが浮かぶ。
桜色の大きな光球。『全力全開!!ーーーライー・ーーーカー!!』という声と共に走る、桜色の閃光。
(あれ?何、今の)
何かの記憶の一部だろうか、何処かで見たものだろうか、詳しくは分からない。彼女は無意識のうちに、ポツリと呟いていた。
「全力‥‥‥全開、か」
「どうしたの?やっぱり何か思い出したの?」
もうゲンヤの事は放置して、フィアッセの隣に佇んでいたギンガが、桜を眺めていたフィアッセに声をかけた。思い出したなんて大それたものではない。
「記憶って言うか、イメージっていうか。少しだけ。ただ、これだけは思い出しました。桜は、出会いと別れの花」
「そっか」とだけ発して、フィアッセの車椅子を押して並木道を歩くギンガ。吹き抜けた風に、花びらが舞って、フィアッセの掌に落ちる。
立ち止まり、「綺麗‥‥‥」と言って眺めている二人に、少し遠くから近付いてくる人物が二人。
「ギンガ~!」
「フェイトさん!すずかさん!」
「うん。ギンガちゃん、久し振り」
休みなのだろう。駆け寄ってきた二人は私服姿。普段の仕事振りからは想像も出来ないような柔らかい物腰のフェイトとすずかは、久々に会ったギンガと挨拶を交わした。
「ギンガ、その子は?」
ギンガの押している、何処かで見たような後ろ姿の車椅子の少女が気になったフェイトは、ギンガに訊ねる。
「はい、家で預かってる子でフィアッセです」
そう紹介されたフィアッセは、車椅子を二人の方に向ける。その顔を見て驚いているすずかとフェイトに戸惑いながらも、自己紹介をする。
「フィアッセです。初めまして」
「えっと‥‥‥フィアッセちゃん?初めまして、月村すずかです」
「フェイトです。初めまして‥‥‥でいいんだよね?」
あまりのソックリさ、いや、瓜二つさに、思わず疑問系となってしまったフェイト。戸惑いを隠せないすずか達を見て苦笑いをするフィアッセは、二人に確認するように話す。
「『高町なのは』さんに似てる、ですよね?ギンガさんにも言われましたけど、そんなに似てるんですか?」
「うん。似てるっていうか、なのはちゃんと瓜二つだよ。私達、なのはちゃんの親友なんだ」
すずかの言葉に頷き、フェイトは続いて質問する。
「自分に似た人が3人はいるっていうけど、実際に会うとビックリするね。出身は何処なの?ミッドチルダ?」
フェイトのその問いに、少し悲しそうな表情でフィアッセは答える。
「私、自分の事何も覚えて無くて‥‥‥」
そこに《この子、記憶喪失なんです‥‥‥》と念話でフォローを入れたギンガの言葉に、二人は暫しの間沈黙。「‥‥‥ごめんね」と謝るすずかとフェイトに、フィアッセは笑顔で口を開く。
「お二人のせいじゃ有りませんから、気にしないでください」
◆◇◆◇◆
家へと戻った3人。ゲンヤはソファで鼾をかいて寝ている。
窓の外を眺めているフィアッセ。
「桜、綺麗でしたね」
「そうね。気分転換になったかしら?」
「ハイ」
記憶が戻らないのは確かに辛いが、今が楽しくないとかでは決してない。ギンガもゲンヤも優しいし、ここに来てからはそれなりに過ごさせてもらっているつもりだ。それに。
「ギンガさん。私、記憶、思い出さなくてもいいかも、って思ってきちゃったんです。思い出せないから真実かは分からないんですけど、何だか辛い記憶だった気がするんです。だから」
それを聞いたギンガは、少し真剣な表情で、フィアッセの両肩に手を置いて、諭すように話す。
「逃げちゃ駄目よ、フィアッセ。みんな辛い現実と戦ってるの。勿論私も、父さんも、きっとフェイトさんとすずかさんも。それに、記憶がないままって、悲しい事よ?辛い事もあったかも知れないけど、その分楽しい事もあった筈だもの」
「そう‥‥‥ですよね。ごめんなさい。少し焦ってたのかも知れません」
◆◇◆◇◆
《‥‥‥‥‥‥じゃあ、すずかちゃん、また明日》
「うん、なのはちゃん、また明日ね」
夜。なのはとの通信を終え、再び紅茶に口をつけたすずかは、部屋の中なのをいいことに、ソファに座るフェイトの太股の上に座って、抱きついて甘えながら話す。
「ねえ、フェイトちゃん」
フェイトも自分の上に座るすずかに腕を回して、それに答える。
「なあに、どうしたの?すずか」
「うん、あの子‥‥‥フィアッセちゃん。もしかしたら、なのはちゃんや私も車椅子の生活だったのかもって」
少し憂いを帯びた表情で、昔を思い出しながら話すすずかの姿に(可愛い‥‥‥)と見とれながらも、そこはマルチタスクを駆使して話も聞いていたフェイトは、すずかをフォローするように言葉を返す。
「でも、すずかもなのはも、リハビリ一杯頑張ったでしょ?あの子も、歩けるようになるといいね」
「うん。あの子、なのはちゃんとソックリだし、きっと良くなるよね?」
そんなすずかを「うん。大丈夫だよ」と安心させるように話すフェイト。すずかはフェイトに身体を寄せる。いつもは上から見る形になっているフェイトだが、今日は上目使いとなってすずかを見つめる。
そんな二人のピンク色の結界を裂くように、スノーホワイトが話し出す。いつもなら二人の雰囲気を読んで空気化している所だけに、フェイトもすずかもビクッと反応した。
《そのフィアッセですけれど、あの子、強力な魔導師ですわよ?》
「どっ、どういう意味?スノーホワイト」
ちょっとだけ動揺しているすずかに、スノーホワイトは淡々と続ける。
《言うべきか迷ったのですが、言っておいた方が良いと思いまして。バルディッシュ、宜しくて?》
《O.K,lady》
バルディッシュはモニターを映し出す。フェイトが捜査用に入れておいた、人物認証プログラムを起動。その画面を見て、驚愕を浮かべる二人。何故ならば、モニターが映し出していたものは、
『DNA鑑定:不明
顔認証:一致
指紋認証:一致
声紋認証:一致
魔力データ:一致
照合結果:99.99999%の確率で高町なのは本人と結論』
「バルディッシュ!これって!」
漸く言葉にできたフェイトに、スノーホワイトが答える。
《確率99.99999%。DNA鑑定してはおりませんから、クローン若しくは別人、という線も考慮しての数字ですわ。ほぼ本人と見て間違いないでしょうけど》
「でっ、でも、さっきなのはちゃんと」
そうは言っても、魔力データまで一致となると、クローンの可能性はまずない。どんなに精巧なクローンでも、魔力データが一致する、という事はあり得ない。フェイトですら、アリシアとは魔力光も、その資質も全く違うのだから。では、これはどう見るべきなのか。言いかけて、ある可能性に気付いたすずか。
「まさか‥‥‥私と同じ‥‥‥?」
理解し難い状況に、フェイトも考えを纏められない。
「別のなのはって事?でも、車椅子って‥‥‥」
リニスの作ったハイスペックデバイス、バルディッシュと、ロストロギア級の超高性能デバイス、スノーホワイトの目は節穴ではありませんよ、回。今回の2機はユノペディア並みの活躍でした。
いや、六課隊長陣だって、ちゃんと仕事してますよ?なのはとリインが試験監督したり、はやてが六課設立に走り回ったり。フェイ×すず‥‥‥は、イチャイチャしかしてないΣ(゜Д゜)